●第211話●おかえりなさい
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メラージャを発って八日目の午後、勇達一行はようやくクラウフェンダムへと帰ってきた。
「アンネマリー様~、おかえりなさい!」
「マツモト様ー、お疲れ様です!!」
「オリヒメちゃ~~ん! こっち向いて~~!!」
「キャー! フェリクス様~~っ!!」
「ミゼロイさん、おつかれっス!!」
門を潜ると、一斉に周りが喧騒に包まれた。
昨日、お隣のヤンセン子爵領の領都ヤンセイルに泊まった時にクラウフェンダムに早馬を出していたため、帰還を知った住民たちが詰めかけたのだった。
「うわ、これはまた凄いですね!」
「ふふふ、でも皆さん笑顔で良かったです」
ほとんどの住人が来ているのではないか、というほどの歓迎っぷりに、勇たちは驚きの表情で手を振りながらゆっくりとメインストリートを進んでいく。
たっぷり三十分ほどかけて、ようやく領主の館へと辿り着く。
そこにはセルファースとニコレットの領主夫妻をはじめ、家人が総出で出迎えてくれた。
「おかえり、イサム、アンネ、ユリウス。とにかく無事でよかった」
「おかえりなさい、イサムさん、アンネ、ユリウス、オリヒメちゃん。元気そうでよかったわ」
「「「「「おかえりなさいませ!」」」」」
「お義父さん、お義母さん、ただいま帰りました」
「お父様、お母様、ただいま戻りました」
「父上、母上、ただいま戻りました!」
「にゃっふ」
ひとしきりの挨拶を終えると、勇はくるりと振り返り、一緒に戦って戻ってきたチームオリヒメの面々に相対する。
「皆さん、長い間お疲れ様でした。おかげ様で、誰一人欠けることなくこうして家へ戻って来れました。本当にありがとうございました」
そして礼を述べると、深々と頭を下げた。
「詳しい報告や今後の事については明日以降にしましょう。只今を以て、チームオリヒメの対ズン作戦行動を終了します。まずはゆっくり休んでください」
「「「「「はいっ!」」」」」
そう言って勇が作戦行動の終了を宣言すると、アンネマリーとユリウス、織姫を除くメンバーは、三々五々それぞれの場所へと戻っていった。
「皆にも本当は休んでもらいたいところなのだが、大枠の報告だけはしてもらわないとね」
「いえいえ、大丈夫ですよ。着替えたらすぐに伺います」
残った面々に申し訳なさそうに言うセルファースに勇は笑顔で答える。
各自旅装を解くと、再び館のラウンジへと集まった。
「――なるほど。それでメラージャを守りきれたわけか。それにしても、フェルカー閣下自らが参戦されるとは……」
「ええ、驚きましたよ。参戦されたこともそうですけど、私の能力が有用であると予測した上で権利を譲られたというのは衝撃的でした……」
両者が一通りの説明を終えたところで、話題はサミュエルのことになる。
「わざわざ高額な違約金を支払ってまで、だものね……。まったく恐れ入るわ。それで、そのフェルカー閣下は戻らなかったのよね?」
「はい。そのまま南下して、カポルフィへ向かうと仰ってました」
ニコレットの問いに勇が答える。
「ナザリオさんとルビンダさんは絶対動くだろうから、そちらに加勢すると」
「なるほどね。両辺境伯からの援軍が重要になるとみて、南側のルートを抑えるために動かれたようだね」
勇の答えに、セルファースが大きく頷く。
シュターレン王国の北部には、ザバダック辺境伯家こそあるが、それ以外はヤーデルード公爵家を筆頭とした反王家派閥が大半を占める。
国として援軍を出すことになった時、表立って裏切るようなことは無いにせよ、通常通りの働きをしない事は容易に想像が出来る。
それ故、南側の戦力に最新の情報を伝えつつ、自身も参戦して戦力の底上げも図ろうといったところだろう。
「そういえば、正式な派兵が決定されたようですけど、距離を考えるとかなり早いですね」
帰り道すがら勇たちは、カレンベルク伯爵領に入った辺りで、北側から参戦するビッセリンク伯爵の部隊とすれ違っていた。
寄り親であるマレイン・ビッセリンク伯爵その人はいなかったが、部隊長に話を聞くと、国から全貴族宛に正式にプラッツォへの派兵命令が下ったとのことだったのだ。
「ああ。一週間ほど前に専用の伝馬による通達があったよ。どうやらカポルフィからまた“鷹”が飛んだようだね」
「カポルフィから……。ザンブロッタ商会のですね? それでカポルフィは無事なのでしょうか??」
「現在どうなっているかは分からないが、リリーネ嬢からの報告を受けてバルシャム閣下とイノチェンティ閣下の私兵が何百人かカポルフィに入っていたらしくてね。前回とは違ってすぐに落ちるという事は無さそうだよ」
