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【マンガ版連載中】異世界は猫と共に ~システムエンジニアは失われた古代の魔法理論を解析し、魔法具界に革命を起こす 【書籍4巻&コミック1巻 2025年9月同時発売!】  作者: ぱげ
第15章:貴族への階段

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●第247話●魔法具男爵?猫男爵?

 その後も、正月三が日をかけて大評定は行われた。

 例年であれば、多くの貴族が話を聞くだけの退屈な三日間を過ごすことになるのだが、今年は違った。


 他国領地とは言え戦争があり、大貴族の裏切りによる粛清と領地再編、さらには新しい貴族家が生まれ、陞爵する者も現れた。

 これからどうしていくのか、短期的な見通しや中長期的な計画について活発に議論が交わされる。

 当然その当事者の一人である勇も、様々な内容を発表し質疑応答を行うことになった。



「は~~~、こんな精神的にも体力的にも疲れたのは久しぶりでしたよ……」

 大評定が終わった三日目の夕方。クラウフェルト家のタウンハウスのリビングで、正装のままの勇が机に突っ伏していた。

「はっはっは、お疲れ様。まぁ今回の主役だからね、イサムは。仕方がないよ」

 それを見たセルファースが、上着をメイドに渡しながら笑う。


「それを言ったら、お義父さんも主役じゃ無いですか。よく平気ですね……」

 机に突っ伏したまま顔を横に向けて、普段通り元気な義理の父を見ながら勇がぼやく。


 陞爵して大貴族となったセルファースは、勇以上の主役だろう。

 実際、自領についての話だけで良い勇に対して、大領全体の話や他の領地との関係など、評定の場での話は多岐に渡っていた。

 にもかかわらず、いつもと変わらない様子のセルファースには驚かされる。


「ふふ、これでも長年貴族家の当主をやっているからね。年の功だよ。はじめてイサムに勝ったような気がするねぇ」

 そんな勇に、セルファースは嬉しそうに目を細めて笑う。


「はーー、さすがですねぇ」

「フフフ、どう? ウチの旦那はイイ男でしょ?」

 二人のやりとりを見ていたニコレットが、自慢げに言う。


「ええ、とんでもなくカッコイイですよ」

「でしょ? あなたも相当なものだけれど、アンネのためにも、もう一段磨きをかけて欲しいわね」

「もちろん。アンネの為に全力で頑張りますよ」

「……」

 そんな会話を交わしながら、まだまだこの人達にはかなわないなぁと思う勇。

 そして勇の力強い宣言に、隣で話を聞いていたアンネマリーが頬を染めるまでが予定調和だった。



 新年四日目。昨年の今日と同じく、王城のテラスに勇の姿があった。

 昨年と違うのは、一緒にいるのがアンネマリーではなくセルファースだという点だ。


 先程までは、今年の貴族家の婚約発表の儀が行われていた。昨年は勇もアンネマリーと共にそちらに出ている。

 例年であれば、テラスでの催しはそれでおしまいなのだが、今年は何十年かぶりにその続きがあった。


「――セルファース・クラウフェルト子爵は、先の動乱における功績により、この度伯爵に陞爵されました!」

「「「「うおぉぉぉぉ~~っ!!!」」」」」

 進行役を務める王国宰相ザイドの紹介に、詰めかけた大観衆から歓声が上がる。

 今は、陞爵、叙爵貴族を発表する式典の真っただ中だ。


「セルファース、此度の働き誠に大義であった。今後は大領主として、自領のみならず王国全体の平和と発展の為に努めてくれ」

「はっ! 身命を賭しまして!!」

 セルファースが、国王と王妃の前で片膝をつきながら決意を口にすると、観衆から大きな拍手が起こる。


「続いて、イサム・マツモト殿」

「はっ」

 名前を呼ばれた勇が一歩前へ出る。

 この日の為に誂えた貴族の正装に身を包んでいる。その胸部分には、織姫と八芒星を意匠化したマツモト家の紋章が誇らしげに輝いていた。


「マツモト殿は、旧クラウフェルト子爵家騎士団の魔法顧問として先の動乱に出陣。少数精鋭を率いて最前線で敵の出鼻を挫き、魔法巨人(ゴーレム)を鹵獲するという大きな戦果を上げられました」

