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●第256話●……おや!? リーチのようすが……!

(作品テーマ的にも)記念すべき256話!

「マツモト殿、こちらが今週の成果になる」

「ああ、リリーネさん。ありがとうございます」

 小舟に搭載されていた航行ログを解析した翌日、アバルーシの末裔にして現当主のリリーネが、箱を抱えて研究室へやって来た。


 リリーネはマツモト家魔法巨人(ゴーレム)騎士団に所属してはいるが、仕官しているわけではなく傭兵的な位置付けだ。

 なので、正規の騎士とは違い言葉遣い等は以前のままである。


「おお! 今週は二体確保出来たんですか!?」

 テーブルの上に置かれた箱を覗き込んだ勇が声を上げる。

 箱の中には、何とも言えないメタリックな光沢を放つ物体――メタルリーチの素材が二体分入っていた。


「うむ。オリヒメ先生が今週は参加してくれたからな」

「にゃっふん」

 勇の肩から飛び降りて自慢げに胸を張る織姫の喉を、リリーネがこちょこちょと撫でた。


 以前、空を司るという少々俗っぽい女神エオリネオラの神託により、通常のリーチ種がメタルリーチに進化することを掴んだ勇達。

 あれからおよそ半年ほどが経過、調査が進んだことで色々な事が分かってきていた。

 リリーネが持って来た素材も、その成果の一つと言えよう。


 森の奥で見つけたメタルリーチの進化ポイントは、発見した日以降ずっとマツモト家とクラウフェルト家の監視下に置かれている。

 謎の解明と貴重な場所を守るため、そしてメタルリーチを進化直後に狩るためだ。

 平均すると三日に一度くらいのペースでメタルリーチに進化するのだが、ムラが大きく進化する日が読めないため、日替わりの討伐担当が現地入りをしていた。


 主なメンバーは、五名程の騎士と数体の魔法巨人(ゴーレム)による混成部隊だ。

 素材としての優秀さが目立つメタルリーチだが、魔物としての危険度や討伐難易度は非常に高い。

 とてつもない速さと硬さを誇っているため、迂闊に手を出せば手痛い反撃を受けることになる。


 騎士達は、短期決戦用に性能面に全振りした魔法具に身を固めているが、有効打を与えるのは中々難しい。

 攻撃力を高めた魔法巨人(ゴーレム)の武器による攻撃がメインで、騎士達はメタルリーチが逃げないようにしたり、魔法巨人(ゴーレム)が攻撃しやすいようにサポートするのが主な役割となっていた。

