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●第156話●メーアトル河で

ブックマーク、評価していただいた皆さま、本当にありがとうございます!!

週3~4話更新予定です。

 昼頃にファリージャまで戻ってきた勇達が、門脇にある衛兵の詰所を借りて軽く休憩を取っていると、冒険者ギルドの遣いが訪ねてきた。

 成り行きで倒してギルドに持ち込んだままになっていたワイバーンをどうするのかの確認が必要なため、戻った事を聞きつけて急いで駆けつけたらしい。


「じゃあ、素材関係は一旦ギルドの方で保管しておいてもらえますか? ちょっとこの後急ぎでエリクシブルグまで行かなくてはならないので」

「分かりました。状態が良く多くの素材が剥ぎ取れましたので、少々保管料をいただきますが問題無いですか? 預かっている素材の一部で相殺する事も可能です」

「おや、相殺できるならそれが一番楽そうですね。はい、それでお願いします」

「了解です。あと肉についてですが、ギルドの冷蔵箱に入りきらない分は、全て干し肉に加工させていただきました。あれを腐らせてしまうのは、あまりに勿体無かったので……」

「あーー、すみません。行く前にどう扱うか決めておけば良かったですね。では、ウチの冷蔵箱に入る量の生肉と運べるだけの干し肉以外は通常の半値でお売りします」

「えっ? 半値ですか!?」

 滅多にお目にかかれないワイバーン肉の大盤振る舞いに、ギルドスタッフが思わず聞き返す。


「はい。お手数おかけしましたし、残しておいても仕方がないですからね。引き取った後は売るなり振舞うなりしてください」

 半値でも結構な金額になるし、元々降って湧いたような素材である。

 剥ぎ取りや干し肉への加工など手間もかけたし、そもそも他の素材でひと財産あるのだ。

 あの肉の旨さを、この機会に皆に知ってもらうのも良いだろう。


「あ、ありがとうございます! では、マツモト様からの寄付であることを公開して、特価で販売したいと思います!」

「分かりました。皆さんに行き渡ると良いですね」

「ああそれと……。皆様は冒険者登録はされていますか?」

「私は素材のやり取りをするために登録していますね。ヴィレムさんも元々遺跡探索用に登録してましたし、ああ、ウチの織姫も実は登録しています」

「にゃー」

「えっ? 使い魔も登録されているんですか!? うわ、しかもC級じゃないですか!!」

「あはは、クラウフェンダムの周りで他の冒険者さんとちょくちょく狩りに行っているので、登録してもらったんですよ」

「そんな事が……」

「あちらのギルドのご厚意ですね。で、冒険者登録がどうしたんですか?」

「ああすみません。今回ワイバーンの討伐により、追われていた冒険者のみならずこの街を救っていただきました。これは上位の冒険者にしかできない成果です」

 冒険者の評価は、基本的にはこなした依頼の難易度と量によって上がっていく。

 また、町や近隣の危機には緊急要請が出され、その成果によっても評価がされる仕組みだ。

「町をワイバーンから救って下さった皆様の働きは、かなりの評価になっています。そこで、既に冒険者登録されている方はB級に昇格、未登録の方はC級として登録させていただこうという話になったのです」

 今回はまさに町の危機であり、それを勇達だけで片付けたことが高評価となったらしい。

 ワイバーンは最低B級以上、推奨はA級以上の冒険者によるパーティーで討伐するのが望ましいとされる魔物なので、単発での評価としては妥当な所だろう。


「分かりました。ご評価いただきありがとうございます」

 勇達は今のところ冒険者になるつもりは無いのだが、人生どう転ぶか分からないし、ここで辞退すると冒険者ギルドとしても評価しなかったという事実が残ってしまうのは不本意だろうから、ありがたく評価を受けることにしたのだった。


「ふっふっふ、私はB級っす! オリヒメ先生と一緒っすね!!」

 冒険者登録は必ず本人が行わなければならないので、チーム全員で冒険者ギルドへと出向いた帰り道、ティラミスが頭に織姫を乗せて上機嫌で歩いていた。

「まさかティラミスさんが元冒険者だったとはねぇ……」

「騎士になりたくて村から出てきたっすけど、試験に受かるまでは自力で食っていかないと駄目っすからね。腕も磨ける冒険者が丁度良かったっすよ」

 勇とヴィレム、そして織姫以外に冒険者登録者はいないと思っていたのだが、なんとティラミスが元冒険者だった。

 ちなみに騎士になる前のランクはC級なので、その時点でなかなかの腕前だったようだ。

「ふんふふ~~ん、おっそろいおっそろい」

「……不覚」

「これは休暇をもらって魔物討伐に出かけることも考えねば……」

 織姫と同じB級冒険者となり鼻歌交じりな織姫教最高司祭ティラミス。

 対して新規登録だったためC級冒険者となった、織姫教ナンバーワンたる枢機卿ミゼロイと神官騎士フェリクスはお通夜状態だ。

(騎士団の中で、冒険者登録をするのがブームになりそうだなぁ、これは……。

 平和にはなるけど、今いる冒険者の仕事を奪うのは良くないから、戻ったらセルファースさんに相談だな)

