●第187話●優勝者決定
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週2~3話更新予定です。
倒れたサラの機体にドレクスラーの機体が手を差し伸べる。
手を取って立ち上がると、両者は開始線まで戻り片膝立ちの体勢となった。
ほぼ同時に魔力パスの接続が切られて、操縦席から二人が戻って来る。
「いやぁ、サラ殿の動きは見事ですな。まったくついていけませんでしたよ」
小さく首を振りながらドレクスラーが感想を口にする。
「私にはルーシーもいるし、小さい頃から魔法巨人で遊んでいてドレクスラーさんより長い時間練習が出来ただけやわ。最後はやられてしまったし」
一方のサラは、相当疲れたのかまだ肩で息をしながら感想を返す。
「今回はルールに助けられただけです。有効打で止めなければ、連続攻撃を受けてあっという間に負けていました」
ドレクスラーが自ら評する。
この勝負は、サラの動きについていけないと悟ったドレクスラーが有効打にならないギリギリで攻撃に耐え続け、集中を切らして動きが単調になってきたところでカウンターが決まった形だ。
ドレクスラーの言う通り実戦であったなら、最初の有効打を貰った流れで一気に手数に押し込まれて敗北していたに違いない。
そういう意味では今回のルールは、サラのように手数で勝負するのを得意としている者には少々不利なルールだろう。
「いや、ルールは戦う前から分かってたんやから、それで勝てるように戦わないといかん。今回は私の負けやわ」
「フォフォフォ、そうじゃな。あの短い時間でサラの動きを有効打にならないよう躱せるようになるだけでも相当なもんですわい。真似できる人はそう多くはいませんぞ?」
サラの言葉を受けて、グレッグもドレクスラーを称賛する。
「そうですね。私だったらあの動きに慣れる前に3本目を貰ってあっさり負けてた気がしますよ……」
その言葉を聞いた勇が、苦笑しながら大きく頷いた。
なおもドレクスラーは謙遜していたが、あの動きに短い時間で対応できたのはまぐれでも何でもなく、実力あってこそのものだろう。
こうしてAブロックの一回戦が終わり、続いてBブロックの一回戦が始まる。
第一試合は、ティラミスとバルシャム辺境伯家の騎士で、元騎士団長ラーレムの長子でもあるローレルとの一戦だ。
試合は、圧倒的な運動性能を誇るティラミスの機体の攻撃に対して、父親譲りの戦闘術を駆使したローレルが迎え撃つ構図となった。
「やっぱりティラミスさんの動きは速いですね」
「ええ。それを前面に押し出した、長所を活かした戦い方と言えば聞こえは良いですが……」
見学する勇の感想に、フェリクスが言葉を濁す。
「まぁ、ゴリ押しとも言えるな」
隣で聞いていたミゼロイが、苦笑しながら言う。
これまで生身でのティラミスの戦いを何度も見てきたが、巧者とは言えないまでもしっかり考えた戦い方をしていた。
それが魔法巨人での戦いとなった途端、まるでフィジカルを見せつけるような戦い方に変わってしまう。
気の弱い人が高い車を買った途端、運転が急に強引になると言う話はよく耳にしたなぁと勇は思い返していた。
ティラミスは別に普段弱気なわけではないのだが、生身ではどうしても筋力で男性に勝てないことが、無意識のうちにストレスになっていたのかもしれない。
そんな両者の戦いは、互いに有効打を二本ずつ取り合う互角の展開だった。
しかし時間が経つにつれ、ティラミスの操る魔法巨人の動きがますます冴えわたっていく。
対してローレルの方はと言うと、疲れもあってか徐々に動きに精彩を欠くようになってしまった。
こうなってくると一気に天秤は傾き、真っ向勝負で力強い突きを立て続けに決めたティラミスが勝利を手にした。
「ふーー危なかったっす。ローレルさんの槍捌きはとんでもないっすね」
「最初はいけると思ったんだがなぁ。結局は地力の差で押し込まれてしまったな」
ティラミスとローレルが、互いの健闘を称え合う。
常に敵国との国境線を守り、魔物の討伐も日常的に行っているバルシャム辺境伯家の騎士の中でも屈指の実力を誇るローレルの槍捌きは見事だった。
もう少し魔法巨人の操作に慣れていたら、勝負はわからなかっただろう。
そんな激戦の後のBブロック第二試合は、勇とビッセリンク伯爵家の騎士メンフィオとの対戦だ。
ちなみにメンフィオは、以前勇がビッセリンク伯爵領を訪ねた際に、偽破裂の魔法などを教えた騎士の一人である。
(さて、どう戦ったものか……)
魔力パスを繋いでなおはっきり感じられる、頭の上の織姫の温かさを確かめながら勇が思案する。
この世界に来た時の特典なのか、戦闘行為自体に大きな忌避感は無い。現にこれまで何度も魔物との戦闘や模擬戦をしてきている。
