●第210話●お家へ帰ろう
翌日。
ズヴァールが言っていたとおり、朝早くにザバダック家の魔動車部隊がメラージャに到着した。
先行してメラージャ入りしていたズヴァールと合流を果たし、小休止をとりながら出発準備を進めていく。
「ふむ、これが雷剣か。剣としてのバランスは普通よの」
出発準備をしている横では、エレオノーラが勇から受け取った剣を真剣な表情で吟味していた。
「そうですね。魔石が付いている程度で、剣自体にはほとんど手は入れていませんから」
エレオノーラの感想に対して勇が答える。その表情はかなり眠そうだ。
今日にも出発すると聞いた勇たちは、出来るだけの事をしようと徹夜で作業を行っていた。
エレオノーラに渡した雷剣もその一つで、彼女が普段使っているバスタードソードに近い剣を騎士団長のエステバンに見繕ってもらい、そこに魔法陣を刻んだものだ。
ちなみにエレオノーラの名前はプラッツォにも轟いており、エステバンが剣の候補をエレオノーラに試してもらうときにガチガチに緊張していたのが印象的であった。
「相手の関節部分に突き入れることが出来れば、かなりのダメージを与えられるはずです。ただ懐に潜り込むことになるので、十分注意してくださいね……」
「かっかっか、心配してくれるとは有り難い話よな。ガスコインの口からは、心配のしの字も出て来んよ」
「どう考えても、大将がやられる絵は想像できんので……」
軽口を叩くエレオノーラに、ガスコインが渋面する。彼もエレオノーラと一緒に前線へ殴り込むそうである。
「こいつが雷玉・改か。普通のより威力が高い上、何回も使えるとは……」
「うむ。ただ、なるべく遠くへなげるんじゃぞ?近くにおると、敵味方関係無く雷撃を食らうぞい」
ザバダック騎士団の小隊長ディカートは、エトから雷玉・改の使い方を教わっていた。
エレオノーラがこちらへ来る際、ルビンダから貰ってきたものに少々手を入れたものだ。
「ああ、そうそう。正確には雷玉・改二式、じゃ。陸地で運用する事を考えて、範囲を狭めた替わりに威力を上げとるからの」
そう言ってエトがニヤリと笑う。
水上や船上で魔物に対して運用する場合は、ほとんど障害物の影響を受けないため飛距離が稼げるのだが、陸地での対人戦となると中々そうはいかない。
そのため、なるべく味方が誤爆しにくいようにと、雷撃の有効範囲を狭くしている。
また、魔法で作られた雷撃であるにもかかわらず、水中と比べて空気中では威力が減少するようなので、有効範囲とは逆に威力は少々高めてあった。
「ズヴァール様から魔法具を作れるとは聞いていたが……。目の当たりにするととんでもないな」
エトの説明を聞いたディカートの頬は、少々引きつり気味だった。
「なんや、十体も魔法巨人を貸してくれるんか?」
「おうおう、これは何とも心強いものよな」
「はい。ホントはもう少し参戦させたいんですが、この街にも念のため残しておきたいですし、我々も持ち帰って研究しつつ防衛戦力としたいので……」
エレオノーラが雷剣の確認を終えると、今度はズヴァールも交えて話を始めた。
昨夜から突貫で修理をしたことで、稼働できる第二世代がさらに二体増えて合計二十体となっており、その半分、十体を従軍させようというのだ。
リリーネ達アバルーシの一行とバルシャム辺境伯とズヴァールの所の操縦者二名ずつが乗り込む想定である。
「十分やな。そもそも、ほとんどが勇たちの力で手に入れたようなもんやから、全部持ってってもおかしくない」
「うむ。で、あっちのデカブツ、第一世代だったか? あっちはどうするよ?」
ズヴァールの言葉に頷きながらエレオノーラが第一世代の後ろで駐機している、第一世代を指差した。
「こっちも戦利品として何体かは持ち帰ります。あと、二体ほどは国王陛下へ献上します」
「ほう、国王にか……」
「ええ。第二世代は渡しませんけど、こちらは心証を良くするためにも数体なら献上しても良いかなぁ、と」
「かっかっか、心証のためとはいえ、これまた剛毅よな」
「正直こっちは、手元に置くと危ういんですよ。無属性魔石でしか動かない、しかも大食らい。そんなのを無属性魔石の産地が大量に保持してたとしたらどうでしょうか?」
「……なるほどな」
「なので、害意が無いことを示すためにも献上します。で、残る数体も前線に投入してもらいます」
