●第145話●魔動車作り、始めました
麻雀回は、前回でおしまいですw
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週3~4話更新予定です。
大盛り上がりとなった麻雀大会の翌朝、多くの住民がクラウフェンダムの正門付近に集まっていた。
「長い間世話になったな。しかしこの領はええな。食事は美味しいし風呂はあるし麻雀は楽しいし、何よりオリヒメが可愛いから帰りたくないんやけどな……」
「そう言っていただけるのは有難いのですが、さすがにこれ以上領地を空けては……」
ズヴァールの誉め言葉にセルファースが苦笑する。
今日からもしばらく好天が続きそうなため、足止めを食らっていたズヴァールがいよいよ領地への帰途につくのだが、この三日間ですっかりクラウフェルト領での生活に慣れて帰宅を渋っていた。
「まぁなぁ……」
「またいつでも遊びに来てください。近いうちにこちらからもお邪魔させていただきますよ、織姫を連れて」
「なふぅ~」
なおも渋い表情のズヴァールに、織姫を抱いた勇も声を掛ける。
織姫も優しく鳴きながら、頬を撫でるズヴァールの手にたしたしとスタンプしていた。
「ああ、いつでも来てくれ。嬉しい土産も貰ったし、名残惜しいがそろそろお暇するとしよう」
「また試作品が出来たら送ってくださいね。道中お気を付けて」
「うむ。セルファースも世話になったな。何かあったらすぐ連絡をくれ。しばらく色々あるやろうからな」
「ありがとうございます。ビッセリンク閣下にもよろしくお伝えください」
渋りながらも別れの挨拶を交わすと、駆け付けた大勢の住民が見送る中、領境まで見送りをするディルークの騎馬を先頭にして、ザバダック家一行はクラウフェンダムを後にした。
「ふふ、じっくりお話させていただいたのは初めてだったが、中々に楽しい御仁だったね」
「ええ。武門で有名との事でしたが、やはり頭も切れる方でしたね」
「流石は辺境伯閣下だね。そう言えば、麻雀の製造委託をしちゃってよかったのかい? あれだけでもひと財産築けると思うけど?」
「はい、大丈夫です。麻雀で大儲けするつもりはありませんし、娯楽は沢山の人に遊んでもらわないと意味が無いですからね。ただ、お金を賭けはじめると大変な事になるので、そこだけは禁止を徹底するようにお願いしておきましたけどね」
「確かに、アレでお金を賭け始めたら大変な事になるだろうね。ズヴァール閣下の所で貴族向けのものが出来たら、王家に献上した上でお達しを出してもらえるようお願いしたほうが良いかもしれないね」
麻雀は娯楽として相当なポテンシャルを持っているが、地球でもそうであったように賭け事との相性が異常に良い。
放置しておくと、高レートの賭け事で身上を潰すものが出てくる可能性が高い。
いたちごっこになる可能性も否めないが、最初から厳しく取り締まっておいて損は無いだろう。
ズヴァールが去った後、勇達は繰風球を使った乗物の試作に取り掛かっていた。
扇風機・送風機のような効果を得られるのだが、ファンのようなモノがあるわけでもなく反作用が発生しない何とも不思議な魔法具だ。
繰風球自体の解析はほぼ終わっており、指定した範囲に指定した強さの風を吹かせる事が出来ることが分かっている。
ただし風速を上げれば上げる程吹かせられる広さは狭くなるという制約があるため、台風のように広範囲に暴風を吹かせる気象兵器のような使い方は出来ない。
ちなみに限界まで速度を上げても衝撃波のようなものは発生しなかったので、音速を超えるような速度は出せないようだった。
最初に試作したのは、ヨットに車輪を付けたような乗り物だった。地球で言うところのランドヨットに近いだろうか。後輪二つに前輪が一つの三輪だ。
「こいつはこの前乗った船と同じようなもんか?」
「そうですね。帆に風を当ててそれを推力にして走ります。これは確実に走る事は分かっているので、繰風球の操作性確認みたいなもんですね」
勇の言う通り、ランドヨットはある程度の大きさの帆にある程度の強さの風を受ければ走る。
レジャーで使う分には問題無いのだが、馬車の替わりにしようとすると帆の大きさが何かにつけて邪魔になる。
なので、繰風球に組み込んだ風力調整機能をテストするためにとりあえずで作ったのだった。
「さて、じゃあ試走してみますね!」
いつもの演習場でランドヨットに乗り込んだ勇が、片手を上げて合図をすると、繰風球を起動させた。
車体後方に取り付けられた繰風球の周りの空気が魔力によって動かされ、緩やかな風が発生する。
範囲は帆の大きさより一回り大きい程度、風力はそよ風といったところだ。
帆がその風を受けて綺麗な弧を描くと、するするとランドヨットが動き始めた。
「おおっ!!!」
「「「「「おおーーーっ!!」」」」」
走ると分かっていても、思わず勇の口から感嘆の声が零れる。
