●第172話●見せてもらおうか アバルーシの魔法巨人の性能とやらを
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週3~4話更新予定です。
「魔法を使う時は気を付けてくださいっ!しばらく散魔玉の効果で、制御が難しくなってます!」
勇から更なる注意事項が飛ぶ。
マルセラとリディルは領地で、散魔玉も使った模擬戦をある程度経験しているので慣れてはいるが、初見だと魔法の制御が相当難しくなる。
今回は的も大きくシビアな魔力調整は不要だが、戸惑わないための事前共有だ。
爆裂玉が巻き上げた土煙が立ち込める中、散開したメンバーが注意深く様子を見ていると、その土煙を突き破って一体の魔法巨人が飛び出してきた。
鍛えられた騎士程の速度は無いが、大型の魔物と同程度の速さはある。人が操縦している可能性が高いことを考えると、生物と同等の速度が出せるというのは驚異的だ。
素早く周囲を見回したと思ったら、最も近くにいたシュマイケルに躊躇なく踏み込み手にした槍を振り抜いた。
「うぉっとぉっ!」
思っていたより速い動きで攻撃されたシュマイケルが慌てて躱す。
「コイツ、見た目よりだいぶ速ぇぞ!」
距離をとりながらシュマイケルが叫ぶ。
魔法巨人は、シュマイケルの次に近くにいたリディルに対しても同じように槍を振るった後、後方へ飛び退いた。
そうこうしているうちに、爆裂玉による土煙が晴れてくる。
後方へ下がった魔法巨人の後ろには、上半身だけを起こした状態の魔法巨人が見て取れた。
(わざわざ土煙から出てきたという事は、やはり熱感知と光学映像を切り替えて使うみたいだな……。で、あの倒れている魔法巨人は、手前にいて至近で爆裂玉を受けたほうか。倒れてはいるけど機体へのダメージはそこまででもないか?)
その状況を見た勇が、いくつかの仮説を立てていく。
(散魔玉の効果が出てるかどうかはまだ分からないな……。遠隔式だから電波妨害みたく魔力妨害したら動かなくなるかと思ったけど、少なくとも普通に戦えるレベルでは動けるようだし。燃費が懸念事項だったみたいだから、稼働時間を削れていると思いたいな)
相手がどう動くか様子を見ていると、倒れていた方の魔法巨人がゆっくりと立ち上がり始めた。
飛び退いた魔法巨人は、それを守るように勇たちとの間に立ち塞がる。
そこで勇は一度考えるのを止め、再び指示を出した。
「マルセラさんとリディルさんは、遠距離から牽制を。リディルさん、試しに雷属性を撃ってみますか」
「「はいっ!」」
「ガスコインさんとシュマイケルさんは一当て出来そうですか?」
「そこそこ速いが、まぁいけんだろ」
「ものは試しだな」
「基本的にはタカアシガニの時と似た感じでいきましょう。アイツほど飛ぶことは無いでしょうしね」
「「「「了解!」」」」
あまり細かい指示を大声で出してしまうと、相手に聞こえる可能性が高いのでざっくりとした指示に留める。
皆経験豊富な上、タカアシガニのような古代文明の残滓との戦闘経験もあるので問題無いだろう。
その証拠に、返事をした一同が一斉に動き出した。
露払いをしたのはリディルだった。
素早く回り込むように下がって木に身を隠すと呪文を詠唱し、立ち上がり始めた魔法巨人に向けて死角となる右斜め後方から魔法を撃ち込む。
『雷力弾ッ!』
高速で飛んでいく光球は、まだ周囲を漂っている散魔玉の微粒子で少々減衰されながらも右肩のあたりに直撃した。
バチンッ!
高電圧を思わせる独特の音と共に派手に光をまき散らすが、特に効いた様子はない。
一瞬驚いたように振り返ったが、ダメージが無かったことに安心したのかそのままゆっくりと立ち上がった。
「やはり雷系は効かないようですっ!」
リディルから声が飛ぶ。
「ありがとうございます! 遠めなので表面は見えませんでしたが、土の魔力光が見えたので恐らく優位属性で相殺するウチのマントと同じ仕組みでしょう」
『岩拳っ!』
イサムの返答の直後、今度は魔法巨人の正面からマルセラが弾幕を張った。
握り拳大の石礫が小さな扇形に広がりながら飛んでいく。
ゴゴンッ!ガンッ!
