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第100話 2人とも昨日はお疲れ様でした。

 ミリーと俺はマルスーナの冒険者ギルドに到着した。

 冒険者ギルドに入り、受付に言って取り次いでくれとマイクスさんは言ってたな。

 受付の方を見ると先日、初めて寄った際に買い取りを担当してくれたお姉さんがいる。


「すみません。マイクスさんに呼ばれている者ですが。」


「おはようございます。話は聞いているわ。スイト・イーガマックさんとミリー・セルホワイトさんね。一応確認のためギルドカードの提示をお願いします。」


 受付のお姉さんは優しい笑顔で俺達にそう言う。というかミリーの苗字を今初めて聞いたな。

 えーっと…ギルドカードっと。俺とミリーはお姉さんにライフカードを提示する。


「はい。確認しました。あと昨日フロルさんが来て、ガーショの採取とイートラットの討伐のクエストも受けていたわよね?そちらもライフカードに記入させてもらいますね。」


 お姉さんはギルドカードを持ちカウンターを離れ、なにやら台の上にギルドカードを置く。

 そして少ししてまたギルドカードを持ち、カウンターへ戻ってきた。


「はい。これで昨日のクエストの記入は終わったわ。えーっとマイクスギルド長ね?呼んでくるのであちらに掛けて少しお待ちください。」


「はい。ありがとうございます。」


 お姉さんに促され俺とミリーはギルド内の長椅子に座る。


「クエスト完了した際は、採集物とかと一緒にギルドカードを提示するんだけどねー。フロルがちゃんと言伝を頼んでくれてたんだ。」


 本当にフロルはしっかりしているな。

 ギルドカードを見ると日付と人数、クエストを一緒に行った人の名前、クエスト内容と達成の文字が。これが履歴になって積み重なっていくのだろう。


「なんかフロルと来てぽけーっとギルド員さんの動きを見てるんだけどねー。あの台みたいなやつの上に置いてちょっとしたら返してくれるの。そしたら履歴が書かれてるんだよね。」


 なるほど。あの台はクエストの履歴を書き込む機械…機械じゃないけどそういうものか。あれも魔法で動いているんだろうなぁ。


「そうなんだね。俺もこれでなんか冒険者になったって気がしてきたよ。」


 俺はギルドカードの2つの履歴を眺める。

 ゲームなどの世界ではクエストを達成して、報酬をもらって生活する。異世界の冒険者ってそうあるものだと思っていたので、俺も冒険者になったのだと実感する。


「でも私の方が履歴は多いよー。えへへ。」


 ミリーのを見ると結構ずらーっと履歴が並んでいる。とはいえ採集ばかりだ。まぁ、フロルについて行って一緒に採集クエストをこなしていたのだろう。同行者のところは最新のものを除いて全てフロルの名前が書かれている。


「これからクエスト頑張ってミリーを追い抜かなきゃな!」


「あー…ずるい!私も負けないからね!」


 座りながらミリーと雑談をしているが…こんな時間を過ごせるのもあと少しだ。

 しかし、マルスーナに来て知り合いができて、このような時間を過ごせるのもミリーのおかげ。

 ミリーには感謝してもし尽せないな。


「おー。早かったね2人とも!昨日はご苦労様でした。」


 目の前にはマイクスさんが。

 昨日あんなに飲んだのに変わらず元気である。


「マイクスさん。おはようございます。」


「ギルド長!おはようございます!」


 俺とミリーは椅子から立ち上がりマイクスさんに挨拶をする。


「2人とも元気だね!若いっていいなぁ。まぁこんなところで立ち話もなんだ。私について来てくれるかい?」


 そう促され俺とミリーはマイクスさんの後ろを歩いて行く。

 カウンターの中に入り、とある1つの個室へ。

 部屋に入ると目の前に大きな机。机の上は書類やら色々なものが散らばっている。

 その机の横にはソファーがテーブルを挟んで2台並んでいる。

 この部屋はマイクスさんの部屋。いうならギルド長室兼応接室みたいなものだろうか?


