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●第177話●黒猫と夜の森

ブックマーク、評価していただいた皆さま、本当にありがとうございます!!

週3~4話更新予定です。

「ひ、姫、その子はいったい……??」

 驚きのあまり完全に目が覚める勇。

 この世界(エーテルシア)には猫に似た動物はいないと聞いていたし、勇もこちらへ来てからのおよそ1年間見たことがなかったので、いないものだと思っていた。

 それが目の前にいるのは、どこからどう見ても黒猫だ。

 よく見ると手足の先と尻尾の先だけが白い。いわゆる白足袋かつペンライトテイルというやつだ。


「にゃふ」

「なぅー」

 織姫が何かを促すように短く鳴くと、黒猫がトコトコと勇のほうへと近づいて来る。

 ここまで人慣れしているということは飼い猫か身近に人がいる環境で育った猫である可能性が高そうだ。

 勇が近づいてきた黒猫にそっと人差し指を近付けると、スンスンと軽く匂いを嗅いでから鼻先を指にすりすりとこすりつけてきた。

「なっ」

 そして一鳴きすると、また織姫の所へと戻っていく。


「……完全に猫だな」

 そのしぐさを見て勇が唸る。

 織姫含めて地球の猫は、鼻をくっつけ合って挨拶をする習性がある。

 敵意が無いことを表していると言われており、人に対してやる場合は警戒をしていないことの表れだと言われていた。

 目の前の黒猫も、恐らくはそうなのだろう。

 いったいどこから、と勇が考えていると、織姫がひょいとベッドから飛び降り部屋の扉の方へと歩いていく。黒猫もその後をついていった。


「にゃにゃー」

 扉の前まで来るとくるりと振り返り、勇を呼ぶように鳴いた。

「……ついてこいってことか?」

 勇は急いでズボンをはき替えてブーツを履き、上半身だけ革の鎧を身に着けると、魔法防御が施されたマントを羽織って織姫についていく。

 扉を開けて廊下へ出ると、織姫を先頭にシンと静まり返った館の中を歩き玄関へと向かった。

 先日襲撃があったばかりとあって、玄関の内側にも歩哨が立っている。

 勇が泊まっている事もあり、今夜の当番は専属護衛の一人であるミゼロイだった。


 そのミゼロイが階段を下りてくる勇に気が付き、驚いた表情で声をかけてきた。

「おや? イサム様、こんな遅い時間にどうしましたか? おお、オリヒメ先生も一緒で……っ!?」

 そして足下に織姫がいることに気が付き顔が緩んだ後、その後ろにいる黒猫を見て絶句した。

 言葉も出ないようで、口をパクパクさせながら見開いた眼で勇と黒猫を何度も交互に見比べる。

「あはは、驚きますよね、そりゃあ……。姫が突然連れて来てくれたんですけど、玄関からは入らなかったようですね」

「せ、先生が? 確かに私が見張りについてからは誰も通っていませんが……。 外出されるのですか?」

「ええ。どうやら姫がついてこいと言っているようなんですよね。この子のことも気になりますし、ついていってみようかと。ミゼロイさん、護衛をお願い出来ますか?」

 さすがにこの時間から一人で外へ行くわけにもいかないので、申し訳なさそうに勇がお願いをする。


「!!もちろん! 喜んでお供させていただきます! 外にはフェリクスもいますので、一緒にお供させましょう」

 勇からのお願いを快諾したミゼロイが、そっと扉を開けて外にいるフェリクスに声をかけた。

 話を聞いたフェリクスも、先程のミゼロイ同様驚いた表情をした後もう一人の歩哨へ何事かをお願いする。

 その歩哨は頷くと、館の門のほうへと走っていった。

「すみません、ここを留守にするわけにはいかないので、交代要員を連れてくるまで少しお待ちください」

 こちらに向き直ったフェリクスが言う。

「無理を言ってすいませんね」

「いえいえ。しかしその黒い生き物も、先生と同じ“ねこ”なのでしょうか?」

「見た感じや行動を見る限りでは、間違いなく猫だと思います。前の世界でも黒い猫はよく見かけましたし」

「なるほど……」

 そんな話をしていると、先程の歩哨が別の騎士を二人連れて戻って来た。


「ご苦労。領主様が起きて来られたら、イサム様と我々が共に出ていったと伝えてくれ」

「はっ! かしこまりました!」

 こうして引継を終えると、フェリクス、ミゼロイを加えた3人は館を後にした。


