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第125話 わー!ピグミィ!

 3匹のファミリーバットを集め血抜きをする。

 羽は薬になり、可食部は少なく、癖が強いがなんとか加熱処理をするか、干し肉にすることで食べられる。とグランさんが言っていた。


「羽はリナに渡したら有効活用してもらえるだろう。」


 アイナさんが手際良くファミリーバットを解体し、羽と可食部である肉に切り分ける。

 俺とサリオをミリーはその様子を集中して見学する。

 肉…全然取れないんだな。むしろ羽が結構大きい。


「よし。と。羽はスイト君の他に誰かいるかしら?」


 サリオもミリーも返事をしない。なので俺がポケットに入れておく。

 アイナさんは可食部の肉を2体分だけポケットに詰めた。


「アイナさーん。足とか頭…それに1体分の肉は置いて行くんですか?」


 ミリーがアイナさんに問う。

 確かに、解体したらその場で焼いて処理。が地上での暗黙のルールだが…


「ダンジョン内ではね、このファミリーバットを餌にする魔物もいるのよ。それにダンジョンって魔素が地上よりも濃くてね、餌にならずとも腐らずにダンジョン内に還元されていくわ。そもそも地上の魔物はダンジョンに入らないし、逆もまた然り。不思議なんだけどね。」


 地上とは違い、ダンジョン内では倒した魔物の処理の方法が違うのか。

 ダンジョンの方が処理をしない分楽だな。


「まぁ、そんな感じだ。さ、どんどん進んでいこう。」


「スイト、サリオ。ごめんねー…なにもできなくて…」


 ミリーが申し訳なさそうに俺とサリオに謝る。

 まぁ得意な敵と苦手な敵は必ずあるものだから仕方ない。逆に無理にできる!と言わないだけミリーもピグミィも冷静だ。


「ファミリーバットは僕とスイトが。逆にピグミィの方が有利な敵も現れるかもしれないからな。その時はよろしく頼むよ。」


「うん!分かった!頑張ろうね!ピグミィ!」


「ぶぃー」


 ミリーはぱぁーっと明るくなり、朗らかに返事をする。

 ファミリーバットはどうにかなるしな。それにネルモルも戦えることが分かった。

 今ネルモルはハルとイエルム。それにガウリスなどと話している。

 ネルモルは嬉しそうなのでみんなに褒められているのだろう。仲間のテイムモンスターの雰囲気が良いのは何よりだ。


 さて、また隊列を直し、進んでいくがファミリーバットが3体、5体と連続して登場。

 3体は先ほどの要領で倒し、5体は少し時間がかかったが怪我もなく倒せた。

 純粋に3対5だからな。誰かは必ず複数体相手をしなければならない。

 そこでピグミィが活躍。味方に向かってくるファミリーバットに照準を合わせ突進。

 攻撃は当たらなくともその威力の大きさにファミリーバットは怯んでいた。

 その隙をついて余裕のあるテイムモンスターの誰かが仕留める。そのような連携を取っていた。


 今度はハルがピグミィの上に乗りぷるぷると震えて、ピグミィを讃えている。

 ハル以外のテイムモンスターもピグミィを讃えていたが、人見知りなピグミィはミリーの影にハルを乗せたまま隠れる。

 それでも、他のテイムモンスターは笑顔でピグミィを讃えていたので、ハルとピグミィがなにやらぼそぼそと話した後、ピグミィも輪に加わった。

 …まぁぎこちない雰囲気だったが。だんだんと溶け込んでいくだろう。

 その後、ハルは俺の頭の上でなくピグミィの背に乗っかっていた。 

 ピグミィはハルとはなぜか普通に喋れるし、ハルが付きっ切りで一緒にいるならピグミィも多少は落ち着くだろう。


「あらあら。みんな仲良しねぇ。」


 アイナさんはテイムモンスターを見てにこにこしながらそう言う。

 ちなみに、テイムモンスターを率いているのはグライアだ。先頭に立ち、イエルムとリフルを乗せて歩いている。

 そして魔物を倒した後、グライアとイエルム。リフルが敵を倒す度になにやら話している。

 改善策だったり、感想を述べているのだろう。

 テイムモンスター間にも師匠と弟子、先生と生徒のような構図が出来上がっている。


「テイムモンスター達も良い関係が築けそうですね。」


「あぁ。これだけの数だから揉めたりするかと思ったが上手くやれているな。」


 グランさんの口角が少し上がっている。

 周りを見てもみんな、辛く、悲しい表情のメンバーはいない。むしろみんな満足そうだ。


「ピィー…ピッ!…ピッ?」


 ピグミィの背に乗っているハルがいつもとは違う鳴き声を発している。

 ハルの目線の先には直径30センチくらいの石。あれがどうしたのだろうか?


