●第183話●こいつ、動くぞ
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週3~4話更新予定です。
「嬢ちゃんからだな。了解だ、そこに座ってくれ。じゃあまずは魔法巨人の動かし方を簡単に説明するから、全員で聞いてくれ」
ノーマンは一瞬勇の方に目をやり頷いたのを確認すると、ティラミスを操縦ブースの椅子に座らせる。
その後全員に対して、大まかな魔法巨人の仕様説明を始めた。
「魔法巨人と操縦者は、魔力パスを使って繋がるのはさっき言った通りだ。その状態になった後は、身体を動かそうとすると自分の身体は動かず魔法巨人のほうが動く」
ノーマンは身振りを交えながら話を進める。
「ただ、最初は思った通りに動かないはずだ。人によって感覚は違うが、重く感じたり強い違和感があったり。右手だけは良く動くとか、そういった事も良くある。我々は“パスが開いていない状態”と呼んでいる。こればかりは慣れていってパスを開くしかない」
パスが開くまでの時間にもかなり個人差があるがな、とノーマンが付け加えた。
「かなり感覚的なものだから、これといったコツは無い。ひたすらに慣れていくしかないな」
「魔力パスを切断する時はどうしたらよいんですか?」
任意にパスを切れないと大変なことになるので、勇が質問する。
「魔法巨人を“脱ぐ”事を強くイメージすればいい。少なくとも全員、魔法巨人という鎧を自分が着ているような感覚は多かれ少なかれあるものだから、このやり方が一番確実だ」
最初はやはり、スムーズに魔力パスを切って、自身の身体に意識を戻すことを徹底するそうだ。
「まぁ後は実際に動かしながらだな。魔法巨人を通してこちらの声は聞こえるはずだから、そう心配する事は無い。ああそうだ、さっきも言ったがキャトとの相性が良いと慣れるのが早くなるから、可能性がありそうなものは試してみると良い。ただし、最初の一回は一人でだ」
「ふっふっふ、キキちゃんよろしく頼むっすよ?」
それを聞いたティラミスが、足元にいたキキを抱き上げて膝に乗せた。
「キャトとの相性が良いと、もうひとつ大きなメリットがある。普通は五感が全て魔法巨人側に持っていかれるから、操縦者を叩いたりしても操縦者には伝わらない」
抜け殻のような状態になっているので、話しかけようが叩こうが、操縦者には伝わらない。
操縦席から強引に降ろせば魔力パスも強制的に切断されるが、それをやると後遺症が残ることがあるため、余程の緊急時以外それはやらないそうだ。
酷い場合は、身体のほうに意識が戻らなかったり、半分だけが戻った状態になってしまい半身不随のような状態になってしまった前例もあるらしい。
「が、キャトだけはどういうわけか操縦者に直接伝えることが出来る。キャトが操縦者を引っ掻けば、それは操縦者にもちゃんと伝わる」
パートナーとなる猫がいれば、操縦者の身体が何らかの緊急事態に陥った際にそれを知らせてくれるのだという。
自発的にやれる猫もいるし、護衛についている者が猫に促して知らせる場合もあり、そこは猫の個性によるのだとか。
「ただ、いたずら好きだったり子供だったりすると、緊急時以外にも操縦者にちょっかいをかける場合もあるがな……」
そう言ってノーマンが苦笑した。
この辺りは実に猫らしいと言えば猫らしい。
「姫、俺がヤバい時は教えてくれるかい?」
「にゃっふん」
話を聞いた勇が織姫をそっと撫でながら聞くと、勇の頬をペロリとひと舐めして胸を張った。
「ほぅ、魔力パス10のヤツがいるとは聞いてたが、コイツは大したもんだ」
カシャンカシャンと、見た目よりも軽い音をさせながら、紫色の魔法巨人が軽快に駆け足をしていた。
腕を組んだノーマンが唸る。
一通り説明を受けた後、習うより慣れろという事で順番に魔力パスを繋いでは切断する練習をし、おおよそ問題無く切断できるようになったところで歩行訓練に移っていた。
皆なかなかうまく立てなかったり歩けなかったりする中、滅多に存在しない魔力パス数値10のユリウスだけは、最初から何も問題無く歩いて見せる。
それを見たノーマンから駆け足をしてみろと言われて、これまたすんなり出来てしまったところだった。
「ぐぬぬ、ユリウス様がとんでもないっす……」
ティラミスがキキを抱きながら悔しがる。
彼女の数値もこの中では二番目に高い8だが、1回目の挑戦ではまともに歩くことが出来なかった。
それでも最初からきちんと立てているだけ大したものなのだが、どうにも本人にはそれが悔しいらしい。