 織姫が、館の門すぐ近くに停めてあった魔動車に飛び乗ってにゃあにゃあ鳴くので、魔動車に乗って街の外へと出る。

 街から出た途端、織姫と黒猫は魔動車から飛び降り魔動車を先導するように走り始めた。

 魔動車の速度はおよそ時速15キロメートル程度。対して猫は、短時間であれば時速50キロメートル近い速度で走る事が出来る。

 体力面さえ問題無ければ、魔動車を先導することは問題が無いようだ。


 暗闇の中、先行する織姫たちを追いかけて街道を走る事30分ほど。

 織姫たちの足が止まり、森のほうに向かって「にゃふぅ」と一鳴きする。

 おそらくここから森に入れということなのだろう。


「イサム様、ねこというのは体力がある生き物なのでしょうか?」

 ここまで休みなく走って来て、少々息が荒くなっている程度の黒猫をみてフェリクスが勇に尋ねる。

「どちらかというと、瞬発力に優れた種だったと思いますが……。あの黒猫も、姫ほどじゃなくても普通の猫じゃない可能性はありそうですね」

 ちなみに織姫は息一つ乱れていないが、フェリクスもミゼロイも全く驚いていない。もはや彼らの中で、織姫は猫ではなく先生と言う別次元の存在に昇華されているのだろう。


 邪魔にならないように脇に魔動車を寄せて停めると、魔石と基盤の一部を取り外しておく。

 こうしておけば取り付ける時に魔法インクで数か所線を繋げる必要はあるが、盗まれるリスクはかなり減らすことが出来る。

 最悪盗まれても、動くものを作ることは勇以外には不可能なので、損害は物理的な物だけですむ。

 こうして街道を外れて、勇たちは夜の森へと分け入った。


 織姫も黒猫も、何の障害物も無いかのような身軽さで森を進んでいく。

 月明りと魔法カンテラを頼りに四苦八苦しながら進む勇たちを時々振り返っては、「にゃふぅ」とため息のような鳴き声を漏らしており、勇たちは苦笑するしかなかった。

 最も懸念された魔物との遭遇は無いまま1時間ほど森を奥へ進むと、直径5メートル程の範囲に木が生えていない広場のような場所に出た。


 そこには、立膝を突くように座った状態の魔法巨人(ゴーレム)と、小さな馬車のようなものが停まっていた。

「なっ!?」

魔法巨人(ゴーレム)っ!!」

 それを目にした途端、フェリクスとミゼロイが剣を抜いて勇の前へと出る。

「にゃ~お~」

 そんな人間たちを尻目に、織姫は気の抜けた鳴き声を上げるとトコトコと進んでいってしまった。


「せ、先生っ!!」

 慌ててミゼロイが声をかけるが、黒猫も「なー」と鳴きながら尻尾を立てて織姫の後をついていく。

「「「…………」」」

 しばし三人無言で目を合わせていたが、小さく頷くと織姫たちの後を追って広場へと入っていった。

 織姫が魔法巨人(ゴーレム)の近くまで来ると、広場の奥の茂みがガサガサッっと大きく揺れた。

 再び勇たちに緊張が走る。武器を構えて見守っていると揺れはどんどん大きくなり、バサバサっとひときわ大きな音を立てて白い大きな塊が飛び出してきた。


「ァォーーン」

 それは織姫の前に着地すると、甘えるように小さく遠吠えを上げた。

「お、狼かっ!?」

「で、でかいっ!!」

 突然飛び出してきた、体長3メートル程はありそうな真っ白な狼に再び驚愕する3名。

 そんな人間を気にすることもなく、白狼は織姫にすりすりと頬を擦り付けると、お座りの体勢で座った。

 大きくフカフカな尻尾が、ばさっばさっと大きく揺られていた。


「……姫の知り合い? なのか?」

「にゃっふ」

 恐る恐る聞く勇に、そうだと言わんばかりに織姫が誇らしげに鳴き声を上げる。

「随分と大きなお友達が出来たんだね……。それとあの魔法巨人(ゴーレム)はいったい……」

 狼を遠巻きにしつつ魔法巨人(ゴーレム)を見ていると、馬車のような乗物のドアがゆっくりと開いた。

 三度武器を構えて警戒する勇たちが見守る中、ドアの中から人が一人出てくる。


「某に敵対の意思はない。武器を下ろして話を聞いてはくれないか?」

 両手を上にあげて敵意が無いことを表しながら出てきたのは、身体のラインがハッキリわかる白っぽい服を着た若い女性だった。

「何者だっ!?」

「某の名はリリーネ。アバルーシの末裔にして魔法巨人(ゴーレム)の操縦者の一人、なのだが、クラウフェンダムを襲った者どもとは志を異にしている。少々話が複雑故、まずは話をさせてほしい」

