●第273話●嵐の中で
キリの良い所まで書いたので、少々長め
ドシャァァッ
ミシミシミシ……
「うひぃぃぃっ」
「ちょっとティラミス。あんたいちいち煩いのよ! 気が散るから黙ってて!!」
「そそ、そんな事言われても、怖いもんは怖いっす! ひぃぃ、またっ!?」
本格的な嵐になって一時間ほど。
縦に横に揺れが激しくなった艦橋兼操舵室で、マルセラとティラミスの小競り合いが繰り広げられていた。
眺める勇とレベッキオは苦笑しきりだ。
“微速前進を継続させつつある程度うねりに乗り、大波は斜めに乗り越えて嵐から遠ざかる”という方針を打ち出した後、各員は持ち場に散っていた。
艦長である勇は当然だが、こうした緊急時の操船指示を出すことになっているレベッキオ、操船を託されたマルセラは艦橋居残り組だ。
そして小競り合いの原因の九十九パーセントを占めるティラミスは、操船のバックアップ要員として召喚されていた。
緊張感の続く操船となるため、マルセラ一人では負担が大きすぎる。
やり過ぎる感のあるティラミスだが、こと操船技術に関してはマルセラに勝るとも劣らない。
特にこうしたイレギュラーケースにおける直感的な対応力には目を見張るものがあるための抜擢だ。
そんなティラミスは意外に気が小さいため、マルセラが波を乗り越えて大きな音が響くたび悲鳴を上げていた。
もはや水と言うより硬い何かがぶつかるような音と、船体が軋むような音が衝撃と共に襲ってくるので無理もないだろう。
「船長より各員へ。船長より各員へ。状況の報告を。まずはボトムから」
そんな操舵手二人を横目に、操船指示をレベッキオに任せた勇は、船内各所へ定時確認の指示を出した。
「むぅ、やはり魔石の減りがとんでもなく早くなっとるの」
ガツガツと波がぶつかる音が途絶えない船底エリアで、壁の一角に埋め込まれた魔石の色を見たエトが言う。
「こっちは対衝撃用の魔石かぁ。打ち付けられる波も、やっぱり打撃扱いになるみたいだね」
「そうじゃな。まぁそうじゃなかったら大変な事になっとるがのぅ」
その横で同じく魔石を見ていたヴィレムも、頷きながら口を開く。
瑠璃猫号の船底エリアには、竜骨と呼ばれる船の背骨のような構造体があるところまでは、シャルトリューズ領の船と変わらない。
決定的に異なるのは、船体にふんだんに使われている多くの魔法陣の、起動陣や魔石が集約されている点だ。集中管理したほうが効率が良いためである。
そのため、エトとヴィレムがこのエリアには配されていた。
「ボトムのエトより船長へ。耐衝撃用の魔石が尋常じゃない勢いで減っとるわい」
『あー、やっぱり減っていますか。カッサノさんが波の強さの割に衝撃が全然ないと言ってましたが、しっかり仕事をしてくれているのはありがたいですね』
エトからの報告を受けた勇から返答が返ってくる。伝声管から聞こえてくるその声色は、心なしかホッとしたような雰囲気だ。
瑠璃猫号は船体の強度を上げるため、外装に二つの魔法陣を施している。
ひとつは今しがた話題になった、騎士達の盾にも使われている耐衝撃用の魔法陣。
もう一つは、イノチェンティ辺境伯家の鎧にも使われている、硬度アップの魔法陣だ。
後者については、鎧に類するもの以外への付与では極端にその効果が落ちる謎仕様のため気休め程度。前者がキモだ。
この嵐でもちゃんとそれが働いてくれた事にほっとしたのであろう。
「このまま様子を見て、無くなりそうなやつから順次交換するぞい」
『はい、よろしくお願いします。浸水とかは大丈夫ですか?』
「今んとこ問題無さそうじゃが……、ツィードがおるから代わる。お~い、ツィード!」
勇からの質問に辺りを見回したエトが、一人の男を見つけて声をかけた。
「おう。丁度確認が終わったとこじゃ」
