●第186話●ゴーレムファイト、レディ・ゴー!
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週2~3話更新予定です。
里の全住民が見守る中、一回戦第一試合を戦うユリウスとバルシャム辺境伯家の騎士エシャドがウォーミングアップを始めた。
ギャラリー付きで盛り上がっているので、昨日の競技会含めて一見遊んでいるように見えるのだが、非常に重要な意味を持つ。
まず競技会だが、基本的な能力がどの程度あるのかと、何に適性があるのかを把握するためだ。
何千という大軍で戦うわけではないし長期の訓練期間が取れるわけでもないので、弱味を減らして均一化を図るのではなく、強みを活かして適材適所に配置をしたほうが効率が良いのだ。
そして模擬戦では、より実戦的な戦闘能力が確認できる。
適性によって事前に配置を決めても、実戦でその通りに事が進むケースは多くは無い。
現場指揮官による臨機応変な戦術的対応が求められるのだが、その際に戦闘能力の強弱は非常に重要なファクターの一つとなるのだ。
指揮官だけでなく、本人が自分の実力や得手不得手を相対的に把握できるのが大きなポイントだ。
優秀な騎士というのは、自信を持ちつつも実力を冷静に判断しなければならない。
また、交戦する可能性が高いズン側についたアバルーシの魔法巨人との実力差を、相対的に把握することも可能だ。
自分たちが戦う相手の力量を事前に把握できることはとても大きなアドバンテージだろう。
「よし。では第一試合を始める! 両者開始位置に着け」
五分程度のウォーミングアップを終えたところで、ノーマンが両者に声をかけた。
紫色の機体を操るユリウスはやや長めの片手剣と盾を選び、黄色の機体を操るエシャドは槍を持ってそれぞれ開始線へ向かう。
「ユリウスは剣なのですね」
戦いを見守るアンネマリーが隣に立つフェリクスに問いかける。
「そうですね。間合い的には槍のほうが有利ですが、ユリウス様はまだ剣の訓練がメインですから、扱い慣れている剣を選ばれたのだと思います」
フェリクスが顎に片手をやりながら答えた。
魔法巨人での戦闘は自身が体を動かすわけではないとは言え、イメージできない動きをすることはできない。
槍投げの時の勇のように、やった事がなくても明確にイメージができれば近い動きはできるが、一瞬の判断がものを言う白兵戦においては、元々持っている戦闘スタイルが有用だろう。
選抜メンバーの中で最も実戦経験が乏しいユリウスが、多少優位でも扱いきれない槍を使うより少しでも扱い慣れている剣を選んだのは、良い判断だと言える。
対するエシャドは、騎士としての経験が豊富で槍の扱いにも慣れているため、自然に槍を選んでいた。
「それでは試合開始!」
両者が開始位置についたのを見て、ノーマンが試合開始を告げた。
まずは相手の出方を窺うためか、両者がそれぞれ開始位置から少し後ろへ下がり構えをとる。
そしてエシャドが、槍を中段に構えながらユリウスを中心に円を描くようにゆっくり横へと歩き始めた。
対するユリウスは、左手に構えた盾を前にした半身の姿勢で、常にエシャドに正対するよう追従する。
最初に仕掛けたのはエシャドだった。
二倍近いリーチの差を活かして、剣の間合いの外から牽制の突きを放っていく。
素早く突き素早く引き戻される隙の無い攻撃をユリウスも盾を使って巧みに躱していくが、徐々にその圧に負けて後退を余儀なくされる。
3分ほどそんな状況が続くと、突然均衡が破れた。
これまで通り放たれたと思ったエシャドの突きがユリウスの盾を左腕ごと大きく弾き、がら空きになった左脇にすぐさま突きが入る。
ユリウスもどうにか後ろへ飛んで回避を試みるが完全に躱すことはできず、カァンと魔法巨人の装甲をかすめる音が響いた。
「黄色の有効打! 両者開始位置へ」
すかさずノーマンから有効打が宣言される。
模擬戦のルールは、有効打が入った時に一度止めるか止めないかの2種類あるのだが、今回は止める方のルールが採用されている。
止めない方がより実戦に近く、立て続けに3本連続で有効打になることが多い。
今回は訓練の意味合いも強いので、一方的に終わってしまわないように止めるルールとなっていた。
「エシャド殿は中々上手いですね」
攻防を見守っていたフェリクスが小さく唸る。
「突然ユリウスの盾が弾かれたように見えましたが?」
「エシャド殿は一番最初の攻撃からずっと、敢えて力を抜いた攻撃を繰り返していました。そして全く同じモーションから突然力を込めた突きを放ったのです」
疑問を投げかけるアンネマリーにフェリクスが解説していく。
