第109話 じゃ皆!また会おう!
俺達は花畑を隣にして道でキンカの実が生っている木を見ている。
「そういえばどれくらい必要なんだっけ?」
ミリーが俺に首を傾げながら聞いてくる。
うーん…どれくらい必要なのかな?
「取りつくすって訳にはいかないだろうからなぁ…」
とはいえキンカの実はたくさん生っている。しかし、メモには個数書いてないし…うーん。
「20個くらい…でいいかな?」
「ビッ!」
俺がそう呟くと、ロゼリールが勢いよくキンカの木へ飛んでいく。
ロゼリールの動きを見ていると、手際よくキンカの実を採取している。あっ…今1個食べた…
「そっかぁー。この辺ってロゼリールちゃんの庭みたいなものだもんね。」
ミリーの言う通りこの辺りはロゼリールの庭。幼いころから抜け出してはこの辺りを飛び回ってあーやってつまみ食いをしつつ過ごしてきたんだろうなぁ。
「ミリーもスイトも慣れてるけど、クイーンビーをあんな間近に見たテイマーなんて俺らぐらいだよな…」
「あぁ。街でも少し噂になってたしね。少し大きなソルジャービーを連れてるテイマーがいるって。まさかソルジャービーじゃなくてクイーンビーだったとは…」
感覚が薄れているが確かにクイーンビーは滅多に見る事のない魔物だったな。
習性も自分の巣を探す際の少しの間だけしか地上に出ず、その後は巣に籠るって言ってたし…まぁロゼリールが非常に特殊なんだろう。
少しクイーンビーを眺めていると、両手にキンカの実を抱えたロゼリールが戻ってきた。
20個くらいで良いって言ったのに…
「ビッ。ビービッ。」
俺の元へ寄り、キンカの実を見せるロゼリール。
持ってっていいのだろうか?ロゼリールの顔を見るとニコニコしている。
うん。ありがとう。しかしたくさんあるな…そう思いながら1個ずつポケットに収納する。
これだけあるから30個は持って帰っても大丈夫だろう。
と、30個採り終えると今度はミリーの前へと飛んでいった。
「えー!私にもくれるの!?」
「ビッ!」
「うぅー!ロゼリールちゃん!ありがと!一生大事にするね!」
ミリーは感激した様子でミリーからキンカの実を受け取っていく。20個ほど取り終え、今度はヘイル、サリオの元へ。
皆の分を採取してきたのか。偉いぞ。
というかミリー。一生は無理だ。生の実だしすぐ腐っちゃうぞ。ロゼリールの為にも美味しく頂いてほしい。
ロゼリールは皆にキンカの実を配り終え、満足そうに俺の後ろを飛んでいる。
撫でてあげるとより嬉しそうにニコニコしている。
「ロゼリールの動きとか見てるとやっぱり賢くてスイトに懐いてるんだなぁ。」
サリオがふとそんなことを呟く。
というか出会った頃からロゼリールは懐いてくれてたしなぁ…
戦力にもなるし、人懐っこい。大事な仲間だ。
そのロゼリールは余ったキンカの実を食べながらハルにも食べさせている。
ハルは頭の上でぷるぷる震えているのでどうやら美味しいらしい。
「ハルもハルで…な。こんな感情豊かなスライムは初めてだしよ。治癒魔法も使えるんだろ?サリオとガウリスが回復してもらったつってたし。」
「そう。それに小屋の中でのスイトとの連携も素晴らしかったよ。」
ロゼリールも大事だし、もちろんハルも大事な仲間だ。
出会ってから凄い勢いで成長しているように思える。
元気いっぱいで、負けず嫌い。それに明るくロゼリールと同様人懐っこい。
ハルも大事な仲間に変わりはない。
「ハルもいつもありがとうなー?」
「ピッ?」
ハルは不思議そうに返事をする。まぁ唐突に言ったから、ハルからしたら、なんで?って感じか。
とはいえ日頃からロゼリールにもハルにも感謝してもし尽せない。
2泊3日の小さな冒険だったが、2匹がいなければここまで来れなかったのは確実だし。
「やっぱよ。スイト達を見てると俺らのテイマーとしての心構えみてぇなのが、ガラっと覆されるなぁ。」
「そうだね。でも、なんだかスイト達の関係がお互いにとって最適なんだろうと僕は思うけどね。」
今までヘイルとサリオはお互いのテイムモンスターに厳しくあたっていたしなぁ。
とはいえ、林の中で見たガウリスの姿を見るとサリオもガウリスに信頼はされていたのだろう。
信頼や情が無ければ見捨てて逃げるという選択肢もあっただろうに。
2人は早めに気づけて良かったのかもしれないな。
「ねー。キンカの実も採集できたし…スイトはもう行っちゃう?」
これで冒険でやれることは全てやった…か。まぁ後は帰るぐらいだが、時間調整ミスって遅れるようだとリナさんに心配されるかもしれないしな。
「そうだね。何が起こるか分からないし余裕を持って帰ろうとは思うけど…」
「今からここら辺を出発したら夕方頃にはゴトウッドに着くか?まぁ、陽が沈み切る前には確実に着いてるだろうけど。」
