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第119話 私は素晴らしい冒険者かぁ。そっかぁ。

 一旦、昼休憩のため俺とリナさんはお店の施錠をして、外に出る。

 外の路地にはマルスーナから来たマイクスさん達が待っていた。


「すいません。お待たせしました。行きましょうか。」


 俺とリナさんが道案内をする形で先頭で並んで歩いて行く。

 アイナさん達にはマルスーナの冒険者が5人来ると予め伝えておいたので、大丈夫だろう。

 普段は4人掛けのテーブルが1つ置いてあるだけだが、その辺も大丈夫とのこと。お昼は臨時休業にしておいてくれると言っていた。アイナさんとグランさんには本当にいつも良くしてもらっている。


 5分も歩くとこぢんまりとしたパン屋。スライズの前に着く。


「着きました。ここで俺とリナさんはいっつもお昼を摂ってるんです。」


「ここのパンの味は確かよ。それに夫婦でやってるんだけど2人とも凄く良い人達よ。」


「ふむ。確かに店の外からでも焼きたてのパンの美味しい香りがするね。」


 そう。スライズの前に立つといつでも美味しそうなパンの良い香りがする。

 また、色々な種類の創作パンもあり、こちらにきてから半分以上スライズで昼食を摂っているが全く飽きが来ない。一緒についてくるセットのスープやおかずも日替わりでしかも美味しいってのもあるだろうな。

 なんにせよグランさんの料理の腕前は確かだ。


「マイクスギルド長ー。俺もうお腹が…」


「えぇ。この匂いを嗅いでしまったら更に空腹になっちゃいます…」


 ヘイルとサリオがマイクスさんに訴える。

 4人は朝から歩いてやってきているんだし、疲れもあればもちろんお腹も減っているだろう。


「えー?ヘイルもサリオもダメだよ。ちゃんと朝ご飯食べなきゃ。ね?フロル。」


「私もそれなりにお腹は減ってるわよ。っていうかミリー。あなた、自分とこで朝ご飯食べてからうちに来たのにうちでも食べてたわよね。」


「えへへー。だってフロルのお母さんのご飯美味しいから…」


 そういえばフロルは朝もしっかり食べていたな。というか俺が1泊したときは、朝食は牧場で一仕事終えてからだったけど…それがミリー家の日課なのかもしれないな。

 昔からそういう生活を送っていたのならミリーが良く食べるのも頷ける。


「いいわねミリーちゃん。冒険者にとって身体は資本よ。たくさん食べることは素晴らしい事だわ。さ、中に入りましょっか。」


 リナさんはミリーにそう言いつつ、スライズの扉を開ける。

 俺はその後ろをついて行き、店に入るが…

 誰もいないな。アイナさんも、グランさんも裏にいるのだろうか?

