●第205話●第一世代の実力
バサバサっと派手に藪を揺らしながら、三体の第一世代が街道へと飛び出した。
その内二体が、隊商の進行方向に立ち塞がり、一体は後方へと回り込む。
勇たち第二世代も少し遅れて街道へ出ると、ドレクスラーの機体は後ろへ回り、マルセラは森側で待機、勇は正面を押さえた第一世代の後ろを通って逆側へと移動する素振りを見せる。
「護衛を先に倒すぞ!」
第二世代の動きを確認しながら、正面の第一世代から声が飛んだ。
すると、腰から長剣を引き抜いた正面のもう一体が、フランボワーズへと斬りかかっていく。
(第二世代より少し速いくらいか……? フランボワーズさん、頼みましたよ!)
横目で動きを確認しながら勇が呟いた。
『風壁!』
第一世代が斬りかかってきたのを見て、フランボワーズが正面に淡く緑色に揺らぐ空気の壁を即座に展開する。
「なにっ!?」
進行方向に突如魔法の壁が現れた事に、第一世代から驚きの声が上がる。
完全に奇襲に成功したと思っていたのに、完璧なタイミングで壁魔法を使われたのだから無理もない。
やや傾けて展開された薄緑の壁は、地上二メートルほどの位置から現出している事もあり、高さは第一世代の頭を少し超えている。
横幅も五メートル近くあるため、飛び越えることも回避する事も出来そうにない。
操縦者はそう判断し急制動をかけるが、重量のある魔法巨人がそう簡単に止まれるわけもなく、少し減速した程度で魔法の壁へと突っ込んだ。
バキィィン!
咄嗟にクロスさせた両腕が魔法の壁にまともにぶつかり、乾いた音があたりへ響き、魔法巨人の装甲の一部が飛び散った。
(やはり対魔法装甲が使われているか……)
移動しながら様子を見ていた勇の目が、装甲の表面に一瞬魔力光が走ったのを捉える。
(多分対物理装甲も使われているはずだから、風壁にしてもらって正解だったな)
第二世代の外装にも両方の魔法装甲が使われているので、第一世代にも使われていると踏んでいた勇は、壁魔法を使うなら最初は風壁にして欲しいとお願いしていたのだ。
相手が生き物だった場合、解除してもそこに残り続ける岩石壁を使う事が多い。
しかし対物理装甲が相手となると、その衝撃はかなり無効化されてしまう可能性が高い。
風壁であれば物理扱いにはならないし、対魔法装甲も風魔法については効果が弱いため、有効であると踏んだのだ。
はたして勇の予想は的中。
少々対魔法装甲で減衰されたが、風壁なら相手の外装に効果があることが証明された。
(よし、これで先ず一つ情報を掴んだぞ)
勇が内心ガッツポーズをする。
『風壁!』
そして今度は、隊商後方にも街道の幅いっぱいに空気の壁が展開される。
こちら側の壁は、先程のフランボワーズが作り出したものより長さも高さも一枚上手だ。
さすが王国一の魔法使いと言われるサミュエルである。
「ちっ、面倒な! 挟み込むぞ! お前はここで待機だ」
それを見て、指示を出していた第一世代が対象右側へと回り込む。
かわりに“お前”こと勇の魔法巨人は、正面に残り足止め要員となる。
『『『爆炎弾!』』』
『『『岩拳!』』』
第一世代がポジション取りをする中、他の護衛からも立て続けに魔法が飛んでくる。
ドドンッ!
ガガガガッ!
「うおっ!?」
「またかっ!」
間合いを詰めようとしていた二体の第一世代から共に驚きの声が上がる。
魔法がある世界とは言え、まともに魔法が使える人間は多くない。
選りすぐりの騎士ならまだしも、隊商の護衛に付いている冒険者が次々と魔法を撃ってくるのは想定外だった。
(まともに魔法を食らってるけど、今の所大きなダメージは無さそうだ。やっぱり炎系は効かないし、土系は物理扱いか)
魔法が命中するたびに発生する魔力光を勇がじっと見つめる。
ただの冒険者に見せかけてはいるが、放っているのはフェルカー家の魔法騎士だ。
一流の魔法騎士が放った魔法の直撃を受けて驚いているだけで済むのは、流石第一世代と言ったところだろう。
『『水球!』』
直撃を受けながらも前へ出てくる第一世代に対して、別の騎士達から今度は大きな水の塊が飛んでいく。
かざした盾に当たり、ばしゃあという音と共に激しく水飛沫が飛び散り、それにより一瞬第一世代の視界が遮られ足が止まる。
その隙を突いて、水球を放った護衛の後ろから二騎の護衛が第一世代に斬りかかった。
ギィィン!
