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【マンガ版連載中】異世界は猫と共に ~システムエンジニアは失われた古代の魔法理論を解析し、魔法具界に革命を起こす 【書籍4巻&コミック1巻 2025年9月同時発売!】  作者: ぱげ
第15章:貴族への階段

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●第235話●天翔けるものたち

 しばし二人と一匹でまったりした後、勇は小さな箱型の魔法具を手に取った。

 魔法具からは平べったいケーブルが延びており、頭上のバルーンへと繋がっている。


「さあ、名残惜しいけど風が吹かないうちに次の実験をしようか」

「はい!」

「にゃっふ」

 勇の言葉に、アンネマリーと織姫も元気よく応えた。


 勇が取り出した箱には、七個の魔石が埋め込まれていた。その表面に何やら複数の図形が描かれており、その図形の中に魔石は埋め込まれている。

 特徴的なのは箱のやや左側に十字に配置された五つの魔石だ。


 上下左右の魔石はそれぞれの方向を向いた三角形の中に配置され、その中央に起動用と思われる魔石が配されている。そして右側に二つ並んで配置された魔石は、それぞれ丸と四角の中だ。

 現代日本人が見たら、多くがあるものを想像するのではないだろうか。


「これでこの気球を動かすんですよね?」

「うん。気球に小型の繰風球を取り付けてあるから、それで風を吹かせて動かそうと思ってね」

 勇が手にしていたのは、熱気球の操縦装置だった。


 熱気球は、基本的に風まかせでしか飛べない。

 なので、高度を調整する事で異なる方向の風に乗って操縦する事になる。

 そのため気球の操縦には経験が必要だし、必ずしも狙い通りの方向に風が吹いている訳では無いので自由度は低い。


 対して勇たちの試作した気球は、球皮の四方向に小型の繰風球が取り付けられており、十字に配された魔石ボタンに対応する方向に風が吹く。

 そうする事で、好きな方向へと移動する事が出来る。

 これは、繰風球自身が風を生み出すわけではなく、繰風球に向かって風が吹く仕様の魔法具であるため実現できる操作方法だ。


 ちなみに右側の二つ並んだ魔石ボタンは、風の強弱を調整するためのものだ。

 これによりある程度自然の風に逆らって進むことも可能だが、あまり強い風の中では危険なので飛行できない。


 また、操縦装置の見た目は昔のTVゲームのコントローラー風にしてある。

 いや、家庭用のそれと比べると随分と大きいので、ゲームセンターのコントローラーに近いか。


 これは今後様々な魔道具を操作する必要が出てきた際に、同じ装置を使うことを目指してのことだ。

 動かすものによって専用の操縦装置を作るのが、その魔法具単体で見れば一番良いのは間違いない。

 しかし、一人の人間が複数の魔法具を操る事を考えると、そうも言っていられなくなる。


 専用に作られた操縦装置は操作方法も専用なので、魔法具の種類だけ操作方法を覚えなければならない。

 また、操縦装置自体も毎回専用設計となる。


 対してゲームコントローラー型のものを共通で使う事が出来れば、一つの操縦装置の使い方を覚えればよい。

 操縦装置自体も共通で使えるので生産効率も非常に高い。


 操縦する魔法具ごとにそれぞれのボタンの持つ意味が異なるので、ある程度は覚える必要はあるのだが、形状自体が異なるものと比べるとその差は大きいだろう。

 地球においては、何百、何千というゲームが発売され、そのほとんどが同じコントローラーを使って皆問題無く操作していたのだ。

 マウスなどと並び、実績面ではこれ以上無い優秀なインタフェースと言えるだろう。


「うん。今日みたいにほとんど風の無い時ならスムーズに動かせるね」

 上下左右、時には二つのボタンを同時に押して斜め方向に風を吹かせて気球を操る勇。

 車のようなレスポンスは無いが、ある程度自由に進むことが出来ている。


「アンネもやってみるかい?」

 五分ほどコントローラーを操作していた勇が、アンネマリーにコントローラーを渡す。


「は、はい。えーーっと……、こう、ですか?」

 コントローラーを渡されたアンネマリーが、慎重に魔石ボタンを操作する。

 単純な構造とは言え、地球で長年ゲームに慣れ親しんでいた勇と違ってその操作は少々たどたどしい。


「うん、そうそう。これなら大丈夫そうだね」

 それでも十分も操作をすると、慣れてきたのか随分とスムーズになってきた。

 これならこの世界(エーテルシア)でもコントローラー風インタフェースは使えそうだな、と勇が頷いた時だった。


「フーーーーーッ!!!」

 一瞬前までにゃあにゃあ言いながらアンネマリーの操作を手伝っていた織姫が、勇の頭に飛び乗り唸り声を上げる。

 尻尾は倍以上に膨らみ、背中の毛も勢いよく立っていた。

 その目は、日が昇って随分と明るくなった東の上空を見据えている。

「姫っ、どうしっ――」


「ギョルルルゥゥーーーーーーーッ!」


 織姫にかけた勇の言葉が終わらないうちに、耳障りな甲高い鳴き声のようなものが響き渡った。


