●第165話●魔力の謎
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週3~4話更新予定です。
「以前見つけた腕と雰囲気が違うのは、作っていた国が違うからかもしれないねぇ」
紋章に関する話を聞いたヴィレムが言う。
「そうですね。人が作るものですし、その国ごとの特徴みたいなものは出やすい気がします」
地球でも兵器の類や自動車などは、機能による見た目に違いは当然あるのだが、デザインやカラーリングにお国柄が出ていた。
魔法巨人も、作られた時代や機能以外で見た目が変わってもおかしくはないだろう。
もっとも、出自が分かったところで現時点ではそれを活用する手立てがないし、バラしてみないとこれ以上何も分からないので、ひとまず棚上げして調査を続けていくことにする。
真正面にいきなりクレーンと脚パーツを見つけたので真っ先にそれを確認したのだが、この部屋は大きく三つに分かれていた。
正面奥の一番広い場所を使っているのがクレーンのあるエリアで、その手前の両側に3メートルくらいの高さのパーテーションで仕切られた部屋が一つずつあった。
その一つ、右側の部屋へと入っていく。簡素なドアが付いていたが鍵はかかっていなかった。
学校の教室くらいの大きさのその部屋は、入り口のある壁面以外の三方の壁面がすべて背の高い棚で埋まっており、大きなテーブルが一つと個人用と思われる机が四つ置かれていた。
「……工房とか研究所? みたいな感じがするね」
室内を見渡してヴィレムが言う。
「ええ、そんな感じがしますね」
勇も工場にあるラボのようだと感じていたため大きく頷く。
しかしあるのは雰囲気だけで、室内は閑散としていた。かつてはその棚いっぱいに、本や書類が所狭しと並んでいたのだろうが、今や見る影もない。
机にある引き出しを開けながら勇が言う。
「ここで魔法巨人の研究開発をしていたのは間違いなさそうなので、重要な研究資料は持ち出したんでしょうね」
それでもいくつかの書類を見つけることができた。量的に持ち出せなかったのか、見られても大丈夫と踏んだものなのか、はたまた単に忘れていっただけなのか。
読めない文字――おそらく古代の文字で書かれたメモのようなものがほとんどであったが、設計図と思われる何かの図面や、魔法陣の下書きのようなものも見つけることができた。
また、メモの中にも簡単なスケッチや図が書かれているものが混ざっていた。
「ふむ……、この図面がおそらく魔法巨人の設計図の一部なんじゃろうな」
魔法巨人の足の部分が描かれた図面を見ながらエトが言う。
そこには、クレーンに吊り下げられていた脚部にそっくりな図と、それよりも二回りほど大きな脚部が描かれており、両者を結びつけるように何本も線が引かれていた。
「うーーん、これは両方を比較しているんですかね?」
「言われてみれば確かにそんな感じがするね。もしくは、どちらかを手本にして違いを記しているようにも見えるかな」
残念ながら文字が読めないので想像の域は出ないが、少なくともここでゴーレムに関する何かしらの研究開発が行われていたのは間違いなさそうだ。
残されていた図面は角度や倍率こそ違うが、いずれも二つ以上のゴーレムの脚部を比較するように描かれたものばかりだった。
続いてメモ書きの中に混じっていた、スケッチや図が描かれているものをテーブルに並べていく。
「ここでも大きい魔法巨人と小さい魔法巨人が一緒に書いてあるの」
エトの言う通り、メモ書きのスケッチも大小の魔法巨人を比較するように書かれているものが多い。
デザインの雰囲気から、なんとなく小さいほうがここで研究されている魔法巨人だと思われた。
「ん? これは……!?」
その中の一枚に勇が目をとめた。
そこには、魔法巨人の胴体部分の中に人間が磔のように埋め込まれている図と、四隅に柱がある小部屋のようなところにいる人間と、その部屋の外で人間と同じポーズをとる魔法巨人の図が描かれており、後者にぐりぐりと大きな丸が付けられている。
「……これは操縦方法の違いなのか?」
「どういうことじゃ?」
食い入るようにその絵を見ている勇にエトが尋ねる。
「魔法巨人が、自分で勝手に動くものではないと仮定すると、どうにかしてそれを動かす必要がありますよね?」
「そうじゃな。思った通りに動けば楽じゃが、馬も魔動車も人が操作する必要があるの」
「ええ。馬も魔動車も基本は走る・止まる・曲がるの三つの動作しかありません。まぁ馬は跳んだりもしますけど、あれは走るの延長ですね。それに対して魔法巨人は人型です。人型にした理由が、人と同じような動きをさせたいからだとしたら、その動きのパターンは相当複雑になります」
そもそもなぜ兵器を人型にするのか?
