●第184話●かつての魔法陣
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週3~4話更新予定です。
以前に岩砂漠の遺跡で、アバルーシの魔法巨人のものと思われる脚部パーツを発見した折、研究室のような所で遠隔操作方式を示唆するような書類を発見していた。
目の前の魔法巨人も遠隔操作方式ではあるのだが、以前見つけた書類の絵図とは随分と違いがあった。
見つけた絵図の設計コンセプトは、操縦者自身が物理的に身体を動かして、その動きを遠隔地の魔法巨人に届けて再現する、というものである。
分かりやすい操作方法ながら、色々と課題もありそうな気がしていたのだが、実際に目にした魔法巨人には魔力パスという超便利機構が組み込まれた別物だったので、勇たちは少々困惑していた。
「今回見つけたのは、まさにその操縦者の動きを再現する、というものっぽいんですよ」
「なるほど……。じゃがなんで態々、使っていない機能を残しとるんじゃ? ただでさえ細かいのに手狭になるじゃろ?」
「多分ですけど、このアベルさんの機体が初めて完成した機体だったからだと思います」
「最終試作機みたいなもんか」
「ええ。もうひとつの黄色い機体にはそんなコメントは残っていないので、身体を動かして操縦する機体を作った後、改造を重ねていく過程でコメントアウトしていったんだと思います」
「ふむ。確かに試作段階だと、前の魔法陣のほうが良かった、なんてことも多そうじゃから、消すよりは再利用できるようにしておいた方が良いかもしれんの」
「そんな感じじゃないかと」
試作段階では、新しい試みが全て採用されるわけでは無い。むしろ元のほうが良かったことのほうが多いかもしれないくらいだ。
コンピュータープログラムなら、バックアップをとって保存しておいて、元に戻すなりコピー&ペーストするなりで比較的容易に戻せるのだが、手書きの魔法陣ではそうはいかない。
なので、使うかもしれない元の魔法陣も残しながら、追記したり戻したりを繰り返して試作機を完成まで持っていったのでは、と勇は予想したのだった。
「で、今動いているほうの魔法陣にも、最初の魔法陣の内容が部分的に流用されています」
「ほほぅ」
「残念ながら魔力パス部分と思われる部分は読めないようになっているんですが、魔力パスを通して送られてきた情報を取り出した後は、最初の魔法陣に近いやり方で動かしている感じです」
「なるほどのぅ。しかし何でわざわざちゃんと動いとるものを作り直したんじゃろうな? 何かしらの欠陥でもあったとみるのが普通じゃが……」
「問題はそこですよね。結構な大改造ですから、余程のことがあったんでしょうけど……」
「うむ。そう言えば、操縦席側の解読は進めとるのか?」
「いえ、ひとまず魔法巨人側だけですね」
「そうか……。操縦方法を変えるには、当然操縦席側にも手を入れる必要があるじゃろ? この里にある操縦席が、あの紫の機体とセットのものだとしたら、なにか分かりそうな気がするがの」
「確かに!! エトさんの言う通りですね……。早速聞いてきます! グレッグさーん!!」
言うが早いか、勇は操縦席を点検している様子のグレッグの元へと走りだす。
「やれやれ、相変わらずじゃのぅ、勇は」
その背中を見送りながら、エトが小さくため息をついた。
「確かにこの操縦席も、ずっと大ボスが使っていたものだと聞いておりますわい」
「おおっ!? やっぱりそうでしたか!」
守護者のグレッグに確認したところ、勇の予想は的中していた。
この紫の機体と共に生涯同じ操縦席を使い、死後はそれをそのままこの里へと隠したそうである。
「ちょっとこの操縦席を調べさせてもらって良いですか? 魔力パスを使う前の操縦方法が分かるかもしれないんです」
「なんと!? マツモト殿は魔法陣が読めるというお話でしたが、そんなことまで分かるんですな……」
グレッグ達にも勇の能力については軽く話をしてあったが、これまでそれを目にする機会が無かったので、驚くのも無理は無いだろう。
「是非調べてもらいたいですぞ。少しでも大ボスの機体について分かることが増えるのなら、アバルーシの民にとってもそれは喜びですわい」
「ありがとうございます!」
