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●第149話●魔動車完成と魔動車教習所

ブックマーク、評価していただいた皆さま、本当にありがとうございます!!

週3~4話更新予定です。

 坂道を上る場合、角度によって後ろに引っ張られる力がかかるため多くの力が必要になる。

 余分に必要となる力は、角度と重量が大きくなるほど増える。

 坂道の角度を変える事は出来ないので、余力を持たせるには車重を軽くするか単純にパワーを上げるかの二択となる。


「パワーを上げるか軽くするかの二択じゃな。単純ではあるが、単純なだけに中々難しいの……」

「そうですね。パワーを上げるんだったらもう一つ繰風球を追加しても良いですが、最大風力に上限があるので効率が悪いんですよね……。なのでまずは車重を軽くする方向を試してみたいと思ってます」

 勇の言う通り、繰風球には最大風力に上限があるようだった。

 基本的には範囲を狭くするほど風力を上げられるのだが、一定以上範囲を狭めてもそれ以上風力は上げられない。

 範囲についても、一定以上の広さには出来なかった。


「軽くすると言うと、やっぱり箱馬車は止めて幌馬車にするかい? それとも軽くて丈夫な魔物素材を探してくるとか?」

 思案顔でヴィレムが言う。

 乗車定員を変えないなら、ヴィレムの言う通りボディタイプそのものを軽量なタイプにするか、より軽い素材に置き換えるのが、当たり前のアプローチだろう。


「それは追々ですね。何も実際に軽くならなくても、結果として軽くなっていれば良いんです」

「どういうことじゃ??」

 勇の謎々のような発言に、エトが首を傾げる。

「繰風球を使います」

「繰風球? 効率が悪いってさっき言ってなかったかい?」

「ええ。推進力に使うのは効率が悪そうなんで、こう、下から風を当てて馬車本体を持ち上げてやろうかと。完全に浮かすことは出来ないでしょうけど、ある程度軽くなるんじゃないかと」

「なるほど、そう言うことか……」

 勇の答えにエトとヴィレムが唸る。


 勇が導入しようと思っているのは、いわゆる吹き上げ荷重の考え方だ。

 台風などで屋根が飛んだり車が持ち上げられてしまうアレだ。

 地球には繰風球のように反作用無く風を起こす道具は無いので、ホバークラフトのように上から下に向けて風を出して浮かせるか、ゲームセンターにあるエアホッケーのように地面から風を出す事になる。


「推力用の風車より魔動車の底面のほうが広いので、風圧的な効率も多分良いはずです。やり過ぎるとひっくり返る可能性があるので、加減しないと駄目でしょうけどね」

 先の台風の例ではないが、車両下に強風が回り込むとトラックでもひっくり返る可能性がある。

 さらに魔動車には、自動車にはほぼ百パーセント搭載されている、コーナリング時に内輪と外輪の回転数の差を調整するための機構デファレンシャルギアが搭載されていない。

 そのため魔動車は、コーナリング時に内側の後輪が浮くことが避けられないので、より注意が必要となる。


 その辺りに注意しながら、範囲を広めに設定した繰風球を車体の下側に取り付ける。

 幸い風車がある分車高がある程度高いので、あまり苦労せず設置する事が出来そうだ。

 車体下に当たった風は全方向に跳ね返る。車両後方に流れると風車の回転を邪魔する事になるので、カバーも取り付けたほうがよいだろう。

 単に風除けにするだけでなく、位置や形状を工夫すれば逆に風車を回す力の補助に使ったりできる可能性もあるが、今回は見送る事にした。


 徹夜で作業を続けた結果、翌朝には風力による車両軽減装置の装着が完了した。

 朝から、しかも連日領主夫妻をバラストにするわけにもいかないので、代わりに織姫が勧誘してきた騎士二人を加えた九名が領都を出た所に停めてある魔動車に乗り込んだ。


 まずは、車体下に新設した車両軽減装置を起動させる。どこまでの効果があるかはっきりしないので、あまり魔力は注いでいない。

 そして推進用の繰風球を起動させた。ギシリと車輪を鳴らしながら魔動車が前進を始める。

 

