第123話 あらあら。みんな元気ねぇ。
東門に俺を含めた9人が集まり、出発の準備、今後の予定を共有するらしい。
まずは、2つのパーティに分けるとマイクスさんが言っていたが…どのように分けるのだろうか?
とりあえず半分で分けるならば5人と4人だろう。
「1つのパーティは私がリーダーをやらせてもらう。もう片方は既にグランに頼んである。」
マイクスさんの指揮も、グランさんの指揮も把握している俺はなんの異議もない。
グランさんのリーダーとしてのパーティも経験したし、イレギュラーながらマイクスさんの指揮の元、行動もしている。
マイクスさんを除く全員、マイクスさんの取り決めに異議はないようで、反論の声は出なかった。
「うむ。では次にメンバーの振り分けだが、各々が今回の冒険で活躍できるように組ませてもらった。今日は初日ではあるし、目的地も一緒なので、今後色々とメンバーを替えていくことを頭に入れてもらいたい。」
今回の旅は1週間から10日くらいと、俺の中では最長となる。それにマイクスさんでも全員の能力は把握していないだろうし、再編ももちろんあるよなぁ。
それにパーティが変われば立ち回りだってガラッと変わることだってある。俺を含めたマルスーナの4人のレベルアップが主だし、その辺りをマイクスさんを始めグランさん達も考えてくれるだろう。
なんだか校外学習を思い出すなぁ…
俺とマルスーナの4人が生徒でマイクスさん達が引率…校外学習にしては期間が凄く長いけれど。
そしてマイクスさんから、パーティの分担が発表された。
俺はグランさんがリーダーのパーティに。他のメンバーはアイナさん、ミリー、サリオの計5名に。
そしてマイクスさんのパーティには、リナさん、フロル、ヘイルが。
「一応グランと話してね。テイマーはグランやアイナから色々勉強することが多いだろう。フロルは一応戦士としての適性があるので私が。ヘイルは個人的にも能力を底上げしたいという事でこちらに来てもらう。」
なるほどな。サリオはテイマーとしてのスキルアップ、ミリーも冒険に出るのは初めてだろうし、テイマーの職についているのならアイナさんとグランさんに教えてもらうのが一番だ。
実際に俺もアイナさん達の教えでやっていけているし、実際に師匠と呼ばせてもらっている。
マルスーナにいた時にサリオやミリーにも師匠がいるという話をしていたし、2人にとっても願ったり叶ったりのパーティだな。俺も色々な人のテイマーとテイムモンスターの動きを見れるので学ぶ事も多い。
逆にマイクスさんのパーティ。
マイクスさんはソロだし、リナさんも一応ソロだ。そしてフロルは戦士としての素質があり、テイムモンスターを欲しいようだが、まだいない。アイナさん達に教わるよりか、マイクスさんとリナさんからソロでの冒険のノウハウを貰った方が良い気もする。リナさんの解体の腕はピカイチだしなぁ。
ヘイルもテイマーだが志願して、自分の底上げをしたいとマイクスさんに言ったようだし…
現状これが最適なパーティの振り分けかもしれないな。
「それとスイト君。急なんだが…ロゼリール君をこちらに同行してもらう事は可能かい?」
「え?」
なんと、考えてもみなかったマイクスさんからの申し出。
これにもなにか意図はあるとは思うが…ロゼリールの意志も確認しないと。
「ロゼリール。こうこうこうで…」
「ビッ!?ビィー…ビビ。ビ―ビ!」
どこか驚き、悩んだ結果、ロゼリールは笑顔になり、快諾してくれた。
「うん。ありがとう。頑張るんだぞー?」
「ビッ!ビービビッ!」
「スイト。ロゼちゃんは任せなさい。あたしと一緒なら大丈夫だもんね?」
「ビッ!ビビッ!」
リナさんはロゼリールに笑顔で語り掛け、ロゼリールも笑顔で返す。
なんだかんだ俺としては少し寂しい気もするが…これもマイクスさんが何か考えた結果だろう。
「じゃあリナさん。ロゼリールを頼みます。それと…これはお昼ご飯用のフードとミルクと…それに食器です。」
「えぇ。分かったわ。じゃあロゼちゃん!行きましょ!」
俺はロゼリールのお昼ご飯をリナさんに渡し、リナさんはマイクスさんの元へロゼリールと一緒に行く。
人数は5人と4人で分かれてはいるが、テイムモンスターを含めると明らかに俺達の方が多い。
そういうこともあってロゼリールをマイクスさんは連れて行ったのだろうか?それに林の中での一件もロゼリールは大活躍だった。そのあたりもマイクスさんに認められたのかもしれない。
「ネルモルは大丈夫か?ロゼリールあっちに行っちゃったけど…」
「もーぃ!」
ネルモルは片手を勢いよくあげ、不安を微塵も感じさせない返事を俺に返す。うん。これなら大丈夫だ。
「ハルも。ネルモルは初めての冒険だから色々教えてあげてね?」
「ピッ!ピピッ!」
ハルは任せといて!と言わんばかりに元気に返事をする。
