●第168話●偵察部隊の帰還
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週3~4話更新予定です。
イノーティアを出発した勇たちは、進路を北東へ取り街道を進んでいく。
このあたりの領都間の移動は、ルサルサ、メーアトルの両大河を使った船による輸送が多いため、街道の交通量は少ない。
快調に魔動車を飛ばして、初日の日暮れごろにはお隣のバルシャム辺境伯領の町へと到着した。
領境から少し進んだこの町は、ズンとの国境付近で発生数が増えている魔物を討伐する部隊の本部が設けられているとの事なので、勇はアンネマリーとフェリクス、ガスコインを伴って挨拶と情報取集に出かけた。
「あーー、酷い目にあったぜ。まだ世界が揺れてやがる……」
右手でこめかみのあたりを押さえながらガスコインがぼやく。
織姫により平和的に魔動車に積み込まれた後、一時間ほどで目を覚ましたのだが、逃亡未遂の前科ありとの事で今日は一日簀巻きのまま輸送されていた。
「あはは、災難でしたね。明日は大人しく普通に乗ってくださいね」
勇が苦笑しながらガスコインに言う。
「ああ。さすがに簀巻きはこりごりだぜ」
今度は首をコキコキと鳴らしながら渋面をした。
本部として借り上げているという宿屋へ到着すると、ルビンダ・バルシャム辺境伯の長男であるメレンザが出迎えてくれた。
「よく来てくれたな、マツモト殿。おやガスコイン殿もいるのか」
「初めましてメレンザさん。ガスコインさんとお知り合いなんですか?」
「ああ。ウチを含めて辺境伯家の騎士団は、定期的にエリクセン家の闘技場で合同演習をしているからな。中隊長以上は顔見知りが多いはずだ」
「お久しぶりです、メレンザ様」
相手が辺境伯の長男とあってか、ガスコインもよそ行きの挨拶をする。
「まぁ掛けてくれ」
メレンザにすすめられて着席すると、早速お互いの情報交換が始まった。
「なにっ!? プラッツォに魔法巨人だと!?」
勇たちが立ち寄った理由を聞いたメレンザの声が思わず大きくなる。
副官だろうか、斜め後ろに立つ男も驚愕の表情を浮かべていた。
「はい。どこの所属かもハッキリしておらず分からないことだらけなので、大急ぎで向かっているところなんです」
「むぅ、よもやそんなことになっているとは……。ズンの仕業だとすると辻褄は合うのだが……」
国境近辺の魔物は依然として普段より数が多いらしく、まだこちらを手薄にするわけにはいかないらしい。
もし魔物をこちら側へ送り込んでいるのも、魔法巨人で攻め入ったのもズンなのであれば、説明がつく。
すなわち、プラッツォの国境付近を守るバルシャム家の目と戦力を南部へ向けるための陽動――
「どうやって魔物を誘導しているかも不明だし、魔法巨人も現時点では所属不明では文句も言えんか。それにズンの仕業でもそうではなくても、魔物を放置しておくわけにもいかんしな」
メレンザが渋い表情で言う。
「この後時間がある限り、そちらの槍を魔法具に改修しておきますね。10本程度しか作れないでしょうけど、せめてもの足しにしてください」
「魔法具に改修する? ……そうか、そう言えばマツモト殿は魔法陣が読めるんだったな。ありがたい話だが良いのか?」
「ええ、問題ありませんよ。今は少しでも早く倒すのが肝心だと思うので」
「分かった。言葉に甘えさせてもらおう」
「では何本か槍をお借りしますね。明日の朝にお返ししますので」
勇はそう言って席を立つと、手配してもらった槍を受け取って本部となっている宿を後にした。
翌朝、魔法具に改装した10本の槍をメレンザへ渡すと、勇たちはバルシャーンへ向けて再び車上の人となった。
さすがに懲りたのか、ガスコインも今回は大人しく乗車している。
途中でもう1回町で宿泊をして走ること3日目の夜、どうにかバルシャーンヘと到着した。
