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●第199話●決戦前夜

少し間が空いてしまいました。すみません。

 グレッグが早速魔法巨人(ゴーレム)の修理に取り掛かると、エトとヴィレムもそれに参加する。

 勇はその様子を横目で見送ると、リリーネに話しかけた。

「ズンの遊撃部隊との合流予定は明日でしたよね?」

「ああ。潜伏場所でも確認したが、予定変更の連絡は入っていなかった」

「そうなると当初の予定通り、鹵獲した魔法巨人(ゴーレム)で味方の振りをして奇襲する作戦になりますかね」

「それが無難だろうな。稼働している数が減っているから、そこは誤魔化す必要があるが……」

 リリーネが駐機姿勢で並んでいる魔法巨人(ゴーレム)を眺めながらそう零す。


 先の戦闘でどうしても稼働不能にさせるしかなかった機体がでてしまったのもあるが、何よりこちらの操縦者の数が足りていない。

 元々三十体ほどの魔法巨人(ゴーレム)がフル稼働していたのだが、現時点ではリリーネの協力者として動いていた操縦者二名を加えても、十五体を稼働させるのが手いっぱいだ。

「リリーネさん、今回ズン側に付いた人たちって、全員が積極的にズン側に付いたんですか?」

「いや、全員ではないな。長老衆が決めたことだから仕方なく従った者もいる。まぁ精々二割と言ったところだが」

 勇の問いに自嘲気味に笑いながらリリーネが答える。

「その中から何人か、こちらに引き入れませんか?」

「なにっ!? 渋々とはいえ裏切った者である事には変わりないのだぞ?」

 勇の提案に目を見開くリリーネ。

「確かにそうなんですが、背に腹は代えられないと言うか……。ただし、猫をパートナーにしている人に限定してください」

「キャトを?」

「ええ。万一何かあった場合でも、猫をパートナーにしているなら織姫の力を借りてある程度抑えることが出来ますからね」

「なぁ~う」

 勇の回答に、肩にのった織姫が片目を開けて短く一鳴きする。

「……分かった。確かにオリヒメがいればキャトを介して止めることも出来よう。では早速何人か――」

「にゃお~~~ん!」

 納得したリリーネがメンバーを選定しようとしたところ、被せるように織姫がもう一鳴きした。


「ニャー」

「ミュー」

「ナー」

 すると、ひとかたまりで寛いで皆を癒していた猫たちの中から、三匹がこちらへと歩いてきた。

「にゃにゃっふ」

 それを見た織姫が、テシテシと勇の頭を叩く。

「ん? この子達がいいのかい?」

「にゃっふ」

 勇の問いに、そうだと言わんばかりに織姫が短く鳴く。

「リリーネさん、この子達のパートナーの人が誰だか分りますか?」

「あ、ああ、もちろんだが……。すごいな、何れも選定しようとしていた候補者たちのキャトだ」

「リリーネさんが選ぼうとしていた人達で、さらに織姫のお墨付きなら大丈夫そうですね」

「ではあらためて声を掛けてこよう」

 驚きながらもリリーネが大きく頷く。

「それと、残った者はどうするのだ?」

「それに関しては任せてもらえないかな?」

 リリーネの問いに答えたのは、勇ではなくその後ろにいた人物だった。


「あ、サミュエルさん。もう起き上がって大丈夫なんですか?」

「ああ。しばらく眠ったら、だいぶ魔力も回復した。フフ、何十年ぶりだろうか、魔力切れで倒れたのは」

 そう笑いながら答えたサミュエルは、多少疲れた表情は見せながらもしっかりと自分の足でこちらへ歩いてきた。

 心配そうにすぐ横を歩くフランボワーズは、少々残念そうな表情だ。

 撤退時に魔力を使い切って倒れたサミュエルを、ずっと膝枕をして介抱していた時のフランボワーズの嬉しそうな表情を思い出して、勇とリリーネが思わず苦笑する。

「任せる、というのはいったい?」

「間もなく街道沿いに、我が領から小隊が二個ほど到着するはずだ。アバルーシの者たちは、こちらで一時預かろう」

「え? 小隊がですか?」

「ああ。フェルッカを出る時に手配をしたからな。隊商に偽装して半日遅れくらいの距離を保っていたはずだ。魔動車の足に付いて来るのに、夜通し行軍していたかもしれんがな」