壁や床板を真剣な表情でコンコンと叩いていた男が、首をコキコキとやりながらエトの方へと歩いて来る。
ツィードと呼ばれた男は、それほど身長は高くないが筋肉質で中々にゴツイ。
六十近い年齢だろうが、背筋も伸びておりいかにも職人肌だ。
「イサム様、こちらはツィードですじゃ。多少の漏れはありますが、今の所大丈夫そうですわ。桶で汲んで掻き出しておきますわい」
そしてそのまま伝声管を使って勇へ報告をする。
ツィードは元々クラウフェンダムで長く木工職人をやっていた人族の男で、鍛冶職人でドワーフのザリッドと並ぶエトの親友だ。
魔動車の開発にも最初から関わっており、勇が領主となったタイミングでクラウフェンダムの工房を弟子に譲り、ヴェガロアに新たな工房を構えている。
そして最近始まった船の開発にも関わり、今やマツモト領一の船大工である。
そんな彼の言う通り、大きく揺れて船体が軋むたびに、壁や船底から微かな漏水がある。
船倉よりさらに一段下のこの区画は、船倉のようにウレタンもどきは壁に使われていない。竜骨のある床もしかりだ。
魔物素材である程度の気密処理はしてあるが気休め程度。
そもそも木造の船に多少の漏水はつきものだ。この程度はまだまだ許容範囲と言う事なのだろう。
『ああ、ツィードさん、ありがとうございます。引き続きお願いしますね』
「了解じゃ」
問題無しとの判断を受け、ボトムへの確認は終了した。
カランカランカラン
ガコーン クワンクワンクワン
波の影響による重低音が中心だったボトムとは打って変わって、高い音を中心に騒がしいのが食堂だ。
「くっそう、切りがねぇぜ! っととぉ」
料理長のバルボが、悪態をつきながら転がった食器を拾おうとするが、逆側に揺れたことで体勢を崩しそうになる。
その間に、床に転がっている食器や調理器具も逆側に滑るように転がっていき、バルボが思い切り渋面する。
「うにゃにゃーー!」
「みゃみゃう!」
渋い表情で調理台の脚に掴まるバルボをあざ笑うかのように、可愛い鳴き声が厨房に響く。
声の主はもちろん織姫をはじめとした“にゃんズ”たちだ。
人と比べてバランス感覚が段違いな彼女らにとっては、この程度の揺れや傾きなどどうと言う事は無い。
何なら楽しいアトラクション程度なのだろう。
今も転がっていったカップを追いかけて飛び跳ねた後、ダッシュで厨房から出ていった。
「ったく、ヒメ先生たちは余裕かよ」
猫たちを見送って苦笑するバルボたちが残された厨房では、先程から傾いては何かが落ち、それを拾おうとしては違う方向に傾いてまた別の物が落ちる……というのを繰り返していた。
嵐が来る事を告げられてから落ちないように色々と対策はしたものの、そう上手くはいかなかったのである。
結果スクワットを繰り返すハメになったバルボの太ももは、明日から筋肉痛に悩まされるに違いない。
瑠璃猫号の中で、嵐による影響が最も派手なのは食堂、それもそこにある厨房だろう。
なにしろ食器や調理器具、食材に調味料など、船が大きく揺れた場合に影響が大きいものが勢ぞろいだ。
それでもこの程度で済んでいるのは、元々揺れる前提だったためだ。
まず魔法コンロのおかげで、火の気がないのが大きい。
地球における大航海時代の帆船でも、調理後は竈の火を落としただろうが、火種は残ったりする。
そうしたものを原因とした事故の可能性が極端に低いし、燃えカスや灰が無いためそれらが散らかる事もない。
水も魔法具から出して使うので水瓶の数も少ないし、それも嵐の一報と同時に中身は全て捨てられていた。
真水が何より大切な船だったらそうはいかないだろう。
食器類についても基本は木製で、棚も扉付きだ。
それでも体感で四十五度くらい傾いてしまっては、いかんともしがたい。
