●第175話●茶番
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週3~4話更新予定です。
「プラッツォの商会から“鷹”が飛ばされてきた、と言うが、それにしても対応が早すぎるのではないかね?」
「ちょうどそのタイミングで、マツモト殿がイノーティアにいたと言うが、そんなに都合良く現場近くに居合わせられるのかね?」
「そもそも本当に“鷹”が来ていたのかも怪しいですぞ? 何しろ他国の商会ですからな。よしんば来ていたとしても、内容が何であったかなど我々は知る由もありませんからな」
緊急会議が始まって15分ほどが経過していた。
案の定、先のアバルーシ何某によるプラッツォ侵攻にクラウフェルト家が加担しているのではないかという内容である。
緊急招集をかけたヤーデルード公爵、それに賛同したサブルミット侯爵やディスカフ伯爵らが、得意げに疑義を投げかけている。
「イノーティアへはバルシャム辺境伯閣下、エリクセン伯爵閣下の領地を訪問させていただいた後に向かっております。こちらは期限を決めての訪問ではないので、タイミングを合わせることは不可能です」
投げかけられた疑義に対して、セルファースは粛々と対応していく。
「素早く対応できたのも、マツモト殿が試作した新しい乗り物である魔動車の性能によるものです。ザンブロッタ商会についても、他国の商会とは言え同盟国のプラッツォでも1,2を争う大手で信用のおける商会でございます」
「そんな理由はどうとでも言えますからな」
「聞いたところによると、ザンブロッタ商会は新興の商会というではないか。大手とは言え本当に大丈夫なのかね?」
対するヤーデルード公爵側も、セルファースの回答に対してのらりくらりと反対を唱えて態度を変えない。
そもそも“やっていない”ことを証明するのは非常に難しく、地球では悪魔の証明とも言われていた。
基本的に否認する側は証拠を用意する義務はなく、“やった”とするほうが証拠を用意するのが当たり前となっていた。
今回はまさしくそれなのだが、ヤーデルード公爵側からは個々の疑義に関する追及が行われるだけで、一体何を追及したいのかが見えてこないまま時間だけが過ぎていく。
(茶番だなぁ)
当事者の一人として特別に列席が許された勇は、セルファースの後ろに座ってそんなことを考えてうんざりしていた。
かれこれ30分、水掛け論が続いている。同席している他の貴族たちもそろそろ一言物申そうというタイミングで、意外な人物が口を開いた。
「細かいことは一先ず捨て置け、アレクセイ。つまるところ何が言いたい? セルファースは何をしようとしていると言いたいのだ?」
会議開始から一言も言葉を発しなかった、国王ネルリッヒ・シュターレンがアレクセイを見やる。
「これは陛下、大変失礼いたしました。まずはクラウフェルト卿の怪しい動きをご列席の皆様方にお知りおきいただきたかったものですから……」
ネルリッヒの指摘に悪びれず答えるアレクセイ。
「……では率直に申し上げます。クラウフェルト卿は辺境伯諸侯らとも共謀して敵国と結び、我が国を裏切ろうとしております。先の魔法巨人を使った動乱はそのための仕掛けの一つでしょう」
「バカなっ!!」
「ふざけるなっ!!」
「貴様、言わせておけばっっ!!」
「お主は何を言っておるのか理解しておるのだろうの?」
アレクセイに突然共謀者扱いされた3辺境伯とエレオノーラが殺気を隠そうともせず立ち上がる。
「……落ち着かんか」
「しかし陛下!」
「落ち着けと言っておる」
「ぐ……」
一触即発の事態をネルリッヒが窘め、辺境伯らは渋々腰を下ろす。
「でアレクセイよ。そこまで言うには根拠があるのだろうな?」
その上でネルリッヒは、鋭くアレクセイを睨みながら続きを促す。