 ザイドが功績を読み上げ、脇に立つ大きな物体の布が取り除かれると、勇が鹵獲してきた第一世代の魔法巨人(ゴーレム)が姿を現す。


「おおおっーー!!」

「あれが魔法巨人(ゴーレム)かっ!?」

「デカいなっ! あんなもんを捕まえたのかっ!?」

 それを見た観衆から驚きの声が飛び交う。


「さらに、オリヒメ商会会長として、対魔法巨人(ゴーレム)用の魔道具の開発、製造と無償提供を行い、王国の勝利に多大な貢献をされました!」

 ザイドの読み上げはなおも続く。

「その大きな功績により、この度男爵位を叙爵されました!」

「「「「「おおぉぉぉぉーーーっ!!」」」」」

 そして再びの大歓声。

 ちなみに魔法巨人の書記(ゴーレムライター)の件は国のトップシークレットとなるため、発表は差し控えられている。


「見事な働きだった、そして何より、そなたの王国を思う心意気を嬉しく思う。今後はこの国を支える貴族として、その力を振るってくれ」

「はっ! わが身に替えましても!!」

 セルファースの隣で片膝をついた勇も、同じように決意を口にする。

 とそれに続いて――


「まぁぁおぅ」

「んにゃっふ」

 王妃の腕に抱かれていたジークベルトがひょいと飛び降り、勇の足下で座っている織姫にスリスリと頭を擦り付けた。

「ふふ、ジークちゃんはオリヒメちゃんが大好きなのね」

 それを見た王妃が嬉しそうに微笑む。


「まぁぅ」

「にゃふ」

 ひとしきりスリスリしたジークベルトはトコトコと戻ってくると、今度は国王の肩へと飛び乗ると、オリヒメもまた勇の肩へと飛び乗る。


「おい、あれってひょっとして……?」

「ああ。オリヒメ様と同じネコじゃねぇか??」

「オリヒメ様だけじゃなかったのか!?」

 そしてそれを見た群衆がざわつき始めた。


 ベネディクトの巧みな布教活動の甲斐あって、今や織姫や猫の認知度は、ここ王都でもかなりのものだ。

 紙芝居や演劇での活躍と、ハイクオリティな出来のご神体も手伝って、日本における某黄色い電気ネズミばりの人気と言っても過言ではない。

 そんな織姫にそっくりな生き物が、王妃や国王と共にいる上、その織姫とも仲睦まじげにしているのを目の当たりにしたのだから無理もないだろう。


 ざわつく様子を見た国王は、勇達だけに分かるようにニヤリと笑うと、観衆に向けて言葉を発した。

「この生き物は、皆も知っているだろう織姫の遠戚に当たる猫だ! マツモト男爵が遺跡探索の折に偶然発見した猫が子を産んでな。我が妻に是非にと、献上してくれたのだ!」

「ふふふ、陛下。献上では無く養子に出していただいたのよ? 皆、この子はジークベルトという男の子よ。よろしくね」

 国王の言葉を王妃が引継ぎ続ける。


「キャー、ジークちゃん可愛いっ!!」

「新しいご神体も出るのかっ!?」

「て言うか今養子っておっしゃらなかったか??」

 観衆がさらにざわめく中、国王の隣でこれまた勇達だけに分かるように王妃がパチリとウィンクしてみせる。

 そんな王妃と国王に、勇とセルファースは互いに顔を見合わせて苦笑するしか無かった。



 国王夫妻によるサプライズ演出があった陞爵&叙爵式典の翌日。

 巡年祭のメインイベントとも言える御前試合が始まった。


 昨年優勝したクラウフェルト家は堂々のトップシードだ。

 また、つい先日お披露目されたばかりのマツモト家は通常ノーシードなのだが、前回優勝メンバーがそのままマツモト家に移っている事もあり、異例のシード枠である。


 両家並びに毎年上位の常連であるエリクセン伯爵家や辺境伯家、フェルカー侯爵家などのシード勢が順調に勝ち上がっていく。

 ブックメーカーである王家の配慮か、クラウフェルト家とマツモト家は決勝までいかないと当たらない山に配されていた。


 クラウフェルト家は、昨年の雪辱に燃えるエリクセン伯爵家と準決勝で激突。今年は僅差でエリクセン家に軍配が上がった。

 昨年に引き続き魔法具で身を固めたクラウフェルト家だったが、その種は昨年にバラしてしまっている。

 初見だった昨年とは違い対策を練られた事と、フェリクスをはじめとする実力者が抜けたことが敗因だろう。

 もっとも、だからといって容易く勝てるようなものではないので、勝ったエリクセン家はさすがの一言だ。


 対するマツモト家は、同じく雪辱に燃えるフェルカー侯爵家と準決勝を戦った。

 こちらも序盤は互角の戦いとなったが、リベンジ達成はならなかった。

 フランボワーズ以外の騎士達の平均がエリクセン家ほどは高くなかったのと、マツモト家の騎士たちがずっと最前線で戦い続けたことで、さらに練度を高めていたことが敗着だろう。


 そして迎えた決勝。

 フェリクスらの所属する家は違えど、昨年と全く同じ面子による対決と言う珍しい戦いとなった。

 リベンジに燃えるエリクセン家の猛攻に防戦一方となったマツモト家だったが、さらにレパートリーを増やしたマニアックな旧魔法が見事に決まり、マツモト家が勝利する結果となった。