「うむ。2人とも掛けてくれたまえ。」


 そう促され俺とミリーはソファーに腰かける。

 俺達の対面にギルド長も座った。


「ははは。まぁそう固くなることもないさ。もっとくつろいで…あ、なんか飲むかい?」


「いやー…ギルドの中に入ったのって初めてで…その…私ってそんなにクエストしっかりこなしてる訳でもないですし…どうしても緊張しちゃうというか…あ。飲み物…なにがあります?」


 本当にこの子は緊張しとるんかいな。

 まぁ俺もギルドの中の部屋に入ったのは初めてだしな。とはいえマイクスさんしかいない訳だしまぁ、まだミリーよりか緊張はしていない…と思う。


「じゃあ私牛乳で!」


 さすが牧場の娘。牛乳で育ってきてるだけのことはあるな。とはいえ家でも飲んで外でも…どれだけ牛乳好きなんだろうか。


「じゃあ俺は紅茶で…それか冷たいお茶みたいなものってありますか?」


「あぁ。あるよ。冷たいお茶でいいかい?えーっと…」


 マイクスさんは席を立ち、扉の向こうに向かって何か話している。なんかわざわざ申し訳ないな…

 そしてまた席に座り、俺達と対面する。

 部屋の脇ではピグミィが大人しく座っている。

 …うちの2匹は、ロゼリールがハルを抱え2匹で部屋を散策中だ。


「えーっと…すみませんうちの奴らが…大丈夫ですかね?」


「あぁ。初めて入る部屋だから興味があるんだろう。別に触られて困るものもないからね。」


 2匹は本棚にある本などを見たり棚に置いてあるものなど興味津々に次々と眺めている。まぁ、ずーっと静かにさせておくってのも無理かもしれないし、ここはマイクスさんのお言葉に甘えるとするか。


「まずは…えー。2人とも昨日はお疲れ様でした。この街のギルド長としてお礼を言わせて頂きたい。」


 マイクスさんは俺達に頭を下げるが…さすがに俺もミリーも恐縮してしまう。

 でもそれだけの事をしたんだなぁ。とふと思う。まぁ大変だったしなぁ…


「で、今回の件だが色々と分かってきたので今分かる範囲でのその後の報告と、2人への報酬。そのために今日は来てもらった。スイト君は今日帰るんだったね。時間は大丈夫かな?」


「えぇ。一応夕方くらいを目途に帰宅できればと思っていますが。」


「ふむ。それなら全然大丈夫だ。昼過ぎにこちらを発てば十分間に合うだろうね。」


 どうやら、話とはいってもそうは長くならないらしい。

 ならば全然大丈夫だし、報酬とマイクスさんは言っていたな。それも気になるが…今回の騒動の顛末の方が気になる。


「スイト君とミリー君、フロル君の3人でイートラットの討伐を受けていたと思うがそれも今回の事に関係があるみたいで――」


 マイクスさんが言うにはスティンカーの大量発生。それに伴ってスティンカーを天敵とするイートラットが林の中や草原での生活ができなくなり、街へ追いやられた。とギルドでは判断したらしい。

 スティンカーは天敵なうえに雑食。食物も林の中で取れなくなっていたんだとか。その件に関しては林に調査団を送っているとのこと。

 その上でゲルバーから聴取を行っており、上位種であるディシーブボム、スイートオウダーはゲルバーのテイムモンスターだったこと。上位種を利用しスティンカー達を誘導したことも分かったらしい。


「しかし不思議に思う事があってね。」


 マイクスさんはそう続ける。


「動機がね。良く分からないんだ。」


 動機…か。確かに何かを企んでいないと今回のような事は起こらないだろう。

 その辺もゲルバーに聴取を行っているんだが…とマイクスさんは言っているが…


「元々ゲルバーはね、ギルドの人間だったんだ。まぁスイト君も見た通りの風貌で、街の者ともそりは合っていなかったし、冒険者からもあまりいい顔はされていなかったんだが。」