地球においては、多分に浪漫と技術力のアピールが占める割合が大きい気もするが、ある程度の大きさ・重量までであれば、人用のインフラや道具がそのまま使えるうえ複雑な動きが出来るという汎用性の高さと言えるだろう。
そしてこの複雑な動きというのがなかなかに曲者だ。
例えば人にはできない動きばかりするようなロボットがあった場合、その動きに操縦者が慣れなければまともに使い物にはならない。
しかし、動きが全く人と同じであったならばどうか?少なくとも基本的な動きについては圧倒的短時間で習得できるはずだ。
そしてそれは、操縦方法が操縦桿とフットペダルのようなものを使うタイプではなく、自分の動きがダイレクトに反映されるマスタースレーブ方式だった場合はより顕著だろう。
もちろん、動いた時や何かしらの外的な力を加えられた時のフィードバックをどうするかなど、課題は山盛りではある。
「とまぁ、課題はあるんですが、どうやらこの世界の魔法巨人は、そのあたりの課題を何らかの方法で解決していて、元々人間が入って操縦する方式だったんでしょうね。で、それを遠隔操作する方式に変えようとしていたんじゃないかと」
「ふむ。じゃがすでにその課題とやらを解決して動いておるのなら、なぜわざわざ別の方式にしようとするんじゃ?」
「本当の理由が何だったのかはわかりませんが、メリットはいくつか考えられます。例えば攻撃を受けた場合、人が乗っているともろにダメージを受けますよね? 遠隔操作だったらそれが無視できます。また、人を守らなくてよくなるし乗るスペースや操縦用の機構も不要になるので、かなり軽くできるはずです」
もっともデメリットも出てくるし、制作難易度は遠隔式のほうが高くなるだろう。
何よりタイムラグ無く操縦者の動きを魔法巨人側に伝え、逆に魔法巨人の状況を同じくタイムラグ無く操縦者側に伝える必要がある。
素早い判断や動きが不要な作業であれば問題ないが、兵器として考えるとタイムラグは致命的になる場合があるだろう。
「まぁいずれにせよ、相当に高度な研究をしていて、おそらくですけど試作機を実戦に投入出来る段階まではいっていたんでしょうね、アバルーシという国は」
「……とんでもない話じゃな。ということは、さっきの脚を研究したら、その一部でも知ることができるかもしれん、ということか……?」
「そうなりますね。まぁまだ読めるかどうかも分かりませんし、読めたところでどこまで理解できるかは分かりません。それに前の腕の時みたいに、パーツ単位ではほとんど意味のないものかもしれませんしね」
簡単に再現できるレベルの資料を残していくとは思えないので、まぁ使えたらラッキーくらいですよ、と勇は笑い飛ばした。
そしていよいよ本命である魔法陣の下書きのようなものの解読に移る。
こちらは魔法陣なので、読めさえすれば何かしらの使い道がある可能性が高いため期待したいところだ。
「…………。書きなぐっている感じなので分かりづらいですが、読めますね、これは」
素早く全体に目を通した勇が呟く。
「「「「「おおっ!!」」」」」
いつの間にか全員集合していたメンバーからも歓声が上がる。
「えーーっと、こっちの魔法陣は……。っっ!!」
二十枚ほどある魔法陣の一枚目にじっくり目を通していた勇が驚愕の表情を浮かべたかと思うと、慌てて残りの魔法陣にも目を通していく。
「これは……」
そして、ある一枚の魔法陣を手にしたまま完全にその動きが止まった。
「どうした? そんなとんでもないもんが出て来たのか?」
勇の様子を固唾を飲んで見守っていたメンバーを代表するようにエトが声をかける。
「ええ……、ちょっとコレはとんでもない発見だと思います……」
魔法陣から目を離さず勇が答える。
「まず、ここで何を研究していたのかの一端が分かりました。やっぱり魔法巨人を軽量化しようとしていたようです」
「軽量化??」
「はい。残されていた魔法陣は、重量を軽減する事が出来ないか試したものになります。残っているのは全部ではないので、残念ながら再現は出来ないと思いますが……、それを、闇の魔力を使ってやろうとしていました」
「なんじゃと!?」
「えっ!?」
「闇の魔力……」
エト、ヴィレム、アンネマリーが驚きに声を上げる。
以前、ヴィレムが持っていた魔法陣の中に、断片的だが闇の魔力を使うらしき魔法陣を見つけたことがあった。
当時はどういった効果があるのか全く分からなかったのだが、少なくとも重量を軽減できる魔法に使う事が出来るようだ。
「ですが、発見というのはそこじゃないんです」
「「「え?」」」
闇魔法の謎の一端が解けたことが発見だと思った3人が間の抜けた声を出す。
「どうやら、無属性の魔石から、闇属性の魔力を取り出すことが出来るようなんですよ……」
「「「…………」」」