「ハルは凄いな。スリープロックに気づいたか。どうやら本人は半信半疑のようだが。」


 え?魔物?俺は30センチくらいの石に向かって鑑定を行う。

 おぉ…《スリープロック》と表示がされた。あの石も魔物なのか。むしろ石に擬態した魔物?


「ハル。グランさんがあれ、魔物だってさ。凄いなぁ。ハル。」


「ピッ?ピィー」


 ハルはピグミィの上でゆらゆら揺れている。褒められて照れているのだろう。

 魔物の気配を感知して、見てみたら石。え?魔物?石?どっち?とハルは感じたんだろうな。


「みんな。洞窟内にはあのような魔物もいる。なかには奇襲をかけてくるものもいるからな。気を付けるように。」


「グランさん!あれは石に擬態した魔物?それとも石の魔物?うーん…」


 ミリーが困惑しながらグランさんに問う。

 まぁ確かに…石に()()した魔物なら形を変え襲ってくるし、石の魔物ならあのまま何かしら行動をしてくるという違いがあるとは思うが…


「石の魔物だな。あのまま、通り過ぎようとすると勢いよく転がってくる。」


「…それだけ?」


「あぁそれだけだ。だが見た目がああだろう?初級冒険者はほぼ不意打ちを喰らう。それにまぁまぁの勢いだから地味に痛い。」


 なるほどなぁ。ずっと動物のような魔物ばかり見ていたから忘れていたが、この世界にはあのような魔物もいると本に書かれていた。石の魔物…か。なんだか不思議な感じだ。


「どうやらハルの雰囲気を見る限りあそこの1体だけみたいだな。誰が行く?」


 石の魔物だけあって生半可な物理攻撃ではダメージが通らなさそうだが…となるとハルの光の矢か?ガウリスの噛みつきではダメージが通らなさそうだし、ネルモルも物理攻撃メインなはず。それはピグミィもそうだ。やっぱりハルの光の矢しかないだろうか?


「うーん。ピグミィ。どう?」


「ぶぃー」


 ミリーの問いにピグミィはいつものように答える。

 え?行けるの?ならピグミィに行ってもらうか。しかし相手は石の魔物だが…大丈夫かな?


「グランさん。ここはピグミィが行きます。」


「あぁ。分かった。ミリーとピグミィに任せよう。」


「よぉーし…行くわよピグミィ!まずは突進!」


「ぶぃ」


 ミリーの命令に反応し、ピグミィはくスリープロックに向かって突進する。…ハルを乗せたまま。

 ハルは必死にピグミィに掴まっている。


 ピグミィは勢いよくスリープロックにぶつかっていく。なかなかのスピードだし、人間ならば致命傷を負うはずのドリルボアの突進。テイムモンスターのピグミィだから威力はもちろん増しているだろう。


ガスッ!!


 大きな音がし、突進されたスリープロックは凄い勢いで飛び壁へぶつかる。


ドゴッ!!


 ピグミィとスリープロックがぶつかった時の音、スリープロックが壁にぶつかった時の音を聞くと威力の大きさが良く分かる。

 しかしピグミィは平然としている。全くダメージを受けてないようだ。


 宙を舞って壁に叩きつけられたスリープロックは地面に落ち、ピグミィに向かってゴロゴロと転がってくる。

 距離もそこそこあり、スリープロックの速度が徐々に上がっていきなかなかのスピードになる。


「ピグミィ!後ろ蹴り!」


 ミリーがそうピグミィに命令すると、ずっとスリープロックを見ていたピグミィは真反対を剥き目だけでスリープロックを見る。

 速度をつけて転がってくるスイープロックがピグミィにぶつかりそうになった瞬間。

 ピグミィは後ろ脚を使い思い切りスリープロックに向け蹴りこむ。


バゴッ!