前回同様夜の到着だったが、この世に二つとない魔動車のことを覚えていた衛兵がすぐに気付き、今回はスムーズに街へと入ることができた。
遅い時間だったため翌日午前の早い時間にアポイントをとってもらい、この日は連日の移動疲れもあって早々に宿で就寝する。
そして迎えた翌朝、ルビンダ・バルシャム辺境伯の館へ報告と相談に向かった。
「なんと!? プラッツォに魔法巨人が?? ぬぅ、ここ最近、プラッツォからの流通が減ったから怪しんではおったが、そこまでとはの……」
分かっている範囲で状況を説明すると、ルビンダは悔しそうに顔を歪めた。
「ズンの仕業である可能性は高いものの、謎の魔法巨人というのも気にかかります。なので、まずは状況確認を最優先にと思って、ここまで飛ばしてきました」
「うむ。ズンの侵攻であることが確認できるか、プラッツォから救援依頼がない限り、迂闊に手も出せんからの……」
せわしげにソファのひじ掛けを指でトントンと叩きながらルビンダが続ける。
「ザンブロッタ商会じゃったか? 一刻も早く確認したいのは分かっておるが、一週間ほど前ナザリオに早馬を出すのと同時にプラッツォにも偵察部隊を出しておる。もうそろそろ戻るはずじゃから、その一報を待ってはどうじゃ?」
「そうですね……。状況も分からず突っ込むよりは、事前の情報があったほうが助かるのは間違いないですしね。分かりました、少し待ちます。ただ、あと4~5日でクラウフェンダムからの魔動車部隊が国境付近に到着するはずです。そのタイミングで現地にいたいので、3日を期限とさせてください」
「なに? 魔動車の部隊じゃと!?」
「まだそこまで数は多くないですが量産は開始していますので、半数をこちらへ派遣してもらえるよう鷹の帰り便でお願いしているんです。ここバルシャーンにも、同じくらいのタイミングで何台か到着するはずです」
「なんと、ここへもか!?」
「はい。今回は前線がプラッツォの国境から近いので、ここバルシャーンからの戦力と情報提供が肝になると思っています。魔動車があれば、人や物の輸送速度や頻度を多少は上げられるのではないかと」
「確かに早馬と同じくらいの速さで馬車と同じくらいの輸送能力があれば、かなりの効果が見込めるが……。前にも聞いたんじゃが、そんな簡単に投入してしまって大丈夫なのか?」
「ええ、問題ありませんよ。使わなければ宝の持ち腐れですし。それに今回はウチの専売商会の問題に対応するために、ルビンダさんやナザリオさん達から戦力をお借りする事になると思うので……」
「魔法巨人が同盟国の町を襲ったとなれば、それはすでに一商会の問題ではなく国際問題じゃ、何も気にすることは無い。ここからは共闘じゃ」
勇の詫びに首を振ると、ルビンダはニヤリと笑って見せた。
「心強いお言葉ありがとうございます」
勇が深々と頭を下げる。そして顔を上げるとこう続けた。
「では偵察部隊の戻りを待つ間に、少しでも兵器を増産しておきます。もし館に工房があればお借り出来ないですか?」
「……やはりカポルフィだけでは終わらんと見るか?」
「占領地を増やすかどうかは分からないですが、単に占拠して終わりとは思えません」
「……分かった。この後すぐに案内させよう」
「ありがとうございます」
案内された工房では、早速その日の午後からエトとヴィレムによって爆裂玉をメインに魔弾砲と散魔弾の製造を開始した。
また勇は、遺跡で見つけた魔法陣を使って新たな魔法具を試作する。
「今度は何を作るのですか?」
「先日のパスワードの入力装置に、押された事を検知する魔法陣があったから、それを応用した魔法具をちょっとね。相手が魔法巨人なら効果的ではあると思うんだけど……」
アンネマリーの問いかけに、珍しく歯切れの悪い答えを返す勇。
「出来ればあまり使いたくない類の魔法具なんだよね……」