「おやっさん、もうまとめて鍋に突っ込んじまったほうが早くないですかい?」
傾き続ける船に顔を青くしながら、バルボと共に厨房を担当する男が言う。
「だなぁ。お上品にやっててもしょうがねぇ。おう、片っ端から突っ込んじまえ! 出す時に仕訳けりゃいいだろ」
「「はい!」」
「食堂から船長へ。色々物が転がっちゃあいるが、まぁ大丈夫でさ。怪我人もいませんぜ。たださすがにまともに飯は作れねぇもんで、夕飯は非常食でさぁ」
『バルボさん、ありがとうございます。嵐が終わったら、御馳走期待してますよ』
「おう、まかせてくだせぇ!」
食器類を片付けながら勇への報告を終えたバルボは、パンパンと手を叩いてから厨房担当に声をかける。
「おっしゃ。とっとと片付けたら暗くなる前に飯の準備だ! 嵐の対応で腹ぁ空かせてるだろうからよ。つってもパンとチーズ、あとはリンゴくれぇか。手ぇ切んなよ!!」
「「はいっ!」」
調理台に掴まりながら元気に返事をした厨房担当者の顔色は、もう青くは無かった。
「うっひゃ~~、いよいよ何も見えなくなってきましたね!!!」
「だねぇ! 海の上ってのは、おっかないもんだね!!」
嵐が吹き荒れる甲板から、半ば叫ぶような二人の声が聞こえてくる。
もっとも言葉の内容自体は穏やかなものなので、叩きつける雨音と吹きつける暴風で言葉が聞き取りづらいのだろう。
「まだ風向きは変わってないから、嵐との位置関係も変わっていないっぽいかな!!」
二人で展開したウィンドウォールで風雨を避けながら、ハーフエルフの騎士ユリシーズが目を細めて雨粒の流れる方向を見定める。
言葉の穏やかさとは裏腹に、その表情は真剣そのものだ。
「ですね!!」
一方で海面に目を光らせながら答えたのは、若手騎士のイーリースだ。
夜目も効き天候にも詳しいユリシーズが天候の見極めを担当し、若手で体力があって何気に目も良いイーリースが、サポートとして付いていた。
「しかし、嵐は場所によって風向きが変わるって話は本当なんですかね!?」
「僕も初めて知ったけど、イサム様も知ってたからねぇ!!」
大声での会話を続ける二人の大きな役割の一つが、風向きの見極めだ。
地球において台風のような嵐は基本的に渦を巻くように風が吹いているため、嵐からどちらにいるかは、風向でおおよそ把握できる、
カッサノからその話を聞いた勇は地球と同じだという前提に立ち、ユリシーズ達に観測をお願いしていたのだ。
ちなみにこの世界は、地球と比べて天候の変動が緩やかだというのが、経験則から導いた勇の結論である。
こちらに来てから二年以上になるが、酷い嵐に遭遇したことは一度も無かったのだ。
そんな世界であるからして、天候に関する科学的な知識はほとんど研究されていない。
現代日本人であれば、嵐の原因は発達した低気圧で、その周りの風が渦巻いていることは小学校で習うため、皆何となくは覚えているが、こちらではそうもいかない。
ユリシーズ達も、カッサノから聞いて初めて知ったのだった。
「甲板のユリシーズから船長へ!! 雨、風共に強くなってますが、風向きは変わらずです!!」
『ユリシーズ、ありがとうございます! あ、魔物はどうですか?』
ユリシーズの報告に、勇から質問が返ってくる。
地上では天候によって出くわしやすい魔物がいるための確認だ。
地球のヒラスズキという魚のように、荒れた海を好む迷惑な魔物がいないとも限らない。
「イーリースです!! 今の所魔物の接近はありません!!」
『イーリースもありがとう! 引き続き魔物が来ない事を祈りつつ、監視をお願いします!!』
勇の問いにはイーリースが答え、二人は引き続き見張りへ戻る。
こうして各員がそれぞれの持ち場で嵐に対応すること三時間。更に風雨が強まり波も一段高くなった頃だった――
ビキィィィィ!
