第121話 だーかーらー!いいのよ!
「「ごちそーさまでした!」」
気づけば各テーブルにあったたくさんの料理は空。美味しく頂いた。
今は各々の手元にドリンクが置かれ、食休み。といった感じ。
俺は相変わらずグランさん特製の麦茶っぽいものをジョッキで貰っている。
「ふぅ。ご馳走様。相変わらずグランは料理が上手いな。」
「そうか?ははは。たまには顔出してくれよ。」
「なかなかにギルドの仕事が忙しくてね。」
「まさかこんな近くでギルド長やってるなんて思わなかったわぁ。」
「ま、なによりこうやって元気な顔見れて俺らも安心したぞ。どこほっつき歩いてたか知らないが、何してるか分からなかったからな。」
「色々あったのさ。今はこうやってマルスーナの街で世話になってるが。で、スイト君の手紙には書かせてもらったが私達は2週間この街に滞在する予定だ。」
急にマイクスさんが話し始める。
今後の予定などを俺やリナさん。アイナさん達と共有するつもりだろう。
まぁ俺は面識もあるし、もとよりアインさん達とは旧知の仲だ。腕前も分かっているし、信頼に足る人物だからこそ今、話し出したのだろう。
「あぁ。スイトからも聞いていたが…この子達の研修みたいなもんも兼ねてるんだろ?」
「うむ。サリオとヘイルはこの中では経験は抜けているが、まだ荒い面もある。ミリーとフロルはなかなか家庭の事情があって冒険できなかったんだが…この間のスイト君に手伝って貰った一件の後、ご両親とに話したらなかなか良い返事がもらえた。ので、まず近くの街へ練習がてらという感じで今回こちらに訪れた訳だ。」
ミリーは実家の牧場の手伝い、フロルは食堂の手伝いがあるから、冒険に出たくてもなかなか時間が作れない。という訳か。
というか、今回の一件でって…ミリーは話を聞いていたので分かるが、フロルも…か。
多分ミリーや俺をみて、ずーっと食堂の手伝いでは…と感じてしまったのだろうか?
「ただ誤算だったのはグラン達がいたことだ。3人はテイムモンスターを連れているし、テイマーとしての心構えなどを教えてもらいたい。」
「っつっても俺らも店があるからなぁ…」
「あら?いいじゃない。若いテイマーを教えることなんて今までなかったんだし。それにお店休ませて、指導するからにはその分の報酬ももらえるでしょ?ね?マイクス。」
「ぐっ…ま…まぁその辺はギルド内にてどうにかしよう…」
「えぇ。じゃあ、具体的なお話は…後にしましょうか。」
アイナさん。ぬかりないな。まぁ、2週間まるまるかどうかはさておき、店を休業すると今後の生活にも関わる訳だしな。当然と言えば当然の申し出か。
「それにスイト君もこの街にいるってのは知っていたからね。4人も見知らぬ人ばかりよりか知人がいた方がなにかと楽だろうし。」
「そうですね。俺も4人にまた会いたかったし…こっちの方では同年代の友人がいないものですから…」
「あらあら。私達じゃダメだって言うのかしら?」
「いや…そうじゃなくて、アイナさんとグランさんそれにリナさんは俺の師匠ですから…」
3人も旅慣れた冒険者の知り合いに良くしてもらっているのはとても幸せなことだ。
だけどたまには同年代くらいの人と話すってのも楽しいしな。
それに3人にはやっぱりどこか気を遣ってしまう部分は多少はあるし…年上ということも、冒険者として遥か上を行っている事も加味してだが。
対照的に4人は同年代というのはもちろん、ヘイル、サリオは経験はあるが、ミリーとフロルはあまり経験がない。
俺もあまり経験はないが、気軽に相談ができたり、逆もまたしかり。高め合う仲間というのも大事だと俺は思っている。
「うむ。こちらの街でスイト君は色々な人に教えてもらっていると聞いていたが、アイナとグラン、それにリナさんもかなりの冒険者と見てとれる。スイト君には良い環境だが、たまには同い年くらいの子達と冒険に出るってのも必要だと思ってね。」
「あらあら。なかなかうちの弟子を気にかけてくれるじゃないの。」
「スイト君に聞いていると思うが、私も世話になったもんでね。それにこれくらい若くてしっかりしたテイマーだ。目をかけてもいいだろう?」
「まぁマイクスの言う通りだ。俺らが教えるのは良い環境だが、やはり高め合う仲間の存在ってのも大事なもんだ。そこは俺も気にしていてな…知識はあるが、どうしても同じレベルでってのは無理があるからな。」
やっぱりアイナさんやグランさんに可愛がられてるんだなぁ。
マイクスさんも俺の事気にかけてくれてるし、俺は周りの人に恵まれている。
「とはいえこの辺りってバイトラビットとスライムくらいしか出ないわよ?それならマルスーナの森のドリルボアやビッグフロッグの方が良い練習になるとあたしは思うんだけど。」
リナさんの言う通り、ここらの魔物とマルスーナの魔物を比較した時に、マルスーナの魔物の方が明らかに強かった。
ビッグフロッグはトリッキーな動きをしてくるが、そのような魔物もいないし…
「この界隈はそうだな。だからレベルの低い冒険者も訪れやすい。」
「そうねぇ。だからゴトウッドが世界樹の木陰で一番栄えているっていう面もあるわねぇ。」
そうだったのか。まぁ世界樹の木陰とはいえ俺はイーガマック家とゴトウッドの往復ばかりだからな。
休日にリナさんとハルやロゼリールを連れて、家の周りを散策したりしているが、それでも出る魔物は変わらなかった。
恐らくリナさんが道を選んで先導してくれたからだろう。
「リナさんの言う通りこの辺りはバイトラビットくらいしか出ない。が、ちょっと歩けばまた違う種類の魔物に出会える。とはいえ、それほど我々の脅威になる魔物も出る事はないだろう。そういう意味でも良い練習になると思ってね。あとは…周囲に何か異常がないかの確認だ。」
マイクスさんは4人の訓練も兼ねて、ゴトウッドにやってきたのだろう。
ミリーとフロルには戦闘の基礎を、ヘイルとサリオは実戦経験はそこそこあるから、基本的な戦闘の見直しと、見たことのない敵への対応。と言ったところだろうか?