「これが生身での戦いであれば、受ける衝撃や踏み込み、筋肉の張りなどからある程度本気度が推しはかれるのですが……。おそらく魔法巨人はその辺りが読み辛いのではないでしょうか?」
「流石フェリクスさんですね。まず、触覚はかなり制限されている感じがします。まぁ腕を切られた傷みがそのまま伝わったりしても大変なので、仕様としては間違っていないんですけどね」
フェリクスの見立ての正しさに勇が感心しきりだ。
「やはりそうですか。そうなると本気の攻撃なのかどうかを、文字通り肌で感じることはほぼ出来ないかもしれませんね」
「おそらくは……。それと、魔法巨人は表情も視線も変わらないですし肌も露出していませんから、そう言った情報から力の入れ具合を見抜くのも難しいかと」
「確かに。色々と考慮すべき点がありますね……。これは操縦者じゃない人間も、どういう感覚なのか体験したほうが良いのかもしれませんね」
勇の説明にフェリクスが小さくため息をついた。
現場指揮官が現場を知らないのは確かによろしくない。
「ちょっと後でノーマンさんに相談してみましょう」
勇もその意見には賛成のようで、後ほどその辺りの話をすることとなった。
そんな話をしている間に、模擬戦は二本目が始まっていた。
今度は開始早々、ユリウスが攻勢をかける。
一本目で防戦に回り、一方的にやられてしまったので今度は攻撃に出ようというのだろう。
リーチの差を補うべく果敢に懐へ飛び込み、素早く剣を繰り出していく。
エシャドはそれを槍の柄の部分を使う事で防ぐ。短い槍を棍のように使っているのだ。
生身の戦闘の腕前であればもちろんエシャドの方が上だろうが、魔法巨人を操るスキルで上回るユリウスがその差を埋めて、一進一退の攻防となった。
しかしやはり経験の差か、ユリウスの攻撃が途切れた一瞬の隙をついてエシャドが反撃。
槍の石突き側をコンパクトに振り抜き、ユリウスの機体の脇の下あたりに一撃を決め、二本目の有効打となった。
迎えた三本目。
後の無くなったユリウスだが、守るよりは攻めたほうがまだマシとばかりに再び攻勢に出るも、二本目より動きにキレがない。
それもそのはずで、実際には身体を動かしていないとはいえ疲労が無いわけではないのだ。
むしろ精神的な消耗は、魔法巨人のほうが大きいのではないかと思わせるほどである。
自らの魔剣を手に入れるため、厳しい稽古を積んでいるとは言えまだユリウスは11歳。
魔法巨人との驚異的な相性の良さを差っ引いても、先に疲れが出てきてしまっていた。
それを見破ったエシャドが反転攻勢に出ると、形勢はあっという間に逆転。
ユリウスもどうにか有効打を避けるべく必死に防御するが、徐々に機体へヒットする数が多くなっていく。
これはそろそろ決着か、と思ったところでそれは起こった。
ユリウスはこれまで、自身に懐いた猫のレオをずっと膝にのせて操縦していたのだが、そこへさらに織姫が走っていき飛び乗ったのだ。
それが魔法パスを介してユリウスにも伝わったのか、魔法巨人が明らかに動揺したような挙動をとる。
その隙を逃さずエシャドがとどめの突きを放った。
バキン
乾いた音を立てて、ユリウスの盾が砕けて宙を舞う。
しかし、リンボーダンスのように膝から上が地面と平行になるくらい身体を逸らしながらさらに捻ることで槍の一撃を躱す。
「おお!?マト〇ックスっ!!」
思わず勇が叫ぶ。
捻った身体をさらに捻り、横向きになりながら左手を地面につけると、両足と左腕の力で勢いよく身体を回転。
空振りして斜めに地面に刺さっている槍の上を、高跳びのベリーロールのように飛び越えて立ち上がった。
そして、驚いて腕を伸ばしたまま一瞬動きを止めてしまったエシャドの機体の首筋に、バックハンドブローのように内側から剣を横薙ぎにした。
「紫の決定打!! よって勝者ユリウス!!」
ピタリと寸止めされた剣を見て、ノーマンがユリウスの勝利を告げた。
「「「うおおぉぉっ!!」」」
見事な逆転勝利に、操縦者からも里の者からも大歓声が上がる。
開始線まで機体を戻した両者が魔法パスを切ると、操縦席の身体が動きを取り戻した。
「レオ、それとオリヒメ先生、ありがとうございました」
目を開いたユリウスが、ハーネスを外しながら膝の上のレオと織姫を撫でてお礼を言う。
「に~~~」
「ふにゃっふ」
スリスリとその手に頭を擦り付けるレオ。
織姫は当然よと言わんばかりに、すまし顔でレオとユリウスの手を尻尾でぺしぺしと叩くと、ひょいと膝から下りて勇の所へ戻っていった。
「いやぁ、参りました。まさかあそこであのような動きをされるとは……」
そこへ対戦相手のエシャドが歩み寄ってきた。
「いえ、たまたまと言うか何と言うか……。レオとオリヒメ先生のおかげなんです」
ユリウスもレオを抱きかかえながら立ち上がる。
