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●第166話●もう一つの部屋

ブックマーク、評価していただいた皆さま、本当にありがとうございます!!

週3~4話更新予定です。

「ああそうだ。あと、やっぱり遠隔操作方式の魔法巨人(ゴーレム)だったっぽいですね」

 ほとんどが重量軽減のための魔法陣の下書きだったのだが、1枚だけ受信した魔力を動きに変換していると思われる魔法陣の一部が混ざっていたのだ。

「重量軽減の魔法陣に、遠隔操作、それと小型化もしていそうだったことを考えると、より小さな魔力で動かせるようにしようとしていたんじゃないかなと思うんです」

「小さな魔力で、か?」

「ええ。人と同じ程度まで小さくするとかだと話は別ですが、そうじゃないですし。魔動車を作っていて思い知ったんですが、重い物を動かそうと思うとかなり魔力が必要なんですよね…」

「確かにのぅ」

「ごく簡単な動きしかしない魔動車ですらそうなんですから、複雑な動きをする魔法巨人(ゴーレム)だったらもっと影響が大きいんじゃないかと思うんですよ」

「じゃが、元々はその重くて大きいヤツが動いとったわけじゃろ?」

「ええ。なので、動かすために使える力の上限が下がったか、使える魔力の絶対量が減ったのか、もしくはより長時間動かせるようにしたかったのか……。いずれにせよ、重いままだと不都合な理由が出来たんでしょうね」

