●第169話●侵略者の目的
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週3~4話更新予定です。
「なるほど、遺跡でそんなものを見つけておったのか……」
遺跡で見つけたアバルーシの魔法巨人についての話を聞いて、ルビンダが唸る。
「はい。先程隊長さんが言っていた特徴と一致しています。分析したら何か分かるかもと思って実物を持ってきていますので、後ほど隊長さんに見てもらっても良いかもしれません」
「そうじゃな。全体像と部品では印象が違うかもしれんが、かなり参考にはなるじゃろ。よもや作ることが出来る者たちがいるとは思えんが……」
「ええ、恐らくは稼働する完品が発掘されたのだと思います。どうやって操作方法を知ったのかは分かりませんが」
魔法巨人は、起動さえ出来れば割と分かりやすく効果が発揮される普通の魔法具ではない。
勇のように魔法陣を読めるわけではないはずなので、完全な形で発見されてもそれを動かすのには苦労するはずだ。
「イサムのようなものがおるか、偶然が重なったか、ワシらでも読める操作方法の資料が見つかったか……。色々考えられるが、考えても詮無きことじゃな」
そう言いながらルビンダが瞑目する。
「目的があるとのことだし、そのあたりを探るしかないの」
「まだまだ分からないものだらけですからね。早速今日の午後にでも出発しようと思います」
「そうか。魔法巨人が何十体もおるのが分かっているところへ送り出すのはしのびないのじゃが……。装備的にも知識的にも、イサムらが適任じゃからの」
「元々そのつもりでしたからね、問題無いですよ」
「すまんな。ワシもすぐに王都へ急報を入れて陛下の指示を仰ぐとともに、国境線の守りを固めておく。最悪こちらへ攻め込まれるのは避けねばならん」
「そうですね。まだこちらへ攻めてきたわけではないので、戦力の大きな閣下が独断で動くわけにはいきませんからね。私も後で弱味にならないように、ここからはオリヒメ商会として動きます」
「建前ではあるが……、そのほうが良いじゃろうな」
「では、魔動車の擬装が出来次第、出発したいと思います」
「ああ、頼んだぞ。じゃがくれぐれも無理はするなよ?」
「ありがとうございます」
勇は心配するルビンダと握手を交わして部屋から辞すると、早速出発準備の号令をかけた。
魔動車からはクラウフェルト家の紋章を外す代わりに、オリヒメ商会のロゴである横を向いて座る織姫のシルエットが取り付けられる。
「にゃう」
自身をモチーフにしたマークである事を理解しているのか、織姫が魔動車の屋根の上に乗って同じポーズをして得意げに一鳴きし、作業を手伝ってくれたバルシャム家の騎士達の耳目を集めていた。
鎧は丁度イノチェンティ家で無銘の物を貰っていたので、これで身の周りからはクラウフェルト家を表すものが無くなった。
また、食事を摂ってこれから仮眠に入ろうとしていた偵察隊の隊長にご足労願って脚部を確認してもらったところ、「かなり似ていると思う」との返答を貰った。
全く同じではないかも知れないが、やはりアバルーシに所縁のある魔法巨人である可能性が非常に高そうであった。
こうして準備を整えたクラウフェルト家改めオリヒメ商会一行は、プラッツォとの国境近くにある町へ向けてバルシャーンを出発した。
途中一泊して翌日の午後には、国境最寄りの町へと到着する。
偵察隊からの一報がもたらされているので、街は緊張感が漂っているのと共にどこかざわついていた。
兵士の詰所で最新の状況を確認したところ、引き続き街道には魔物が出ており、自称アバルーシ巨兵団にも目立った動きは無いとの事だ。
一気呵成に大都市を一つ占領しながらその後は沈黙しているのが不気味さを感じるが、状況が悪化しているわけではないので一先ず良しとして、当初の予定通りクラウフェンダムからの魔動車を待つことにする。
魔動車の足であれば、なにかイレギュラーが無ければ明後日までには到着するはずだ。
それまでは休息をとりつつ、風呂馬車に併設している移動工房で魔法具を追加生産したり、土属性の魔法鎧の魔法陣を解読したりしながら過ごすことにした。
ちなみに、真っ先に魔法巨人の脚部を分解調査しようとしたのだが、手持ちの工具類では上手くばらせそうになかったので断念するしかなかった。
「にゃっ」
キン!