 驚いて聞き返す勇に、当然のことのように言ってのけるサミュエル。

 何かあってもある程度対応できるような戦力を、後方に控えさせていたという事なのだろう。

 いや、むしろ当主が無茶をしたらいつでも回収できるようなお目付けの部隊なのかもしれないが……。


「引き渡したり尋問などはせず、単に拘束だけしておけばよいのであろう?」

「ええ。そうしていただけると非常にありがたいです」

「分かった。そのように伝えよう」

 裏切ったとは言え、魔法巨人(ゴーレム)や勇と同じ地球人の迷い人を知っている者たちなのだ。

 切り捨てるのは簡単だが、有益な情報や技術を持っている可能性も高いので、セルファースや派閥の貴族たちと話し合いをして処遇を決めたいところである。

 それに……


「ああ、ヤーデルード閣下の手の者が口封じをしてくる可能性があるが、後れを取るような者はおらぬから安心してくれ」

 サミュエルが言う通り、事情を知ったヤーデルード公爵らが証拠隠滅を図る可能性があるが、フェルカー家の優秀な騎士達に守られているのであれば、この上なく安全だろう。

「ありがとうございます。助かります」

 勇はサミュエルに深く頭を下げると共に、お礼の言葉を口にした。

 こうして捕虜となったアバルーシの者たちに対するひとまずの処遇を決めた勇は、フェリクスやローレルらに声を掛けてあらためて翌日の作戦を煮詰めにかかった。


「どうにか戦えるだけの魔法巨人(ゴーレム)は手に入れましたが、正面からやり合える程の戦力ではないですね」

「そうですね。魔法巨人(ゴーレム)の数だけ見れば、相手の二十体に対してこちらは十八体でほぼ互角ではありますが……」

 勇の確認に、フェリクスが言葉を濁す。

 相手の二十体は第一世代と呼ばれる大型の魔法巨人(ゴーレム)ばかりだ。

 操縦者が乗り込むタイプで人への負担が大きく魔石の消費も激しい代わりに、性能面ではアバルーシの第二世代に勝る。

 数が互角でも戦力的には互角以下と見たほうが良いだろう。


「それに騎馬が二百くらいいるって話だろ? その数は流石に厳しいだろうな」

「うむ。統率がとれた軍の騎馬は、速度もあるし中々手強い。隊列を組んで攻め込まれた場合、私とフランボワーズでそれぞれ二、三十人は魔法の先制攻撃で潰せるかもしれないが、残りの半分以上は抜けてくるだろう。戦いにおいて数は力だ」

 ローレルの言葉にサミュエルも頷く。

「虚を突いて魔法巨人(ゴーレム)を出来るだけ無力化しつつ、罠を仕掛けてそこへ上手く誘い込むしか無いですね……」

「少数で多数に勝とうとする場合、どうしてもそうなりますね。今回も味方のフリが出来るので、イニシアチブがこちらにあるだけありがたいですよ」

 いつも通りですね、と苦笑しながら言うフェリクスに、小さく肩をすくめながら勇が答える。


「では、何処にどんな罠を仕掛けるか、具体的に――」

「イサム様! 斥候に出ているマルセラから、急ぎ耳に入れたい事があるそうです!」

 方向性が決まり、話を先に進めようと勇が口を開いた所へ、リディルがマルセラと共に走ってきた。

 一時間ほどのローテーションで、数騎の魔法巨人(ゴーレム)を付近の斥候に出している。

 何かあった時に、機体を隠せる場所があるならこうしてすぐに報告できるのは、遠隔操作式の大きな強みの一つだろう。

「どうしましたか?」

「街道に、武装した一団を発見したんですが……」

「私の所の隊商ではないのですか?」

「はい。隊商に偽装したフェルカー家の一団の少し後方に、さらに別の一団を発見しました。それが、どうみても魔動車の車列なんです」

「え!? 魔動車ですか!?」

 マルセラの報告に勇が目を丸くする。


「はい、間違いありません。三台の魔動車を確認しています。紋章など所属を識別できるものが何も描かれていないので、接触して良いものかどうか急ぎ確認したくて……」

「魔動車は少なくとも我々の派閥以外には出回っていないはずですから、味方と考えて良いでしょうね。すぐに接触してください。あーー、魔法巨人(ゴーレム)は聞こえるけど喋れないので、それを伝える紙をクラウフェルト家の紋章と一緒に持っていってください」

「分かりました! イーリースに持ってこさせます!」

 返答を受けたマルセラは、すぐにイーリースに声を掛けると再び操縦席に乗り込む。

 イーリースの操縦する魔法巨人(ゴーレム)の到着を待って、車列へと接触する事になるだろう。

「うーーん、喋れないと言うのはやっぱりちょっと困るなぁ。文字が書けるほどの精密な動きは出来ないし……。ハンドサインにも限界があるから、何か方法を考えるかぁ」

 一方の勇は、魔法巨人(ゴーレム)によるコミュニケーション方法について思いを巡らせ始めてしまい、織姫に突っ込まれるまで自分の世界に入り込んでしまうのだった。


「車列はザバダック辺境伯家の所属でした。魔力パスの測定後、いつでも送り出せるよう準備をしていたそうです」

 一時間ほどで戻ってきたマルセラが、そう報告する。

「初めまして。ザバダック家騎士団で、中隊長を務めるディカートです」

 マルセラと共にやってきた男性騎士が、敵対派閥の重鎮であるフェルカー侯爵本人が一緒にいることに目を丸くしつつ自己紹介する。

 街道から勇達がいる森の中までは魔動車で入ることは出来ないので、一台だけマルセラが抱えて運んできたそうだ。

 残りの二台は、イーリースの魔法巨人(ゴーレム)を護衛につけて、街道から少しだけ入った森の中へ移動させている。

 ディカートの説明によれば、魔力パス測定の魔法具による測定結果が高く戦闘経験も豊富な者五名と、その護衛五名を中心に、魔動車に乗れるだけの十五名で先遣隊としてやってきたらしい。