 休日返上で山狩りをする騎士団の面々という絵面が容易に想像でき、勇はゆっくり首を振って苦笑するしか無かった。


 土産代わりにワイバーンの干し肉を積み込んだ一行は、昼食を摂ってからファリージャの町を後にする。

 途中短い休憩を何度か挟みつつ陽が落ちる頃に川港へと到着した。


「お? 予定より一日早くないか?」

 勇達の魔動車を見つけて、船長のレベッキオが声を掛けてきた。

 元々の予定だと、今日はファリージャで一泊して明日の午後に到着予定だった。

 前倒しになる可能性もあるので、レベッキオたちは一日前に到着するようにしているため問題は無いのだが、遅い時間の到着に少々驚いていた。


「ああ、すみません。少々急いでエリクシブルグまで向かったほうが良くなってしまいまして……」

 さすがに魔動車に乗りっぱなしで疲れたのか、答える勇の言葉に元気がない。

「なるほど……。今から出すか? イサム様の頼みだったら夜でもかまわんぜ?」

「いやぁ、さすがに移動しっぱなしで疲れたので今日は泊まります。明日の朝からお願いしてもいいですか?」

「おう、もちろん問題無いぜ。んじゃあ今日はゆっくり休んでくれ」

「ありがとうございます。ではまた明日お願いしますね」

 レベッキオと翌日からの話をまとめると、勇達は船宿に併設された宿で早々に眠りについた。


 翌朝。日付が変わった頃から降り出した雨が、しとしとと降り続いていた。

「んー、若干川霧が出てるが……。こっからは川幅も広くなるし水深も深いから、これくらいならまぁ問題は無さそうだな」

 魔動車が積み込まれていく中、勇とブリッジに上がっていたレベッキオが川面を見ながら呟く。

「無事出航できそうで良かったです」

「ただ朝のうちは霧が出たままだろうからな、急ぎのところ悪いが少し安全に行かせてもらう。他の船にぶつかったら大変だしな。午後になって霧が晴れてきたら、速度を上げるぜ」

「ええ、分かりました。事故は怖いですしね」

 そんな話を二人でしていると、出港準備が整ったようで船員から声が掛かる。

「船長~~っ!! 積み込み終わりやした~~~っっ!!!」

「おう! ご苦労さん! さて、出港するか。もやい解け!出港するぞっ!!」

 レベッキオが声を飛ばすと、ブリッジの上にある見張りからカンカンと鐘が鳴らされ、もやいが解かれる。

 船はゆっくりと桟橋から離れると、うっすらと川霧がかかる朝のルサルサ河へ滑るように出航していった。


 レベッキオの見込み通り、午後になると川面に立ち込めていた霧が晴れたので、船は通常通りの速度で河を下り始めた。

 しかしまだ雨はしとしと降り続いている。いくら季節が春の入り口とはいえ、川の上で雨に濡れると流石に寒いため、勇達は基本的に魔動車の中で過ごしていた。

 他に客は乗っておらず、船が大きくなったことで船室にもそこそこ余裕があるのだが、魔動車にはシートヒーターが完備されているので、そちらの方が心地が良いのだ。

 そんな中勇は、風呂魔動車に設けてある簡易魔法具制作スペースにいた。


「なるほどねぇ。そうやって魔動車と同じように風で回して、水を掻いて進むんだね」

「確かにこれを取り付ければ、船の速度が上がりそうじゃの」

「はい。帆に風を当ててやるのが一番分かりやすいんですが、下りだと向かい風なので効率が悪いんですよね……」

 勇がバルサのような木を削って作っていたのは、いわゆる外輪船の推進器である水車のモックだ。

 大きな公園の池なんかで乗る事が出来るスワンボートに付いているあれである。

 これからしばらく船上の人となり暇なので、船の航行速度を上げる魔法具が作れないかと試作を始めていたのだった。

 最初は、現在の地球の船舶のほとんどが使っているスクリュープロペラを作ろうと思ったのだが、あれは単純な作りに見えて曲線で構成された複雑な構造をしており、かなり試行錯誤する必要がありそうなため断念した。