膝の横を斬りつけた一撃は、鈍い音を響かせ装甲の表面に薄っすら傷を付けるにとどまる。
(普通のフェリス1型では、あの程度か……)
騎士達には、切れ味を良くする魔法陣を付与した魔剣もどきであるフェリス1型を渡してある。
斬撃に対しては対物理装甲はあまり効果が高くないので、元々の素材も硬いのか、バージョンアップした対物理の魔法陣が描かれているのだろう。
第一世代もすぐに反撃、振り払うように剣で横薙ぎにするが、騎士達は腕だけで振られた一撃を潜り抜けるようにして躱した。
何気なく躱しているように見えるが、六メートルの巨人が振るう大きな剣に対して冷静に対処できる技量は、多くの実戦と訓練の賜物であろう。
攻撃を躱した騎士達は、手綱を緩めることなく正面と左に分かれて突っ込んでいく。
左にはマルセラが、正面には勇が駆る第二世代が待ち構えている。
『『岩拳!』』
それぞれに向かっていった騎士達は、躊躇なく魔法を放った。
ゴゴゴン、と大きな石礫が外装に当たり表面に魔力光が走る。
(魔法巨人に乗って魔法を受けるとこういう感じになるのか。対物理装甲があると分かっていても、怖いもんは怖いなぁ……)
片手で頭部を守りながら、魔法巨人に乗って初めて受ける魔法攻撃の感触を確かめる。
その後、手にした槍を使って騎士に打ちかかる第二世代と、第二世代の攻撃を躱しながら魔法や剣で反撃する騎士達という状況が展開される。
それを見ていた第一世代が声をあげる。
「よし、“もどき”どもはそいつらを足止めしておけ! 思ったよりやるようだから、俺たちは先に馬車を押さえるぞ!!」
「「おう!」」
簡単に倒せると思った護衛が思いのほか手強かったため、将軍たちの一番の目的である戦利品の確保を優先させることにしたのだ。
致命傷になるような攻撃を受けることはなさそうだし、欲しいのは金品なので、無理して先に護衛を倒すこともない。
今度は、後ろ側で足止めに回っていた第一世代も加わり、馬車の確保へと動き出した。
「ふむ、そうきたか」
動きを見たサミュエルが小さく嘆息した後、すぐに指示を出す。
「フランボワーズ、風壁を展開後、雷力弾。前の奴にそうだな……三割だ」
「はっ!」
「残りのものは属性をバラけさせて目晦ましをしつつ御者を回収せよ」
「「「「了解っ!」」」」
『『風壁!』』
指示を出し終えると、サミュエルとフランボワーズが即座に風壁を前後に展開する。
先程よりは高さを押さえているが、範囲が広い。
『氷槍』
『岩拳』
『水錐』
それに合わせるように、色々な属性の魔法で弾幕が張られた。
「ちっ、忌々しい!」
真っすぐ馬車へと向かえなくなった、正面の第一世代が毒づく。
『雷力弾!!』
そこへフランボワーズの魔法が炸裂した。
バチバチバチィッッ!!
「ぐぅっ!?」
雷力弾の直撃を受け、操縦者からくぐもった声が漏れる。
「ほぅ、フランボワーズの三割でも倒れぬか。大したものだな」
それを見たサミュエルが感嘆の声を漏らす。
少々ダメージを受けたようだが、相手の第一世代はまだ立っている。
三割というのは込める魔力量の事で、最大魔力の三割を込めたという事だ。
魔力は一度に五割以上を使うと一時的に魔力切れの症状が出るし、合計で五割以上消費しても倦怠感が出る。
ゆえに魔法使いは、余程の事がない限り野戦においては常に五割以上魔力を残すように戦うものなのだ。
それをふまえると、一撃で三割の魔力量というのはかなり上限に近い威力と言ってよい。
ましてや王国でもトップクラスに魔力の多いフランボワーズである。
それを受けてなお倒せないのだから、サミュエルが驚くのも無理はない。
「では、これでどうだ? 二割くれてやろう……。『連鎖雷撃』」
再び紫電が迸り正面の第一世代を捉えた。
バチバチィィィィッッ!!