「どうなったんだ? オリヒメが膝に乗った途端、別人みたいな動きになったが」
急にアクロバティックな動きをしたのが気になったノーマンもユリウスの元へとやって来る。
「いきなりオリヒメ先生が頭に乗っている感覚がして驚いていたんですけど……」
皆もわらわらと集まってきた所で、ユリウスが何が起きたかを説明し始める。
どうやら強制的に魔法パスに割り込んだ織姫が、レオを仲介するような形でサポートに入ったらしい。
その途端、魔法巨人を動かす時の抵抗が恐ろしく軽くなったそうだ。
そして無我夢中で槍を躱し、騎士団の模擬戦で団長が槍相手にやっていた動きを真似てみたらそれに近い形で魔法巨人が動いたのだと言う。
「多分ですけど、オリヒメ先生がレオにサポートの見本を見せてくれたんだと思います。戦闘が終わった途端、オリヒメ先生の気配は消えたんですが、レオのサポートで少し機体が軽くなった気がしているので」
「そういうことか……。他のキャトが教えるなんて話は聞いた事がないが、実際に起きているからな。イサム殿のキャトは凄いな」
話を聞いたノーマンが腕を組んで唸る。
「さすがは姫だね。ありがとう」
「な~う~」
勇が腕に抱いた織姫の耳の後ろを撫でる。
「せ、先生!! ウチのキキにも教えてあげて欲しいっす!」
ユリウスと同じように、子猫のキキをパートナーにしているティラミスが織姫ににじり寄る。
つい先ほどまでのユリウスもそうだったが、ティラミスもまだキキのサポートの力を体感するには至っていなかった。
「にゃふ……にゃにゃなふ~」
「みゃみゃみゃーみゃ」
ティラミスのお願いに勇の腕の中から顔を出した織姫が何事かを話しかけると、キキもそれに返答するように鳴き返す。
「にゃっふん」
そしてそれを聞いた織姫は、小さく鼻で笑うように鳴くと、勇の腕の中に再び顔を潜り込ませてしまった。
「……せ、先生? それはどういうリアクションっすか!?」
「みゃーみゃ」
スルーされる形になったティラミスの頭の上で、キキがぽすぽすとその頭を叩く。
「はっ!? これは慰められてるっすか!?」
どういう理由かは不明だが、ティラミスの願いは織姫に却下されたようだ。
「まぁ姫は、ティラミスさんだからと意地悪をするような子ではないので、何かしら理由があるんですよ」
胸にぐりぐりと頭を擦り付ける織姫を撫でながら、勇がティラミスをフォローした。
勇たちがそんな話をしている間にも、ノーマンを始めとした里の者の手によって魔法巨人に異常がないか点検が行われる。
エトやヴィレム、それにミゼロイやリディルなど、操縦者ではない面々がそれを手伝っていた。
多少なりとも整備が出来るのと出来ないのとでは大違いなので、訓練の二日目から整備の基本を教えてもらっているのだった。
「よし、両方とも異常なしだ! 第二試合を始めるぞ!」
点検を終えたノーマンがそう宣言すると、二回戦に出場するマルセラとビッセリンク伯爵家の騎士ゲーブルが操縦席へと向かった。
どちらも経験豊富な騎士だけあって、共に有効打を一つずつ取り合う接戦となった。
その後は、相手のクセを掴むのが上手いマルセラが徐々に本領を発揮、立て続けに二本の有効打を取って二回戦へと勝ち上がった。
続いて行われた第三試合は、ドレクスラーとサラのカードだ。
12人でトーナメントを戦っている都合上、このカードはAブロックの二回戦となっており、勝者は先程勝ち上がったユリウスとマルセラの勝者と戦うことになる。
歴戦のベテラン騎士かつ魔法パスが7と高いドレクスラーに対して、若いながら猫のサポートもあり小さなころから魔法巨人に親しんだサラの戦いは、魔法巨人の扱いに長けたサラのペースで始まった。
上手に牽制を入れながら相手に的を絞らせず隙を探り、早々に一本目の有効打を獲得する。
二本目はさらにジャンプを取り入れたトリッキーな動きでドレクスラーを翻弄、二本目の有効打を獲得した。
「彼女は凄いですね。あそこまで自由に動かせるなんて……」
文字通り飛んだり跳ねたりしているサラの魔法巨人の動きに、勇が感嘆する。
「フォフォ、小さい頃から遊んでましたからの。玩具みたいなもんですわい」
それを聞いたグレッグが嬉しそうに目を細める。
「ですが、サラは本当の戦いは知りませんからの……」
ガシャーーン!
グレッグが呟いたのと同時に大きな音が鳴り響く。
音のした方に目をやれば、倒れたサラの機体にドレクスラーの機体が槍を突き付けたところだった。
「黄色の決定打!! よって勝者ドレクスラー!!」
そこにドレクスラーの勝利を告げるノーマンの声が響き渡った。
週2~3話更新予定予定。
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