●第180話●追加開発と操縦者候補選び
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街を出たのが真夜中過ぎだったため、リリーネとの話し合いを終えてクラウフェンダムへ戻ったころには夜が明け始めていた。
数時間仮眠をとった勇は、朝食を摂りながらアンネマリーとニコレットに昨夜のことを話す。
「なるほど、相手の本当の目的はウチの魔石だけだったのね……。領地や国境警備を手薄にする狙いがあるとは思っていたけど、それ以上に国内を移動するときのリスクを下げていたのね」
話を聞いたニコレットが唸る。
「はい。敵ながら上手いことやったと思いますよ。300も魔法巨人がいるなら、魔石さえ手に入ればどうにでもなりますからね。ヤーデルード一派にしても、物証は残していないでしょうから、すぐには訴えられないですし」
「そうですね。でも、事前にイサムさんが大きな魔石は隔離しておくよう知らせてくれていて良かったですね」
「功を奏しないほうがよかったんですけど、まぁ最悪の事態だけは避けられましたね……」
アンネマリーの言う通り、大型や中型の魔石がほとんど相手の手に渡らなかったのでまだ救いはある。
「魔法巨人の数を増やせれば、動力源をどうにかできるこちらのほうが有利になりますからね」
そう、勇たちには魔力を充填する魔法具もあれば小さな魔石を組み合わせて大きな魔力を得るための手段もある。
大魔石を確保していると言ってもそもそも絶対数が少ないので、複数の手段で動力源を確保できるのは、大食らいらしい魔法巨人を運用するうえでこの上なく有利だろう。
「そのためにも、まずは魔法巨人を操縦できるようになってカポルフィへ潜入しないとね」
「はい。防壁を対魔法巨人用に少し改修するのと、魔法巨人を実戦投入する際に必要になりそうな魔法具を試作したら、バルシャーンに向かうつもりです」
「よろしくお願いするわ。まさか魔法巨人を相手にすることになるとはね……。ところで、魔法巨人の操縦者はどうするつもり? 専属護衛から選ぶの?」
「結果的に専属護衛から選ぶことになるかもしれませんが、リリーネさんから面白い魔法具を借りたので、それを使って選ぶつもりです」
そう言って勇は、机の上に一つの魔法具を取り出す。
見た目は勇や織姫のスキル鑑定に使った“神眼の魔宝玉”や“鑑定の魔水晶”によく似た、台座の上に水晶玉のような透明な球が乗った魔法具だ。
「アバルーシの魔法巨人は離れたところから操作するタイプなんですが、操縦者と魔法巨人を目に見えない魔力で繋げているそうで、それを魔力パスと言うそうです」
リリーネの話によると、アバルーシの魔法巨人は魔力が全くない場合を除いて、訓練さえすれば誰でも人並みには動かすことができると言う。
魔力パスと言う魔力を使った不可視の繋がりを操縦者、正確には操縦用の魔法具と魔法巨人の間に確立することで、操縦者の意のままに動かせるようになる。
勇としては、地球の遠隔操作のセオリーを考えて、タイムラグをどこまで軽減できているのかが非常に気がかりだった。
魔法巨人の見ているものが操縦者に伝わるまでの時間と、それを見た操縦者の操作内容を魔法巨人に伝えて動くまでの時間が、間違いなく必要だというのが勇の常識だった。
しかし魔力パスを繋いでいれば、そんなタイムラグは発生しないのだとか。
どういうことかと思えば、魔力パスを通して操縦者の魂のようなものが魔法巨人側に転送され、あたかもリアルタイムで操縦しているような感覚で動かせるらしい。
そしてこの魔力パスの“強さ”に個人差があると言うのだ。
魔力が少しでもあれば、訓練すれば魔法巨人を動かすのに十分な魔力パスを確立できるのだが、操縦適性の高い者は訓練せずとも太いパスが最初から確立されるらしい。
そればかりか、普通の人間では感じ取ることが出来ないような情報や、普通では考えられない動きを可能にするのだと言う。
その事実がわかると、アベルは「まさにシンクロ率じゃないか!」と言って大喜びしたとか。
そんな魔力パスの強さを計測できる魔法具を、勇はリリーネから借り受けていた。
初代のアバルーシの軍事施設と思われる遺跡から発掘したものらしい。
「今回は時間が限られているので、これで適性の高いものを選別して育成したいと思っています」
「なるほど、そんな便利なものがあるのね。でも、いかに適性が高いと言っても、ある程度戦えないといけないのよね?」
「そうですね。勝手に動くわけではなく自分で動かして戦うので、基本的な戦闘技術はあったほうが良いと思います」
「分かったわ。適性の検査は騎士及び兵士を対象に実施するわね。魔法具を使った検査だから私たちに任せて、イサムさんは防壁強化と魔法具の方を優先してちょうだい」