「む? 出だしの加速が少し良くなったか?」

 走り出してすぐにエトが気付いた。

「エトさんも気付きましたか? 疑似的に重量が軽くなったので、動き出しに必要な風力も少し減ってますし、走り出してからの加速も少し改善してます」

 勇の言う通り、疑似的に車重が軽くなった効果は坂道以外でも発揮されていた。


 そのまま軽快に走行を続けた魔動車が、昨日苦戦した坂道へと差し掛かる。

 昨日とは方向が逆なので急な下り坂となったそこを、後輪のエンジンブレーキを使いながらゆっくりと下っていく。当然重量軽減装置もオフだ。

 危なげなく坂を下りきった先にある休憩用の小広場で魔動車をUターンさせると、今度は重量軽減装置を起動させてヒルクライムへと挑む。


 登り始めてすぐ加速が弱まるので、推進用の魔力を一気に上げつつ重量軽減装置の魔力も少し増やす。

 すると、昨日よりだいぶ魔力を抑えた状態でも、目標巡航速度で坂を上りきる事に成功し、車上のバラスト兼ギャラリーから「おおーー」と歓声が上がった。


「目論見どおりじゃの」

「ええ。これで一先ずは実用に耐えられる性能になったと思いますよ!」

 運転席では、勇とエトとヴィレムが、嬉しそうにハイタッチを交わしていた。


 その後、街道を一時間ほどドライブして挙動に問題が無いことを確認して研究所へ戻って来ると、いよいよ仕上げの工程に取り掛かった。


 まずは上物のフレームを作りそこに壁や屋根、一部ガラスの窓を取り付けていく。

 あまり角ばったフォルムにするとカッコ悪い上に空気抵抗も大きいので、やや丸みを帯びたフォルムにしていく。

 前後の車輪に半円状のフェンダーを付けることで、さらに全体のフォルムを柔らかなものにしていった。

 フェンダーと車両のフロントにはヘッドライト代わりに魔法カンテラを装着。休憩不要な利点を活かした夜間走行の備えとする。


 壁の下地となる木の板の上に薄めの保温石を貼り付け断熱材とし、その上に高級感が有って水にも強いお馴染みソリッドビートルの外殻を貼りつけていく。

 薄い外装の強度を補うべく、対物理攻撃用の魔法陣を施しておいた。

 縁取り部分やワンポイントには、魔法インクを厚めに盛ってアクセントとなるモールに仕立て上げる。


 内装のシート類は、以前に戦利品として持ち帰っていた水に強くて丈夫かつしなやかで肌触りの良い川鮫のなめし革で仕立てていく。

 さらに、魔法コンロや冷蔵箱の魔法陣と小さな繰風球を組み合わせた冷暖房も搭載した。

 運転席の横には、サイドミラーも完備している。


 こうして十日ほどかけて、現時点で勇が持てる全ての魔法具の知識を惜しみなくつぎ込んだ、魔動車のプロトタイプがついに完成する。

 丸みを帯びた真っ黒なフォルムに、後方に飛び出した推進用の繰風球が、まるで尻尾のように見えることから、それは黒猫(シュヴァルツ・カッツ)と名付けられた。

 車両の最前面中央には、織姫の肉球スタンプを模したエンブレムが誇らしげに輝いていた。

 試作しながら並行して行った性能試験の結果、最終仕様としては以下のような形となった。


【魔動車試作一号機“黒猫(シュヴァルツ・カッツ)”諸元】

・乗車定員:4名+1匹+荷室

・最大積載重量:4名+1匹+中身入りワイン樽1個程度

・動力:風力

・必要魔石:風の中魔石(推進用)x1、風の小魔石(重量軽減用)x1

・推奨最高速度:時速15キロメートル(体感値)

・最高速度:時速20キロメートル以上

・連続走行時間:約11時間(重量軽減装置非稼働)/約18時間(同稼働時)


 乗車定員については、備え付けの座席に座れる人数が4名ということだ。板張りの荷室にも乗れるので、荷物が無ければあと大人3名ほどは乗れるだろう。

 また、いずれも推奨速度が出せる重量なので、速度を犠牲にすればもう少し積む事が出来る。


 走行時間は、想定積載量いっぱいの状態で推奨速度を出すのに必要な魔力量で送風機を動かし続けた時に、中魔石の魔力が無くなるまでの時間だ。

 重量軽減装置を働かせると1.5倍以上に延長される。

 ただし、起動時にかなりの魔力を使用するようなので、途中で魔動車を止めると走行時間が短くなるため注意が必要だ。

 むしろ短い時間の休憩なら、アイドリングしたままの方が燃費が良いくらいだ。

 排気ガス等が出ないクリーン仕様なので、気にせずアイドリング状態にしておけるのがせめてもの救いだろう。


 ちなみに繰風球に中魔石が必要だったのは、起動時に必要な魔力の出力が小魔石が出せる出力を超えているのと、小魔石の魔力総量では稼働時間が短くなり魔石の交換が手間になると思われたからだ。

 遺跡の探索時に使った魔力変数を活用した高出力魔法陣を使うことで、無事小魔石でも起動させられることが判明した。

 そのため、推進用ほど大きな風力が必要ない重量軽減用の繰風球については、魔力単価が安く手に入りやすい小魔石を使う仕様に変更がされていた。

 しかし、必要魔力が少ないとはいえ小魔石は小魔石だ。重量軽減装置のほうは使用可能時間が6時間ほどと短いため、交換の手間がかかるのは仕方がないところだろう。


 それでも300キロメートル弱を走るのに10万円以上かかる計算になるので、かなり贅沢な乗物と言える。

 ただ、休まずに18時間運転するのが現実的かどうかはさておき、その気になれば一日で300キロメートル移動できるのは、平均的な馬車の移動距離が一日50キロメートル程度のこの世界(エーテルシア)において画期的だろう。


 もっとも、一台だけでは「そこそこ便利」程度で終わってしまう。こういうものは集団運用出来て初めて劇的な効果を生むと考えている勇は、既に2種類の量産車生産に着手していた。