 鈍く重い音がして、スリープロックは砕け散る。後ろ脚で蹴りを入れたピグミィは表情を変えず涼しい顔だ。


「すごっ…」


 ピグミィを見ていたサリオが引き気味にそう言った。

 確かにピグミィの突進、後ろ蹴りは音からも分かるように凄い威力だった。

 それに鉱物に対する一撃。自身にも凄いダメージが入るはずだが、ピグミィは一切ダメージを喰らっていないように見える。


「わー!ピグミィ!やったね!」


「ぶぃー」


 ピグミィは表情を変えずにいつものように返事をする。だが、ミリーが満面の笑みでピグミィを撫でると表情はあまり変わらないがどこか嬉しそうで満足げだ。


「おぉ。仕留めたか。ピグミィの攻撃力は凄いな。それに防御力もありそうだ。」


「あらあら。野生のドリルボアではあのような瞬発力は出ないわ。ドリルボアの弱点が薄れているわね。」


 確かに野生のドリルボアは力を溜めてからの直線的な突進しかない。

 しかしピグミィは力を溜める間もあまりなくスリープロックに突進。その後体勢を変え、後ろ脚で強烈な蹴りをかました。


「あれだけの威力は野生では出ないし、瞬発力もなかなかのものだ。それにあれだけの威力だったらピグミィ自身にも大きなダメージがありそうだが…ちょっと見せてくれるか?」


「ぶぃ!?」


 グランさんが近づくとピグミィはサッとミリーの影へ。人見知りは相変わらずだ。


「…ミリー。済まないがピグミィの頭と後ろ脚を診てやってくれないか?」


「グランさん…すみません。どれどれ…ピグミィちょっと見せてね?…うーん。触った感じ大丈夫そうだけど。」


 ミリーの返答は曖昧だ。分からないのも仕方ない気はするが…


「あらあら。ピグミィちゃん。ちょっとごめんねー?」


 アイナさんがそーっと近づき、スリープロックにあたった箇所を触る。

 ピグミィが逃げない…だと。ミリーも驚いたような顔でアイナさんを見る。


「うん!大丈夫そうね!それに良い毛並みね。しなやかだけど力強くて…それに筋肉も固いわ。たくましい女の子ねぇー。」


「ぶぃー」


 そう言ってアイナさんはピグミィを撫でる。ピグミィも嬉しそうにアイナさんに撫でられている。

 …アイナさんは不思議な人だなぁ。スライムは触っただけで性別が分かるし、人見知りのピグミィもどこかアイナさんを受け入れている。


「え?ピグミィってメスだったの…?」


 サリオがまた驚く。確かにあれだけの攻撃力を備えているのだからオスだと思うだろう。

 ピグミィ…メスなんだなぁこれが。

 だが、アイナさんはまたピグミィがメスだと瞬時に見分けた。やっぱり凄いなこの人。

 そういえば、ずっとピグミィに乗ってたハルは…ピグミィとスリープロックが激突した衝撃で飛んでいっていた。

 必死にしがみついていたものの、あれほどの衝撃だ。吹っ飛ばされても仕方ない。

 俺はハルに近寄り、声をかける。


「ハル…大丈夫か?痛いところはないか?」


「ピィ!ピッ!」


 結構派手に飛んだがなぜか満足げなハル。普段飛ぶなんてことがないから嬉しいのだろうか。

 ハルは俺に返事をした後ぴょんぴょんと跳ねまたピグミィの背に乗る。

 肝っ玉が据わってると言うか…ハルもハルでやっぱり規格外だ。

《スリープロック》


 石。どこからどう見ても石。

 石が擬態した魔物なのか、石に魔素が宿って動き出した魔物なのか、近年まで議論されていた。

 結果、擬態ならば形を変え動くはずだが、ゴロゴロ転がっての攻撃手段しかないため、後者の見解に落ち着いた。

 ダンジョンや洞窟に石に紛れてじっとしており、石にある程度の魔素が集まって魂を宿したモノ。…らしい。未だ解明されていない不思議な魔物。

 砕くと青く光る魔石がごくわずかな量が一片採れる。

 これは取り込んだ魔素量に比例するものらしい。


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