「なるほど……。で、それをある程度解決できたからアバルーシは精強な軍を作ることが出来たということかい?」

「かもしれませんね。…もしくは、解決しようと頑張ったが間に合わず逃げたか、ですね」

 地球においても、戦争が技術を発展させるという皮肉な事実がある。

 今以上に激戦区であったこの地域だ。かつては、戦争の為の魔法具開発競争の最前線だったのかもしれない。


 この研究室だけでも随分とお腹いっぱいになった感があるが、まだもう一つ部屋が残っている。

 一行は、中央の通路を挟んで反対側にあるもう一つの部屋へと移動した。


「こっちは素材の研究をしていたのかな??」

 ぐるりと室内を見渡したヴィレムが呟く。

「そんな感じですね。物が多いから、持ち出せなかったものも向こうと比べると多いですね」

 こちらの部屋には、勇の言う通りそこそこ物が残っていた。

 ぐるりと外周を取り囲むように棚があるのは同じだが、手前にある大きめのテーブル以外は棚で埋まっていた。

 棚の中には様々な素材が並べられている。金属系の素材が多いように見えるが、魔物のものと思しきものも多そうだ。

 種類が多い分個々の素材の量はさほど多くはないので、ヴィレムの言う通り研究がメインだったと思われた。

 持ち出せなかったというよりは、少量だから捨て置いたという方が近いかもしれない。


「ふむ……。量は少ないが、なかなかに貴重な素材も置いてあるの」

 ざっと一周棚を見て回ったエトが言う。

「おお、そうなんですか?」

 素材の良し悪しなど分からない勇が尋ねる。

「うむ。魔銀(ミスリル)も各種揃っとるし、ウーツ鋼やら紺碧金やら、滅多にお目にかかれんもんもあるぞ」

 またぞろ知らない名前が出てくるが、勇としてはそうなんですかとしか言いようがない。

「この調子じゃと、魔物系も結構なもんがありそうじゃが……。あいにくとそっちは専門外でわからんから、持って帰って冒険者ギルドあたりに持ち込むのが良いじゃろうな」

「分かりました。こっちは分かりやすいお宝という感じがして良かったですよ」

「まぁ量が少ないから、使いどころは難しいがの」


 そんなことを話しながら、興味深く勇が棚を見て回っていると、部屋のどこかから「にゃーーー」という織姫の声が聞こえてきた。

 シャカシャカかりかりと、何かを引っ掻くような音も聞こえてくる。

 音のする方へ行ってみると、床の上に積み上げられたスーパーの買い物カゴくらいの大きさの箱を織姫がしきりに引っ掻いていた。

「どうしたんだ姫? 何か気になるものでもあるのかい?」

 そう言って3つ積んであった箱の一番上の蓋を開けてみる。

 そこには、ややいびつな形をした銀色の金属のような塊がゴロゴロと入っていた。


「なんだ? なんかの金属か……? でもどっかで見たことあるような気がするなぁ」

 勇がその中の一つを持ち上げて、あれこれ角度を変えて眺めていると、織姫が箱の上にぴょんと飛び乗ってきた。

「にゃにゃにゃにゃふーー」

 そして何事か呟くと、金色の魔力が織姫の前足で薄っすら渦巻き始めた。

「姫っ!? 何を??」

 驚く勇。対する織姫は、慌てることなく魔法を止めてからしゅしゅっと前足を数回交差させた後、勇が手に持つ金属塊をちょいちょいとつつく。

「んん? 何を伝えようとして……。あーーーっ!!!! もしかして……」

 首を傾げていた勇だが、何か気付いて大きな声を出した。

「なんじゃ?」

 声に気付いたメンバーが勇の所へ集まってくる。

 当の勇は金属塊を持ったまま目をつぶってブツブツ言っていた。

「やっぱりだ!!」

 そして目を開くと、再び大声を上げた。

「おおぅ!? 急にでかい声を出すんじゃないわい」

「ああ、すみませんエトさん。でもこれは大収穫ですよ、大収穫!!」

 そう言って塊をエトに渡す。


「んん? 何かの金属か? でもどこかで……」

 エトも見覚えがあるのか首を捻っている。すると勇が、エトの持っている金属塊に手を置いて目を瞑った。

「何をし、て、ぬぉぉぉっ!?」

 エトが慌てて声を上げると同時に、勇が手を放してニヤリと笑った。

「コイツはひょっとしてメタルリーチかっ!?」

「ええ、その通りです。多分この3箱全部そうなんだと思います。これは相当なお宝ですよ?」

「この箱全部か!? ひと箱に……5匹分くらい入っとるの! しかも状態も良い……。たしかに大収穫じゃな」

 箱の中を見てエトが目を丸くした。


 最後の最後で、物理的なお宝を発見した勇達一行は、もう一泊しながら何度かに分けて見つけたものを全て運び出す。

 そして遺跡から出る前に、念のため土壁で再び道を塞ぐことにする。

「元々あったような同じ材質の壁を作ることはできませんが、研究施設の扉を開けるセキュリティカードは我々が持っていますし。まぁまず大丈夫でしょう」

 残念ながら、クレーンは読めない魔法陣な上重すぎて運べないので、また別途運び出すことにして、イノーティアへの帰途へとつく。

 こうして三泊四日の遺跡探索ツアーが終了した。



「こんなものが遺跡の奥にまだあったのですか!?」

 行きに案内をしてくれた騎士が帰りも迎えに来ていてくれたのだが、貨物用の魔動車の荷台から少し飛び出ている魔法巨人(ゴーレム)の脚を見て驚く。

 遺跡の入り口を守っている衛兵も、昨日これを持ち出した時は驚きすぎて絶句していた。

「ええ、隠し部屋がまた見つかりました。公表するかどうかについてはイノチェンティ閣下のご判断に任せるので、どうかそれまではご内密にお願いしますね」

 閑職と思われていた遺跡の守衛が、にわかに重要任務になったとあって、衛兵たちは真剣な表情でコクコク頷き、騎士も神妙な顔で頷いた。


「荷物も増えたことだし、俺は馬で帰るぜ。先に行っててくれ」

 そう言って嬉しそうに颯爽と馬に跨ったのはガスコインだ。

 確かに思わぬ大物に加えて金属素材を回収したため、少々積載量をオーバーしていたのは事実だ。

 しかし多少速度が落ちるくらいで、移動自体に大きな影響はない。

「……行きも青い顔をしてたっすからね」

「ああ。遺跡に入る前に何やらあちらの騎士と話をしていると思ったが……。馬を用立てていたのだな」

 嬉々として馬に乗るガスコインを生暖かい目で見ながらティラミスとミゼロイが言葉を交わす。

 鬼の団長の馬車・魔動車酔いは、やはり筋金入りのようだ。

 そんなガスコインをからかうように、織姫が「にゃっにゃっ」と言いながらガスコインの頭に猫パンチをお見舞いするのだった。


 行きと同じく四時間ほどかけてイノーティアへ戻って来た時には、大きく午後を回った時間だった。

 しかし、前日に荷物を運び出し始めた段階で早馬が出ていたため、一行はそのままイノチェンティ辺境伯の館へと通される。

「まずは無事の帰還、ご苦労だったな。まぁイサム達にエレオノーラ嬢ちゃんとこの傭兵が二人ついてるから、滅多なことはおきんだろうがな」

 笑いながらナザリオが出迎えてくれる。

「しかし毎度毎度イサムはとんでもないもんを見つけてきよる……。前回が腕で今回が脚か。どうだ? あと三回くらい潜らんか? それで全身が揃うと思うぞ」

 なおも笑いながらナザリオが言う。

「いやー、たまたまですよ、たまたま。狙って見つけられたら嬉しいんですけどね」

 勇が頭を掻きながら答える。

 その後、無属性魔石が全属性魔石であった事のみ伏せて、遺跡であった事、見つけたものを勇が報告していく。

 さすがに全属性魔石発見については、領主であるセルファースの判断を仰がずに口外するのは憚られたためだ。

 ガスコインたちにも、そこだけは強く言い含めてある。


「しかし、こんなところでアバルーシ国の話の裏取りが出来るとはなぁ」

 闇魔法の実在証明や遠隔操作する魔法巨人(ゴーレム)が実用化されていたことなど、多くの発見に驚いていたナザリオだったが、一番印象に残ったのはそれらをアバルーシ国がやっていたことだったようだ。