「もちろんでございます」
アレクセイの言い分はこうだった。
敵国が、遺跡から魔法巨人と思しき物を掘り当てた。
これを動かすのに無属性の魔石が大量に必要と知った敵国は、密かにクラウフェルト家にコンタクトをとる。
相応の見返りを約束するから、大量の無属性魔石を提供してくれないかと取引を持ち掛けた。
しかし無属性の魔石と言えど、戦略物資である魔石の敵国や準敵国への輸出は、国により厳しく管理・制限されている。
少量ならどうとでもなるが大量の魔石は、簡単には提供できない。
そこでまずは手持ちの魔石で動かせるだけの魔法巨人を動員、アバルーシを名乗ってプラッツォに攻め込み声明を出す。
その声明を承諾する方向になればベスト。
承諾せず討伐すべしとなったのなら、密かに魔石を持って討伐部隊に参加、しかるべきタイミングで裏切り敵国と共に討伐隊を殲滅させる。
その後、敵国は潤沢な魔石を背景にプラッツォを落とす。
同時に、辺境伯らが一斉蜂起。供与された魔法巨人も使ってクーデターを成し遂げる。
「後は敵国が新しい王としてクラウフェルト卿を認めて同盟を結ぶなり、見返りにプラッツォを分割統治するなりするだけ……。とまぁ、こんなところでしょうな」
涼しい顔でなおもアレクセイが言葉を続ける。
「以前よりおかしいと思っておったのですよ。これまで無派閥を貫いてきた辺境伯家が、いかに迷い人マツモト殿が優れているとは言え、クズ魔石しかないクラウフェルト家を軸に一斉に派閥を作るなど……」
「……我々がクーデターを起こすために派閥を作った、と?」
ナザリオがギロリとアレクセイを睨みつける。
「そこまでは申し上げておりませんし、順番は逆なのかもしれませんが……。現時点では大きな目的となっているのでは?」
「ふざけおって……。だいたい全て貴様の妄想ではないか!? 何を根拠に言っておるのだ」
「おや、そうですか? では、今回の不可解な一連の騒動の目的をご説明していただきたいですな。少なくとも私の推論は筋が通っていると思いますがね?」
「バカバカしい。そもそも今回のアバルーシ何某とやらの一件と関係があると決めつける方がおかしいのだ」
ナザリオがアレクセイの言い分を切って捨てる。
しかし、何一つ証拠がないとは言えアレクセイの推論は破綻してはおらず、一定の説得力を持つこともまた事実だ。
「仮にお主が言っておることが事実だったとして、目的は何だ? セルファースにしろナザリオらにしろ、自分が王になろうとしているようには到底思えんがな?」
状況をじっと見ていたネルリッヒが問い質す。
「さて……、それは私にも分かりませぬ。国を裏切ろうなど、考えたこともございませぬゆえ」
そう言いながら肩を竦めつつ言葉を続ける。
「それでもあえて申し上げるなら……、自身の力を誇示すること、クズ魔石と言われた魔石で大金を得ること、などでしょうか? 単に無属性魔石を高値で密かに売りさばいて、敵国には王国に攻め込まない事を約束させるだけでも益は十分ありますな」
「……そうか」
「私からもお聞きしてよろしいでしょうか?」
それ以上ネルリッヒが何も言わないのを確認して、これまでずっと沈黙していた勇が口を開いた。
「魔法巨人が岩砂漠の遺跡から発掘された、と言うのは本当なのでしょうか?」
「確かにどこから発掘されたかは分からぬが、アバルーシといえばあのあたりで魔法巨人を使っていたという伝説がある。だからそう言ったまでだ」
「ありがとうございます。もう1点。魔法巨人が無属性の魔石で動くというのはどこから得た情報でしょうか?」
「……こちらも推論だ。魔法巨人を使った賊が無属性の魔石を要求したのだ。そう考えるのが自然だろう。むしろ貴殿がアバルーシどもに教えたのではないのかね?」