グレッグの許可をもらい、勇は早速操縦席の魔法陣の調査も開始した。
優先されるのは魔法巨人の操縦方法の取得なので、操縦席の調査も休憩時間や訓練時間の前後に行うことになる。
「機体のほうがあの描き方だったから、絶対こっちも同じようにやってるはず……」
目下の狙いはスポイルされた操縦方式の魔法陣なので、限りある時間を有効活用するためにも、コメントアウトしてある部分を最優先で探していく。
そして調査を開始した日の夜、当該のコメントを発見するに至った。
「絞り込んで探したのは正解じゃったの」
「ええ、割と早く見つかって良かったですよ」
訓練も終わり人気の無くなったハンガーで、勇とエト、ヴィレムが、操縦席の周りに集まっていた。
傍らには、勇が読み取った魔法陣の処理内容を、簡単なフローチャートのようにしたものが置いてあり、ヴィレムが熱心にそれを見ていた。
「この改修内容が本当だとすると、魔力パスっていうのは相当革新的な発明な気がするねぇ」
「そう思います。やりたいと思ってそう簡単に実現できるような技術じゃないですよね」
「そうじゃの。まさか本当に文字通り魂を魔法巨人と繋げるもんじゃったとはのぅ……」
三人が三人とも唸り声をあげる。
機体と操縦席の魔法陣を解読していったところ、大きく二つのことが判明していた。
一つは元々どうやってマスタースレイブ方式を実現していたか。
そしてもう一つが、それが最終的にどういう流れに変わったのか、である。
まずは前者だが、処理の流れ自体は非常に素直だった。
操縦者が体の何箇所かに目印となる小さな魔法具を取り付け、それを読み取るための空間に入る。
魔法具を介して、身体が動いた際に一緒に動く体内の魔力の流れを検知、読み取られる。
その情報を圧縮して無属性の魔力の波に変換して魔法巨人側へ飛ばす。
魔法巨人側では受け取った魔力の波を、元の魔力の動きに変換し直して、さらにそれを体の動きに戻し、対応する部位を同じように動かす魔法陣にその情報を渡す、という流れだ。
地球で言う、特殊なスーツを着て行うモーションキャプチャの仕組みに近いだろうか。
読み取った情報の送受信方法も、地球のデータ通信の考え方に近い。
動きを再現する魔法陣の詳細は未解読だが、伸縮性のある素材を縮めたり伸ばしたりしている感じなので、人工筋肉に近いかもしれない。
ちなみに昨今のVtuberなどは、Webカメラと安価なソフトウェアだけでリアルタイムにその動きをトラッキング、3Dのキャラクターを動かすことができるので驚きだ。
続いて後者についてだ。
こちらは前者よりも流れはさらにシンプルになる。
まずは操縦者の魂を魔力パターンとして丸ごと読み取って魔法巨人に送り込む。
魔法巨人に送られた魂の動きを取り出して、前者の方式でも使っていた動きを再現する魔法陣に流し込んで動かすだけだ。
だけなのだが、とんでもない技術力である。
「で、操縦席にいる操縦者と魔法巨人を常に繋ぎ止め続けておくのに、かなりの魔力を使っている感じですね」
「魂なんちゅうもんを繋ぐんじゃから、そりゃあ魔力も使うじゃろうなぁ……」
「ここの繋がりがスムーズだと、魔力消費も少なくて済むし操作性も良くなりやすいんだと思います」
「で、そのスムーズさを表すのが魔力パスの数値ってわけか」
「おそらく繋がりのスムーズさと、魔法巨人内に送られた後の適合率みたいなものの両方を加味してるんだと思います」
総合数値なので、両方が高い場合もあれば片方が高い場合もあり、それが数値が高いだけで必ずしも優秀な操縦者になれるとは限らない理由なのだろうと勇は予想する。
「魔力パスの部分は全く読めないのでアレですけど、魔力パスを使わない操作方法の部分は読めるので、また時間を見つけて実験してみようと思ってます」
「ほう?」
「多分ですけど、工程が多い分やり取りする情報も多くなって、動きに時間差ができてしまったんじゃないかと思うんですよ。これ以外にも、魔法巨人側からの視覚情報やらのやり取りも必要ですし」
「なるほど。魔力パスで繋いでしまえば、あとは魔法巨人側だけで事が済むから、時間差も起こりにくい、と?」
「おそらく、ですけどね……」
例えば魔法巨人が見た情報が伝わるのに0.5秒かかり、それを見た上での動きが0.5秒後に再現されても、1秒時間差がある。