顔を守るように腕を交差させた魔法巨人に石礫が襲い掛かり、金属とはまた違った鈍い衝撃音が鳴り響く。
先程の雷魔法とは違い、装甲に小さな傷やへこみを作った。
「マルセラさん、威力は!?」
「標準威力ですっ! 土魔法は一応効くっぽいですね!」
マルセラが答えた通り、土属性の魔法に対しては防衛機構が働くようなことは無かった。
とは言え、装甲はかなりの強度を備えているようで大きなダメージにはなっていないように見える。
「おらよっ!」
「ほいっ!」
ギギギィィン
そしてマルセラが魔法を放つと同時に別方向から飛び出していたガスコインとシュマイケルが、魔法巨人の左右の足をすり抜けざまに同時に斬りつけた。
「かてぇな!」
「あのカニと同じくらいかっ!?」
土の魔剣であるフェリス1型、それの威力最優先型である強化型で斬りつけた二人だったが、深さ1~2センチ程度の傷をつけるにとどまった。
ギギンッ
立ち上がったばかりの魔法巨人にも斬りつけながら、速度を落とさず背後へと走り抜けた。
1分足らずの攻防を経て、勇たちは2体の魔法巨人を囲むような形になる。
一方の魔法巨人は、何度か顔を巡らせると、まずは先程攻撃を仕掛けて来たほうの魔法巨人が再び向かってきた。
狙いはリディルだ。
鎧を着た人と同じような動きで一気に距離を詰めてくる。大きいだけあって、歩幅の一歩一歩が大きい。
ハルバードのような得物を、木の陰にいるリディル目掛けて横薙ぎにする。
バキバキバキ!
「むっ」
リディルは後ろに飛び退いてそれを躱すが、隠れていた木が周りにあった数本の木と共になぎ倒された。
パワーはかなりのもののようだ。
見通しが良くなったところで、今度は素早く突きを見舞ってくる。
ボボボっと空気を震わせて放たれた突きを、今度は横方向に転がるようにリディルが躱した。
その後も、土属性魔法を撃ち込むマルセラや勇には目もくれず、集中的にリディルを狙い続けている。
倒れていた方の魔法巨人もそれに参戦しようとしていたが、参戦出来ないようガスコインとシュマイケルが爆裂玉も上手く使いながら牽制し続けている。
「なんでリディルさんばかり狙うんだ……? 雷魔法は無効化出来てるんだから、土魔法を使ってくる方を潰すんじゃないのか? いや、待てよ……」
リディルを執拗に狙う相手に対して勇が疑問を感じていると、足止めをしていたガスコインから声が掛かる。
「イサムッ! そろそろ玉が尽きるっ!! このままじゃジリ貧だぞっ!!」
「っ!? 分かりました! ガスコインさん、雷剣に持ち替えて関節部分を狙ってください!!」
「関節だなっ? 分かった! シュー、腕を下げられるかっ?!」
「おうっ!」
ガスコインからの指示を受けたシュマイケルは、すぐに爆裂玉を二個同時に起動させる。
すぐには投げず、爆裂玉を持ったまま魔法巨人の股下を潜り抜けて正面に回り込むと、魔法巨人の顔の左右にひょいひょいと投げ上げた。
それが視界に入ったのか、魔法巨人がボクサーのように顔のガードを固めた。
ドドンッ!
顔の近くで同時に爆発したが、ガードしたこともあってさほどダメージになっていないようだ。
一方これまで常に動き続けてヒットアンドアウェイしていたシュマイケルが、正面に回って足を止めた。
そして上に向けた掌を、クイクイっと自分に向けて動かし挑発する。
この行動に腹を立てたのか、魔法巨人がシュマイケルに対して片手で連続して突きを入れていく。
それを必死の形相で躱したシュマイケルは、相手の最後の一突きに合わせて思い切り剣を振り下ろした。
ギィン!
ドスッ!!
上から叩き落すように斬撃を受けたハルバードが軌道を変え、地面へと刺さる。
「でかしたっ!!」
ここで、シュマイケルが気を引いている間ずっと相手の死角に移動し続けていたガスコインが動く。
地面に得物が突き刺さった事で位置が下がっている、伸びきった肘関節の内側に思い切り雷剣を突き込んだ。
何度か斬り結ぶ中で、膝関節の裏を覆うカバーがかなり硬いことを知ったため、どうにかして腕を下げさせたかったのだ。
バチバチバチィィィッ!!