「周囲の見回りみたいなものか?それってゴトウッドの冒険ギルドの管轄じゃないのか?」
「まぁそうなんだが…この界隈は危険が少ないだろう?危険度に比例して冒険者への報酬も決まってくるんだが、なんせ安価なので受けない冒険者も多くてね。まぁ練習がてら丁度良い機会だから我々が受けさせてもらったんだ。それにダンジョンが発見されたって話も聞いてね。」
見回りというか異変調査か。ゴトウッドの冒険者ギルドからしてもマルスーナのギルド長のマイクスさんに申し出てもらったら願ったり叶ったりだろう。
身元がしっかりしているし、しかもギルド長。仕事の出来栄えも信頼できる。
気になったのはダンジョン。初めて聞く単語だが…よくRPGなどで、町はずれに洞窟があったりするが、そういうイメージでいいのだろうか?
「あらあら。ギルド長も大変なのねぇ。で?どんな日程を組んでいるのかしら?」
「今日併せて12日間こちらに滞在する予定だからね。最短で1週間、予備で3,4日ほどあれば世界樹を1周できると思うんだが…どうだろうか?」
「それだけあれば十分だろ。ダンジョンの場所の目星もついてるなら探索を兼ねてもな。で、出発は?」
「うむ。ダンジョン探索も考慮してこのような日程を組んだ。明日は準備に回して、明後日から出ようと思う。」
「また急だな…貼り紙を出しておくか…」
「急な申し出で申し訳ないな。リナさんとスイト君はどうだい?都合はつけられそうかな?」
アイナさんとグランさんはマイクスさんに手伝う気満々だが…
俺達も店があるしなぁ。俺はどちらかというと行きたいんだが。それにダンジョンも気になる。
「スイト。あなたは行きたい?…って行きたそうね。」
リナさんは俺の顔を見て質問してくるが…俺の表情が行ってみたいと物語ってたみたいだ。
「本心は行きたいですが…お店もありますから…」
純粋に何もなければ冒険に出てみたい。だが、やっぱり第一にリナさんのお店がある。
仕事をないがしろにしてまで、冒険に出るのはなんだか違う気もするし。
「そう。マイクスさん。あたし達も参加させてもらいます。」
え?いいのか?1週間から2週間ほど店を休むことになるが…
リナさんの返答に逆に申し訳なくなってきてしまう。
「いいんですか?」
「えぇ。スイト行きたそうだし…それにあたしも薬草や薬の素材を調達したいからね。休んだ分冒険で稼げば問題ないわよ!」
多分後半は建前で、俺の気持ちを最優先させてくれたのだろう。
小さなお店で2週間の休業は少なからず、売り上げにも生活にも支障が出るはずなのに…
「すいませんリナさん…ありがとうございます。」
俺は心からの感謝をリナさんに告げる。
本当にリナさんのような人の元に転生できて良かったなぁ…と、心から思う。
「何泣きそうになってんの!あたしもたまには気分転換したかったからね?それよりお休みする分ガシガシ稼ぐわよ!という訳でマイクスさん。あたしとスイトも参加させてもらいますね。」
「おぉ。リナさん感謝します。スイト君もよろしく頼むよ。」
「こちらこそよろしくお願いします!」
「うむ。良い返事を貰えたところで私達はお暇するか。グラン、アイナご馳走様。」
「おう。また明後日…か?あぁ。集合場所やルートなどは決まり次第また連絡させてもらう。リナさんもスイト君も。後で店の方に顔を出させてもらうよ。」
「はい。分かりました。」
「よし。では諸君、一旦出ようか。まず宿に案内してその後は自由行動にしよう。」
「「はい!」」
「じゃあグランもアイナも。リナさんにスイト君も、また後で。」
そう言ってマイクスさんは4人を引き連れ店を後にする。
うーん。ヘイルとサリオとあまり話せなかったが…長い事こっちに滞在してるしな。
「久々の長期の冒険になるな。普段取れない食材や、調味料なんかも確保できるといいが。」
「そうねぇ。お店閉めてる間の補償はギルドからもらえるとしてもいい機会だものね。」
「あたしも久々にお店閉めることになっちゃうけど。あたしも補償掛け合ってみようかしら?」
「リナさん。ありがとうございます。」
俺はリナさんに再度、感謝の言葉を伝える。
常連さんだっているし、ポーションは冒険者に欠かせないものだし…それに街の人々の薬も調合してるしな。
「だーかーらー!いいのよ!あたしが大丈夫って言ってんだから!それより、今度の冒険もしっかり楽しみましょう!」
リナさんは満面の笑みで俺の肩をぽんぽんと叩く。そういう雰囲気でいてくれるから俺も安心できるしほっとするんだよなぁ…
それに9人での冒険になる。大勢での冒険も、長期的な冒険も初めてだ。それにダンジョン。
お店の事は気がかりだが、まだ体験していないことに対して俺はわくわくしているのを実感した。