 それでも最初の頃は逃げられる事が多く、今でも討伐成功率は二割強といったところだ。


 しかしそこに織姫が加わる事で、成功率は一気に五割ほどに跳ね上がる。

 メタルリーチにも引けを取らないスピードと、難なく切り裂く爪を持つ織姫は、メタルリーチの天敵と言って良いだろう。

 逃げられさえしなければほぼ十割の成功率なのだが、いかんせん広場のような場所での戦いなので、逆方向に逃げられてしまう事もあっての数字だ。


 また、最近すっかり狩りに慣れたアバルーシの猫たちや、そこから生まれた猫たちも、狩りに参加する事があった。

 さすがに織姫程の戦闘能力は持っていないが、中々のスピードとチームワークで、彼らが参加する時の成功率は三割以上になる。


 もっとも織姫を含め猫たちは気まぐれで、気の向いた時にしか参加しないため、均した成功率は三割弱程度だろう。


 今週は二回メタルリーチに進化したのだが、勇がログ解析に没頭して暇を持て余していた織姫が暇つぶしにその両討伐に参加したことで、二体の確保に成功していた。


「これで十五体くらいですかね?」

「そうだな。今日の二体でちょうど十五体だ」

 検品を終えたメタルリーチを、リリーネが研究所の奥にある貴重品倉庫へと収納する。


 半年弱毎日のように張り込んで十五体というと、非常に少ないイメージかもしれない。

 しかし、ギルドに持ち込まれるのが数年に一度レベルである事を考えれば、いかに驚異的な数字であるかが分かるだろう。


 売却すれば相当な金額になるのだが、彼らはそれ以上に素材としての価値を見出しているため、全て自己消費する予定だ。


「メタルリーチと言えば、あちらの研究の方はどうなのだ?」

「研究? ああ、バルバラさんの所ですか。まだ結果は出ていませんが、こればかりは時間がかかりますからねぇ」

「そうか。まぁ上手くいったらとんでもない事になる研究だからな。そう簡単にいかなくて当たり前か……」

「あはは、そうですね。人工的にメタルリーチを生み出せたら、革命的ですよ」

 リリーネの問いに勇が笑って答えた。


 狩りによって少量ながら安定した素材確保をする傍ら、勇達は人工的にメタルリーチを生み出せないかの研究を行っていた。

 リーチとは言え歴とした魔物だ。

 住民に要らぬ混乱をもたらさぬよう、研究施設はヴェガロアの北の森の中にあった。魔動水上バイクの試験を実施したプールの程近くである。


 バルバラは、研究施設の責任者をしている女性で、現役のC級冒険者でもある。三十一歳ながらキャリアは十五年と中々のものだ。

 サブギルドマスターのロッペンも信頼を寄せているし、ヴィレムも何度か遺跡探索の護衛をお願いした事があるという実力者である。

 そんな彼女だったが、少々変わった趣味を持っていた。

 そしてそれを拗らせた結果が、現在のポジションでもあった……。



「さぁ~~て、リーチちゃん。今日の調子もよろしくて~??」

 研究施設内に複数あるケージの中で最も大きいケージの中で、バルバラが猫なで声を出していた。

 その相手は、ケージの中でピョコピョコと跳ねているフォレストリーチだ。


 リーチ類も魔物なので、当然人を襲う事はある。

 しかしそれ程獰猛なわけではなく、腹が満たされていれば自分より大きなものに襲い掛かるようなことはほとんど無い。

 ここにいるリーチも、織姫が捕獲してきて以来たっぷりの餌を毎日与えられているため、大人しいものだった。


「んん~~、今日もプリプリ艶々のお肌が綺麗ですわねぇ~~」

「ぴぎゃ!?」

 そんなリーチにさらに声を掛けていたバルバラが、驚きの行動に出る。

 何とリーチを抱え上げ、あろうことか頬ずりをしはじめたのだ。

 心なしかリーチのあげた鳴き声に、恐怖の色が含まれているような気がした。


 彼女の趣味。それは異常なまでの魔物愛。特にリーチ種に対する偏愛っぷりは際立っていた。


 宿にこっそりリーチを持ち込んで飼っていたことがバレて追い出される事は数知れず。

 ついには全宿が出禁になったため家を借りざるを得なくなったというのだから筋金入りである。


 その分リーチの生態にも詳しく、忌避感など欠片も無い。

 勇がメタルリーチの研究をしたいと話をした際、ヴィレムとロッペンから即答で適任者がいると推薦されて今に至っている。


 ちなみに彼女の出自は、ザバダック辺境伯大領下にある小さな男爵家の次女だ。

 しかし妾の子であったことと、その特異な趣味嗜好から生家では冷遇されていたため、十五歳で半ば追い出される形で家を飛び出し縁を切っている。


 元々、ダンスやお茶といった社交文化には興味が無く、幼い頃から剣術や魔法に力を注いでいた。

 そのおかげで、一年ほどザバダック辺境伯家の兵士として腕を磨き、十六歳で冒険者となった。


 そうした経緯のおかげで、採用に当たって人となりや人間関係に問題が無い事を、ザバダック辺境伯家が保証してくれたのは僥倖だろう。


「はぁぁぁ可愛い。ただでさえ可愛いのに、魔石の効果で艶と張りが段違いですわ」

 そんなバルバラは、そう言いながらなおも頬ずりを続けた後、手元の紙に書き込みをしていった。




 現在この研究所で試しているのは、無属性の魔石を敷き詰めた床の上でリーチを飼う事である。

 進化が行われる場所を調査して導き出された仮説を検証するためのものだ。


 あの場所の地中には、細かい無属性の魔石がびっしり埋め込まれた巨大な板――魔石板と呼称――が埋まっている。

 最初に少しだけ削り取った時には、全ての魔石の魔力がほとんど空だった。


 しかしその後の調査の結果、リーチたちのバトルロイヤル終了後には、魔石に魔力が満ちた状態になっていた。

 そして生き残った一匹が、そこから放出される魔力を全て吸い尽くし再び魔石の魔力は空になるのだ。


 なお、魔石板の魔力は自然に充填されない事、リーチ以外の魔物はあの広場には何の興味も示さない事も分かった。


 そんな調査結果から導き出された仮説が、

 ①魔石板に溜まった魔力は、リーチだけが感知、吸収できる

 ②一定量以上の無属性魔力を吸収した個体がメタルリーチになる