「なるほど……」
「今回は商会からではなく、正式に両辺境伯閣下の隊長からの報告だからね。国王陛下もすぐに出兵の判断をされたようだよ」
前回はザンブロッタ商会からの報告だったため、ヤーデルード公爵をはじめとした内通貴族によって却下されたが、今回は大丈夫だったらしいことに、勇は胸を撫でおろす。
「そうだったんですね。そう言えば、ウチは派兵しなくて良いんですか?」
「ウチはイサムが前線に出張っている事を内々に陛下にはお伝えしてあるからね」
まだ魔法巨人襲撃の復興があるという事で免除になってるんだよ、とセルファースが説明する。
「で、この後はどうするつもりなんだい?」
「当面は引き籠って新しい魔法具の研究と試作をしようかと。魔法巨人を筆頭に、色々と気になる魔法具を手に入れてますから」
「うん、良いんじゃないかな。私としても行ってほしくなかったからね」
勇の答えを聞いたセルファースが、心底ほっとした表情でそう言う。隣のニコレットも同じ表情で頷いていた。
また前線へ行くと言い出したら意地でも止める様にと、同一派閥当主一同から釘を刺されていたことは言わずにおく。
「ひとまず明日からは、魔法巨人で見つけた魔法陣を研究してみます」
「そうか。何か必要なものがあったら言うんだよ?」
「あはは、ありがとうございます」
「さて、じゃあ今日はここまでにしよう。皆、本当にお疲れ様。ゆっくり休んでね」
「はい、おやすみなさい」
「お父様、お母様、お先に失礼いたします」
「父上、母上、おやすみなさい!」
「にゃっふ」
「ああ、おやすみ」
こうして一通りのすり合わせを終え、勇たちも久しぶりに心からの休息をするのだった。
「エトさん! ちょっとそっちの腕をとってもらっていいですか?」
プラッツォから戻ってきた翌日。
すっかり疲れがとれたのか、生き生きとした勇の声が研究室に響く。
「あん? 腕?? ああ、この岩砂漠の遺跡から持ってきたヤツか?」
声を掛けられたエトは、魔法陣の写しから顔を上げると、壁に立てかけられてあった大きな腕のパーツを指差して答えた。
「そうそう、それです!」
「ちょっと待っとれ。おーい、ミゼロイ! いつまでもオリヒメと遊んどらんと、コイツを運ぶのを手伝え」
「おおっ! さすが先生、素晴らしい動きで――、っとエト殿。腕ですな? 分かりました」
エトが作ったネズミを模した玩具で織姫と遊んでいたミゼロイに声を掛ける。
「よいしょ、っと。この台の上で良いですかな?」
「ああ、ミゼロイさんもありがとうございます。はい、その上に置いて下さい」
勇の指示に、ミゼロイとエトが作業台の上にゴトリと腕を置く。
以前岩砂漠の遺跡にあった武器庫らしきところから持ち帰った魔法巨人のものと思われる腕のパーツだ。
発見時に取り付けられていた、武器と思われるパーツは取り外されている。
ざっくりと調べてはあったが、本格な調査はまだ行っていなかったものだ。
「うん、やっぱりよく似た魔法陣ですね」
操縦訓練に使った、アバルーシの初代にして地球からの迷い人アベルの機体にコメントアウトされていた魔法陣の写しと比べながら、勇が唸る。
「ほう、そうなのか?」
同じように二つを比べながら、エトが尋ねる。
「ええ。ざっと流し見しただけで止まってましたけど、里でこの魔法陣を見た時にこっちの腕の方も思い出したんです」
「なるほど。じゃが、前にざっくり調べた時には、読めこそするがこれ単体では動かないとか何とか言っとらんかった?」
「ええ、そうですね。ただ、アベルさんの機体に書かれてたのと似てるなら、同じくアベルさんの操縦席に残されていた昔の操作方法の魔法陣、アレと組み合わせられないかなと思いまして」
「アベル氏の操縦席に残されてたものと言うと、動きを真似するための魔法陣だったっけ?」
ちょうど外から研究室に入ってきたヴィレムが、勇の話に反応する。
「ああヴィレムさん。そうです、それです」
「じゃあ良いタイミングだったね。丁度今、そのアベル氏の操縦席を中庭まで運んできた所だよ」
はっはっはと笑いながらヴィレムが窓の外を指差す。
「おお、ありがとうございます!! それじゃあ両方を本格的に調べてみましょう。上手くいけば、ちょっと面白いものが作れそうです」
「面白いもの?」
「ええ。前にも少しお話ししましたけど、遠距離で情報のやり取りが出来るようになる魔法具です」
ヴィレムの問いに、勇がニヤリと笑みを浮かべた。
新章開始です!
モリモリ魔法具作る所存。
週1~2話更新予定予定。
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