「お願いします。では、ちょっと工房へ行ってきますね」
こうして領主不在の中、クラウフェルト家の対魔法巨人対策が始まった。
「それで、何を作るんじゃ?」
「まずは新しい魔動車を作るつもりです。今後魔法巨人を運用することを想定すると、もっと大型の魔動車があると便利だなぁ、と」
「ほぅ、今の貨物用より大きいヤツを作るのか?」
「ええ。魔法巨人も走ればかなり速いですが、魔石の消費がとんでもないですからね。あと、操縦席とか交換用のパーツなんかも運べると便利だと思うんですよ」
「確かにでかいからの。まとめて運べるのがあれば便利じゃの」
無属性魔石を産出し、魔力を充填する術も持つクラウフェルト家であっても無限に魔石を使えるわけではない。
尋常ではなく魔石を消費する魔法巨人を複数運用するなら、操縦席も含めて運べるキャリアのようなものがあると効率がよい。
それに大型の魔動車は何も魔法巨人専用というわけではない。
人も荷物も大量に運ぶことが出来る大型の魔動車があれば、何かと便利だろう。
「今回はトレーラーと言って、動力のない荷車を引っ張るタイプのものを考えています」
勇がトレーラータイプ魔動車のラフスケッチを紙に描いていく。
「ふむ、仕組みとしては馬車と同じか。一周まわって戻ってきた感じじゃの」
勇の説明を聞いたエトが、顎を触りながら言う。
「この方式なら、いろんな大きさの荷車を引けますからね」
牽引用の魔動車は、軽魔動車のボディをベースに全長をさらに短くし二人乗りとする。
そして荷車は、貨物タイプの魔動車の荷台と同じく幌馬車のようなデザインとし、風の魔石を使った重量軽減魔法具を複数搭載する設計だ。
これで計算上は、魔法巨人を運ぶことが出来る。
「魔法巨人が思ったより軽くて助かりましたよ、もっと重いと思ってましたから」
勇がほっとした表情で呟いた。
全高が4メートル近い魔法巨人だが、勇の言う通り総重量は7~800キログラム程度と意外に軽量だ。
サイズ感的に一回り小さい軽自動車でも1トンくらいあるので、それを知っている勇のイメージでは相当軽い。
主要因は三つ。まず一つ目は、燃料が軽量なことだ。
地球においては特にバッテリーはかなり重量が多く、もし人型兵器を電力で動かそうと思ったら相当な重さになるのだろうが、この世界では魔石ですべて賄えるので恐ろしく軽量である。
二つ目は動力機関が軽量なことだ。
エンジンやモーターは金属の塊で非常に重いのだが、この世界では原則魔法陣がその役割を担うため、圧倒的に重量を削減できる。
地球で付きまとう熱対策用の冷却機構も必要ないため尚更だろう。
そして三つ目が、優秀な軽量素材だ。
地球においても合金やカーボン素材などの軽くて丈夫な素材は色々あるが、この世界では魔物素材やミスリルに代表される魔金属、そしてあらゆる素材を魔法陣で強化できる事で、強度と軽量性を兼ね備えた素材が非常に多い。
この三つ全てを使っている魔法巨人、中でも遠隔操作式でコクピットや操縦者を衝撃から守る必要のないアバルーシの魔法巨人は、非常に軽量なのだ。
おかげで、お世辞にもトルクが強いとは言えない魔動車でも、馬車以上の速度で運ぶことが可能となるのだった。
「設計図と手を加えた魔法陣は作ってあるので、魔動キャリアのほうは職人さんに任せておけば大丈夫だと思います」
「うむ。あ奴らも毎日のように魔動車を作り続けておるからな。このくらいお手の物じゃろうて」
勇が魔動車を開発して以来、この街の職人の多くが魔動車の量産にかかわってきている。そのおかげで、職人たちの腕前は大幅に上昇していた。
「なので私たちのほうでは、防壁のゴーレム対策を推し進めようと思っています」
勇の考える対魔法巨人用の強化策は大きく三つだ。
一つ目は非常に単純ではあるが、防壁の根元に堀を作ることだった。
空堀でもよいのだが、魔法巨人の特性を考えて水堀にする想定だ。
リリーネに聞いたところ、やはり魔法巨人は雷属性に弱いらしい。
なので水堀にして雷玉を常備しておき、有事には感電させることで、魔法巨人にかなりの打撃を与えられるはずなのだ。
二つ目もわりと単純で、門だけでなく防壁にも対衝撃用の魔法陣を組み込むことだ。
堀がなければ飛び越えられてしまうため無意味だが、堀があることでおいそれと飛び越えるようなことは出来なくなる。
代わりに、魔法巨人のパワーを生かして防壁の破壊を試みる可能性が高い。
防壁に対衝撃用の魔法陣を組み込んでおけば、おいそれと壊されるようなことはないだろう。
普段は起動しておく必要もないので、ランニングコストもほとんど不要だ。