「これは中々骨が折れそうですな。なまじ普通にしているのと同じように周りが見えるので、動けないことの違和感が際立ちます」
軽快に走っては止まるを繰り返すユリウスの操縦を見ながら、ベテラン騎士のドレクスラーが勇に話しかける。
ドレクスラーは1回目のチャレンジの後半には、どうにか立てるようになっていた。
「そうですね。自分の身体であって身体でないようなこの感覚は、たしかに慣れるしかないのかもしれませんね……」
ドレクスラーの隣に立っている勇が苦笑しながら答える。
ちなみに勇は、1回目のチャレンジではまだ直立できないでいた。
「目線が高いからか、走るとだいぶ視界がブレますね」
「身長が倍以上になってるんやもん、しかたがないわ。でもユリウスやったらすぐ慣れると思うわ」
10分間のチャレンジを終えたユリウスが、サラと話をしている。
最終的には軽く飛び跳ねることまで出来るようになっていた。
というかハンガーの天井高と試乗エリアの広さ上、駆け足と軽いジャンプくらいが限界だったのだが……。
(いやぁ、ユリウスは凄いなぁ。リアルにニュータイプを見た気がする)
もはや会話の内容が素人ではないユリウスを見ながら、勇が心の中で呟いた。
そうこうしているうちに2回目のチャレンジが始まった。
ここからは効率を上げるためにも、予備機である黄色の魔法巨人も使っていく。
勇は予備機のほうで2回目のチャレンジの順番が回ってきた。
「さてと、せめて今度はゆっくりでもいいから歩けるところまで行きたいなぁ」
操縦席に座ってハーネスで身体を軽く固定しながら勇が呟く。
不意に操縦席から転げ落ちたりしないよう、ハーネスで固定するのがセオリーらしい。
「大丈夫です、イサムさんなら出来ますよ!」
ハーネスの取り付けを手伝いながらアンネマリーが応援する。
「うん、どうにか頑張ってみるよ」
「にゃにゃっ」
アンネマリーに答えてから、操縦用魔法具を起動させようとしたところで織姫がぴょんと膝に飛び乗ってきた。
「む? 今度はキャトと一緒にやってみるのか?」
それを見たノーマンが声をかけてくる。
「あはは、そうですね。本人がやる気になっているので、一緒にやってみたいと思います」
「分かった。上手くいけば、さっきより操縦しやすくなっているはずだ」
一度目は、猫のやる気の有無にかかわらず、全員がサポート無しでの操縦だった。
いきなり猫と一緒に操縦してサポート機能が働いてしまった場合、サポートが発生しているかどうかが分かりにくい。そのため最初は素の状態で動かすのが望ましいのだ。
「キャトとは触れているだけで大丈夫だ。どういう理屈かは分からんが、キャトはそれだけで魔力パスに介入できるらしい」
「それは凄いですね……。まぁ別にサポートできなかったとしても姫の可愛さは1ミリも変わらないから、気楽に行こう」
この世界の猫の凄さに驚きつつ、膝の上で香箱座りする織姫の背中を勇がひと撫でする。
「じゃあ起動します!」
勇、行きます! と言いたくなるのをこらえて勇が操縦席を起動させた。
身体が宙に浮くような不思議な感覚の後、一瞬意識がブラックアウトしたと思ったら突然目に入る景色が変わる。
立膝をついた姿勢の魔法巨人の目線だ。
ゆっくり視線を横に動かすと、操縦席に座ったままの自分が見えるのが非常に不思議だ。
と同時に1回目との大きな違いに気が付く。
肩に、何かがのっている感覚があった。
不思議に思って目線を送るが、魔法巨人の肩には何ものっていない。
何が、と考えた矢先に頬を舐められた。
(!? 姫かっ!?)
思わず心の中で声を上げるが、それはもちろん操縦席の勇からも魔法巨人からも発せられることは無い。
しかし肩の上の存在が「にゃあ」と答え、スリスリと頬を寄せている感覚が勇には明確に感じられた。
(フフ、ありがとう姫)
そう呟いた勇は、もう一つ1回目との大きな違いに気が付いた。
立膝をつく魔法巨人の膝や足の裏の感覚が、先程とは段違いにリアルだった。
ノーマンが言うには、魔力パスを介して魔法巨人から五感のフィードバックは受けているものの、それは自分の肉体で感じるより随分微弱なものらしい。
魔力パスが太くなるとだいぶマシにはなるらしいのだが、それでも分厚い布越しのような感覚だと言う。
1回目の勇は、布どころか分厚い綿の布団に包まれたかのようでほとんど何の感覚もなかったのだが、今は明確に感じることが出来た。
(凄いな、これが織姫のサポート効果なのか? さっきとは全く別物だ。これなら……)
そう呟いてから、勇はグッと足に力を入れてみた。
(おおぉ? こいつ、動くぞ!!)