 ひとつは、勇が黒猫(シュヴァルツ・カッツ)で移動する際に随伴できる貨物魔動車だ。

 幌馬車にするなど快適さに目を瞑り軽量化を施し、積載量の増加を図っている。旧風呂馬車も、この仕様の魔動車に改装済みだ。


 もう一つが、速度と積載量を削る事で小魔石でも3時間程度の走行を可能にした、軽魔動車とでも言うべきラインだ。

 こちらは推奨速度は10キロ弱まで落ちているものの、それでも現在の馬車よりは速い。

 それに現実的な運転時間を考えると、3時間で強制的に休憩が必要になるほうが疲れによる事故を防ぐのに良いかもしれない。



 そして黒猫(シュヴァルツ・カッツ)が完成してからさらに二週間が経過。

 貨物魔動車2台と軽魔動車が1台完成しており、連日領主夫妻や騎士団の面々に向けた運転教習が行われていた。


「うっひょー、速くて楽しいっすーー!! なんぴとたりとも私の前は走らせないっすよ!」

 坂道が作られたり、空き樽を並べてS字カーブや交差点まで作られもはや教習場と化した演習場では、ティラミスが軽魔動車で爆走していた。


「うにゃっ」

 バリバリッ

「ぎゃーー、痛いっす!ごめんなさいっす!!」

 爆走するティラミスの頭の上に座った織姫が、ダメ出しとばかりにティラミスの耳を引っ掻く。


「……ティラミスは不合格。全く、アイツはこれで何度目だ?」

 その様子を見ていた、騎士団長のディルークが大きくため息をついて嘆く。


 現在は、いわゆる卒業検定の時間だった。

 鬼教官織姫を乗せて既定のコースを周回し、引っ掻かれなければ合格という実にシンプルな試験である。

 そして件の問題児ティラミスは、これで4度目の不合格を言い渡され両膝を突き項垂れていた。


 魔動車の完成は、瞬く間に騎士団の間に広まっていた。演習場で試験を繰り返していたのだから当たり前だろう。

 予想通り、どうやったらあれに乗る事が出来るのか?という質問が殺到する事になった。

 運用時には当然運転者が必要になる。そこで、騎士団向けにレクチャーと試験を行い、合格した者だけが運転できる制度が急遽作られ発表される。

 するとこれまた予想通り、申し込みが殺到。半日経たずに全騎士が申し込む事態となった。


 さすがに一斉に教習する事は出来ないので、自動車学校のように時間割を決めて教習が開始された。

 勇の移動は魔動車で確定しているので、専属護衛は優先的に教習を受ける事が出来る。

 ちなみに専属護衛は、少し前にティラミスとユリシーズを加えて六名に増員していた。


 ティラミスを除く5名は、慎重な者もアグレッシブな者もいたが、不合格になるほど理性が飛んでいるものはおらず一発合格を果たしていた。

 ただひとりティラミスだけが、文字通りハンドルを握ると性格が変わり、合格が出来ずにいた。


「いやぁ、ハンドルを握ると性格が変わる人って確かにいるんですけど、ここまでというのは珍しいですねぇ」

 見学していた勇が苦笑する。

「お見苦しいところお見せしてすみません……」

 護衛隊長のフェリクスが、苦い顔で頭を下げる。

「いやいや、フェリクスさんのせいでは無いですよ。これはあれですね。当面ティラミスさんは運転禁止にしましょう」

 フェリクスを慰めつつ、勇がティラミスの運転禁止を決定する。

「はい、そうします。出発までもう日がありませんし、たまたま合格できたとしても、街道を走らせるのは危険すぎますので……」

 勇の決定にフェリクスも大きく頷いた。


「うう……。私の魔動車が…行けると教えてくれてたっす……」

「にゃっふぅ」

 当面の試験資格はく奪を言い渡されて遠い目で打ちひしがれるティラミス。

 その肩に乗った織姫が、バシバシと尻尾で往復びんたをお見舞いし、反省を促すのだった。


 こうしてちょっとしたハプニングがありながらも、勇達の出発準備が整う。

 同じ派閥で西方に領地を持つバルシャム辺境伯、エリクセン伯爵、イノチェンティ辺境伯の領地行脚に出発する、二日前のことだった。

週3~4話更新予定予定。

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― 新着の感想 ―
風を受ける羽根のイメージが上手く行かず疑問に思っていましたが、なるほど、軸に付いているギアの歯が長く伸びており、その歯に垂直に風を当てている感じなのですね 理解しました、多分?
[気になる点] 前にブックマークしていて話数がたまるまで読んで無くてため読みしているのですが、魔道車のリアブレーキで風車の下側に風を当てるとブレーキになるとの記実、扇風機の下側に風を当てても同じ回転の…
[気になる点] 繰風球を追加で設置したようですが そもそも風車で風力を全部受け止めきれるわけがないので 最初の繰風球の風車を抜けた先の風力を活用してないのが不思議です というか余った風で周囲に被害を出…
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