 いきなり情報量の多い自己紹介に面食らう3人。

 どう答えたものかと逡巡していると、黒猫がタタタッとリリーネと名乗った女性の元へと走っていき、立ち上がって膝のあたりをカキカキし始めた。

「こ、こらっ、マックス。大人しくしないかっ!」

 慌ててリリーネが宥めようとするが、そんなことはお構いなしに「にーにー」と鳴いては膝を掻く。


「マックス? ……と言うか、彼はお腹が減っているのでは?」

 おそらく彼の黒猫の名前であろう単語に少々引っ掛かりを覚えつつ、猫歴の長い勇にはお腹を空かしてご飯をねだっているように見えた。

「な、汝はマックスの言っていることが分かるのか!? それよりマックスがオスであると何故わかったのだ?」

 勇の指摘に驚くリリーネ。

「……。フェリクスさん、ミゼロイさん、彼女に敵意が無いのは本当っぽいので、一先ず話を聞いてみましょうか」

「「了解」」

 マックスの行動に少々眉尻が下がっていたフェリクスとミゼロイが、顔を作って答える。


「姫、マックスにご飯は少し待ってもらえるようお願い出来るかい?」

「にゃっふ」

 勇のお願いに織姫は短く答えると、にゃーにゃーとマックスに話しかける。

「にーー」

 マックスは一鳴きすると、白狼の所まで跳ねるように走っていき、その足元で丸くなって座った。

「これでしばらくはお話しできると思いますよ」

「……汝のキャトは、人の言うことが分かるのか??」

「キャト!?」

 勇と織姫の掛け合いに心底驚いたリリーネだったが、勇は勇でリリーネから出てきた単語に驚く。

「さて、何から話をしましょうかね……」

 そう呟きながら、勇はゆっくりとリリーネの方へと歩いていった。



「うわ、多分それは間違いなく私と同じ世界からの迷い人ですね……。年齢は少し上くらいだと思いますが、転移した時期はとんでもなく違いますね……」

 リリーネの話を聞き始めて僅か3分で、勇にとって衝撃の事実がこれでもかと押し寄せていた。

 その最たるものが、アバルーシを興した人物がほぼ間違いなく地球からの、それもアメリカ人の迷い人だと言うことだった。

「そうなのか? 言い伝えでは出身地を“ざすてつ”と言っていたらしいが?」

「なるほど……。やはり間違いなく同じ世界のアメリカという国の人だと思います。彼らは自国の事をそう呼ぶことが多いですから」

 勇の言う通り、アメリカ人は自国の事をアメリカと言うことはあまりなく、the Statesやthe U.S. と言うことが多い。

 “ざすてつ”はおそらくthe Statesのことだろう。

 また、マックスという猫の名前も英語圏ではよくある名前だし、キャトはおそらくcatのことだ。


「いやぁまさか同じ世界の人がアバルーシを作っていて、しかもそのアバルーシが二代目だったとは思いませんでしたよ……」

「某も驚いた……。アバルーシの者以外にキャトを連れている者がいて、それが大ボス、アベル様と同じ世界から来た迷い人だとは……」

「しかもアバルーシの滅んだ街の名がネオトーキョーで、アベルさんが飼っていた猫の名前がレイとカオルとは……。アベルさんの趣味が良く分かってしまいましたよ」

 お互いひとしきり驚いたところで、あらためてリリーネの話を詳しく聞くことにした。

週3~4話更新予定予定。

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― 新着の感想 ―
ゴーレムの動きがやたらと滑らかで駆動音がしないのはモデルにしたのがアレだったからか? 闇魔法による軽量化とかブーストとかも元ネタに近付ける為だったのかもなぁ それと、世界の警察を標榜し、言ってわからん…
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