思わずそんなお約束の台詞を吐きつつ、ゆっくりと魔法巨人が立ち上がった。
先程はバランスをとるのに四苦八苦して、足を開いて重心を落とし全力で集中していないと立っていられなかったのが、今は普通に直立できていた。
そのまま腕を曲げて、手を握ったり開いたりしてみる。
さすがに自分の身体を動かすほど簡単ではなくかなりの抵抗を感じはするが、どうにか思った動きに近い動きが出来そうだ。
二、三回浅くスクワットをした後歩き出してみると、ゆっくりとではあるが危なげなく歩くことが出来た。
ふと下を見下ろしてみると、ユリウスとアンネマリーが満面の笑みで手を振っているのが見える。
ティラミスは驚いた顔だ。ここまで声は届かないが、おそらく「ぐぬぬ」と言っていることだろう。
軽く手を振り返した勇は、その後も魔法巨人を歩かせて二回目のチャレンジを終えた。
「マツモト殿、一回目からは見違えたな。ひょっとしてキャトのサポートか?」
魔力パスを切断して、織姫を抱きかかえてながら立ち上がった勇にノーマンが声をかける。
「サポートが一般的にどういう形で発動するものなのかは分かりませんが、操縦が圧倒的に楽になったのは間違いないですね。向こうへ意識を持っていかれた後も、織姫の感触が常にあったので、多分サポートしてくれたのだと思いますが……」
「なるほど。キャトが近くにいることを感じられるというのは、多くのサポート持ちが言っている事と一緒だな」
「私もルーシーが肩とか頭に乗ってるのが分かるから、多分イサムさんもオリヒメちゃんのサポートを受けてるんやと思うわ」
横で話を聞いていたサラが言う。
「やっぱりそうなんですね。あとは、かなり魔法巨人から伝わる感覚がハッキリしてきましたね。ただ動かそうとするとまだまだ重いというか抵抗が強くて、歩く事しか出来ませんでしたが……」
「二回目であれだけ歩けたら大したもんやわ!」
頭を掻きながら言う勇の言葉を、サラがそんなことは無いとフォローする。
「しかし伝わってくる感覚がそこまでハッキリするというのは珍しいな。多少は改善するものとは聞いているが、魔法巨人からの感覚は慣れによるところのほうが大きいからな」
「そうやね。動いた時、動かそうとした時の違和感が減る効果が一番大きいと思う」
二人の言う通り、猫のサポートで劇的に魔法巨人からのフィードバックが改善する事は前例がないらしい。
「そうなんですね。皆さんのキャトは、こちらの生き物の血も入っていますから、そのあたりの違いがあるのかもしれませんね」
不思議そうな二人に勇がそう言う。
それ以外にも、織姫はこちらに来た際に神様に限りなく近い存在になっている。度々女神様が気に掛けて出てくるくらいには信憑性のある話だ。
間違いなくこれも関係しているのだろうが、おいそれとそれを話すわけにもいかないので黙っているしかなかった。
こうして勇たちの魔法巨人操縦訓練が、本格的にスタートする。
またそれと並行して勇はエト達と共に、訓練の合間や訓練の終了後、魔法巨人や操縦席の魔法陣の解読を本格的にスタートさせていく。
先程確認した操縦席の魔法陣もかなりの細かさだったが、あらためて確認した魔法巨人の魔法陣もやはり相当な細かさを誇っている。
そして腰を据えて解読を開始して三日目、勇がその痕跡を発見する。
「なに? 魔力パスを使う前の魔法陣じゃと!?」
「ええ、そうなんですよ!! アベルさんの機体の魔法陣を、ひとまず全体的に確認していたんですが、妙にコメントアウトしてある部分が多いことに気が付いたんです」
「コメントアウトと言うと、あれか、描いてはあるけど効果を発揮しないメモみたいなもんじゃったか?」
「はいそれであってます! で、気になってコメントの内容を追っていったんですが、それがどうやらあの遺跡で見た絵の操縦方式の魔法陣っぽいんですよ!」
エトの質問に、勇が食い気味に答えた。
週3~4話更新予定予定。
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