●第204話●ズンの軍師と将軍
間が空いてすみません。
落ち着いたので更新再開します!
森の中、名も無き小さな泉が湧いているまわりを切り開いたと思しき小広場に、巨人たちが集結していた。
「合流ご苦労だった、リリーネ殿。首尾は如何か?」
「ああ、ヤリスコフ殿か。わざわざ出迎えありがとう。こちらは特に問題は無い」
操縦席から出てきたリリーネを、ヤリスコフと呼ばれた男が出迎える。
年齢は三十過ぎといったところか。肩まで届く長髪を後ろで束ねている。ズンの鎧に身を包んでいるところを見るに、ズンの軍人の一人だろう。
胸と肩にそこそこ豪華な階級章のようなものが見えるので、若いながら士官クラスと思われる。
「それは重畳。ところで、少々魔法巨人の数が少ないようだが……?」
小さく頷いたヤリスコフは、リリーネの後ろに居並ぶ魔法巨人を見て訝しむ。
「3体は街道中心に引き続き斥候任務にあたっている。加えて10体ほど、メラージャの街の近くに潜ませている。我々の機体はそちらと違って操縦席を運ばねばならんからな。攻撃場所が決まっているなら、近くで待機していた方が魔石の節約にもなるのだ」
「……なるほど」
「フン、“もどき”は色々と面倒だな」
リリーネが説明をしていると、横合いから声が割り込んできた。
「……将軍。ああ、リリーネ殿は初見だな。こちら、本作戦の総大将を務めていらっしゃるイゴール・ゴルビン将軍だ」
「これは将軍閣下。お初にお目にかかります」
ヤリスコフの説明を聞いてリリーネが最敬礼をする。
イゴールは筋肉質の大柄な男で、所々金色の金属で補強・装飾された鎧を着こんでいた。
ズンは共和制国家なので貴族は存在しない。
しかし、いわゆる軍事政権による独裁政治なので、軍の上層部が特権階級として君臨していた。
イゴールもそんな特権階級と呼べる者の一人で、第一世代の魔法巨人を発掘して出世した者の部下を長く務めていたため、つい最近将軍に引き上げてもらったのだ。
将軍と言う階級は数千人の軍団を率いるポジションだが、新参者であるイゴールは遊撃作戦の総大将として送り込まれていた。
「我々の魔法巨人と違って“もどき”は制約が多い。精々足を引っ張ってくれるなよ?」
「はっ。肝に命じておきます」
フンと不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、イゴールは供を引き連れて天幕の方へと戻っていった。
イゴールの言う“もどき”とは、アバルーシの第二世代魔法巨人の事を指す。
自分たちが保有する魔法巨人が第一世代で、性能も高い事を知った軍上層部が、蔑称として使い始めたらしい。
「……すまんな」
「お疲れなのだろう。それに第一世代が高性能なのは事実だからな」
「それは運用次第だ。第一世代は燃費が悪すぎる」
「ふっ、気休めはいらんよ。で、作戦の開始タイミングは?」
「気休めではないのだがな……。まぁいい。こちらは騎兵の多くが夕方の到着予定だ。街攻めに多数の騎兵は不要だが、騎兵が合流し陽が落ちるのを待って夜襲をかける」
ヤリスコフの回答にリリーネが広場を見渡してみる。
確か200騎ほどが参戦すると言う話であったが、現在見えるのは精々30騎程度か。
魔法巨人による強襲作戦なので、騎兵は補助的な戦力という事なのだろう。
どちらかというと街を落とした後の占領、哨戒・防衛用戦力の色が強い。
ちなみに意外と知られていないが、馬は夜行性では無いものの高い暗視能力を備えているので、騎兵は夜襲にも使うことも可能である。
「了解した。では我々も、それまでは交代で哨戒しつつ休ませてもらおう」
「ああ、そうしてくれ」
会話を終えたリリーネは、踵を返すと勇達が待つアバルーシ側の待機スペースへと足を向けた。
「お疲れ様でした。あの長髪の人が?」
戻ってきたリリーネに、勇が声を掛ける。
「ああ。前総帥の秘蔵っ子、軍師ヤリスコフだ」