 その点外輪船であれば、曲面がほとんど無いため製作が容易だ。地球でも、最初に出来た蒸気船は外輪船だった。


「これならほとんど構造は同じじゃから、割とすぐに作れそうじゃの」

「ええ。どこに取り付けるかだけ、ちょっと悩むところですけどね。船は後ろに舵が付いているんで、干渉しない場所じゃないと駄目ですから」

 こうして船長も知らない所で船の魔改造計画が進められつつ、川を下っていくのだった。


 ファリージャ近くの港を出て二日、船はメーアトル河との合流地点まで到達して一泊すると、そのままメーアトル河へと入りなおも川を下っていく。

 ルサルサ河より川幅が広いメーアトル河は、流れがゆっくりなため川を下る速度もゆっくりになる。

 依然として降り続く雨の中、メーアトル河を下り始めて二日目、両岸が一気に開けた場所へと差し掛かった。

 どこかで見たことがある風景だなと勇が目を細めていると、レベッキオが声を掛けてきた。

「この辺りは雨季になると増水して、今見えてるだだっ広い河川敷が水に浸かるんだわ。それを利用してこの辺りでオリザが作られてる。秋になるとオリザの穂が風に揺れて、なかなか綺麗なんだぜ?」

「オリザ!! そうか、綺麗に碁盤の目状になっている訳では無いけど、田んぼっぽいんだ! はぁ、ここでオリザが作られてたのかぁ……」

 オリザとは地球の米に似た穀物で、以前イノーティアで見かけた勇は即座に買い占めていた。

 この辺りで作っているとは聞いていたが、その場所を実際に目にすると少々感慨深いものがある。

 レベッキオの話を聞いて得心した勇は、まだ時期的に水も張っていないのだが、どことなく田んぼに似た風景に目を細めた。



『うふふ、一番若き神の思い人は、米がお好きなようね?』

 突然勇の頭の中に、鈴を転がしたような声が響く。


「「「「「!!」」」」」

 勇だけでなく、船に乗る全員に聞こえたのだろう。皆が一斉に驚きの表情になった。


『我の象徴とも言える米を好いてくれるとは嬉しいわ。流石は一番若き神の思い人ね。この世界の者はほとんど米を食べないから悲しいのよね』

「にゃにゃーにゃ」

 響き続ける声に、織姫がどことなく誇らしげな声で鳴いた。

『思い人たる迷い人。あなたの買った種籾を植える前に教会へ供えなさい。きっと良いことがあるから』

 勇を含めて皆が無言でその美しい声に聞き入る。

『ふふ、ようやく会えて嬉しかったわ。あの子だけ二回も会ってずるいと思ってたもの。』

「にゃっにゃ、にゃにゃん」

『そうね、あなたはそのまま思うように進むのがいいわね』

「にゃっふ」

『うふふ、じゃあね、一番若き神、そしてその思い人たる迷い人』

 そう言い残して、それきり頭に鳴り響く声が途切れる。

 しばらく呆然とする一行だったが、今回も最初に気付いたのは見張りの男だった。


「おいおいおい、またとんでもなくデケェのが近づいて来てんぞっ!!?」

 そう叫んで右舷を指差す。

 そこには、いつの間にか太く長い影が船と並走していた。

 ルサルサ様と思しき鯨も相当に大きかったが、この影は長さだけで言ったらそれより長いかもしれない。

 しばし並走すると、水面が割れて真っ白な頭が顔を出した。

 それは、巨大な白蛇だった。純白に輝く美しい鱗に真っ赤な目。思わず息を飲む神々しさだ。

 真っ赤な目を眩しそうに細めると、思い切り上空へと飛び上がる。

 するすると天に上るように舞い上がると、船を飛び越えて左舷側へと着水する。

 そして今度はまた右舷側へ。相変わらず、波も水飛沫も船に襲ってこない。

 まるで踊るように何度かそれを繰り返すと、これまでとは段違いの速さで一気に空へと真っすぐに飛び上がった。

 そしてそれきり、落ちてくることは無かった。


 全員が口を開けて空を見上げていると、いつの間にか降り続いていた雨が上がり、煌めく太陽が顔を出していた。

週3~4話更新予定予定。

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― 新着の感想 ―
神様達、一番新しい猫神を孫娘の如く猫かわいがり まぁ、ただでさえすっっっっっっっごい可愛いから、仕方ないかな!
船の推進用魔道具なら操風球の風部分を水に置き換えたら大分簡単にできるのでは? プログラムならその辺りの記述(どちらの方向へ送るとか)は属性関係なく共通な気もするし
[一言] 勇が米作るなら湿地帯だろうな 水辺の魔物は改造雷丸で!一撃だよ?
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