地球において、それに似たものが引き起こした悲劇を思い起こしてしまう。
「だから、これはエトさんやヴィレムさんにも作り方は教えない。そして使わないで済むことを祈るよ」
そう言いながら勇は、10個ほど作ったそれの魔法陣にメッキによる秘匿処理を施していった。
翌日も丸一日、勇とエトとヴィレムは借りた工房で魔法具を作り、残りのメンバーはバルシャム家の騎士達と訓練を行って過ごした。
そして翌朝。ルビンダも交えて朝食を摂っていたところに、偵察部隊が遂に情報を持ち帰って来るのだった。
「なんじゃと? それは間違いないのか?」
戻って来た偵察部隊の報告の冒頭を聞くや否やルビンダが思わず聞き返す。
「はい。複数名からの証言が一致しているので間違いありませんし、魔法巨人や鎧に刻まれていた紋章も確認しました」
「むぅ……。何故今になって滅びたはずのアバルーシが……」
ルビンダが戸惑うのも無理はない。
偵察部隊からの報告によると、街を占拠した者たちはアバルーシ巨兵団だと名乗っているのだという。
それを裏付けるように、同家の紋章が鎧や旗に記され、30体ほど確認されたという魔法巨人にもその紋章が刻まれていたのだとか。
イノチェンティ辺境伯領ほどではないが、この辺りでもアバルーシ国の話は伝えられており、見間違いなどではないらしい。
ズンや大規模な野盗の類だったのであれば納得もしやすかったのだが、よりによって遥か昔に滅びた国の名を騙る連中の手によるものだというのだからたまったものではない。
「いや、一旦今はそれは置いておくか。考えて答えが出るわけでもないからの……。すまんな、続けてくれ」
報告の早々に話を止めたことを詫びて、ルビンダが先を促す。
「はっ。では改めまして……。まず占拠されたのはプラッツォ南部最大の街カポルフィ及び、その周辺の街道沿いの村や町5ヶ所程度と思われます。占拠した相手は先程申し上げたようにアバルーシ国を名乗っております」
今回偵察部隊は、プラッツォからの人流・物流が急に滞り始めて五日目に送り出された一個小隊からなる部隊だ。
二日かけてプラッツォとの国境付近にある駐屯地へ到着、その後一日半かけて最も国境に近いプラッツォの町ピッチェへと辿り着き、そこで噂通りピッチェから北へ伸びている街道に魔物が出ていることを知る。
ピッチェでも、北からの物流が途絶えたことを不審に思い、街の守備兵が街道の調査に乗り出したことでつい先日事態を把握したそうだが、魔物の数が多くて下手に手を出せずに困っていたらしい。
魔物の状況を調査すべく再び街道を一日半北上したところで、件の魔物と思われる群れと遭遇する。
1小隊で正面から当たって勝てるような数では無かったため、1分隊を別動隊として切り離し街道から外れたところからその先へと向かわせた。
残った3分隊は、魔物がこれ以上南下してこないよう街道を見張りながら魔物の間引きにあたる。
魔物の群れをやり過ごした分隊が再び街道を北上していくと、次の町の門が壊され見慣れたプラッツォのものでは無い旗がはためいており、街の入り口に2体の巨人が立っているのを発見する。
旗に描かれている紋章がアバルーシのものに似ていることに気が付くが、2つある門にはどちら側にも巨人が立っており、簡単に入り込めるような隙は無い。
そこで2名を潜入工作員として残し、他の3名はこの街をスルーしてさらに北へと進んだ。
先へ進んだ3名が、プラッツォ南部の大都市カポルフィにつくと、やはりそこにもアバルーシの旗と巨人の姿があった。
1名をさらに北へと向かわせ、残る2名が夜になるのを待ってカポルフィへ潜入すると、そこかしこに戦闘の跡と思われる壊れた建物や血痕があり、街中をアバルーシの紋章の入った鎧を着た兵士が警戒していた。
住民たちは皆自宅に引き籠っている感じだが外出禁止令が出ているわけでは無いようで、時折怯えながらも最低限開いている店へと買い物に出かける姿を見る事が出来た。