ハルに然り、ロゼリールに然り俺のテイムモンスターは頼りになる奴ばかりだ。
「よし。パーティは分かれたとはいえ本日の目的地はイースルーウッドの町だ。グランと話して私達が先行する。では、また後で会おう。」
マイクスさんのグループが、先に東門を通りイースルーウッドの町へと歩いて行く。
門をくぐるときリナさんが俺に向かって笑顔で手を振ってくれた。くぅー…可愛いなぁもう。俺も笑顔で手を振り返す。
「よし。俺達も出ようか。マイクスは先に行くと言っていたが俺達は別のルートで向かうぞ。」
グランさんの話だとルートは複数あるらしい。
マイクスさんが通るルートは世界樹の木陰からある一定の距離を空け、世界樹に沿って行く道を通るポピュラーなルート。これがゴトウッドとイースルーウッド間の正規ルートらしい。
こちらは東門を出たら、少し歩き正規ルートから分岐。川や細い道などを通る、ある程度の冒険者なら知っているルートだそう。こちらは色々な起伏や地形があり、魔物も正規ルートよりは多く出る。
「ま、冒険し甲斐があるのはこっちのルートだ。それに小さなダンジョンもある。」
ダンジョン!グランさんの言葉に少し胸が躍る。とはいえ、俺の認識はあくまでRPGゲーム内でのダンジョンの話。
もちろん違う面もあるだろうし、ゲームと違いコンティニューも不可能だ。
「グランさん。ダンジョンってどんなものなんですか?」
ミリーがグランさんに問う。俺も聞こうと思っていたのでちょうどいい。
「そうだな。ミリーはしっかりした冒険は初めてだったな。とりあえず出発して歩きながら説明しよう。じゃ、俺達も出発するぞ。」
そう言って俺達はグランさんを先頭に、最後尾にアイナさん。真ん中に俺とミリーとサリオという並びで歩き出す。
門を出て、人通りも少なくなり、正規ルートとの分かれ道へ。
やはり正規ルートの方が人通りが多いように思う。中には馬車を引き連れた商人などもおり、道も舗装されているのだろう。
正規ルートと逆方向に俺達は進んで、少し歩いたがすれ違う冒険者はいなかった。
「よし。魔物も出てこなさそうだし、ダンジョンについて話すとするか。」
ダンジョン。これは世界中のどこかに気づかぬうちにできるものらしい。
詳しくは解明されてはいないが、恐らくなんらかの影響で魔素が溜まりそれがダンジョンになる。
ダンジョンは主に洞窟になるのが主で、あれ?こんなとこに洞窟あったっけ?というのはダンジョンで間違いないらしい。
中には貴重な鉱石や資源が採れる他、ダンジョンによっては最深部にダンジョンリーダーがいることも。ゲームでいうところのそのダンジョンのボスといったところか。
そしてダンジョンリーダーがいるところには協力な魔道具や武器が眠っているらしい。
そしてダンジョン外部と内部では出現する魔物も全く異なっており、内部の方が強い傾向がある。
これは魔素濃度に比例するみたいだが…
しかし魔素濃度が高いほど強い魔物が現れるが、良質な鉱石や資源も魔素濃度が高いダンジョンに多く存在するらしい。
「ま、ざっくり言うとこんな感じだな。後は自分自身が体験してどう感じるかだな。」
確かに説明を聞いても、実際どういうものなのか自身で体験しないことには、身につかないこともあるしな。
しかし、不安よりもワクワクが勝ってしまうなぁ。ダンジョン…これぞ異世界の冒険!って感じがする。
「で。だ。こっちの道にちょっと外れたところにクリア済みのダンジョンがあるんだ。時間に余裕もある。ちょっと寄っていくか。」
なんと!ゴトウッドの近くにダンジョンがあったとは!リナさんはそう言う事教えてくれなかったが…俺にはまだ早いってことだったのかもしれない。
リナさんはリナさんで俺の事を考え、色々順序を立てて教えてくれるし、こちらの世界での成長も促してくれる。
あれほど綺麗で性格も良く、それに加え上司として最高のスキルを持っているように思う。
前世であんな人がいたらなぁ。毎日が楽しかっただろうに…ま、今は前世とは比べ物にならないくらい楽しいからいいんだけど。
「是非行ってみたいです。僕もクリア済みのダンジョンの入口にちょっと入ったくらいなので…」
「私も…危険がないのなら行ってみたいです!」
「俺も!初めてなので行ってもらえますか?」
「あらあら。みんな元気ねぇ。じゃあグラン行きましょうよ!」
一番後ろから楽しそうなアイナさんの声。
こっちのパーティにはグランさんとアイナさんもいるし、それにグランさんもサリオもクリア済みという言葉を言っていた。
恐らく誰かが攻略したダンジョンなのだろう。なので危険度は低めなのだろうか?
「よし!じゃあまずはダンジョンに向かおう!ダンジョンの外が少し拓けているからダンジョン潜ったあとに昼飯にするぞ!」
「「はい!」」
俺達はグランさんの後ろをついていく。
ダンジョンとはどういうものなのか…楽しみで仕方がない。




