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●第196話●強奪作戦開始

「眩しっ……!」

「うっ」

「ぐっ!?」

 目の前で炸裂した眩い閃光に目をやられて、アバルーシの者たちが口々に呻き声をあげる。

 操縦席から降り、談笑しながら昼食を摂っていたところへの不意打ちだっただけに、効果は抜群だ。

 閃光弾(フラッシュボム)側に顔が向いていた、休憩中のおよそ半数の人間の視力を一時的に奪う事に成功している。

 リリーネが昼頃の時間を指定したのは、交代で確実に昼休憩を取るこのタイミングを狙うためだった。


「リリーネさんを護衛しながら、まず手前側の三機を抑えてください!」

 勇のいた魔動車から真っ先に飛び出したイーリースが、もう一台の魔動車から出てきたフェリクス達に駆け寄り声を掛けた。

「「了解っ!」」

 フェリクスとローレルが短く返事をし、リリーネの元へと駆けながらティラミスへと指示を出す。

「ティラミス、グレッグさんを守りながら付いてこい!」

「はいっす!」

「リリーネさん、あの操縦席を抑えるので、初期化してください!」

 リリーネと合流したフェリクスが、三台並んでいる操縦席を指差す。

「了解だ!」

 頷いたリリーネが、フェリクスらと一団となって操縦席の方へと突っ込んでいった。


 フェリクスらの一団は、進路上にいる相手にだけ雷剣を振るいながら最短距離を突き進む。

 バチッ!