「アバルーシについては、半分英雄扱いする話もあるのよ、このあたりでは」

 一緒に話を聞いていた、ナザリオの妻フルーリエが説明してくれる。

「戦乱に拍車をかけた戦犯国のような扱いを受けることもあるけど、戦に勝っても領土を拡大することはなく、一般人には手を出さない義賊的な国だったとも言われているの」

 フルーリエによれば、一国の力が大きくなりそうなタイミングでことごとくその国に痛打を与えるのがアバルーシだったようだ。

 そしてこの地域で覇を唱えようとしていた国は、戦争にしか興味が無いような国が多かったのだとか。

 アバルーシは、戦に勝利して得た利益を、そういった国から逃げて来た人の支援にも使っていたという言い伝えが残っているらしい。

 しかし最終的には、多勢に無勢だったのかアバルーシは滅ぶことになってしまった。

「そして後にズンやケンプバッハとなる、アバルーシに散々煮え湯を飲まされた国々は、こうした事実を記録から抹消して彼らを悪役に仕立て上げたんじゃないかしら」

「なるほど……。そんな経緯があったんですね」

「シュターレンはさほどアバルーシには攻撃されなかったからなのか、こういった話も伝わっているの。弱者を助けつつも滅んでしまった悲劇の英雄国家として、吟遊詩人も歌ってるくらいよ」

 もっとも今となっては、どっちが正しいのかは分からないけどね、と言ってフルーリエは話を締めくくった。

 精強な軍をもった国が大きくならなかった事を不思議に思っていた勇だったが、なるほどそんな理由があったのかと納得するのだった。


 その後、ナザリオから周辺国に新たな動きがあったと報告を受ける。

「つい昨日、ルビンダから早馬が来た。ここ最近、プラッツォ王国からの物と人の流れが極端に減ったそうだ」

「プラッツォからの、ですか?」

「うむ。我が国の国境付近の町からの流通だけは止まっておらんのだが、内陸からの流通がほぼ無くなった、とな……」

 プラッツォ王国は、ここシュターレン王国とズン共和国の両方と国境を接している国だ。

 シュターレンとは長年良好な関係を築いている友好国で、シルヴィオのザンブロッタ商会もプラッツォに本店を構えている。

 ズンと戦争状態だったこともあるが、50年ほど前に終戦合意して以降は良好とはいかないまでも紛争の類は起きていない。

「プラッツォ側の国境付近の町にぎりぎり辿り着けた商隊が言うには、街道に魔物の群れが出たそうだ。それも複数箇所同時に……。ただ情報が少なすぎて状況が把握できておらんようでな……。南の国境沿いの魔物の増加と合わせて、ズンの企てやもしれんとルビンダが報告してきおった」

「……ズンの企て」

「真偽を確かめるべく、偵察部隊を出しておるそうだから、それが戻ればもう少し状況が見えるだろう。また何か分かったら連絡しよう」

「わかりました。プラッツォはザンブロッタ商会の本部もありますから……。何も無ければよいのですが」

「そうだな。国境を騒がす魔物の話も片付いておらんから、面倒事は御免だ」


 しかし両者のそんな願いは、その翌日には脆くも崩れ去る事になる。

 それも、考え得る要因の中でも最悪に近い形で……。


 完全休養日となった翌日。勇が織姫を膝に乗せて、ゲストハウスで遺跡から写しを持って帰っていたロッカーのパスワード入力魔法陣を弄っていると、ナシャーラ商会の店長ピエトロが血相を変えて飛び込んできた。

「た、大変ですマツモト様っっ!!」

「どうしたんですかっ!?」

「たった今、ザンブロッタ商会と共同経営している魔法具工房に“鷹”が参りました! こちらがその手紙になりますっ!!」

 “鷹”というのは、この世界で唯一と言っていい高速情報伝達手段だ。魔物が飛ばない高高度を高速で飛んで書簡を届けることが出来る。

 そのぶん捕獲難易度が異常に高いため、まず個人で所有することは不可能で、エルフの専門業者に依頼するにも一通につき日本円感覚だと高級外車が買える費用がかかる。

 ザンブロッタ商会は1羽の“鷹”を保有している数少ない商会だが、それが使われることは滅多に無い。よほどの緊急事態なのだろう。


「ありがとうございます!」

 礼を言って、勇が急ぎ書簡に目を通す。

「なっ……!」

 ごく短い内容だったが、それを見た勇が絶句する。

 そこには、普段綺麗な文字を書くシルヴィオのものとは思えない、殴り書きしたような文字でこう記されていた。

 

『プラッツォ南部に謎の魔法巨人(ゴーレム)部隊が攻め込みザンブロッタ商会も戦火に巻き込まれました。どうかご助力を』

週3~4話更新予定予定。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 動きに変換出来るなら直接車輪動かせばすべての乗り物作れるんじゃ...?!
[良い点] 遺跡の発掘と過去の強烈な文明との邂逅はワクワクがとまりません、 [気になる点] やはり隣国からの侵略でしょうか。 謎のゴーレムという事ですし。 [一言] コレは、何かしらの手段で敵を撃退す…
[一言] 受信回路の魔方陣を入手出来たし、送信側を見つけれたら色々できそうだな。 と思ってたら送信側持ってそうなの出てきたw
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