戦闘において1秒の時差は、致命的となるだろう。
「なので、本当に時間差があるのかとか、それがどれくらいなのかとか、距離や動きの複雑さに影響されるものなのかとか、色々検証したいと思ってます」
「ひとまず今は問題無く別の方法で動いとるんだし、わざわざ検証する必要なんぞあるのか?」
「ええ。例え時差があったとしても、それが問題無い使い方なら、この技術はとんでもなく有用だと思うんですよね」
「ふむ……?」
勇がそう言っても、いまいちピンと来ないのかエトの反応は鈍い。
「そうですね……。例えば、手の動きだけを遠方で再現する魔法具を作ったとします。そしてペンを持って紙に文字を書きます。で、遠隔地に置いてある手だけの魔法巨人にもペンを持たせて紙も置いておいたら……」
「っ!? そうかっ!! ほぼ一瞬で遠隔地と筆談が出来ることになるのか!!」
説明されて有用性に気付いたエトが思わず声を上げる。
「そういう事です。会って話すように、とまではいきませんが、たとえ数分時差があったとしても、鷹よりも圧倒的に早くやり取りできますからね」
やり方はかなりアナログではあるし1対1に限定はされるが、それでもほぼリアルタイムで情報がやり取りできるメリットは計り知れない。
それに、昔の電話交換手のように間に人を置くなど、少し工夫するだけでもさらに利便性はアップするだろう。
「確かにそれは検証したほうが良さそうじゃの……」
エトが唸るようにそう言った。
それからも操縦訓練と魔法巨人の魔法陣解読作業は並行して行われた。
魔法陣については、魔法パス部分を筆頭に読めないものが半分以上だが、読めるものも混在している。
さらに一週間解読を進めた結果、遠隔操作の仕組み以外にもいくつか使い道がありそうな魔法陣が見つかった。
まず大きいのが、軽量化の魔法陣が見つかった事だろう。
その片鱗は以前遺跡で見つけていたが、アベルの機体にはその完全版が読める状態で残されていたのだ。
「コイツは大発見じゃの」
「ええ。生物には使えないですが、それでも魔動車をはじめとして応用範囲はかなり広いですね」
闇属性の魔力が必要なので、その魔石が見つかっていない現状では無属性の魔石から闇の魔力を取り出すしかないが、使い道は多いに違いなかった。
もう一つ独立して全体が読めたのが、集音と音量を増幅する魔法陣だった。
魔法巨人の耳に相当する部分で、最終的には魔力パスへ渡されてブラックボックス化するが、その手前までは情報として保持されている。
上手く取り出して出力する事が出来れば、マイクやスピーカーなどに応用できる可能性がある。
他にも魔法巨人の目に相当する光学カメラのようなものや、以前交戦した魔法巨人が使っていると予想したサーモグラフィの魔法陣も見つかった。
しかしこちらは、搭載されている場所とはめ込まれている魔石の種類から割り出しただけで、魔法陣自体は読めない。
魔力パスへ送る時に情報として出力はされているので、今後はそこを詳しく検証する事になるだろう。
一方の操縦訓練も順調に進んでいた。
今の所猫によるサポートが明確に発揮されているのは勇だけであったが、操縦技術自体は皆かなり上達している。
そして全員が、ある程度自由に動かせるようになったのを見て、ノーマンがある提案をしてきた。
「操作技術の競技会、ですか?」
「そうだ。走る速さや、ジャンプする距離なんかを競う。最後には模擬戦もやる」
「へぇ、面白そうですね。これもアベルさんが?」
「ああ、そうだ。“オリンピク”という名で伝わっている」
「あーー、なるほど。オリンピックですか。という事は、ひょっとして過去の良い記録も残っていたり?」
「名前を聞いただけでそんな事も分かるのか!? その通りだ」
「やっぱり。オリンピックというのは、私のいた世界で4年に1回世界中の国の代表者が集まってやる、世界一有名な競技会でしたからね。色んな競技がありましたが、全部世界記録がきちんと記録されていましたよ」
時差で寝不足になることもあったなぁ、と懐かしみつつ勇が答える。
こうして魔法巨人による小さなオリンピックが開催されることになるのだった。
週3~4話更新予定予定。
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