「なんだっ!?」
「うおっ!?」
「ひぃっ! 聞いちゃダメな音がした気がするっす!!」
何十度目か分からない大波を斜めに乗り越え、船首をやや波谷側に落として、うねりの腹を滑るように進もうとした途端、不吉な音が響いた。
勇には、船の真ん中あたりから聞こえてきたように感じられた。
「船長から各い――」
『イサム! コイツは少々マズイぞいっ!!!』
「エトさんっ!?」
急いで勇が報告を求めたのに被せるように、切羽詰まったエトの声が伝声管から飛び込んできた。
『多分じゃが竜骨にヒビが入ったかもしれん!! 梁も怪しい!!』
「ええっ!?」
そしてもたらされた情報は、ティラミスでなくとも聞きたくなくなる報告だった。
「とりあえず見てきます!! レベッキオさん、ティラミス、ここは任せました!」
「おう!」
「はいっす!」
二人に艦橋を託した勇は、大急ぎで船底へと向かった。
「エトさん! 様子はどうですか!?」
「イサムか! やっぱり竜骨に亀裂が入っとる! 梁も三本かなり歪んどるぞ」
「何ですって!? うわぁ、ホントだ……」
大急ぎで駆けつけた勇が目にしたのは、船底にある一際太い木枠である竜骨に入った亀裂だった。一メートルほどの長さだろうか。
ドパン!!
「うお!?」
「ぬぁっ!」
ビキキッ……
様子をよく見ようとした矢先、またうねりを越えたのか船体に波が当たる音が響き、一拍置いて亀裂がさらに広がる音が続いた。
「くそっ、広がっとるぞ!!」
「まだ完全にヒビは入っとりはせんが、こいつぁ時間の問題ですぞ……」
「……それはマズイですね」
素早く状況を確認したツィードの言葉に、勇の血の気が引いていく。
「捻じれか?」
「うむ。まず間違いないだろうの。硬くて粘りのあるゴールドシダーを使ってこれとはの……」
「捻じれには対衝撃用の魔法陣はほとんど無意味ですからね……」
原因は危惧していた船体の“捻じれ”によるものだろうと結論付けられた。
対衝撃用の魔法陣で外壁に対する直接の打撃にはかなり強い瑠璃猫号も、船体が捻じれることによって加わる力にはそこまで強くない。
高級木材であるベロアサイプレスよりさらに倍以上の値が張る最高級品、ゴールドシダーを惜しみなく使った竜骨でさえそうなのだから、嵐による捻じれの力は相当なものだ。
「まだしばらく続きそうだし、急いで補強しないとダメですね」
「そうですな。とは言え添え木をする程度が限界ですが、それにしたって……」
「材木が無いのぅ……」
「あ……」
肝心な補強用の材木など積んでいない事に気付いた三人が固まる。
「にゃっふ」
そんな沈黙を破ったのは織姫だった。
相変わらず船内を駆け回っていたのだろうか。
シュタタっとバラスト用の石やメタルリーチが並べられた船底を、危なげなく飛ぶようにしてこちらへやってくる。
「どうしたんだい姫? ここはちょっと濡れるし、他の所で遊んだほうが……ん??」
「にゃふふん」
勇の心配をよそにメタルリーチのバラストをてしてしと叩く織姫を見た勇が言葉を止める。
「そうかっ! なるほど、さすが姫だ!!」
「うにゃーーん」
「どうしたっ!?」
「何がなるほどなんじゃ!?」
何かに気付いて声を上げた勇が、嬉しそうに織姫を抱き上げる。
エトとツィードは完全に置いてきぼりだ。
「メタルリーチですよ! コイツを出来た隙間に入れつつ、表面も覆ってコーティングしましょう」
「!! なるほど、コイツなら硬さも十分じゃから補強になるか!」
「ええ。完璧ではないですが、やらないよりは大分マシかと」
勇が思いついたのは、メタルリーチによる補強だ。
魔力を流せば柔らかくなる性質を利用して、まずは出来てしまった隙間に流し込んで補強する。
その上で、竜骨全体を厚めにメッキのように覆ってしまう。
魔力を止めれば即座に固まり、その強度はこの世界でも一、二を争う金属だ。当座の凌ぎとしては十分だろう。
「分かった。補強用に削った分、つぎ込む量の魔力を増やして重くすりゃあええんじゃな?」