 勇たちが北側からプラッツォ入りする事はバルシャム辺境伯には伝えてあるので、ザバダック辺境伯にも急ぎ伝えられたのだろう。

 それを聞いて、ようやく同一派閥に販売を始めたばかりの魔動車を駆ってほぼ不眠不休でやって来たそうだ。


「最初はズヴァール閣下が、儂も行くと言って聞かずに大変だったのですが……。奥様の雷が落ちたことで、ようやく諦めてくださいました」

 一通りの説明を行った後に、ディカートがげんなりした表情でそう付け加えた。

「あははーー」

 勇の口から乾いた笑いが漏れる。ディカートの表情からすると、毎度のことなのだろう。

 どうして辺境伯方は、皆揃いも揃って最前線へ出たがるのか。騎士たちの苦労を思って心中でねぎらいの言葉をかける。

 ちなみにズヴァールの魔力パス値は5で、ルビンダが4だった事を聞いて勝ち誇っていたらしい。


「操縦者候補の方に来ていただけたのは助かりました。さすがに明日いきなり実戦は無理ですけど、今から練習を始めてもらえれば近いうちに実戦に出られると思います」

 目下機体の数より操縦者の方が少ないのが悩みの一つだったので、ディカートたちの合流は渡りに船である。

 訓練に使える機体の数も多いので、勇たちより訓練効率も良いだろう。

 修理の合間に見てもらえるよう、勇はグレッグとサラにお願いをしておく。

 そしてもう一つ、ディカートより朗報がもたらされた。


「え? ザバダック辺境伯軍が参戦されるんですか?」

「はい。北のヴァレロ王国との国境の守りと、ヤーデルード公爵への牽制も必要なので全軍ではありませんが、三分の一程度が進軍しております」

 プラッツォ内でズンと一戦交える可能性が高いと踏んだザバダック辺境伯が、参戦を決めたらしい。

 ただ、一度は救援依頼を受けてバルシャム辺境伯が派兵したものの、その後すぐに撤退されてしまったため現在は派兵命令までは出ていない。

 なので、国境を共同で固める、と言う体裁でプラッツォとの北側国境に詰めているとの事だ。

 そしてプラッツォとの北側の国境という事は……


「ふむ。ウチのトポルスクあたりに駐留しているという事か。となると、ブルーノの軍も一緒だな?」

「は、はい! ズヴァール閣下が直接ブルーノ・カレンベルク閣下に持ち掛けられたと聞いております!」

「ほぅ、さすがは戦上手のザバダック辺境伯閣下だ、そつがない。おそらくブルーノの要請を受けて、ウチの兵も何割かが共に駐留しているだろう」

 サミュエルの読みだと、騎士が三百、兵士が二千五百。合計三千弱の兵力が北側の国境にいるはずだと言う。

「おそらく南側の国境にも、バルシャム閣下とイノチェンティ閣下が同規模以上の兵力を集めているだろう。そしてエリクセン女伯が両方に精鋭を派遣しているに違いない」

「と言う事は、その兵力と協力すれば、だいぶ戦術の幅が広がりますね」

「ああ。明日の戦闘までは我々だけでやる必要があるが、それを凌げば舞台はもっと大きなものになるだろう」

「ですね。明日は明日で、ディカートさん達の魔動車とサミュエルさんの所の小隊も組み込めるようになったので、それをふまえてあらためて作戦を詰めましょうか」

「了解だ」

 こうして少々増強された現有戦力と、ようやく見えた頼りになる後詰部隊の存在を元に翌日の作戦の詳細をあらためて詰めると、各自がその準備のため一斉に動き出した。


 勇は、まずトラップ用にいくつかの魔法具を作った後、エトらと共に魔法巨人(ゴーレム)のマイナーチェンジに着手しようとしていた。

 素材が無いので武装を強化するようなことは出来ないのだが、一つ戦力の底上げが出来そうなアイデアがあったので、それを試すつもりだ。

「ほぅ、オーバードライブモードに手を入れるわけか」

「ええ。この軽量化の魔法陣は運良く読めますからね、上手くいけば性能を向上させられるはずです」

 エトの問いに、ニヤリと笑いながら勇が答えた。

書籍1巻が校了しました!

引き続きコミカライズの調整と、書籍2巻に向けた作業が動き出します。


週2~3話更新予定予定。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 悪巧みが!?
[気になる点] にゃんこ部隊、あちこちで大活躍ですね……織姫のパートナーもいつか見つかるのでしょうか [一言] コミカライズも含めて、書籍化お疲れ様です 書籍になると3kで心が折れる方もいらっしゃる…
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