門や城壁を除いて兵力が集中していたのが、領主の館と思われる小さな城のような建物と、貴族や大商人のものと思われる大きな館、そして3軒ある大店の商店だった。
丸一日かけて、住民への聞き込みや確認できる範囲での潜入で得た情報を総合すると、つい三日ほど前に突然30体ほどの巨人と3~400人程の兵が突然街を襲撃したようだ。
カポルフィ側も当然門を閉めて防衛に当たりつつ、王都へ向けて早馬を出す。
しかし巨人の威力は凄まじく、あっという間に門を破壊され侵入を許してしまった。
その後、真っ先に領主の館へ向かった敵は交戦の末これを占拠。それと並行するように大きな館と大店を瞬く間に制圧してしまったという。
交戦したプラッツォの兵に犠牲者は出たものの、投降した者は武装解除されて領主の館へ集められているらしい。
住民にも戦闘の余波で建物を壊されたりしたものは出たが、死傷者はほとんど出ていないという。
そして「我々はアバルーシ巨兵団。とある目的のためにこの街は占拠した。抵抗しなければ危害は加えない。我らの目的が成就するまで冷静でいることを期待する」という最初のメッセージを占拠二日目に出して以降、今の所追加のメッセージは出ていないらしい。
「偵察を終え、北へ向かわせた者と街道沿いの町に残した者と合流して情報をすり合わせたところ、周辺の町がいくつか同タイミングで襲われた事が判明しました。ご報告は以上です!なお、現地およびその近隣には2分隊を残し、引き続き情報収集に当たっております」
「……偵察ならびに報告ご苦労じゃった。また後から色々聞くことになるとは思うが…この時点で何か質問があるものはおるか?」
全ての報告を聞いたルビンダが偵察部隊の隊長に労いの言葉をかけつつ、皆を見渡す。
「すみません、2点よろしいでしょうか?」
勇がすっと手を挙げる。
「まず1点目。その占拠された大店にザンブロッタ商会、ああ、こんな紋章の商会です。それがあったと思うのですが、商会員の安否に関して何かわかった情報は無いでしょうか?」
勇の取り出した商会の紋章を見てから、隊長が答える。
「…確かにその紋章の商会も占拠されておりました。店が開いていませんでしたので、中を窺うことはできませんでしたが、壊されたり火の手が上がっているような事は少なくともありませんでした」
「なるほど……」
隊長の答えに小さく勇が頷く。
「ではもう1点。その巨人の見た目はどんな感じでしたか? 鎧の雰囲気や色、大きさなど、覚えている範囲で構いません」
「見た目、ですか? そうですね……、色は濃いベージュが中心で所々他の色が混ざっていました。鎧はかなり直線的でごつごつした感じで、武器は槍や槌のようなものが多かったように思います。ああそれと……」
何かを思い出したのか、一度言葉を切ってから再び続ける。
「巨人の話とは関係無いのですが、占拠された建物の庭や町の広場などに大きな天幕が設営されていて、そこに何本も柱が立ったものが運び込まれていたとの事です。複数の兵士が警戒に当たっているため、中を直接見てはいませんが……」
何のためのものかは分かりませんが、と首を小さく振って隊長の回答が終わった。
「……分かりました。どうもありがとうございます」
「よし、ご苦労。では下がって休息をとってくれ」
「はっ! 失礼いたします!」
隊長が下がったのを見て、ルビンダが再び口を開いた。
「イサム、何か分かったのか?」
「アバルーシと名乗っているのは、存外根拠のない出鱈目などではないかもしれません……」
勇はそう答えると、イノチェンティ辺境伯領で先日潜った遺跡の話をあらためてルビンダに伝えるのだった。
週3~4話更新予定予定。
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