様子を見守っていたギャラリーからも同様に声が上がった。
駆け足ほどの速さまで加速したランドヨットの前輪を、足で左右に動かしながら大きく旋回していく。
自然の風を受けて走る普通のランドヨットであれば、帆にしっかり風を受けられるよう手元のロープ等で調整が必要だが、繰風球で常に一定方向から風が吹き続けるこの試作機には必要が無い。
前輪の角度と、旋回しやすくするための多少の重心移動程度で簡単に操作する事が可能だ。
五分も走ると操作にもスピードにも慣れてきたので、徐々に速度を上げてみることにする。
手元の無属性魔石に触れて風力につぎ込む魔力量を増やすと、ぎしりとマストが小さくきしんで速さを増した風をしっかり受け止めた。
ガッチリ風を掴んだ帆が、車体を加速させていく。
「ぉぉ、ぉぉおおおおーーーっっ!!!」
車高が低く体感速度が速いため、思わず勇の口から声が漏れる。
三十分ほどかけて、最初の三倍程度の風速まで上げたところで繰風球を停止させる。
試作機なのでブレーキはつけていないため、そのまま自然に減速していき、やがてランドヨットが停車した。
「想定通り、ちゃんと走ったの」
ランドヨットから降りた勇に、エトが声を掛ける。
「ええ。一人乗りだからか、思ったよりスピードも出ましたね。繰風球の速度調整も問題無かったですし、これでいよいよ本格的に魔動車を試作できます」
「うむ。……時にイサムよ、俺にもこのらんどよっとじゃったか?を運転させてくれ」
ずっとソワソワしていたエトは、そう言うが早いかいそいそとランドヨットへと乗り込んだ。
それをきっかけに、ギャラリーに駆け付けた面々によるランドヨットの大試乗会になる。
演習場には、日が暮れるまで楽しそうな声が響き渡っていた。
翌日から、本格的な魔動車の試作が始まった。
帆を付けたタイプはどうしても高さが必要になるため林間の道で木にひっかかるなど邪魔になるし、向かい風の場合著しく効率が落ちるため、別の方法を考えていた。
「んーー、これが送風機みたいな仕組みだったら単純に後ろ向きに取り付ければすむ話だけど、これはそうじゃ無いからなぁ……」
腕を組んだ勇が唸る。
「単純に、風力で車輪を直接回すのが一番効率がいいのかなぁ。問題は、どこまでトルクが出るかだけど」
プロペラを回して揚力で走る方法など、風力で走る方法にはいくつかアプローチがあるだろう。
ただ、あまり大がかりにはしたくないため、勇が選んだ方法はシンプルに後方からの風力で車輪を直接回す方法だった。
「こんな感じでどうじゃ?」
「おお! 流石エトさん、ばっちりですよ!!」
エトが作り上げたプロトタイプを見て、勇が歓喜する。
エトが作っていたのは、車軸に取り付けて車輪を回すための風車だった。
車輪の回転方向と風向を同一方向にした、至極単純な構造だ。
横から見ると*のような形状をしている。効率よく風を受けるため湾曲させているので、卍型のほうが近いかもしれない。
これを車軸に固定して進行方向の逆、後ろ側から風を送って回転させることで車輪を回すのだ。
「ひとまず土台だけで試してみるか?」
「そうですね。一番軽い状態で、どの程度の風力があれば動くか、まずは確認しましょう」
そんな話をしながら、馬車の荷室を外した状態で風車を取り付け、さらにその後方に繰風球をセットする。
なるべく軽い状態で実験したいため、馬車の上にはエトが乗り、繰風球のON/OFFと魔力の調整を行う。
「じゃあいくぞい」
荷台に乗ったエトが、揚々と繰風球を起動させる。
先程のランドヨットとは違い、風車の羽根のサイズとほぼ同じ広さに絞った風が繰風球から流れ始めた。
「流石にこの程度の風では動かんか……」
そよ風程度で起動したものの、風車はピクリとも動かない。
エトはそこから徐々に風力を上げていく。
荷台の上にいても頬に風を感じる程度まで風力を上げたところで、ピクリと風車が動いたような気がした。
「む? ぼちぼち動きそうじゃ!」
「ホントですか? じゃあちょっと押してみますね。確か、静止状態から動かすときには、動き出した後に前進させるよりもかなり力が必要だったはずなので」
勇の言う通り静止している車両を動かすには、条件によって動いている時の1.5倍から2.5倍程度の力が必要になると言われている。
自転車を漕ぎ出すときに、グッとペダルを踏みこまないと動かないのと同じことだ。
馬車の後方には繰風球と風車があり押せないので、側面に回って馬車を前方へと押し出すと、それほど力を入れることなくエトを乗せた馬車が動き出した。
「おお! 動いたぞ!!」
思わずエトが叫ぶ。
ゆっくりと動き出した馬車が、繰風球からの風を受けてゆっくりと加速し始める。
かくして、本格的な魔動車の試作が開始されるのだった。
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