「風貌…はそうですね。なにかやつれているようにも見えましたが。」


 ゲルバーの風貌と言われても、なかなかピンとこないのはそのせいだ。

 まぁでも街で嫌われ、街の外に暮らしていたんだな。そもそも街の人とそりが合わないのならわざわざ気に掛ける人間もいないからな。今回の事件も企みやすいのでは?と考えるのが普通だが…


「一言で言うと変わり者だ。」


 元々はギルドの人間で、テイマーだったそうだ。

 ただ、ゲルバーのテイムモンスターはスティンカーの上位種のディシーブボム。これがあまり街の人間から好かれなかった要因とも言われている。

 ゲルバー自身の実力もディシーブボムとの連携もまぁまぁのものだったそうだが、この街の外にはスティンカーが現れる。

 スティンカーがまた、冒険者などから嫌われているので、上位種のディシーブボムも好かれていなかったそうだ。

 スティンカーが嫌われている原因はその悪臭のガスを放つところにあるとマイクスさんは言っている。

 ゲルバーも気難しい人間で、頑固。一歩も引かず街の人間と対立し、ギルドをやめ、郊外で暮らすそうになったそう。それだけ聞くとゲルバーが気の毒な気もするが…


「まぁ引き金となったのはディシーブボムのガスにある爆発の成分だな。何かの調査の際に火魔法を放った街の若い冒険者がいてね。タイミング悪く、ゲルバーもガスでの攻撃を指示していてね。身内の冒険者が火傷を負う事になってしまって。元々溝があった関係に決定打を撃ち込まれた。という感じだ。」


 なるほどな。俺は身をもってディシーブボムのガスを喰らっているので、どのようなものかは分かる。

 俺も場合は低級の火魔法だったが、それでもなかなかの威力だった。

 一撃で死ぬという事はないが、なかなかのダメージはあるだろう。実際火魔法軽減の装備をしているものの火傷を負ってしまったし。

 ただ、今の話で気になる点が1つあるんだが…


「溝が出来ていたとはいえ、ゲルバーの攻撃パターンや、ディシーブボムのガスの性質を身内のギルドであれば把握しているはずだと思うんですが…」


 俺が気になった点はそこだ。溝はできていたとは言え仲間であり、そうタイミング良く火魔法を使う冒険者などいるだろうか?


「うむ。さすがスイト君。鋭いね。まさしく、我々はゲルバーの攻撃パターン。ディシーブボムの性質などは全員が把握しており、他のテイマーのテイムモンスターの特徴も把握している。つもりだったのだが…その火魔法を放った冒険者は街に寄った飛び入りの冒険者だったらしくてね。その事件以降行方が分からないんだよ。」


 なるほどな。ディシーブボムの性質を把握しており、その上で火魔法を放った。しかも地元の冒険者ではなく行方をくらませた冒険者…か。なんか噛み合いすぎているような。


「ゲルバーが嵌められた。って線もありますよね。」


「あぁ勿論だ。だが、このままゲルバーを街に置いておいては士気も下がるし、暴動も起きかねない。だから私が頭を下げて郊外に行ってもらっていたんだが…まぁそれでもそこそこのテイマーだからね。クエストなどは私の方から回していたので生活には困窮していないのは確かだったんだが…」


 まぁそうだよな。その一件があって、お咎めなしでは最悪暴動が起きるし、ゲルバー自身への危険も考えられる。

 ゲルバーが可哀そうではあるが、マイクスさんの話を聞く限り、マイクスさんもできることはしていたようだしな。最善と言えば最善…か。


「まぁそんな中、このような事件があってね。私もその一件でゲルバーが街の人間を恨み、ディシーブボムを始めとするイタチ系の魔物を使って、イートラットを街に送り込み混乱させようと思った…と睨んでいたんだが…ちょっと違うようでね。」