勇の言っていることがすぐには理解できず、3人が黙り込む。そこに勇がさらに言葉を付け加えた。
「正確には、闇属性だけじゃなくて、どんな属性の魔力も取り出せるようです」
「「「は?」」」
「当たり前のように闇属性の魔力を使った魔法陣が描かれていたのでどういうことかと思ったんですが、その中の一枚にたまたま魔力を取り出す部分が描かれていました。それを確認したら……」
そこで勇が一呼吸置く。
「無属性の魔石から出る魔力を分解して、その中にある闇属性の魔力だけを使っていたんです。我々が無属性と呼んでいた魔力は、実は無属性なんかじゃなかった」
魔法陣から顔を上げた勇が、絶句して彼を見つめる皆の顔をぐるりと見渡してから、ゆっくりと口を開いた。
「全ての属性の魔力が合わさった、いわば“全属性魔力”だったんです」
「なんじゃとーっ!?」
一番最初に再起動したのはエトだった。
「と言う事は、無属性の魔石さえあれば他の魔石はいらんと言うことか!?」
「不要では無いと思いますが、無属性の魔石があれば全ての属性魔石の替わりにはなりますね」
「起動専用のクズ魔石なんかじゃなかったんですね……」
アンネマリーの声は震えていた。
「はい。むしろ逆で、無属性…いえ全属性魔石の下位互換が、属性魔石だと言う事です」
「属性魔石が下位互換……」
ヴィレムがため息をつく。
「しかも取り出すときのパラメータを見た感じだと、一つだけじゃなく同時に複数属性の魔力を取り出して使えそうなのと、複数の属性の魔力を混ぜた混合魔力とでも言うべき魔力まで使えるようです」
「混合魔力……」
騎士団の中で最初に話についていけるようになったリディルが声を絞り出す。
「おかしいと思ってたんですよね……。遺跡の奥で見つかる魔道具って、ほとんど無属性魔石しか使っていなかったのに、明らかに複数の属性が必要そうな挙動をしてましたし、そもそもどうやったら再現できるか見当もつかない効果も沢山ありました」
勇がこれまで見てきた古代の魔法具を思い浮かべながらなおも話を続ける。
「そりゃあ分かりませんよ、単一の属性でも複数属性効果の掛け合わせでも無くて、魔力そのものを混ぜた全く知らない混合魔法が使われていたんですから……」
そう言って勇は、小さく首をすくめた。
「はーー、正直俺はあまり魔法にも魔法陣にも詳しくねぇがよ、とんでもねぇ事実を知っちまったって事だけは分かったぜ……」
その後ようやく理解が追い付いた一行が30分ほど大騒ぎし、ようやく落ち着いてきたところでガスコインが大きなため息とともにそう言った。
「あはは、これは発表すると大混乱になるので、どうやって話をするかよくよく考えたほうが良いですが……」
勇が苦笑しながら横目でチラリとアンネマリーを見てから言葉を続ける。
「これで無属性魔石はますます価値が上がることだけは確実です。値段も今の属性魔石の何倍にも跳ね上がるでしょうね」
それを聞いたアンネマリーが、ガバっと顔を上げて勇を見上げる。その目から、大粒の涙がこぼれ落ちてきた。
指でそれを優しく拭いながら勇が微笑む。
「ふふふ、これまでの発見でも随分価値は上がっていましたが、今回のはそれ以上のインパクトですからね。きっとセルファースさんもニコレットさんも喜びますよ」
その言葉にコクコクとアンネマリーが頷いた。
「……そうか、そう言う事か!」
すると何やらずっと考え込んでいたエトが、急に声を上げる。
「イサムよ、あの魔力を充填する魔法具があったじゃろ? あん時は、なんで無属性の魔石を作るのにわざわざ高いミスリルをあんなに使うのかと思っとったが……」
「あーー、なるほど! 全属性魔石だったから、わざわざ高いミスリルを使ってたのか……」
「そう言う事じゃ」
「じゃあ、これまで発見されて僕らが使っている魔法具って何なんだろうね? 無属性の魔石が使われているものなんて一つもないはずだよね?」
今度はヴィレムが疑問を投げかける。
「確かに……。先に属性魔石を使った魔法具があって、それを発展させたのが無属性の魔石を使ったものなのか、それともその逆なのか……。その辺りにも、文明が滅んだ原因のヒントがあるのかもしれないですね」
ヴィレムの言葉に、勇は腕組みをしながらそう呟く。
「それに今気づいたんですが、この魔石から任意の魔力を抽出する部分の魔法陣は持ち去られていなかったという事は、少なくともこれが作られていた時には別に珍しい技術じゃなかったってことですよね?」
「言われてみればそうだね……」
「そんな当たり前の技術が廃れてしまった理由って、何なんでしょうね……?」
勇の疑問に答えられるものは、当然この中には一人もいなかった。
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