「生憎とアバルーシとやらに知り合いはおりませんので……。お答えいただき、ありがとうございました」
二つの質問の回答を得ると、勇は再び席へと座る。
その後、否定も肯定も出来ない微妙な議題に対する議論が活発になるわけもなく、ネルリッヒが締めに入った。
「さて、現時点でアレクセイの言い分を肯定する証拠は存在しない。が、否定する明確な証拠がないのも事実だ。かと言ってこのまま議論を進めて結論が出るとは思えぬ……」
ネルリッヒはそこで一旦言葉を止め、あらためて集まった諸侯をぐるりと見まわす。
特に反論や意見が無いことを確認すると、再び口を開いた。
「プラッツォの状況も予断を許さぬ中、これ以上国防の要たる貴殿らを王都に留め置くのは損失以外の何物でもない。よって本件は国王の儂が預かる。良いな?」
「「「「「はっ」」」」」
糾弾したアレクセイも、糾弾されたセルファースらも静かに頭を下げ肯定の意を表明する。
「では急ぎ領地に戻り、引き続きプラッツォならびにアバルーシと名乗る賊、および各国への警戒を厳にせよ。特にプラッツォ国境のあるルビンダとサミュエルは一層の警戒を」
「「御意」」
「ただし当事者たるアレクセイとセルファースは、しばし王城に滞在してもらう。証拠の隠滅やら捏造やらされてもかなわんからな、身柄を預かる」
「「はっ」」
「よし。ではこれにて解散とする」
こうして結局何の成果もないまま、茶番のような緊急議会はあっさり閉幕した。
「それにしてもいったい何がしたいというのだ、あの小僧はっ!!」
ナザリオがドンッと机を叩く。
王城から戻って来てしばらく経つが、どうにも怒りが治まらないようだ。
「もっと強硬に弾劾してくるかと思っていましたが、いやにあっさりしていましたね」
勇も少々困惑気味だ。
「そうよの。陛下が預かると言うても、あっさりと従いおった。最初から断罪は無理筋と分かっとる風だったの」
「だからこそだ! このくそ忙しい時に態々呼び寄せておきながら、なんなのだ……」
「そうですよね。これ、手段と目的が逆なのかもしれませんね……」
「ふむ。王都に上位貴族を集めることそのものが目的じゃったと?」
「ええ。特定の貴族だけなのか上位貴族全員が対象なのかは分かりませんけど。そうじゃないと、ただ批判されて心象悪くするだけですからね」
「確かにのぅ。一応セルファースの身柄こそ拘束されたが、ワシらの断罪が目的じゃとしたら大失敗もいいとこじゃからな」
ルビンダが腕組みをして首を捻る。
「はい。それなのにあの態度なので、断罪の結果はついでみたいなものなんじゃないかと。そうなると、何のためにそんなことしたのかが結局謎なんですけど」
苦笑しながら勇が言う。
「ただ、いくつか分かった事もありましたよ」
「ほう? 最後の質問でか?」
「はい。まず今回のアバルーシを名乗る賊は、やっぱりズンかケンプバッハで、アレクセイさんは少なくともそれを知っています」
「なぜ言い切れる?」
「まずアバルーシ自体、西方以外ではほとんど知られていないです。あの勤勉なアンネマリーが知らなかったくらいですから。なのにアレクセイさんは、アバルーシが岩砂漠で魔法巨人を使って活躍していたことを事実として認識していました」
最初のアレクセイの説明では単に“遺跡”と言っていたのが、勇はあえて質問時に“岩砂漠の遺跡”と言い換えていた。
それに対して特に疑問も持たずにアバルーシはあの辺りで活躍していたと言いきっていた。
しかも伝説には大男が多かったという話はあるが、魔法巨人だという話が語られているわけではない。
「私達はたまたま遺跡でアバルーシの紋章入りの部品を見つけたので、アバルーシと魔法巨人が結びつきましたけど、他の人がそう簡単にその結論に辿り着くことは無いはずなんです」
「確かに言われてみればそうじゃの。ワシらはイサムから聞いておったから当たり前と思っておったが……」