「おっと」
「にゃにゃにゃ」
キキン!
「ほいっ」
「にゃにゃー」
ゴスッ
「ぐふっ!?」
「にゃっふ」
「こらっオリヒメ! 寸止めって約束だったじゃねぇか! くっそう……、あん? なんか騒がしいな」
翌日、魔動車に乗らなくてすむことでご機嫌のガスコインが、門の脇にある衛兵宿舎の中庭で、織姫とどう見てもガチの戦闘訓練のような自称“じゃれあい”をしていると、門のあたりが何やら騒然としている事に気が付く。
「何でしょうか? 誰かが来たような感じでしたが」
「ちょいと見て来るぜ」
「ああ、私も行きます」
ガスコインと、じゃれあいを眺めていた勇が連れだって門の方へと歩いていった。
「アバルーシの奴らは来ていないのですか!?」
「ええ。書状を渡されただけで、奴らは来ていません」
そこでは、見慣れない鎧を着た数名の騎士が、この町の騎士に囲まれて質問攻めにあっていた。
「ありゃあプラッツォの騎士だな」
「と言う事は、占領されたところからの使者でしょうかね……」
「書状がどうとか言ってたからな。逃げてきたってわけじゃないわな」
各地を転戦しているガスコインがすぐに正体を教えてくれる。
「ここと、フェルカー侯爵領側の国境にも、同じように派遣されているはずです」
「そっちにもか! 内容は同じなのですか?」
「奴らは同じだとは言っていましたが、中身を見る事が出来ないので未確認です」
状況や聞こえてくる会話内容からして、どうやら自称アバルーシ巨兵団からの書簡を届けに来たようだ。
色々と聞きたいところではあるが、下手に会話に参加するとややこしくなるので、勇は会話が終わるのを大人しく待つことにする。
「確かに受け取りの魔法印を確認しました。それでは我々はカポルフィへ戻ります。書簡を渡したという証拠を持ち帰らないと、街がどうなるか分からないので……」
30分ほどで一通りの質疑が終わり、少し前にこの場へやって来たこの町の代官から、魔法印入りの受け取り証明が手渡された。
「お、話は終わったようですね。ではちょっと行って来ます」
その様子を一歩引いた場所から見ていた勇が、前へと出ていった。
「すみません、二つだけお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「あなたは?」
急に出てきた勇を見て、プラッツォの騎士が怪訝な顔をする。
「初めまして。私は貴国に大店を構えていらっしゃるザンブロッタ商会と魔法具の専売契約を結んでいるオリヒメ商会で会長を務めているイサム・マツモトと申します」
「イサム・マツモト!? ではあなたが迷い人の……」
その名を聞いた騎士が目を丸くする。
「おや? 貴国にも迷い人の話は伝わっているのですね」
「いや、失礼しました。迷い人であるからと言うわけではなく、先般マツモト様が公表された能力の内容が衝撃的でしたので、お名前と共に我が国の貴族にもそれが伝わり、我々のような騎士の耳にも入っておる次第です」
「あーなるほど、そういうことでしたか」
「して、ご質問とは?」
「一つ目は、どうやってここまでいらっしゃったのでしょうか? 街道沿いにはかなりの数の魔物が出ていると伺っていたのですが?」
「我々は3騎だけですので、魔物のいない森の中へ迂回してきました。仰る通り、街道にはまだ魔物がおりますので……」
「なるほど、ありがとうございます。ではもう1点。先程申し上げた通り、我々はザンブロッタ商会と専売契約を結んでおります。カポルフィにはかなり大きな支店があったと思うのですが、そちらは大丈夫なのでしょうか?」
「確かにかなり大きな店舗がありますね。残念ながら私達は当時領主の館におり、あっという間に巨人に制圧・軟禁されてしまったので確認できていません。ただ、入ってきている情報とこちらへ来るときに見た街の状況から、今の所住民に大きな被害は出ていないと思います」
「そうですか……。分かりました。もし、商会のものと話が出来るチャンスがあれば、私が心配してこの町まで来ているとお伝えください」
「承知しました。とは言え、我々も出歩くことはほとんど出来ないので、難しいところではありますが……」
「いえいえ。私の我儘ですし、可能であればでかまいません。ありがとうございます、お聞きしたい事は以上です。すみません、足止めをしてしまいまして」