しかし何れも魔法による遠隔攻撃で、白兵戦、ましてや一騎打ちの経験などほとんど無いのが現状だ。
対する相手は戦闘のプロたる騎士だ。戦闘術に関しては比べるべくもない。
織姫がいるぶん魔法巨人の動きに関しては勇が勝っているが、戦闘術の差を埋める事が出来るとは思えない。
考えても結論が出るわけでは無く、結局槍を持って出たとこ勝負でいくしかないかと勇は腹をくくった。
「試合開始!」
ノーマンの掛け声とともに、両者が中段に槍を構える。
勇は、自分から攻撃しても手痛い反撃を受けそうなので、そのまま相手の背中側となる左側へゆっくり移動しながら様子を見る。
最初に仕掛けたのはメンフィオだった。
鋭く半歩踏み込むと、中段の構えから真っすぐ突きを放ってくる。
防御に集中していても、どうにか払って軌道を少し逸らすのがやっとだ。
そしてすぐさま高さを変えた突きが2連続で勇に襲い掛かる。
どうにかそれも捌く勇だったが、体勢が崩れたところでさらに踏み込まれ、下からの回し打ちを右腕に受けて開始早々に有効打を奪われた。
「黄色の有効打!」
ノーマンの声が響き、再び開始位置に戻る。
(う~~ん、やっぱり普通に戦ってたんじゃ勝負にならないな……。それに、距離をとったほうがかえって不利な気がする)
一方的にやられた一本目を振り返ってそう考察した勇は、一本目とは異なるスタンスで二本目に挑む。
「はじめっ!」
メンフィオが先程と変わらない構えを取るのに対して、勇は槍をやや短めに持ち穂先もやや下げて構えた。
そして今度は、勇の方から大きく踏み込み突きを放っていく。
体重を乗せて一気に間合いを詰めるような突きに、弾くのではなく避けることを選択したメンフィオが側面に回り込むように体を捌いた。
躱されることを前提にして動いていた勇は、踏み込んだ足を踏ん張ってメンフィオの方へと体を預けながら、短く持った槍の石突きを横方向へ突き出す。
真横に攻撃されるとは思わなかったメンフィオは、慌てて槍の中央あたりでそれを受け止める。
そこからは間合いが近いため突きや払いが出せず、お互いが槍を棒のように使った打ち合いになった。
距離が近いためあまり威力がのらず、メンフィオの魔法巨人槍の柄が勇の魔法巨人の外装を叩いても有効打にならない。
しかし鍔迫り合いのような状態から突き飛ばすように距離をとったメンフィオが、すかさず突きを放ち二本目の有効打をもぎ取った。
(やっぱり近い方がいいけど、近ければ近いで今度は槍の長さが邪魔になって攻撃もしづらいな……。いや、待てよ? 邪魔になるならいっその事……)
先程よりはマシにはなったものの、攻め手を欠いたのでは逆転は出来ない。
そんな状況を打破するために、勇はさらに大胆な手段に出る。
三本目が始まると、二本目と同じように勇が間合いを詰めにかかる。
今度は相手も警戒してくるため、突き込むのではなく槍を横に持って完全な防御姿勢で突っ込んでいく。
体当たりを食らってはたまらないので、メンフィオは再び横方向へ飛び退き距離をとろうとする。
(ここだっ!)
その瞬間、走りながら勇が手に持った槍を相手に向かって投げつけた。
突然武器を投げられたメンフィオは慌ててそれを振り払い大きく弾き飛ばす。
一瞬足が止まったのを見て勇は一気に間合いを詰めると、振り払ったことで伸びきった相手の右腕を左手で掴んだ。
さらに足を止めず右腕をプロレスのラリアットのように相手の首に引っ掛け、右足で相手の右足を大きく払いあげた。
少々変形ではあるが、柔道の大外刈りのような投げ技である。
まさか魔法巨人同士の武器を持った戦いで投げ技が来るとは思わず、メンフィオの機体が後ろに倒れる。
相手の右手は掴んだままなので、メンフィオの魔法巨人が勢いよく地面に叩きつけられる事は無かったが、大の字に倒れた状態では反撃は出来ない。
対する勇は、このまま腕を折る事も出来るだろうし踏むことも出来る。
「紫の決定打! よって勝者イサム!」
状況を見たノーマンが、勇の勝利を告げた。
「いやぁ、まさか槍を投げた上で自分まで投げられるとは思いませんでしたよ」
「すいません、ちょっと無茶な事をしてしまって……」
試合が終わった勇が、申し訳なさそうにメンフィオに軽く頭を下げる。
「いえいえ、組打ちが禁止されている訳ではありませんからね。油断した私が悪いんですよ」
「そう言ってもらえると……。初見殺しみたいなものなので、二度目は無いですけどね」
「戦場ではその一度が大事ですから、十分だと思いますよ! それにしても、まさかイサム殿が組打ち技を使えるとは思いませんでした」