狙い違わず根元まで関節に埋まった雷剣から電流が迸る。
すると突然全身の力が抜けたように、魔法巨人が膝から崩れ落ちた。
ズズズンッ……
大きな地響きと共に魔法巨人が倒れ込む。
「うお、あっぶねぇ!」
シュマイケルが、自身のほうに倒れて来たのを慌てて躱す。
「やっぱり! こいつらは雷属性が弱点なんですっ! だから鎧も雷属性を優先的に対処するように作られてたんですよっ!」
魔法巨人が倒れたのを見て勇が叫ぶ。
「もう一体もこの調子で……、なんだ??」
残った魔法巨人のほうを見た勇が思わず目を見開く。
黒い光、闇魔法の魔力を表す光が全身から立ち昇るのを勇の目が捉えたのだ。
「何を…………? っ!? マズイっ!!」
一瞬眉をひそめた勇が、何かに思い当たったのか焦りの表情を浮かべる。
ザッ!!
その直後、残っていた魔法巨人が、これまでとは段違いの速さでリディルへと踏み込んだ。
「なっ!?」
リディルも身構えていたためどうにか反応して後ろへ飛ぶが、相手のほうが足も手も長いためすぐに距離を詰められる。
そして凄まじい速さでハルバードを横薙ぎに振るった。
『岩石壁っ!』
ガガガガッ!!
間一髪、斜めに展開された勇の岩石壁の表面を激しく削りながら、ハルバードが斜め左上方へと抜けていく。
しかし斜め上方へ切り上がった勢いをそのままに一回転すると、何事もなかったかのように再びハルバードを構えた。
それを見た勇が、残っていた散魔玉を投げつけながら距離をとる。リディル達も同じように距離をとっているのが、視界の隅に入った。
「くそっ、想定外の速さだ。闇魔法で一時的に重量を減らして速度を上げているな……。このままじゃ時間の問題だぞ……」
勇は独り言ちながら、一気に噴き出してきた汗を拭う。
予想が正しければ、遺跡で見た重量軽減の魔法が実戦配備されているとみて良いだろう。
あの速さであの大きさのものに動かれては、こちらは手も足も出ない。
しかしどうするか脳みそをフル回転させて考えていた勇の思考は、轟音と共に断ち切られた。
ドガァァァッッ!!
勇と魔法巨人の間の空間が弾けた。
「うわっっっ!!」
衝撃と共に巻き上げられた小石や折れた木の枝などが、バシバシと容赦なく勇を襲う。
思わず両腕で顔を守りながら腕の間から覗き見ると、地面にハルバードが突き刺さっていた。
先程の相対していた魔法巨人の手にはまだハルバードが握られているので、犯人ではない。
いったいどこから、と考え始めたところで、勇はそもそも魔法巨人が3体いたことに思い至る。
遠間から投げ込んだのだろうか。
結果としては目の前の魔法巨人と距離を開けることが出来たので、勇たちにとっては助かったとも言える。
こちらを仕留めるチャンスを失う形になった目の前の魔法巨人も、文字通りの横槍に驚いたのか後ろを振り返った。
その隙に更に距離をとろうとしていると、村のほうから地響きと共にもう1体の魔法巨人が走って来た。
黒い光が見えないにもかかわらず、その動きはかなり速い。
折角距離をとれたのだが、あの速さだとすぐに追いつかれる。
いよいよ進退窮まったかと思って見ていると、後から出て来た魔法巨人は雷剣で行動不能になった魔法巨人の近くにしゃがみ込んだ。
確認するように頭部や背面などに触れると、勇たちと対峙している魔法巨人に何やらハンドサインのようなものを送る。
それを見た魔法巨人も何やら激しくジェスチャーを返していたが、やがて手にしたハルバードを大きく一回振り回した。
再び周りにあった木々がなぎ倒される。
勇たちが身構えていると、地面に刺さったハルバードを抜いて肩に担ぎ、くるりと背中を向けて村のほうへと引き返していく。
しゃがみ込んでいる魔法巨人の所まで来て立ち止まると、まるでひと睨みするように顔を向けた。
やがて転がっていたもう一本のハルバードを拾いあげると、合計3本のハルバードを担いで再び歩き出した。
それを見届けた3体目の魔法巨人は、倒れている魔法巨人を抱えて立ち上がり、村のほうへと歩き始める。
しかし数歩歩いてから立ち止まるとくるりと振り返り、ジッと見つめるように勇のほうへと顔を向けた。
暫くそうしてから、再び村へと向かって歩き始めた。
そして村の入り口で合流した2体の魔法巨人は、短いジェスチャーでなにやらやり取りをすると、村の中を突っ切り足早に北へと走り去っていった。
週3~4話更新予定予定。
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