「軍師、ですか……」
「嘘か真か、今回の一連の騒動もヤリスコフが描いたらしい。その功績が認められて、あの若さで大隊長だ」
大隊長はズンの階級では将軍の二つ下で、現代地球の階級で言えば中佐に相当するくらいだろうか。
昇進できるのは四十代以上がほとんどだと言うから、確かにかなりのエリートだ。
「彼だけは他とはレベルが違うからな。要注意だ」
「……分かりました。もう一人偉そうな人がいましたが??」
「うむ。将軍らしいな。ヤツが総大将らしい。我々を下に見ているし、あの感じだとヤリスコフとの関係も良好とは言えなさそうだ」
「そうですか……。まぁ、付け入る隙がありそうなのは良かったですけどね」
「ふふ、全くだ。国の体制が違っても、こういう所は同じなのだな」
先程のヤリスコフとイゴールのやり取りを思い出しながら、リリーネが苦笑する。
リリーネに対しては女性だからかその身体を遠慮なく見ていたが、ヤリスコフとは目を合わせることすらせず去っていったので、良く思っていないのは間違いないだろう。
「まぁ、やる事が大きく変わる訳では無いからな。我々もしばし休憩しよう。さすがに少々疲れた」
リリーネの言葉通り昨夜からほぼ動きっぱなしだった一行は、こうしてしばしの休息を取るのだった。
「報告します! メラージャ方面より南下してくる馬車の一団を発見! 護衛付きの隊商と思われます!」
メラージャ攻めを前に休憩を取っていたズン・アバルーシ混合部隊の元へ、斥候からの報告が飛び込んできたのは、正午を大分過ぎた頃だった。
「数は?」
「大型の馬車が三台。小型の馬車が二台。馬に乗った冒険者と思しき護衛が十五名程です!」
一報を聞いたヤリスコフの問いに、斥候が答える。
「ガットゥーゾ商会のものではないのだな? そこそこの規模……、護衛の数も多い。カポルフィへ向かう隊商か?」
ふむと小さくヤリスコフが頷く。
ここしばらくは、野盗に扮したズンの者や残っている魔物の集団による襲撃はやや散発的となっている。
ある程度の護衛能力があれば、町を行き来しての商売は“美味しい”商売と言える。
現に、ズンと内通しているガットゥーゾ商会などは、襲われない事を利用して荒稼ぎしていた。
「いかがいたしましょうか?」
「作戦開始タイミングと被る可能性はあるが……」
南下してきているとの事なので、夕方に出陣予定のこちらと街道沿いで遭遇する可能性もあるが、確率は低いだろう。
「下手に手を出して何かあっても面倒――」
「何を迷っておるのだ。その程度の数、三体も魔法巨人を出せばあっという間であろう?」
ヤリスコフのそれ以上の思考は、品の無い大きな声によって妨げられた。
「おい! すぐに魔法巨人三体と“もどき”三体を向かわせろ!」
そして迷わず出撃命令を出してしまう。
「イゴール将軍! いきなり指示を出されては……」
慌てたヤリスコフが止めに入る。
「なにか文句があるのか? 全軍の指揮権は俺にある。つべこべ言わず魔法巨人を出せ」
「しかし、やり過ごせる可能性が高いのですよ? であれば無駄な――」
「黙れっ! こんな僻地までわざわざ来ているのだぞ? 小遣いくらい稼がずにやっていられるか! いいから出せ。これは命令だ!」
なおも食い下がるヤリスコフに、イゴールの怒号が飛ぶ。
封建制度ではないズンでは、街を落とした所でその街がもらえるわけではない。
しかし、戦場で獲得した戦利品は、人質になりそうなもの以外は自分の懐に入れられる。
ズンの高官や軍人は、給料が少ない代わりにこうした行為が黙認されており、イゴールがそれを求めるのもある種当然だろう。
そしてヤリスコフは、自らも軍人である以上、上官の命令は絶対だ。
「……分かりました。すぐに出しましょう」
「フン、最初からそうしていればいいのだ」
イゴールは渋々承服するヤリスコフに毒づくと、ドスドスと足を踏み鳴らして天幕へと戻っていった。