「西方の歴史に詳しいなら別ですけど、あの人が詳しいとは思えませんからね。それともう一点。魔法巨人が無属性の魔石で動くことも知っていますね」
魔法巨人が魔法具の類であることは誰しもが思いつく事だろう。
しかしそれの動力が無属性の魔石であると、予備知識なしでこの世界の人間が辿り着くケースはほぼないと言っていい。
最近ようやく別の使い道が知られ値上がりし始めてはいるが、まだ無属性魔石は代替品の域を出ていないのが現実なのだ。
「実際に動かせた人にしか分かりっこないはずなんです。なのにそれを大量に使用するとまで言っていましたからね。推論とするには無理があると思いませんか?」
「これも、わっちらはイサムから聞いておったが……。確かにそうよな」
「そうなると、彼奴のほうこそ敵国と裏で繋がっておるということではないか!? なぜあの場で言わなかったのだ?」
「言ってもきっとのらりくらりと逃げられますからね。証拠もありませんし。それに狙いが分からないと、どうにも動きづらいんですよね……。なのでリスクは承知でもう少し様子を見ようかと。アレクセイさんが自ら動いたんです。近々、動きがあるでしょうから」
「なるほど、泳がせたわけか……」
「はい。セルファースさんには悪いことをしましたけどね」
勇がバツが悪そうに首をすくめた。
「結局後手に回らざるを得んのが業腹だが……やむを得んか。ことが起きるまでの間はどうする? 何かしら準備は必要であろう?」
ナザリオが眉間に皺を寄せながら勇に問う。
「相手が魔法巨人になる可能性が高いので、それ対策の魔法具を量産するのがまず1点ですね。一当てしましたが、通常の兵装では太刀打ちできません」
「そこまでか……」
「はい。閣下方くらいの戦闘力があれば、ある程度対応はできるかと思いますが、普通の騎士では難しいでしょうね。相手も数が多いでしょうし」
「……そうか」
「あとは魔動車も量産したいですね。行軍速度・物資輸送で相手を上回れるのは非常に大きいですし、国内の移動や連絡も格段に楽になります」
「うむ。王都まで乗せてもらったが、あれはとんでもないな」
「この辺りは、各領地で極秘の工房を作っていただきたいです。魔法陣も基幹部品以外は公開するので」
「……すまんな」
「クラウフェルト領だけでは、生産が追い付かないですからね……。ただ万一敵方、これは国内の敵対派閥も含みますが、そこに漏れると大変なことになるので、厳重な管理を徹底していただきたいです」
「分かった。漏洩管理は徹底しよう」
「お願いします。並行して私は、持ち帰った魔法巨人パーツの解読と、持ち帰った素材で色々試作したいと思います」
遺跡から持ち帰ったものの、ここまでずっと慌ただしく移動し続けていたため、結局魔法巨人パーツの調査はほとんど手付かずだった。
それの本格的な着手と、大量に発見されたメタルリーチ素材を使った様々なモノ作りを、これを機会にしようというのだ。
しかし翌朝、その目論見は早くも崩れ去る事になる。
クラウフェンダムに魔法巨人が攻め込んだ――
そんな急報を携えた“鷹”が、王都にあるザンブロッタ商会シュターレン王国本店に飛び込んできた。
今度は宗田理先生がお亡くなりになられましたね……。
思いかえせば、小学生の時「ぼくらの七日間戦争」を読んで面白かったのが、小説を読むようになったきっかけでした。
映画は賛否ありましたがw TM NETWORKが歌う主題歌の「SEVEN DAYS WAR」は、今も大好きな曲です。
95歳なので大往生と言っても良いのかもしれませんが、ご冥福をお祈りいたします。
週3~4話更新予定予定。
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