「はい! エリア分割方式にしていてよかったですよ。こっちから順に削っていくんで、魔力量を増やしてもらっていいですか?」
重量可変バラストにメタルリーチは使われているが、流す土の魔力の量を増やせば重量はまだ増やせる。
その特性を利用して、補強用に削った分魔力を増やして重くする事で辻褄を合わせればいい。
「っととぉ! 話してる間にもダメージが広がりかねませんから、すぐに取り掛かりましょう!」
「任せておけ!」
そんな会話を続ける間にも、容赦なく波は襲い掛かり竜骨にダメージが蓄積していく。
勇とエト、そしてすぐにやってきたヴィレムも加えた三人は、急ぎ作業に取り掛かった。
世界で最もメタルリーチの加工に慣れた三人の手により、瞬く間に竜骨と梁が補強されていく。
ついでとばかりに、外壁に出来ていた隙間も埋めて、突貫での補強作業は完了した。
「ちょっと継ぎ接ぎで見た目がアレですけど、まぁ仕方が無いかな」
「そうじゃな」
「とりあえずだしね。戻ったら強化の方法を考えないとねぇ」
作業を終えた三人は、未だ揺れが治まらない船底で、汗を拭きながらそんな事を言い合う。
「……木材の補強にメタルリーチを使うとか、初めて見ましたぞ」
その隣では、まだ勇たちの非常識さに染まっていないツィードが、飛び切り複雑な表情でぼやいていた。
◇
「はぁぁぁぁ、死ぬかと思いましたよ、ホント……」
「あはは、あの揺れが半日近く続きましたからねぇ」
爽やかな朝日を照り返して輝く甲板では、魔法で水を撒いてデッキブラシで掃除をする船員の姿があった。
その中の一人であるリディルが、まだ青い顔で隣の勇に話しかけている。
「で、波がドバーッて来るたび私がこうジェットをギュイーンってして波を乗り越えて――」
「がっはっは、おめぇの言ってる事は相変わらずよく分かんねぇなぁ、おい」
その近くでは、ティラミスの武勇伝をバルボが笑い飛ばしている。
嵐の間中厨房にいた彼も、気分転換にデッキに上がってきていた。
一緒に上がってきた残り二人の料理人は、リディルと同じように少々顔色が悪い。
他の面々を見渡してみると、おおよそ半数ほどがリディルや料理人たちのように青い顔をしていた。船酔いである。
結構な期間訓練をしていたので、多少うねりがある程度では誰も酔わなくなっていたのだが、流石にあの嵐は堪えたようだ。
もっとも、そんな嵐を乗り切った事で、表情自体は皆明るかった。
前日の午後遅くから巻き込まれた嵐は、日を跨ぐ前には峠を越えた。
その後、南西に取っていた進路を東に変えてから念のためゆっくりと夜通し走り続け、日の出と共に嵐を抜けたことが宣言されると、船からは大歓声が上がった。
まだ多少のうねりが残る中、今は波を被りまくった甲板に塩が出ないよう、総出で水拭きをしている所である。
甲板後部では、観測用の気球の打ち上げ準備が進められていた。
皆でワイワイと言いながらやっていた片づけが終わろうとした頃、気球で観測していたイーリースが血相を変えて勇の元へ走って来た。
「イ、イサム様!! し、島が見えました!!」
「どうしたんです、イーリース? そんな血相を変えて」
どもりながら報告するイーリースに首を傾げる勇。
これまでおよそ十日間の航海で、島はいくつか発見していたのだ。
中には、瑠璃猫号に積んである水上バイクで上陸して軽く調べた島もある。
しかし大きな島は無く、辛うじて一つだけ、手を加えれば中継基地に使えそうな島があった程度である。
そして残念ながら、どの島からも人や文明の痕跡は見当たらなかった。
逆算した予想地点からも距離があったので目的地の島である可能性も限りなく低く、正確な海図の賑やかしになった程度である。
なので、今更島が見つかったくらいでは驚くはずがないのだ。
「う、動いているんです、島が!!!」
しかしイーリースから出てきた言葉は、彼の驚きを肯定するに十分な言葉だった。
週1~2話更新中。
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