 ③魔石板の至近で魔物が死亡した場合、魔石板が無属性の魔力を吸収する

 以上の三点だ。


 魔石板は、埋まっている本体から切り離した状態では魔力を吸収しないので、替わりに通常の無属性魔石をびっしり敷き詰めている。


 本当にこれでリーチが魔力を吸収するのか半信半疑だったが、三日ほどで魔石の魔力が目に見えて減っている事が判明した。

 そしてその後も続けた結果、おおよそ二週間ほどで、全ての魔石の魔力が枯渇する。


 二メートル四方の床に敷き詰めた魔石の数は、実に中魔石が五百、小魔石が二千五百の三千個。

 相当量の魔力を吸収したはずだが、進化する素振りは無かった。

 その後も二週間ごとに魔石を入れ替えて様子を見続け、はや二ヶ月が経過しようとしていた。


 それにしてもかなりの魔石消費量だ。

 実験だけであれば一過性なので問題は無いのだが、今後継続して同量以上の魔石が必要となると、いかに魔石の産地とは言えコストが無視できなくなる。

 そこで勇が目を付けたのは、例の魔石に魔力を充填する魔法具――“充魔箱”だった。


 遺跡で見つけたこの魔法具は、人の魔力を無属性の魔石に充填する事が出来る。

 しかも人の魔力のほうが魔石の魔力より濃いのか、人の魔力一で魔石の魔力をおよそ二十充填する事が出来ることも分かっていた。


 同じ遺跡で見つかった綺麗にカットされた小魔石であれば、合計で二百五十程注ぎ込めば満タンにすることが可能だ。

 その時に実験して以降ほとんど触っていなかったのであらためて検証をしたところ、もう一つ驚きの事実が判明した。


 勇は今後の事も考えて、割高な中魔石に魔力を充填して、再利用が出来ないかと考えていた。

 幸い充填する魔石のサイズを決める部分の魔法陣は読めるものだったため、中魔石用への改修はすぐに終わる。

 そして実際に魔力を充填する実験を行ったのだが、その時に出た結果が奇妙なものだった。


 勇が半分の魔力を流し込んだ所、中魔石なのにもかかわらず四分の一ほど魔力が充填されてしまったのだ。

 もちろん勇の魔力量が増えた訳ではない。

 勇の魔力は百程度。その半分なので注いだ魔力は五十程だ。大して中魔石の魔力容量は四万~五万程。

 二十倍の倍率を掛けても充填量は一千そこそこ。にもかかわらずその十倍の一万程魔力が充填されたのだ。


 アンネマリーにも手伝ってもらい何度か検証をしたが結果は変わらず。

 もしやと思い、例のカットされたものではない通常の小魔石にあらためて魔力を充填したところ、勇の魔力四分の一で満タンになってしまった。


 それにより導き出されたのは、カットされた魔石だと思っていたものは通常の魔石ではなく、魔力の充填効率が悪い似て非なる物だという結論だ。

 どんな素性のものなのかは不明だが、おそらく人工的に作られた代替品であろうというのが、勇たちの仮説である。


 理由はさておき、結果として通常の魔石であれば、実に人間の魔力の二百倍の効率で魔石に魔力が充填できることが判明した。


 魔法が使えるマツモト家の騎士団員の平均的な魔力は勇と同程度だ。

 そんな彼らに一日何度かに分けて半分ずつ魔力を充填してもらえれば、一人で中魔石一個を満タンに出来る。

 魔法が使える騎士は三十名程いるので、実に一日三十個ほどの中魔石を賄う事が可能だ。

 また、この発見を受けて研究を進めた結果さらなるブレイクスルーが起こるのだが、それはまた別の話である。


 とにもかくにも、こうして魔石コストに関する懸念は随分と解消され、現在へと至っていた。


 一通り愛しのリーチたちを撫でまわした後、各々の様子や変化をつぶさに記録していく。

 ある種リーチパラノイアとも言えるバルバラではあるが、それを除けば非常に優秀な人材なのだ。

 そしてそんな彼女の思いがついに届いたのか、この日の深夜それは起こった。


 自然界でのリーチの進化は決まって深夜に起きるため、バルバラも日を跨ぐ前後二時間は必ずこの研究所にいる。

 いつも通りお茶を飲みながらうっとりと眺めていた所、目の前のリーチの動きに変化がある事に気付く。

 普段からそこまで動くわけではないのだが、まるで呼吸すら止めてしまったように完全に静止してしまったのだ。

 その差は微妙で、おそらく彼女で無ければ気付くことは無かっただろう。


「……これは確実に何かが起きますわね。いそぎマツモト様にご連絡差し上げねばいけませんわ」

 それを見て取った彼女の行動は早かった。

 まずは、研究所の隅にある魔法巨人の書記(ゴーレムライター)を使って緊急連絡を行う。これで勇と騎士団の詰所へ伝わったはずだ。


 続けて檻の脇にある魔法具を起動させる。フォンという起動音の後、檻全体に一瞬淡い黄色の光が走った。

 リーチを飼っている檻は、本当にメタルリーチになった時の事を考えて頑丈な黒鉄で作られているが、念を押すため街の外壁等にも使用している強化の魔法陣も組み込まれているのだ。


 そうこうしている間に、リーチに誰の目にも明らかな変化が起き始める。

 薄っすらと輝きを放ち始めたのだ。


「き、きましたわぁぁぁっ!!!」

 それを見たバルバラが歓喜の声を上げる。頬は上気し、目は潤んでいる。


「にゃふーー」

 そしていつの間にか研究所に来ていた織姫がバルバラの頭の上に飛び乗り、やれやれといった表情で一鳴きした。

久々に新キャラ登場です~


週1~2話更新予定予定。

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― 新着の感想 ―
>人となりや人間関係に問題が無い事 人となりに問題が無い? 犯罪は起こさないとか、強欲でないとか、そういう意味なら、まあ、そうなのかもしれませんが(笑)。
きましたわぁぁぁ!百合じゃなくてメタルリーチw
キリ番回に、やたら癖の強い新キャラ登場ですね。 カットされた無属性魔石だと思われていた物が、人工的な劣化代替品だったというのは、旧文明末期の状況を推測するヒントになりそう。
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