「あはは、たまたま上手くいったと言うか、魔法巨人だから出来たんだと思いますよ」
勇が活路を見出したのは、クロスレンジでの格闘だった。
中でも、唯一勇が地球で実戦を経験したと言っていい、中学・高校の授業でやった柔道である。
特に高校の体育教師が柔道部の顧問で、かつ私立の高校だったこともあって、三年間割と長い時間を割いて柔道が行われていたのだ。
もちろん柔道部員のような実力など望むべくもないが、多少なりとも体が覚えているものを選んだだけであった。
それに加えて、やり投げの時にも感じていたイメージの力である程度魔法巨人の動きが補完されるはずという目論見がハマった結果と言えるだろう。
投げられた黄色の機体に不具合が出ていないか確認が終わると、Bブロックの第三試合が始まった。
クラウフェルト家の若手兵士イーリースと、大ベテランの先代守護者グレッグの一戦だ。
結果は有効打3対2と僅差でグレッグの勝利となったが、すぐに試合が終わっては勉強にならないと考えたグレッグが、イーリースに胸を貸したが故の接戦であった。
続いてAブロックの二回戦が行われる。
一回戦を勝ちあがったユリウスとマルセラの対戦だ。
先の戦いで子猫のレオのアシスト能力が覚醒したユリウスが、巧みな操縦でマルセラから有効打を奪う健闘を見せるが、経験に勝るマルセラが勝利をおさめた。
Bブロックの二回戦は、ティラミスと勇の対戦となった。
今度は最初から接近戦を仕掛けるため、勇は武器を槍からショートソードの二刀流に変える。
フィクション色が強い二刀流だが実は防御に優れており、剣道では引き分け狙いで守勢に回った二刀流が強すぎたため、長らく禁止されていたほどである。
しかし接近戦狙いというネタが割れてしまった後では、職業軍人たるティラミスには分が悪かった。
槍の間合いで捌かれ、頑張って近付いても組技を警戒されてしまう上フィジカルの差もあって、ティラミスの勝利に終わった。
休憩を挟んで、いよいよ準決勝が行われる。
Aブロックは、マルセラとドレクスラーのカード、Bブロックはティラミスとグレッグのカードだ。
ともに試合巧者といえるマルセラとドレクスラーの勝負は、見ごたえのある戦いとなる。
お互い相手に隙を作らせようと高度な駆け引きが続いた結果、魔法巨人の操縦技術に勝るドレクスラーが辛くも勝利を納めた。
一方Bブロックの準決勝は何とも言えない展開となった。
フィジカルを活かしてティラミスが果敢に攻めるのだが、そのことごとくをグレッグがいなしていく。
ここでも勉強させることを考えたグレッグが中々攻撃に出ないため、試合は長期戦となった。
もし両者の声が聞こえたなら、ティラミスが「ぐぬぬぬ」と言いグレッグが「フォフォフォ」と言い続けていた事だろう。
たっぷり30分ほどそれが続いていたが、幕切れはあっけなかった。
攻め疲れからかティラミスの攻撃が雑になり始めた矢先、これまでその攻撃を躱していたグレッグが、突如攻撃を受け流しつつ踏み込んだ。
するりと懐へ潜り込んだグレッグは、槍の柄でティラミスの魔法巨人の足を払う。
躱す間もなく尻餅をついたところに槍を突き付けられると、ノーマンから決定打のコールが高らかに発せられた。
「フォフォフォ、ティラミス殿は無駄な動きが多すぎますぞ?」
「ぐぬぬぬ……、完敗しただけに返す言葉も無いっす」
試合後の両者が交わしていた言葉は勇以外も予想していたらしく、皆が苦笑してその様子を眺めているのだった。
そして迎えた決勝戦。
魔力パスの値も高いベテラン騎士のドレクスラーと、おそらく現役最高齢の操縦者であろうグレッグという玄人好みの対戦となった。
これまで完全に受けに回っていたグレッグも、この戦いでは折を見て積極的に攻撃を仕掛ける。
対するドレクスラーは試合を追うごとにさらに操縦技術が上達しており、グレッグの攻撃を受け止めて果敢に反撃を行っていた。
まともな有効打が無いまま10分が経過した頃、これまでマージンを残して攻めていたドレクスラーがリスク覚悟で一気に攻勢に出た。
長期戦になると不利になると悟ってのものだろう。
対するグレッグもそれを受けてカウンターを狙うが、ドレクスラーの気迫が勝ったのか力強いドレクスラーの攻撃を受けきれず、ついに手にした槍を弾き飛ばされてしまった。
その隙を見逃すドレクスラーではなく、下段に軽くフェイントを入れてから胸の真ん中に突きを入れ、戦いに終止符を打つ。
こうしてほぼ一日かけて行われた、操縦訓練の仕上げと実力テストを兼ねた模擬戦は、ドレクスラーの優勝で幕を閉じるのだった。
週2~3話更新予定予定。
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