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●第35話●デザインとロゴとブランド

 研究所へ着いた三人は、早速魔法具のデザインについての協議を始める。


「さて、今までにない見た目、と一口に言ってもかなり幅が広いですし、何でも良いと言う訳じゃ無いですからね……。

 まずは方向性を決めたい所ですね」

 勇の言う通り、ただ今までにないデザインだったら良いと言う訳ではない。


「そうですね……。

 今までにないデザインであっても貴族に対して売るものなので、最低限ある程度の高級感は必要かと思います」

「高級感か……。そのままやると今の派手に装飾をしたものとあまり代わり映えしなくなるしなぁ」

「なぁイサムよ。お前さんの国の道具はどうだったんじゃ?

 魔法具みたいなのがあったと言っておったじゃろ?

 そうそう、その腕にはめとる時間を知る道具もそのひとつと言うておらんかったか?」


「私の国…そうか、それを参考にするのはアリかもしれないですね!

 ちょうど私のこの腕時計は、向こうでも高級品と言っても良いレベルのものでした。

 そうですね、ざっくり4万から5万ルインくらいですかね」

「4万だぁ!? 高そうだとは思ってたが、超高級品じゃねぇかよ……」


 予想外の金額にエトが目を丸くする。アンネマリーも驚いて絶句していた。

 物価の違いがあるので正確では無いが、定価がおおよそ450万円なので、そこまで的外れの金額でも無いだろう。


「この時計と言う道具だけでも、ものすごいブランド、こちらで言う商会があって、ものすごい数の商品がありました。

 数えたことは無いですが、万は超えていると思います。

 値段も10ルインしないようなものから100万ルインを超えるような超高級品まで様々です」

「万を超える種類……。想像もつきませんね……」

「あはは。まぁ全世界の人口が70億人を超えていましたからね。

 その分色々なものの種類は多いかもしれません」

「70億……」

 次々に勇の口から出てくるとてつもないスケールの話に、アンネマリーもエトも声が出ない。


「ああ、話がそれましたね。

 で、そういった高級品のデザインなんですが、乱暴に言ってしまうと二つのパターンに分かれていました」

「二つのパターンですか?」

「ええ。一つはこちらの魔法具と同じで、派手目に装飾を施したものです。宝石なんかも使われてましたね。

 で、もう一つが、あえてシンプルなデザインにしたものです。私の時計もこちら寄りですね。

 どちらかと言うと、技術力が高くてそれを売りにしている所は、シンプルなデザインを採用する事が多かったように思います」


「あえてシンプルなデザインか…

 確かにイサムのトケイは、宝石とかは使われてねぇが、一目で高級そうなのは分かるな……」

「そうですね。決して値段を聞いたからと言う訳ではなく、間違いなく高級感があります。

 それに技術があるところがその方向性と言うのは良いですね。まさに我々の魔法具と同じですし」

「では、あえて派手さを削ったシンプル路線を基本にしていきましょうか?」

「うむ」

「はい、それが良いかと!」

 こうしてまずは、シンプルな路線を目指してデザインしていく事が決まる。


「ただシンプル路線は、やり方を間違えると単に安っぽいだけになってしまうのが悩ましい所なんですよね……。

 宝石とか黄金とか、分かりやすく高いものをあまり使えないので。

 私はデザインの専門家でも何でもないので、正直自信がありません。

 なので、使い古されたパターンでまずは行ってみたいと思ってます」

「使い古されたパターン、ですか??」


「はい。いわゆる“いかにも”なデザインと言うのがあるんです。

 個性は無くなるのですが、そのポイントさえ押さえればある程度間違いが無いので、重宝されていました」

 いわゆる“お約束”と言うヤツだ。

 手軽にそれっぽく見えるので、そこまでデザインに強いこだわりのない商品に広く使われている。


「まず全体的には、基本となる一色でまとめます。

 おすすめは黒か白ですね。で、差し色にシルバーかゴールドを使います。

 装飾の類は極力控えて、細いラインを入れたり一部を切り返しにしたりしてアクセントにします。

 表面は光沢のある感じにした方が手軽ですね。

 そして筐体全体の形はシャープにしつつ、角を極微妙に面取りします。

 薄型とか小振りな立方体とかだと尚良いですね。

 で、控えめにマークや文字をあしらえば完成です」


「ふむ…

 言葉で聞く限りでは、確かにそんなに複雑なものでは無いな。

 今までに見たことが無いデザインだから想像がつかんのじゃが…

 どれ、ちょっと手持ちの材料でそっれぽいのが作れないかやってみるか」

 勇の説明を聞いたエトが、早速在りもので試作を始める。


「光沢のある黒だと、磨いた黒鉄鋼が一番じゃが、相当値が張るからな……。

 ここはソリッドビートルの甲殻で代用するか。厚みもそこまでいらんじゃろうし」

 そう言ってエトが取り出したのは、綺麗な光沢のある黒くて薄い板だった。


 ソリッドビートルという巨大な甲虫型の魔物の外骨格で、軽くて強度があるため鎧の補強などに使われている。

 何より甲虫なのに曲面が少なく箱状なので、素材としても扱いやすいそうだ。


「コイツを今の筐体のサイズに合わせてカットして……」

 手際よくカットした甲殻を、試作品に張り付けていく。

 どうしても隙間のラインが見えてしまう角の部分には、魔法インクを少し厚めに盛り、固めてから余計な部分を削る。