「ぐあっ!!」

「うぐっ!」

 運悪く進路上にいたアバルーシの者から叫び声が聞こえ、一拍おいてドサリと地面に倒れ込んでいった。

「なんだっ!?」

「何がっ?」

 目をやられた者たちは、その音と尋常ではない場の雰囲気を察して薄目を開けて必死に状況を確認しようとしている。

 そして逆を向いていたり下を向いていて目潰しから逃れた者たちが、ようやく思考停止状態から徐々に我に返ると、急速に状況を把握し始めた。

「て、敵襲だーーっ!!!」

「捕らえた奴らが脱走したぞっ!!」

 そして現場は、一気に蜂の巣をつついたような大混乱に陥った。


「気付かれましたね」

「さすがにここまで動けばな。まぁ、すでに何名かは行動不能に出来たようだからな、ここまでは重畳だろう」

 やや後方から戦況を見守る勇が、同じく後方に控えるサミュエルに話しかける。

 フランボワーズとゲーブルがその前後を固めていた。

「手前側のヤツを奪うまでは、魔法で援護をお願いします。その後は、おそらく向こうの魔法巨人(ゴーレム)も出てくると思うので、足止めに回ってください」

「よかろう。……本当は魔法巨人(ゴーレム)でひと暴れしたいのだがな、それは次に取っておくとしよう」

 少々不本意そうに鼻を鳴らすサミュエルを見て、勇が顔を引きつらせた。


「よし! では順に解除していくから、登録していってくれ!」

「承知しましたぞ!」

 すぐに一番近い操縦席に辿り着いたリリーネが、早速魔法パスの初期化に取り掛かる。

「お嬢、何やって!? ……まさかっ!!」

 少し離れたところにいたアバルーシの者たちが数名おっとり刀で駆け付け、操縦席に入っていくリリーネを見てようやく状況を把握し始める。

「裏切ったのかっ!!」

「くそっ! お嬢が裏切ったぞ!!」

「気を付けろ! 魔力パターンを初期化されるぞ!!」

 そしてその状況の悪さに声を荒らげた。


「裏切りなどと良くも言えたものですね……。自己顕示欲に駆られて侵略戦争に加担するなど、どちらが裏切りものでしょうか?」

 リリーネを裏切り者呼ばわりしながら詰めかけてくるアバルーシの者を見据えて、フェリクスが静かに言い放つ。

「なっ!? お前らに何が分かる? 知った風な口を利くんじゃねぇ!!」

 痛いところを突かれたのか、アバルーシの者が激高する。

 しかし、迂闊に突っ込んでも騎士には敵わないと分かっているため、武器を構えたまま距離はとったままだ。

「よし、こいつは初期化完了だ。誰が乗る?」

 一瞬の睨み合いがされている間に初期化を終えたリリーネが、操縦席から顔を出す。

「まずはグレッグさんが操縦してください! 騎士は生身でもある程度戦えますので!」

「フォフォフォ、了解しましたぞ」

 そう言ってリリーネと入れ替わるようにグレッグが操縦席へと入っていった。


 それを横目で見ながらリリーネは二つ目の操縦席へと入っていく。

「次はイーリース! 最後にティラミスだ! いいか、ティラミス。味方もいることを忘れるなよっ!?」

「了解!」

「もちろんっす!」

 すかさずとんだフェリクスからの指示に答えながら、両者も操縦席へと向かっていく。

 そして三分ほどで、三つの操縦席の魔法パス再登録が完了、近くで駐機姿勢を取っていた三体の魔法巨人(ゴーレム)がゆっくりと立ち上がった。


「なにぃぃっ!? 魔法巨人(ゴーレム)を動かしただとっ!?」

 その様子を見たアバルーシの者たちが驚愕の声を上げる。

 これまで長年にわたり秘匿してきたのだから、驚くのも無理はない。

「くそっ、操縦席を守れ!」

「こっちもすぐ起動させろっ!!」

 生身で三体の魔法巨人(ゴーレム)を相手にする訳にもいかず、下がりながら残っている操縦席の守りを固めていく。

 そしてその傍らで、アバルーシ側の魔法巨人(ゴーレム)が立ち上がる。その数は4。

「来るぞっ! マルセラとメンフィオ殿は前へ! グレッグ殿たちは一度下がってください! 印を付けます!!」

 相手の魔法巨人(ゴーレム)が起動したのを見て、フェリクスも指揮を出しながら操縦席付近へと下がった。


 指示に従い、今しがた起動した三体の魔法巨人(ゴーレム)が下がっていき、入れ替わるように魔動車の脇に控えていた二体が前線へと出てきた。

「しゃがんでください! 印をつけます!」

 下がってきた機体に勇が声を掛けながら、ゲーブルとともに傍へと駆け寄る。

 その手には、半球状の金属光沢を放つ物が握られていた。大きさはソフトボールを半分に切った程度だろうか。

 機体がしゃがむと、勇はその平たくなっている頭頂部に金属の半球を置いて魔力を込めた。

「よし、これでくっ付いた!」

 数秒押さえつけるようにしながら魔力を込めた勇がそう叫ぶ。

 彼が言ったように、半球状の金属が魔法巨人(ゴーレム)の頭頂部に固定されていた。


「起動させます!」

 勇はそう言うと、半球から少し顔を覗かせていた無属性の魔石に手を触れた。

 フォン、という起動音が鳴ると、取り付けた半球が色を変えた。

「起動確認! 次いきます!」

「これを!」

 半球が真紅に染まったのを見て、勇がゲーブルから手渡された同様の金属半球を持って隣でしゃがんでいる別の機体の頭頂部に、同じように取り付ける。

 そのまま三体目にも取り付けると、前線に向けて声を掛ける。

「フェリクスさん、装着完了です!」

「了解しました! イーリースはそのままそこで魔動車を護衛! ティラミスとグレッグ殿は前線へ!」

 フェリクスから指示に従い、二体が前線へと駆け出した。


「あれなら同士討ちの確率も減るだろうな」

 一連の作業が終わったのを見て、サミュエルが勇に声を掛けてきた。

「ええ。魔法巨人(ゴーレム)は見た目がほとんど同じなのに声が出せないですからね……。同士討ちが怖かったんですよね。どうにかなりそうで良かったです」

 勇が振り返りながら答える。

「しかし、メタルリーチにあんな使い方があるとはな……」

「偶然気付いただけですけどね」

 目の前で護衛についたイーリースの魔法巨人(ゴーレム)の頭を見上げながらサミュエルが呟く。


 先程頭頂部に取り付けたのは、移動中にメタルリーチを使って突貫で作成した識別用の魔道具だ。

 先に鹵獲した機体には既に装着済みである。

 原理は非常に単純で、光の魔力を流すと色が変わる特性を活かして、光の魔石から一定量の魔力を流し続けるだけだ。

 敵か味方か見分けるためのものなので、塗料でも何でも良かったのだが、移動中の勇たちには生憎と都合の良い持ち合わせが無かった。

 メタルリーチの素材は遺跡で大量に入手していたこともあり、魔動車のダンパーの修理パーツとしてそこそこの量積んであったため、それを使ったのである。

 魔力を流して柔らかくした状態だと他の物質とくっつきやすい特性も、今回の用途には合っていた。

 そのままくっ付けただけでもそこそこ目立つのだが、光の魔力を流して色が変わっている間は微妙に発光する。

 夜間戦闘がある可能性も考慮して、視認性が高くなる魔道具化した次第だ。


 ちなみに勇個人としては、せっかく赤く光らせられるなら、某警察向け産業用ロボットのように肩で点滅させたかったのだが、壊れやすそうなので断念していた。


「さて、問題はここからですね」

「ああ。数こそ四対四と互角だが、どうなるか……」

「そうですね。魔力パスの数値的にはこちらの方が平均的に上だと思いますけど、こちらの操縦はまだ付け焼刃ですからね」

「うむ。程なく壁の向こうから援軍が来るはずだから、その前に一体でも落とすなり奪うなりしたいところだが……」

「相手もそれが分かっているからか、前には出て来ませんね」

 誤爆しないように、魔法で散発的な援護をしながら勇とサミュエルが思案する。


 相手の操縦席は、護衛役と相手の魔法巨人(ゴーレム)、そして魔法巨人(ゴーレム)を奪われた者も加わって守っているため、中々ガードが堅い。

 白兵戦こそ騎士には及ばないアバルーシの者たちだが、魔法巨人(ゴーレム)を使った戦闘となれば話は別だ。

 こちらも魔力パスの高い者だけで固めた精鋭揃いではあるが、小さい頃から操縦訓練をしているアバルーシの者たちにはさすがに及ばない。

 一体でも魔法巨人(ゴーレム)を無力化出来れば、その穴を足掛かりに攻勢に出られるのだが、個々の戦闘能力差がある上に守勢に回ったアバルーシの者を相手にして、戦況は膠着していた。