「と言うと?」


「何者かに操られていた可能性が高い。ハル君とピグミィ君。それにサリオ君のテイムモンスターのガウリス君。全員匂いに騙されていた。」


 確かにハルもピグミィも匂いの元を辿ってヘイルがいる小屋を当てたが、なにやら別の匂い、嫌な気配もヘイルからすると言っていたな。

 しかし、そのような物はディシーブボム、スイートオウダー、スティンカーのガスの成分には含まれないそう。

 大方、魔道具か、そのような性質を持つ魔法、魔物が挙げられるがそのようなものはゲルバーの身の回りにも、倒した魔物の中にもいなかった。故に外部にまだゲルバーを操っていた者がいるのでは?とのことだ。


「それに聴取でゲルバーは何者かにそそのかされたがその人間の名前も容姿も覚えていないと言っていてね。それでなかなか聴取が進んでいないんだが…恐らく利用されていたというのが私の見解だ。それにデディシーブボムはゲルバーのテイムモンスターだが、スイートオウダーについては私のテイムモンスターではないと言っていた。確かにスイートオウダーはこの辺りにはいないし、私と彼は頻繁に接触していたからね。スイートオウダーをテイムする余裕なんてなかったように思う。結果的にスイト君がディシーブボムを倒した時点で計画は頓挫するだろうし、その効力も切れたのだろう。」


 ゲルバーの裏に何者かがいる…か。俺はゲルバーと接触はしていないが、マイクスさんが聴取した上でも不可解な点があるし、マイクスさん自身も疑問に思う点が多々あるのだろう。


「なんか凄く厄介な事になっていますね…」


「うむ。私一人で抱えきれるか正直疑問ではある。」


 裏に何者かがいたとして、それは個人ではなく組織的なものだろう。

 それをギルド長であるマイクスさん個人で対処するというのは無理な話だ。


「まぁ、今分かっていることはこれくらいだ。スイト君とミリー君を不安にさせるだけかもしれないが、今回の立役者である2人だからね。頭に入れて欲しかったんだが…この事は他言は控えてくれると助かる。」


「分かりました。」


「うむ。何か新たに分かり次第スイト君宛てに連絡をしようと思う。ゴトウッドのギルド宛てに送る事になると思うのでこまめに確認してほしい。まだルーキーの君を巻き込むつもりは無かったんだが…」


「いえ。大丈夫です。それよりミリーは?」


「私も大丈夫。それに…ゲルバーさん。そんな悪い人じゃないと思うもの。」


 どうやらミリーはゲルバーを知っているらしい。

 大分前に面識があったと思うと言っているが。


「うむ。変わり者ではあるが、私も悪い人間とは思っていない。そして彼の処遇だが、今回は君達2人の活躍もあって未遂で終わっている。なので、厳重注意の上で一層、監視を続けていこうかと思う。さすがに裏に何者かがいたとして、その効力は切れているが何等かの接触があるかもしれないからね。」


 そうか…それはなかなか思い切った事をするなぁ。

 確かに未遂ではあるが、俺達が未然に防がなければマルスーナは大混乱に陥っていたかもしれない。


「あとは彼にもう少し聴取をして、もう魔法がかかっていないか調べて終わり。と言ったところで今回の件は一区切りだね。本当に未然に防げたのは2人のおかげだよ。改めて礼を言わせて欲しい。」


 マイクスさんは座ったまま俺達に礼をする。

 俺としてはゲルバーの処遇はマイクスさんが最善の選択をしていると思うのでとやかく言うつもりはないし、俺も納得している。

 ミリーも隣で真剣な顔つきで頷いていたし、納得しているだろう。

 ゲルバーの処遇についてはこれで終わり。

 だが彼を利用した何者か。その正体が全く掴めないのは不安である。

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