「なんだっ!?」

「っ!! この声はっ!?」

「ギョルルァァーーーーーーーッ!」

 突然の鳴き声に勇とアンネマリーが驚きの声を上げると、またすぐに鳴き声が聞こえてきた。

 先程よりも声が大きくなっている。


「あの声は、たぶんグリムヴァルチャーですっ!」

「グリムヴァルチャー?」

「はい。大きな鳥型の魔物で、獲物を見つけると急降下で襲ってきます。森の中の開けた場所なんかで襲われる冒険者が後を絶たない、厄介な魔物です」

「鳥型の魔物!?」


「ギョギョルゥーーーーーッ!」

 アンネマリーが説明しているあいだにも、その声は近付いて来る。

 いつのまにか東やや上方から迫る、黒い影が視認できるようになっていた。


「くそっ、今から降ろしたんでは間に合わないか……。仕方がない、アンネ! 魔法で迎え撃とう」

「わ、分かりました!」

 空気を抜けば急降下も可能だが、そんな試験はしていないのでリスクが大きすぎる。

 もちろんいざとなったら否やは無いが、現時点で切るカードではない。


 下で見ているミゼロイ達も、当然異常事態である事には気付いているだろうが、急に手繰り寄せるとバランスを崩す可能性もあるため迂闊なことは出来ない。

 結果、空中戦を行うしかないのだ。


「スピードが速そうだから、こちらも速度重視か……。アンネは突風刃(ブラストエッジ)で。俺が先に石霰(ストーンヘイル)をばら撒くから、その後でっ!」

「はいっ!」

 そう言って二人が呪文の詠唱を始めた頃には、すでにその姿がハッキリ視認できる大きさになっていた。


(デカいなっ……。この前のワイバーンほどじゃないけど、三メートル以上ありそうだ)

 近づいて来る姿を見て、ギリと勇が歯を食いしばる。

 ヴァルチャーの名が表すとおり、その姿は地球のハゲワシやコンドルのように首がやや長い鳥のような姿だった。ハゲワシと違うのは、その首がかなり太い事だろう。

 ギラついた眼でこちらを見据えて突っ込んでくる。


石霰(ストーンヘイル)ッ!!』

 彼我の距離が十メートルほどになったところで、勇の魔法が発動した。

 速度と数重視で放たれた石礫が、広範囲にばら撒かれる。


「ギャギャッル!」

 高速で迫る石礫に驚いたような声を上げたグリムヴァルチャーだったが、身体を翻しながら旋回してやり過ごそうとする。

 数発の石礫がその身体に命中するが、羽根の密度が濃いのか大してダメージにはなっていないようだ。


「ギョルゥゥゥゥゥゥッ!」

 旋回して少し距離を離したグリムヴァルチャーが、方向を修正して再びこちらへ向かって突っ込んでくる。


突風刃(ブラストエッジ)ッ!』

 そこへ今度は、アンネマリーの魔法が放たれた。

「キョキョキョルァァァ!!」

 不可視の刃が高速でグリムヴァルチャーへと向かうが、これもまた宙返りをするような動きで躱されてしまった。


「くそっ、コイツは厄介だぞ……」

「はい。相当速いですね」

 速度重視の魔法を二発とも躱された事で、勇の額にジワリと嫌な汗が滲む。

「キョキョアーーーーーーッ!」

 一回転したグリムヴァルチャーは、その後進路を真上にとった。


「しまった! 直上をとられたっ! アンネ、掴まって!!」

 そしてそのまま上昇した後、一気に反転。急降下してきた。

 慌てて勇が繰風球の風力を最大にし、横にずれて躱そうとするが、相手の動きに対してはあまりにも鈍足だった。

 頂点部分は辛うじて避けたものの、中心から少し外れた側面に、勢いよくグリムヴァルチャーの嘴が直撃した。


 バシュン!!


 その瞬間、気球の表面が光を放つ。

「キョルアッ!!」

 直撃したはずが、ほとんど傷が付いていないことに驚いたような表情をグリムヴァルチャーが見せる。


「表面に魔法陣を描いておいて良かった……」

 当然空にも魔物は出没するので、試作機とは言え念のため球皮の表面には、対物理用の魔法陣を施しておいたのだ。


「ただ、アレは耐衝撃用だからな……。あの攻撃相手では分が悪い」

 対物理用の魔法陣は、衝撃に対して効果を発揮するタイプのものなので、斬撃や刺突に対しての効果はいまひとつである。


 その証拠に、先程のグリムヴァルチャーの攻撃も、完全には殺すことが出来ず表面が薄っすらと削られていた。

 何度か同じところに攻撃を受ければ、すぐに穴が開くだろう。


「ギョルゥゥゥーーーーッ」

「くそっ、また来るのかっ!!」

 それに気付いたのか、グリムヴァルチャーが再び高度を上げた時だった。


「うにゃーっ!!」

 これまで勇の頭の上で威嚇していた織姫が、素早くゴンドラの縁へとジャンプした。

 そしてそのままの勢いで、球皮と繋がっているロープを飛ぶように登っていく。


「姫っ!?」

「えっ? オリヒメちゃん!?」

「うにゃにゃにゃにゃーーーーっ!」

 驚く勇とアンネマリーをよそに、するすると球皮まで辿り着くと、何事も無かったかのように球皮も登っていき、あっという間に頂点部分にまで辿り着いてしまった。


「姫っ、あぶな――」

「キョルゥゥッッ!!」

 勇が叫ぶ間もなく、織姫へ向けてグリムヴァルチャーが突っ込んできた。


「にゃふ」

 キキン!!