なら寄り道せず帰った方がいいか。普通に歩いて4時間程度はかかるだろうし。
ミリーは寂しそうにしているが…そう会えない距離って訳でもないしな。
「まぁ…遅くなりすぎてもあれだからね。今度はミリーがゴトウッドに遊びに来てよ!色々案内するしさ。」
「うん…寂しいけど…もう会えないって訳でもないもんね!じゃあ橋まで皆で行こう!」
寂しそうなミリーは笑顔を作り俺達に提案する。
その提案を聞きまず歩き出したのはヘイル。俺達はヘイルを先頭に再び歩き出す。
30分かからないくらい歩くと橋が見えてくる。
ここでお別れかぁ。短いようで長かった3日間だったなぁ。
「皆ありがとう。3人とも帰りは気を付けてね。」
「おう!こっちこそ色々迷惑かけたな。ありがとよ!また会おうぜ!」
「僕も林の中で助けられたしね。本当にありがとう。また会えるのを楽しみにしてるよ。」
俺はヘイルとサリオの2人と握手をする。今度会った時は2人もそれぞれのテイムモンスターも強くなってるんだろうなぁ。俺も負けてられないや。
同い年ぐらいのテイマーの知り合いができて俺も更に明日から頑張らなければ。とやる気が出る。
ミリーは…2人の後ろで少し落ち込んでいる。
「ミリー…?」
「え!?あ!うん!どしたの!?」
「ミリーがいてくれたから今回の冒険はとても楽しかった。離れてても俺達は友達だからね。」
「うん…私も楽しかったよ!2日間ありがとう!あの…さ。手紙…送ってもいい?」
「もちろんだよ。さっきも言ったけど今度はこっちにも遊びにきてよ。俺もまたマルスーナに遊びに行くからさ。」
「うん!分かった!ちょっと寂しいけど…私も色々お世話になったし、スイトがいなければこうやってヘイルやサリオとも一緒に行動することが無かった訳だし…本当にありがとう!絶対また会おうね!」
ミリーは目に涙を浮かべ、今まで見たことのない笑顔を俺に向けている。
そんな顔されるとなぁ…別れづらいんだよなぁ…
俺は両手を差し出すとミリーは表情を崩さずぎゅっと握ってくれる。
その手をぐいっと引っ張られて…
ちゅっ…
え…なんだか、頬に柔らかい感触が…
俺は頬に手を当て、ミリーを見ると今度は照れているような表情を浮かべている。
「えへへ…2日間のお礼!嫌じゃ…ないよね?」
そんな!嫌なんて誰が思えるのか。なんやかんやミリーも可愛い女の子。そんな可愛い子に…
あぁ。神様。これがキスですか。頬でこんなに幸せな気分になれるんですね。
ってことは…口と口だと…俺は死んでしまうかもしれません。
…
はっ!と我に返って周りを見る。
目の前には照れているミリー。その後ろには少し恥ずかしそうに視線を外すサリオ。…の隣にはわなわな震えているヘイル。ヘイルからはなにか殺気のようなものも感じられる。
しかしその殺気はヘイルだけではなく、俺の背後からヘイル以上の殺気を感じる。
振り向くと、まぁロゼリールがいるんだが…表情は笑顔なんだ。笑顔なんだが…
「ビッ…?」
ロゼリールは笑顔を崩さず、低い声で鳴く。あぁ…完全に怒ってますね。やっぱり何か放ってるし。
「うん…その…なんでもないんだ。帰りもよろしくね?」
「ビィー…?」
俺がそう言うとロゼリールは背を向けてしまう。あぁ…怒ってるけど…ぶっちゃけ俺のせいじゃないし。
「スイトよぉー?今度は…もっと強くなって待ってるからよ。1回くらい腕試しさせてくんねぇか…?」
あぁーヘイルも怒ってますわ。ミリーめ…でも柔らかかったなぁー…うへへ。
「あぁ…うん。俺も精進します。サリオも…元気でね。」
「うん…まぁその…あとは任せといてくれ。」
サリオが俺の理解者で助かった。ちゃんと鎮火してくれよ。頼むぞ。
「それじゃミリー。また会おうね!」
「うん!私ももっと強くなってるから!また会いましょう!」
ミリーはまた満面の笑みを俺に向け、そう言ってくれる。…さっきと違うのはちょっと顔が赤くなってる…ことかな?
「ぶぃー」
あぁ!ピグミィ。ピグミィも俺を見上げてお見送りをしてくれているのだろう。
お前がミリーを守ってやるんだぞ?また会おうな。
そう思いながらピグミィを撫でてやる。
ピグミィは目を閉じ気持ちよさそうに撫でられている。
「ビィー!!ビッ!!ビッ!!」
鳴き声の方を見ると…結構離れたところからロゼリールが鳴いている。
さっさと行くぞ!ってことだな…これ以上怒らせるのは良くない。
「じゃ皆!また会おう!」
俺はそう言って手を振って橋を渡る。
ミリーもサリオも手を振って見送ってくれている。ヘイルもむすっとはしているが…なんだかんだ手を振って見送ってくれた。
さぁ後は帰るだけだ。ここから3,4時間くらいか?
何の危険もなく帰れるといいな。
…その前に目の前の怒ったクイーンビーをなだめるというミッションがある。
帰るまでに機嫌が直ってるといいなぁ…