『ぐぁぁぁっ!!!』
あたりが一瞬真夏の真昼間のように明るくなったかと思うと、魔法を受けた第一世代から叫び声が上がる。
そして二、三歩よろよろと歩いたかと思ったら、その場でガクリと膝をつき動かなくなった。
「なにぃっ!? 雷の魔法は効かないんじゃなかったのか!?」
それを目の当たりにした、前方から突っ込んできていたもう一体の第一世代が驚く。
「これでようやくと言ったところか……。まともにやり合うのは割に合わんな」
動きを止めた第一世代を見て、サミュエルが呟く。
「よし、御者は確保出来たな。正面の穴から脱出するぞ! 馬車は捨て置け!」
「「「はっ!」」」
そして騎士達が馬車にいた御者を馬の背に乗せたのを見て、撤退を告げる。
「ちっ! “もどき”ども! 逃がすなよっ!!」
後方から走ってきている第一世代が声を張り上げるが、前方にいるマルセラと勇はそれぞれ数騎の騎士を相手に互角の戦いを繰り広げており、到底足止めをする余裕などない。
『『岩石壁!』』
『『岩拳!』』
サミュエル達は勇とマルセラの第二世代にも魔法をバラ撒き、戦っていた騎士達の逃走を手助けする。
そしてついには、勇達の横をすり抜けて街道を南へと走り去っていった。
(ふぅ、どうにか無事にやり過ごせたか。いざとなれば戦闘に介入しようと思ったけど、流石はサミュエルさんたちだ)
鮮やかに駆け抜けていったサミュエルたちを見て、勇がホッと胸を撫でおろした。
ズン軍の状態を聞いていた勇たちは、金になりそうな隊商が近くを通りがかったら十中八九襲う事を選択するだろうと睨み、一芝居打っていたのだ。
もちろん第一世代の戦闘能力を確認するためである。
あの軍師が決定権を持っていたら危うかったが、のってこなかった場合の手も考えてはあった。
それでも単純な方法に引っかかってくれたことに安堵する。
「くそっ!!」
走り去っていく一団を見て後方の第一世代が毒づく。。
「何なんだ、あいつらは。どう考えても普通の冒険者なんかじゃねぇぞ?」
なおも毒づきながら、馬車の荷を検め始める。
積荷は食料品に水、天幕と思しき布や木の柱、そして鎧や剣といった武器類だった。
「おいおいおい、なんだよコイツぁ。武器商人だったのか? あ? どうした?」
出てきた荷物を見て首を傾げる第一世代の腰のあたりを、ドレクスラーの魔法巨人が軽くたたく。
気付いた第一世代が目をやると、ドレクスラーの魔法巨人が残されていた馬車の側面を指差していた。
「だから何なん……。ちっ、“もどき”は喋れないんだったな。欠陥品がよっ!!」
忌々しそうに吐き捨てながらも指差された場所を見る。
側面には薄い板が貼られていたようで、それが剝がれて来ていたのだ。
「あん? どうなってんだ? おい、ちょっとコイツを剥がしてみろ」
第一世代の指はかなり太く出来ており、細かい作業には向かない。
指示を受けたドレクスラーの第二世代が、剥がれかけていた板を剥がしていくと、下からは綺麗に塗られた塗装が現れた。
次々に板を剥がして確認した全容に、指示を出した男が絶句する。
どう見ても一介の商人が使うような馬車では無かったのだ。
「これは貴族の馬車だろ……。どこかで見た事がある紋章だが……」
もう一体の第一世代に乗った男が、馬車に書かれている紋章を見てしばし考える。
「!! 思い出した! コイツは隣のシュターレン王国のフェルカー侯爵家の紋章だ!」
フェルカー侯爵領はプラッツォとの国境にある領なので、砦に旗があったから覚えていたようだ。
「しかしなんだって偽装して……。いや、まずはとにかく将軍様へ報告だ。おい、“もどき”! お前たち、こっちの声は聞こえてるんだろ?」
男の質問に、ドレクスラーの魔法巨人が首肯する。
「じゃあお前からこの事を伝えてくれ。操縦席は向こうにあるから、いけるんだろ?」
再びの首肯。
「はっ、こういう時は“もどき”でも役に立つもんなんだな。さて、小隊長は大丈夫かね」
そう皮肉を言いながら、二体の第一世代は先程サミュエルの魔法を食らって動かなくなった一体へと足を向ける。
その傍らでは勇の機体が駐機姿勢を取り、状況報告のため魔力パスの接続を解除した。
週1~2話更新予定予定。
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