第一世代の扱いについて、苦笑しながら勇が説明をする。
またどこぞの公爵あたりに難癖をつけられないためにも、自分たちで開発した物ではない過剰戦力は手元に置いておきたくないのだ。
多少の修理で動くもの含めて八体が稼働可能な状況だが、勇は二体持ち帰るのにとどめる。
完動品一体と、現時点では動かないもの二体は王家に献上。残りの動く五体はしばらくここメラージャで操縦訓練をした後、前線へ投入するつもりだ。
その他まだ回収しきれていない動かない機体についても、回収後はメラージャに保管しておく。
「で、それに関して一つお願いなんですが……」
手持ちの第一世代について話し終えた勇が、あらためてズヴァール達に向き直る。
「前線にいるズンの第一世代ですが、出来るだけ壊していただけないでしょうか? 鹵獲できたとしても、あえて壊していただきたいんです」
「ほう……」
「……おおよそ見当は付くが、理由を聞いても良いかの?」
「これが稼働状態で多数残ってしまうと、戦力的なバランスが傾きすぎます。この時代にあってはならない戦力なんですよ、コイツは……」
「確かにな。しかし何やらサミュエルのような物言いやな」
「あはは、確かにサミュエルさんに感化されたのかもしれませんね。それともう一つ」
「もう一つ?」
「これを動かすためには魔石が大量に必要になるじゃないですか? そんなものに大事な魔石を使わせたくないんですよね」
「かっかっか! 戦争の概念を変えるような魔法具を“そんなもの”とな? うむうむ、実にイサムらしくて良いの」
勇のあんまりな物言いにエレオノーラが大笑いする。
「しかもですよ? 動かせるようにしろとか色々言われるに決まってるじゃないですか? 研究したいものが山ほどあるのに、そんな事に時間を割きたく無いんですよねぇ」
「くっくっく、なるほどな。分かった。そういうことやったら、見つけ次第派手に壊してやろう。 ナザリオ達にも言っておくわい」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「ふふ、なに。イサムが新たに魔法具を開発してくれたら、我々の派閥はその恩恵にあずかれるんや。いい事しかないわ」
頭を下げる勇に、ズヴァールも大笑いしながらそう言った。
さらに在庫の爆裂玉や散魔玉、数は少ないが魔弾砲に射槍砲と雷短槍も、前線部隊と拠点防衛用に分配する。
また、無属性の魔石についても、領地へ帰るまでに戦闘があった場合に必要そうな分だけを残して、すべて提供した。
そして出立準備を終えると、出発する者たちと見送る者たちが門の前へと集まった。
「これだけ土産を貰ったら、手ぶらで帰って来るわけにはいかんな」
「かっかっか、至れり尽くせりよな。後の事はわっちらに任せて、イサムは領地でゆっくりしておればよい」
「うむ。我々がまいた種でもあるからな、キッチリとけじめは付けてくる」
勇は、ズヴァール、エレオノーラ、そしてリリーネと順に握手を交わしていく。
「では皆さん、よろしくお願いいたします」
「ああ」
「任された」
「うむ」
こうして別れの挨拶をすると、魔動車と魔法巨人の一団は、一路西へ向かって走り去っていった。
3日後、サミュエルが言っていたとおり、今度はフェルカー家、カレンベルク家、ザバダック家からなる増援の本隊がメラージャへと到着する。
イサム達は、ズヴァールらは魔法巨人と共に先行している事。サミュエルが南へ向かった事を伝え、さらにこの三日で増産した魔法具を託す。
翌朝。連日の訓練でどうにか動かせるようになった第一世代五体と共に出発する本隊を見送った勇たちも、クラウフェンダムへ向かうための最終確認を行う。
魔法巨人がプラッツォに攻め込んだという衝撃の一報から約二ヶ月。
アバルーシの長であるリリーネと出会い戦う事を決めてから約一ヶ月。
ついに勇たちも、クラウフェンダムへの帰途へと就く。
「さあ、家へ、クラウフェンダムに帰りましょう」
「「「「「はい!」」」」」
怒涛のように過ぎ去った日々を、それぞれの胸に思い返しながら。
これにて第十二章は完結となります。
次話からは、ようやく一仕事終えた勇の「モノ作り欲」が、再び爆発する予定です!w
並行して、アレな貴族たちのその後も・・・・・・