 連日エリクセン家の傭兵騎士との合同訓練を行っていた事と、エリクセン家があくまで通常装備にこだわった事も、大きな要因だろう。


 こうして新生マツモト男爵家は、初出場初優勝(事実上の二連覇)を達成、新貴族家として華々しいデビューを飾った。



 さらに翌日。優勝したマツモト家と準優勝のエリクセン家指揮の元、これまた恒例の合同討伐が行われた。

 昨年は巨大なタカアシガニのような遺跡種との激戦があったが、今年は大きなトラブルもなく無事に討伐は終わる。

 注目ポイントとしては、王家に寄贈した第一世代魔法巨人(ゴーレム)が一体、特別枠として参加した事だろうか。


 戦い慣れ&指示慣れしている勇の指揮の元、実戦経験を積ませたいとの国王の要請を受けてのものだ。

 その雄姿を民衆の目に触れさせることも狙いの一つだろう。


 また、勇達は昨年と同じくフェルカー家、シャルトリューズ家と行動を共にしていた。

 単純に慣れているし馬が合うと言うのもあるが、新貴族家として幅広い派閥の家とも交流がある事をアピールする狙いもある。


「おおおおっ!? こ、これを私に!? ほ、本当に良いのか??」

 討伐終了後、王都への帰り道で、シャルトリューズ家の副騎士団長であるパルファンの驚く声が聞こえてきた。


「ええ。昨年約束してましたしね。使ってください」

 笑いながら勇が手渡しているのは、鞘に入った剣だ。

 パルファンは馬に乗り、勇は魔動スクーターに乗って並走している。


「抜いてみても?」

「もちろんです」

「おお、おぉぉぉぉ……」

 スラリと抜いた刀身の溝に刻まれた魔法陣を見て、パルファンが感嘆の溜息を漏らす。


「こちら、基本は土の魔力で刀身を硬くして切れ味を良くする魔剣ですね」

「なるほど。去年お借りした物と同じという事か。……ん? 聞き間違いで無ければ、今基本はと言われたか?」

 勇の説明を聞いていたパルファンが、引っ掛かりを覚えて聞き返す。


「ええ。あまり大きな声では言えないんですがね……」

 そう言って声を潜めながら勇が続ける。


「これ、更に光るんです」

「光る?」

「はい。簡単に言っちゃうと、二属性の魔剣です」

「なるほど……。って、にぞぐっ――」

「わーわーっっ!!」

 あっさり出てきた勇の言葉を聞き流しそうになったパルファンが、その意味に気付いて大声を出しそうになるのを、勇が口を押さえてとどめる。


「っぶはっ!! すまない……。しかし二属性とは本当なのか!?」

 声を押さえながらも驚愕な表情で勇を問い質すパルファン。

「ええ。同時起動は出来ませんし、光るほうはオマケみたいなもんですよ」

 そう笑いながら、勇が手元の魔石で効果の切り替えを実践してみせる。

 この剣は、以前王妃に二属性付与の短剣を献上した際に試作したものの一つを、見栄えよく少々リメイクしたものだ。


「むぅ、本当に二つの属性の効果が付与されているな……。こんなとんでもない物、おいそれともらう訳にはいかぬのだが」

「ああ、大丈夫ですよ。すでに三属性までの同時付与に成功してますし」

「なっ!?」

 更に飛び出してきた驚愕の事実に、絶句するパルファン。


「なので、気軽に使ってくださいね。あっ! エレオノーラさ~ん!!」

「いや、そんな簡単に……」

 固まるパルファンにぐいっと魔剣を押し付けた勇は、王都に戻った後の段取りを相談すべくエレオノーラの元へと走っていってしまった。


「こんなヤバいものをもらったなどと、領主様にも言えぬな……。門外不出の家宝にするか」

 魔剣を胸に抱いたまま、ボソリとパルファンが呟いた。



 その後、恙無く王都へと帰還した勇達は、パレードを行い年始の予定をすべて終える。

 そして翌日、行きと同じザバダック辺境伯らと共に、慌ただしく王都を後にした。


 こうして初の大評定を終えたイサム・マツモト男爵は、名実ともに貴族としての第一歩を歩み始めた。

これにて15章は終了です。

次話より、男爵となった勇の領地運営が本格スタートします!!


週1~2話更新予定予定。

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― 新着の感想 ―
新しい男爵様は猫男爵様で、国王様の養子も同然… うん。覚えた。
バイクと馬… どんなアクロバットな運転なんですかね? >2属性 次は変形できる剣を(やめぃ
馬とバイクで並走しながら、馬上の相手の口を塞ぐ??? 会話できる速度ならそうでもないんだろうけど、恐ろしいことしてんな…
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