「にゃっふ」

 そんな中、織姫が短く鳴き勇の肩から飛び降りると、フェリクスの方へと走っていった。

「にゃにゃっ」

 そのまま素早く陣頭指揮を執るフェリクスの頭へと飛び乗る。

「はっ、オリヒメ先生!?」

「にゃにゃっふ」

 思わず声が裏返ったフェリクスの頭を、落ち着けと言わんばかりにてしてしと叩く。

「なぉぉん!」

 そしていつもより大きく、良く通る声で短めの長鳴きをした。

「なんだ?」

「キャトか? 誰のだ?」

 猫自体は見慣れているが、織姫を初めて見たアバルーシの者たちが目を見開いた。


「っ! 先生ありがとうございます! マルセラ、グレッグ殿、印付のヤツを! ティラミスとメンフィオ殿はサポートを!!」

 織姫のやった事を理解したフェリクスが、急ぎ指示を出す。

 それを聞いて頷いたマルセラとグレッグの機体が、向かって右端にいた肩の黒い機体との距離を一気に詰め、それを守るようにティラミスとメンフィオの機体もそちらへ近づいていく。

 当然相手も素早く槍を繰り出して反撃を試みるが、先程まで連続で繰り出されていた突きが一度で終わった上、そのまま一瞬動きが固まってしまう。

 その隙を見逃さず、マルセラの機体が素早く槍を叩き落とし、グレッグの機体が脇固めのような形で相手の魔法巨人(ゴーレム)を組み伏せにかかった。

 ドォォン、と地響きをさせながら相手の機体が地に伏せたところで、操縦席の一つから白い猫が飛び出してきた。


「イーリースさん、あの操縦席を抑えてください! サミュエルさんは魔法で援護を!」

 それを見た勇からも即座に指示が飛び、魔動車を護衛していたイーリースの機体が勢いよく飛び出した。

水錐(ウォータードリル)

 ほぼ同時に3本の水の槍がサミュエルの頭上三メートルのところに現れ、白猫が飛び出してきた操縦席前を守っていた三人の男たちへと降っていく。

「うわぁぁっ!」

「うぼっ」

「ぐげっ」

 一人は飛びずさって躱したが、残りの二人はもろに受けてカエルのような声を漏らして軽く吹き飛ばされた。

 大きな水の塊をぶつけられたのでそこそこのダメージはあるが、大きな怪我はしていないだろう。


「リリーネさん、ローレルさん、ゲーブルさんお願いしますっ!」

「まかせろ」

「おうっ!」

「了解」

 続けて三人が操縦席へと向かっていく。

 隣の操縦席を守っていた男たちが応戦しようとするが、イーリースの機体が割って入ったため手出しが出来ない。

 リリーネが素早く操縦の魔道具を停止させ、操縦者の意識が戻ったところでローレルが操縦席への外へと引きずり出し、ゲーブルが拘束する。

 そのままリリーネが魔力パスを初期化、ローレルが乗り込んだ。


「グレッグさん、もう放して大丈夫です!!」

 フェリクスの声を聴いたグレッグが手を離すと、抑えられていた機体がゆっくりと立ち上がり、落ちていた槍を拾うと二、三度素振りをして戦線に加わった。

 これで前線の機体は五対三。さらにイーリースの機体が操縦席の守りにも付いているので六対三。一気に状況は勇たちの優勢へと傾く。

「なぉぉん!」

 そして再びの織姫の長鳴き。


 先程と同じように、猫がパートナーとなっている事を表す印である肩の黒い機体の動きを止め、操縦席を乗っ取る。

 次に操縦したのは先程ローレルと共に突っ込んでいたゲーブルだ。

 一気に形成が不利になったアバルーシ側の二体は、交戦する事を諦め操縦席を回収すると、思い切ってサミュエルの作った壁際まで下がっていった。


 その隙に勇たちも急いで陣形を整え、この後始まるであろう第二ラウンドへと備えるのであった。

週2~3話更新予定予定。

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[一言] 全体の7割位が環境や状況の説明文 そして今後話しが進行して行く程より説明文章が増える事が確定事項です 作者がこの事象を認識して無い 着想が良いからこそ残念 なろう系統出身作品若しくはライトノ…
[一言] 更新有難う御座います。 ヨッシャ! 鹵獲(拉致)るべ!
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