 あ、でもイエルムはいつものようにカウンターで寝ている。


「ん?カウンターにいるのはアマリールスイムか。この辺では珍しいな。」


「俺も見たことねぇスライムだ。マルスーナ近辺にもいねぇよな。」


「そうだね。僕も初めて見るスライムだよ。…でも寝てるね。」


 俺も最初イエルムを見た時はちょっと不思議に思ったが、3人とも同じリアクションでなんだか安心する。

 俺はこの世界に来て1,2日のことだったしイエルムが珍しいかどうかなんてわからなかったが。


「ははは。最初ここに来る人はみんな驚いたり不思議がったりするわね。あの子いっつもあそこで寝てるもの。あの子はここの奥さんのテイムモンスターよ。」


「ふむ。スライムをテイムしているテイマーはたまにしか見かけないが…そういえば私も昔パーティ組んでた時にアマリールスイムをテイムしていた冒険者がいたんだ。」


 多分…いや恐らくそれはアイナさんだろう。

 実際アイナさんもグランさんもマイクスさんとパーティ組んでたって言ってたしな。


「どこか掴めない女だったが、それでも良い女だったなぁ。いつも笑顔で厳しい事を言われたもんだよ。」


 恐らくではなく確定でアイナさんだな。

 リナさんはみんなには見えない角度で笑いを堪えぷるぷる震えている。


「へぇー。マイクスギルド長が厳しいこと言われたってなると、相当な冒険者だったんだろうな。」


「それもスライムをテイムして…ってなるとなかなかの冒険者でしょうね。」


「あぁ。一緒にいたアマリールスイムの実力もさることながら、本人も素晴らしい冒険者だったよ。口は悪かったし、人をからかうのが生きがいのような女だった。」


 ヘイルとサリオはマイクスさんの話を聞いて感想を述べ、へぇー…と聞き入っている様子。

 その冒険者、俺の師匠です。なんなら旦那さんも。

 というかマイクスさん。これ、アイナさん聞いてたら怒られますよ。


「あらあら。リナちゃんにスイト君。着いてたなら呼んでくれればいいのに。」


「こんにちはアイナさん。今日はわざわざお店を一時休みにしてもらって…」


 これ以上ないタイミングでアイナさんが裏から顔を出す。

 絶対聞かれてただろうな。どんまいマイクスさん。


「気にしなくていいのよぉ。マイクスが若い冒険者を連れてくるってそんな面白そうな事ないじゃない!マイクスも久しぶりねぇ。私は素晴らしい冒険者かぁ。そっかぁ。」


 あ。そっから聞いてたんなら、口が悪いだの、人をからかうのが生きがいだのも完全に耳に入ってるな。やっぱりどんまいマイクスさん。


「…驚いたな。アイナだったのか。じゃ、そこで寝てるのはイエルムか?」


「そうよぉ。皆さん初めまして。この店をやってるアイナ・ブランドルよ。そこで寝てるこのテイマーをやってるわ。」


「ブランドルって…お前、グランと?」


「えぇ。パーティ解散してから正式に結婚したわ。今グランは皆のお昼ご飯を作ってるわ。」


「そうか…おめでとう。色々驚くことばかりで頭が追いつかないが、アイナとグランがスイト君を教えていたのか。通りで筋がいいはずだ。


「あらあら。褒めたって何も出ないわよぉ。私達の教えが良かったかもしれないけど、スイト君も頑張ってるもの。ね?スイト君。」


「いえいえ…アイナさんとグランさんに色々とテイマーとしての心構えを教えて貰えたからこそです。」


「あらあら!もぉー。スイト君は可愛いなぁ。もう少しでお昼ご飯できるから、皆座って待っててちょうだいね?それとマイクス。昔惚れてた女の悪口を言うのは感心しないわねぇ。」


 そう言ってアイナさんは裏へと戻っていった。

 昔惚れてた…?マイクスさんが?アイナさんに?


「ねぇ!フロル!マイクスギルド長が惚れてた人だって!」


「もう!聞こえるわよ!」


 一番後ろでミリーとフロルがこそこそ喋っているが丸聞こえである。

 マイクスさんはやられた…という感じで項垂れて額に手を置いている。


「ま…まぁ、昔のことはさておき席に座りましょ?マイクスさんも気を取り直して…」


 後ろできゃっきゃと騒いでるミリーとフロル。

 ちょっと困惑しているヘイルとサリオ。

 そして項垂れるマイクスさん。

 空気を戻すというか、この場を戻すためのリナさんの提案だ。

 それにマイクスさんを慰めてたのはリナさんが普段からかわれているから同情の意味もあるのだろう。


 リナさんの言葉に続いて各々席に着く。

 まぁ突っ立っててもしょうがないしな。

 結構思い空気が流れているが…

 不意にハルが、イエルムの寝ているカウンターに飛び乗り、イエルムをちょんちょんつついている。

 それで目が覚めたイエルム。ハルと2匹向き合ってぴょんぴょん跳んで挨拶を交わしたあと、イエルムはマイクスさんをじーっと見ている。


「ぴぃー!ぴぃっ!」


 ぐぐっ…と力を溜めイエルムはマイクスさんへ一直線に飛んでいった。


「ごふっ!」


 マイクスさんは不意をつかれ痛そうだ。

 そこそこのスピードだったし、ドスッと音もしたし…


 イエルムはマイクスさんに突撃したあとすぐにテーブルに上りマイクスさんの目を見ながらぴょんぴょん跳ねている。


「お…おぉ…イエルム…久しぶりだな…相変わらず凄い威力だな…」


「ぴぃっ!ぴぃっ!」


 イエルムは久しぶりの再会に喜んでいるのか、ぴょんぴょん跳んでいる。

 しかし凄い威力だったな。不意をつかれたとはいえ、マイクスさんはギルド長な訳だし。

 やっぱりイエルムはハルの師匠なんだろうな。ハルも目をキラキラしてイエルムを見ている。


「ごほっ…諸君…このようにスライムでも経験や日々の鍛錬を積めばここまでの威力になる。君達のテイムモンスターも色々な可能性を秘めているんだ。それを忘れないでやって欲しい。」


 全然かっこつかないマイクスさん。

 4人も動揺を隠せずに、マイクスさんへの返事もまばらだ。

 過去の事をバラされ、その人のテイムモンスターから手痛い一撃。踏んだり蹴ったりである。

 マイクスさん…アイナさんやグランさんと一緒に旅をしていた時はどんな感じだったんだろうか…

 このままではギルド長の威厳が根本から崩れていきそうである。

 

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