そして三つ目は、防壁の上に電撃柵を設置することだった。
雷玉の魔法陣を応用して、防壁の上に張り巡らせた針金に雷魔法を纏わせるという単純な機構だ。
が、魔法巨人に対してはかなり有効な手立てとなるだろう。
先の襲撃時のように万一防壁を乗り越えようとしても、この電撃柵があればそう簡単には乗り越えることは出来ないはずだ。
他にも、勇が作るのを躊躇していた地雷型の魔法具も量産することにした。
これは常設しておくと誤爆が非常に怖いので、有事の際に防壁の内側に土に埋めずに敷設することを想定している。
魔法巨人の足で、ばら撒かれた地雷を全て回避するのは至難の業なので、見える状態でばら撒いても効果は期待できる。
なにより後から回収することだって容易なので、重大事故につながる危険性をかなり軽減できるのが大きいのだ。
こうして勇たちが魔法具を作っていく傍らで、魔法巨人のパイロット適性を調べる検査も着々とおこなわれていった。
ちなみに、森の中で適性を調べる魔法具の使い方を説明された際、試しに勇、フェリクス、ミゼロイの適性を調べてみたところ、勇の適性が一番高かった。
リリーネ曰く、アバルーシのパイロットと比較してもなかなか優秀な数値であるらしい。ザ・中の上の面目躍如といったところだろうか。フェリクスとミゼロイの評価は“並”だった。
クラウフェルト家の者たちに対して行われた検査の結果、最も数値が高かったのは、非常に意外な人物だった。
「え? 私がですかっ!?」
領主邸の談話室に、クラウフェルト家長男ユリウスの声が響いた。
騎士たちの調査が終わった後、念のためにと家人にも検査を行ったところ、ユリウスが驚きの数値を叩き出したのだ。
「ええ。全体の中で唯一10段階のうちの10よ。過去のアバルーシの操縦者の中でもトップクラスの数字なんですって。確かそうよね、イサムさん?」
「はい。リリーネさんに目安を聞いたんですが、一番上の10は何十年に一人出るかどうかという数字らしいです。すごいじゃないか、ユリウス」
「あ、ありがとうございますイサム兄様!!」
勇が頭を強めにガシガシと撫でると、嬉しそうにユリウスが目を細めた。
魔力パスの強さは、10段階の数字で表される。5が一番多いというわけではなく、平均は大体3くらいらしい。
1でも問題なく魔法巨人を動かすことは出来るし、魔力パスの強さにかかわらず訓練で優秀な操縦者になったものも数多くいるため、あくまで目安でしかない。
しかし、時々頭一つ二つ飛びぬけた操縦者が出てくる。そうした者は、例外なく魔力パスの値が高かった。
もっとも魔力パスが高い者すべてが優秀な操縦者になったわけではないらしいが……。
「それでどうするの? ユリウスも連れていくのかしら?」
「ええ、そうしたいと考えています。実戦に出る出ないは置いておいて、操縦訓練をしておいて損はないと思うので」
ニコレットの問いにイサムが頷く。
「そう……。初陣もまだだというのに、まさか魔法巨人の操縦者になるなんてね。分からないものねぇ」
少し寂しそうに微笑みながら、ニコレットが優しくユリウスの頭をなでる。
「フフ、お父様が戻ってきたら驚くでしょうね? 何事も経験よ、頑張ってきなさい」
「お母様……。分かりました! しっかり訓練をして帰ってきます!!」
「一緒に頑張ろう、ユリウス」
「はいっ、兄様よろしくお願いします!」
今ここに、小さなエースパイロット候補が誕生するのだった。
そして検査の結果を踏まえて、勇とユリウスを加えた6名が操縦者候補生として選出された。
ユリウスの次に数値が高かったのはなんとティラミスで、その数値は8。
「魔動車の運転ができない分、魔法巨人でストレスを発散させるっすよ!!」
と息巻いて、団長のディルークにどやされていた。
その次に高かったのが数値7のドレクスラーというベテラン騎士だ。
ミゼロイより少し年下で、農民の出ながら小隊長を務めている叩き上げの騎士である。
数値6の者は4名おり、その中から2名が選ばれた。ちなみに勇の数値も6だったが、この4名には含まれていない。
1人目はマルセラで、2人目はイーリースという名の若手兵士だ。
イーリースは若手ながら槍の名手である点が、主戦武器が槍である魔法巨人と相性が良いとされて騎士以外からの抜擢となった。
そして、すぐさま魔動車を飛ばしてビッセリンク家の領都にいた騎士たちの検査も行われ、その中から選ばれた2名を加えた8名が操縦者候補生としてバルシャーンヘと向かうことになるのだった。
これで11章は終了。次話より新章突入です!
週3~4話更新予定予定。
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