「いえ、心配されるのはごもっともだと思いますので……」
騎士は申し訳なさそうにそう言うと、それでは失礼しますと踵を返してカポルフィへと戻っていった。
「すみません、お時間いただいてしまって。して、書状にはなんと?」
勇は軽く頭を下げた後、書状を見ていた代官と衛兵部隊の隊長に声をかける。
「賊の目的と言うか占領解除の条件が書かれておるのですが……。これは、どう受けとめたものか……」
眉間にしわを寄せた代官が、勇に書状を手渡す。
「失礼します…………。ほぅ、なるほど」
書状に目を通した勇の表情も厳しいものとなる。
「どれどれ? ……なんだこりゃ?」
その勇の肩越しに、ガスコインがひょいと覗き込んで唖然とする。
「御大層な書きっぷりだが、ようは自分たちに無いものが羨ましいって文句つけてるだけだろ……」
「あはは、やっぱりそう思いますか?」
苦笑しながら勇が言う。
書状には、アバルーシ巨兵団名義で、次のような内容が書かれていた。
『昨今の大国による魔法具技術及び製造販売の独占を背景とした富の集中は、目に余るものがある。
加えて需要が高まる一方である魔石が産出する事を当たり前のように享受するばかりか、その独占的地位を利用した価格の吊り上げ行為は甚だ遺憾である。
我々アバルーシ巨兵団は、その不公平・不均衡を是正すべく、どの国家・勢力にも属さぬ独立機関として立ち上がったものである。
以てここに、各国に対しての要求事項を認める。
魔法巨人を擁する我らの実力は、一日で大きな街を占拠したことで周知のものであるが、無辜の民を巻き込んだことは慙愧の念に堪えない。
我らの要求にこたえる限りこれに手を出さぬことは確約するが、そうではない場合持てる力を存分に発揮する事に一抹の躊躇いも無いこともまた事実である』
そして、各国向けに書かれている要求事項のうち、シュターレン王国に対してはこのように書かれていた。
『ひとつ。秘匿魔法具と称してその恩恵を独占している各種魔法陣の公開。
ひとつ。魔石産出国として、各種魔石の採掘原価による供出。特に、唯一の産出する無属性魔石の大量供出。
何れも、アバルーシ巨兵団が独立機関として預かった後、公正に分配するものとする』
「……マツモト殿はどうお考えになりますか?」
顎に手をやりながら思案する勇に、代官が尋ねる。
「基本的にはお話にならない要求ですね。少なくとも、世を憂う善意の独立勢力によるものでない事だけは確かです。間違いなくどこぞの国のスケープゴートでしょうね」
悩む素振りもなく勇が即答する。
「一見、格差を是正するための正論に見えなくもないですが、世の中全ての国が等しく平等などと言う事はあり得ません。確かに魔石を産出する所とそうじゃない所があるのは不公平かもしれませんが、それを補う努力をしなくても良いという話にはなりません」
なおも勇は言葉を続ける。
「もう一つ言うと、魔法具やら魔石やらを不公平と謳いながら、軍事力・武力による不均衡にほとんど言及していないのが何より胡散臭いんですよね」
ぐるりと周りを見回すと、皆小さく頷いている。
「ただ分からないのが、少し考えれば誰もがおかしいと思える主張を元に、彼らがなぜリスクを冒してまで実行に移したのかです」
「追従する国や集団を期待して、ってことじゃないのか?」
少し思案してガスコインが言う。
「最初はそれも考えましたが、他国、いやシュターレン以外への要求があまりに適当なんですよ。例えば疑惑のズンへの要求なんて、過剰な魔法具の近隣国への提供と、帝国との協力体制の緩和ですからね」
「確かになぁ。んなもんあってないような要求だわな」
「ですよね? 占拠した場所がプラッツォであることもそうですし、ほぼシュターレンへ向けた策略と考えて間違いないと思います」
勇がそう結論付ける。
「ただ問題はその目的です。魔法陣はまだ分かりますが、無属性の魔石を集めてどうしようというのか……。おそらくそれが狙っている成果なんですが、その目的が分からないのが何とも気持ち悪いんですよね……」
苦虫を嚙み潰したような表情でそう言うと、勇は小さく肩をすくめた。
週3~4話更新予定予定。
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