「キョッ!?」

 二匹が交錯した瞬間、甲高い金属音のような音が聞こえたかと思うと、グリムヴァルチャーはその軌道を大きく逸らされ、気球の斜め下方へと降下していく。


「にゃっ」

 キン

「にゃっふ」

 キキン

 その後も何度か同じような攻防が繰り広げられる。


 死角となる気球の上で行われているので、勇達には何が起きたのか分からないのだが、織姫のおかげで助かっていることは分かった。

 それと、織姫が短く鳴くたびに、グリムヴァルチャーが気球の下へと降下していくことも……。


「そうか、これは姫がわざと……。よし、アンネ、次にアイツが降りてきた所で俺がどうにかして動きを止めるから、氷槍(アイスランス)で仕留めてくれるかい?」

氷槍(アイスランス)……。そうですね、ある程度の威力がないとダメージを与えられなさそうですからね。分かりました!」

 勇の提案にアンネマリーが頷く。それに頷き返した勇が、呪文の詠唱を始めた。


『我は願う。天上に満ちし(いかづち)が集まりて、紫電の糸となり仇なす者を絡め取らんことを……』


「ギャギャルォォーーー!!」

「にゃふ」

 キン


 勇が呪文を唱え終えて待機していると、同じように織姫の鳴き声が聞こえた。

 最大限に集中して、音のした方向を見やる。

 そして……


紫電投網(サンダーウェブ)!!』

 バチバチィィィッ

「ギャッ!!!!」

 勇が空中に水平展開した白紫に輝く光の網に、降下してきたグリムヴァルチャーが接触、バチバチと青白い火花を飛び散らせながらその動きを止めた。


 紫電投網(サンダーウェブ)は、雷属性の魔法の必要性を感じた勇が、最近覚えた魔法の一つだ。

 例によって新魔法としてはちょっと痺れる程度の威力しかないため、ほとんど使われていない魔法である。


氷槍(アイスランス)ッ!』

「ギャオォォォーー……」

 動きを止めたところへ、アンネマリーの放った一メートルほどの鋭い氷の槍が強襲。翼を撃ち抜かれたグリムヴァルチャーが、錐揉みしながら地面へと自然落下していった。


「ふいぃぃぃ、助かったぁ……」

「はぁぁぁ、どうなるかと思いました」

 グリムヴァルチャーが地面に落ちて騎士達に袋叩きにされているのを見た勇とアンネマリーが、大きく息を吐きながら背中合わせにゴンドラへと座り込んだ。


「にゃふぅ~~」

 そこへ、一仕事終えたような満足した表情で、織姫が戻って来る。

「オリヒメちゃん、助かったわ。まさかあんな所を登れるなんて……」

「姫、ありがとう。でも、もの凄く心配したんだよ……」

「にゃっふん」

 そして、へたり込む二人の頭の上に乗り、これくらいなんでも無いわとばかりに優雅に毛繕いを始めた。


「よし、そろそろ降りよう。これはもうちょっと防衛用の装備を考えないと危険だ」

「そうですね。今日はどうにかなりましたけど、オリヒメちゃんがいなかったらどうなっていた事か……」

 ようやく立ち直った勇が、まずは軽量化の魔法陣の効果を少し弱めようと魔石に手を伸ばす。


「ん? 曇ってき、た、あぁぁ??」

 魔石を弄っていると不意に影が差したので、曇って来たのかと上を見上げた勇が固まった。

 隣ではアンネマリーも同じように空を見上げて固まっている。

「にゃにゃふぅ~~」

 絶句する二人に対して、織姫はゴンドラの縁から上空を見上げて嬉しそうな鳴き声を上げた。


 二人と一匹の視線の先では、翼長三十メートルはあろうかという真っ白な()()()()カラスが、ゆったりと旋回していた。

週1~2話更新予定予定。

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― 新着の感想 ―
操作系、前後左右だけじゃなく、旋回系も欲しいところだけど、風が向かってくるという仕様だと、一方向のみへの吹き出しとかは難しいかな?
白い八咫烏…? という事は神様の御使か、或いはご本尊か?? そりゃ最も新しい神様と、その想い人が自分のとこに来たとなったら、顔見せ位したくなりますよね。
そうかァ… 太陽神はラーじゃなくてアマテラス大御神だったか…
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