「はっはっは、魔法インクは文字通り売るほどあるからな」

 そう笑いながらエトが着々と角にシルバーのラインを入れていく。

 30分ほどでシルバーのラインで面取りされた黒光りするピザボックスが出来上がった。


「おーー、エトさん凄いですね! まさにこんな感じですよ!!」

「ふむ。確かにイサムの言う通り、コイツは中々に高級感があるな」

「そうですね。重厚な感じがしますし、装飾が中途半端に入っていないのが逆に凄みを出している気がします」


 勇のお手軽高級品メソッドは、こちらの世界の住人にも通用するようだ。

 確かに出来上がった箱は、値の張る黒モノ家電のようで安っぽさは感じない。

 この世界にはこれまでない類のデザインのようで、よく似たカラーリングが溢れていた地球と違って、ありふれた感じがしないのもありがたい。


「細かい詰めは後からやるとして、ロゴとシリーズ名を入れたいですね」

「ロゴ、と言うのはどういうものなのでしょうか?」

「紋章みたいなものですね。あそこまで凝ったデザインではなく、シンプルな紋章だと思ってもらえれば良いです。

 シリーズ名と言うのは、同じ考え方や方向性で作られた複数の商品に跨って付ける名前の事です。

 そうですね……商会名が家名だとすると、近衛騎士団とか魔法兵部隊とかがシリーズ名に近いですかね。

 で、個別の商品名がフェリクスさんとかの個人名です」


「なるほど。ではまず商会名を決める必要がありますね。

 多くの場合、商会を起こした人の家名を使いますが、マツモト商会にしますか?」

「んーー、それも分かりやすくて悪くは無いんですが、すでに商会名は決めているものがあるんです……」

「あら、そうなんですね?」


「笑わないでくださいね? ……オリヒメ商会です」

「な~う?」

 自分の名前が呼ばれたのに気付いた織姫がひと鳴きする。


「オリヒメ商会!! 素晴らしいと思います!

 私は先にオリヒメちゃんを知っているので可愛い印象を持ってしまいますが……。

 こちらには無い響きの言葉なので、はじめて耳にする方にはミステリアスな感じに聞こえやすいと思います」

「あはは、ありがとうございます。

 私の国では、猫は福を招く縁起の良い動物でもあるので、丁度良いかなぁと……。

 で、最初のシリーズ名も、織姫にあやかってバステトシリーズにしたいと思ってます。

 神様の名前ですし、家庭の守り神なので、生活に根差した魔法具にちょうどピッタリだと思いまして……」


「いいですね! ではロゴもオリヒメちゃんをモデルに?」

「はい。こんな感じで……横を向いて座っている織姫のシルエットなんかどうでしょうか?」

 そう言いながら勇が手元の紙にラフを書いていく。

 向かって右を見て座っている猫のシルエットの横に、アルファベットでORIHIMEとセリフ体(※)の斜体であしらった。


「この文字は……。ひょっとしてイサムさんの国の文字ですか!?」

「はい。正確には私の住んでいた国の文字ではありませんが、私の国含め世界中で使われていた共通文字みたいな文字ですね」

「そうなんですね……これもこちらでは見かけない雰囲気の文字なので、良いと思います!」

「ありがとうございます。

 エトさん、このマークだけを少し大きめに商品の裏側の中央に書いてもらって良いですか?」

「裏に書くのか?」

「はい。正面にも書きますけど、そっちは極小さくする予定なので、普段見えないところに大きめに入れるのオシャレじゃないかなぁ、と」

 何のことは無い、アッ〇ルコンピューターのパクりだ。


「なるほど……こんな感じでいいのか?」

「バッチリです!で、正面のこの左上あたりに小さくロゴと商会名を入れて欲しいです…

 そうそう、そんな感じです!」

「小さく名前が入っただけで、急にバランスが良くなりましたね……」

「そうじゃな、こりゃ驚いた」

「これでデザインの大枠は完成ですね」

 こうして、この世界では他に類を見ない、高級黒モノ家電風デザインの魔法具の試作が出来上がる。


 そして、その後夜中までかけてさらに細かいブラッシュアップが試された。

 最終的には、まず正面の下側に魔法インクを帯状に塗った後ヘアライン加工した装飾が施された。

 これは、火力の強さを表す役目を兼ねていて、火力が高い程帯の幅が広くなる。

 最高火力のモノは正面の半分の高さまで、最小火力のモノは下から5mmほど、中間のモノは1/4程度までの帯が、それぞれ施されている。

 そしてもう一つ。炎の魔石の光が見える位置に小さなスリットが追加され、起動すると薄っすらと中の光が見えるようになった。

 その二つの追加を以て、オリヒメ商会のバステトシリーズ第一弾、魔法コンロI型が完成するのだった。



※セリフ体…欧文フォントの分類の1つで明朝体系のフォントの総称。ちなみにゴシック体系はサンセリフ体と言います。

明日からは1話アップ予定。


ついに、夢の1位です・・・

週間&月間もいけるのか、?w

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― 新着の感想 ―
白黒物家電って生活家電に白が多くて娯楽家電に黒が多かったから付けられた名前なので、正確にはコンロは白物家電だと思う
肉球マークの方がバレる心配なくてよかったかなぁ
2~30万程度のブランド腕時計を身に付けているならわかりますが、コレクションではなく、普段使いする腕時計に450万する腕時計を身に付けるようなリーマンは流石に居ないかと。 私のこれまでの常識の範囲で…
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