「……やり取りは聞いていたな? そちらからも三体ほど出してくれ」
「了解した」
騒ぎを見ていたリリーネに、苦笑しながらヤリスコフが指示を出す。
「イーサ、ドレクスラー、マルセラ、いけるな?」
「「「了解」」」
それを受けてリリーネが三名に指示を出す。
ちなみにイーサは、勇が初めてグレッグと会った時に使っていた偽名だ。
迷い人である勇の名前は隣国にも広まっている可能性があるため、念のためである。
「よし、織姫いよいよだ。頼んだよ?」
「にゃっふ」
操縦席に向かいながら、肩に飛び乗ってきた織姫に勇が声を掛けた。
「さてさて、第一世代とやらの性能を見せてもらうとしますか」
勇はそう独り言ちると、魔法巨人を起動させた。
ズン側でも、三体の魔法巨人に人が乗り込んでいくのが、魔法巨人の目を通して勇の目に飛び込んでくる。
(なるほど、ああやって乗り込むのか……)
第一世代の背面が大きく上下に開いており、その中へ操縦者が入っていく。
座席のようなものは無く、筒状になった部分へ腕や足を入れていき、最後に半球状になった部分に頭部を入れると背面のハッチが閉まっていった。
(確かアレはマスタースレーブ方式だったかな? 魔力パスは第二世代のオリジナル技術だから付いていないってリリーネさんも言ってたし)
以前リリーネやグレッグから聞いた、第一世代の操作方法について勇が思いを巡らす。
そうこうしているうちに、関節部分や頭部から無色の魔力が漂って来るのを勇の目が捉えた。
(流石にすごい魔力量だな……。まだ在庫があるのか、魔石もデカいのを使ってたし)
第二世代の1.5倍。六メートルほどある第一世代が、危なげなく起動し立ち上がる。
左右に顔を振り、小さく両手を数回握ったり開いたりした後、声が響いた。
「よし、出るぞ! “もどき”共、遅れるなよ!」
(!! そうか、第一世代は拡声機能が付いていて喋れるのか!? これは是非とも導入したい技術だぞ……)
第二世代の大きな欠点の一つが喋れない事だ。“もどき”と馬鹿にされる理由の一つでもある。
勇が密かな野望をたぎらせていると、三体の第一世代が街道方面へ向けて動き出した。
勇達第二世代もその後を付いていく。
ある程度木を切りはらっているとは言え平坦な道では無いので、移動速度自体は変わらない。
むしろ背が低い分第二世代の方が歩みはスムーズなくらいだ。
一時間ほど森の中を進むと街道が見えてきた。
「よし、ここからは街道を見ながら北上する」
第一世代からの指示に従い、街道を右手に見ながら森の中を北上する事三十分ほど。前方から走って来る馬車と騎馬が見えた。
先程指示を出した第一世代から“止まれ”のハンドサインが出る。
ごく基本的なハンドサインを、アバルーシからズンの操縦者へレクチャーしたとの事だ。
(よし。姫、頼んだよ?)
(にゃっ)
飛び出すタイミングを窺い息を潜める中、勇が織姫にお願いをする。
(にゃーーおーーーん!)
一拍おいて、魔力パスを繋いだまま織姫が長鳴きをした。
それから数秒後、遠くから微かに猫の長鳴きが聞こえたような気がしたところで、隊商の先頭を行く騎馬に乗った人物がその懐を覗き込んだ気がした。
その後、後ろに続く騎馬へと振り返り何事か合図をしている。
(よし。これでフランボワーズさんとサミュエルさんに伝わったはずだ)
(にゃっ)
勇の言葉に、織姫が短く鳴く。
しばらく様子を見ていると、隊商の先頭を行くフランボワーズとその後ろを行くサミュエルから、薄っすらと緑色の魔力が立ち昇るのを勇の目が捉えた。
その直後、先の第一世代からの“突入”のハンドサインが送られ、第一世代達が街道へと突っ込んでいく。
それを追うように勇達第二世代も飛び出していった。
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