●第143話●保温石の活用方法
はー、モノづくり会は楽しいなぁ
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週3~4話更新予定です。
翌日、朝食を終えた勇達は、皆で研究所に来ていた。
「吸音効果があることは分かってるけど、気泡の大小による違いとかまでは分からないからなぁ……。断熱のこともあるし、冷蔵箱のと同じくらいでいいか」
そんなことを呟きながら、各種のパラメータを魔法陣に描き込んでいく。
「大きさはこんなもんじゃな」
ヴィレムと共に壁のサイズを測っていたエトが、数字をメモした紙を勇に渡す。
「ありがとうございます。高さと幅を設定して、と。厚みは……七センチくらいでいいか。厚すぎると狭くなるし。……よし、設定終わり!」
魔法陣を描き終えた勇が、パンパンと手をはたきながら立ち上がる。
「この前から見てるが、相変わらず見事なもんやな」
サクサクとオリジナルの魔法陣を描いていく勇を見て、ズヴァールがため息を漏らす。
「あはは、だいぶ慣れましたからねぇ。あ、ズヴァールさんそこにいると危ないですよ? 天井高に合わせて生成するので、その辺りにも出現すると思います」
設置の手間を考え、並べるだけで済むように高さは天井高ギリギリを攻めているため結構な大きさになる。
「何枚出すようにしたんじゃ?」
「このサイズを複数出しても取り回しが大変なんで、一枚ずつにしておきました」
エトの問いかけに答えると、早速保温石の生成に取り掛かる。
「さてと、じゃあガンガン作っていくので、どんどん並べていってください!」
「了解です」
「了解っす!」
設置担当の騎士達から返事が返ってきたのを確認して、勇が魔法具を起動させた。
いつものフォンという起動音に続いて、広く開けられた何もない床が二.五メートル×一メートルの箱状に光ったかと思うとすぐに光は消えて、そこに同じ大きさの黄土色をした石の塊が出現した。
「ほう、こうやって作っていたんやな」
ズヴァールが初めて見る保温石の生成シーンを興味深そうに眺めながら、感嘆の声を漏らす。
「では、部屋の角から立てていきます。っと! この大きさでも、ここまで軽いんですね」
出来立てほやほやの保温石(壁用)を持ち上げようとしたミゼロイが驚く。
新型冷蔵箱は知っていても、騎士達は保温石そのものを扱った事がほとんど無いので驚きも当然だろう。
「あはは、見た目は完全に石壁ですからね。ギャップが凄いですよね」
そう言って笑いながら、次の保温石(壁用)の作成に入る勇。
ミゼロイが部屋の角に新たに立てられた柱にぴったり合わせるように、保温石(壁用)を並べた。
最も簡単に施工するなら、今の内壁に直接接着する方法が手っ取り早いだろう。
大きさの割に軽いので、それでも倒れたりする事は無い。
ただ今回は、効果があまり無かった場合にすぐ取り外したり交換できるようにするため、接着はしない事にした。
部屋の隅や扉周りに柱を立てて、その間に保温石(壁用)を隙間なく並べていく。端まで並べたら、巾木や廻り縁のような横木を渡して押さえつければ完成だ。
この施工方法なら、横木を外せば簡単に保温石(壁用)を取り外せる。建物の構造体として機能させる必要は無いので、このレベルで十分だろう。
見た目が気に入らないなら、上から化粧板でも張り付けてやればよい。
ちなみに扉や窓の部分は、はめ込み式で容易に脱着可能だ。
クラウフェルト家の騎士達は、進軍時の道を開拓したり、城壁や宿舎の修理・増改築を行う工兵を兼ねているため、総じて大工仕事が得意だ。
女性騎士であるマルセラやティラミスも、当たり前のように柱を立て、横木を打ち付けていく。
気付けばズヴァールまでもが楽しそうにDIYに参加していた。
そんなこんなであっという間に一階の施工が終わる。
「一回り部屋は狭くなりましたけど、元々広かったので問題無いですね」
「そうじゃな。この広さなら何も問題無かろう」
「さて、早速どの程度防音効果があるのか確認してみますか」
何名かを室内に残して、勇達は研究所の外へと出ていく。
防音効果の確認は、二つの方法で行われる。
一つは、単純に室内で会話をしてもらい、外から聞き耳を立てるというものだ。
原始的だが、望む効果に最も近いシチュエーションでのテストなので分かりやすい。
ビフォーアフター二つの部屋を用意できる訳では無いので、事前にどの程度の声で聞こえるのかを調べておいての前後比較だ。
「おお、明らかに音漏れが無くなってますね」
「これは大したもんやな。普通の話声だと、壁に耳を着けても聞こえん……」
皆で壁に耳を当てたりしながら確認すると、目に見えて(耳に聞こえて?)効果があることが実感できるレベルだった。
ズヴァールも感心している。
二つ目の確認方法は、魔法を使った確認だ。
御前試合の奇襲にも使った、偽破裂の魔法を使用する方法だ。
この魔法は、込める魔力量で音量調整出来ることが分かっているので、その特性を利用して魔力値幾つから聞こえるかで効果を測る。
ただしこの方法は正確な魔力量の制御が必要なので、それが得意な勇かアンネマリーにしか出来ない。
アンネマリーに室内に入ってもらい、一定間隔ごとに魔力量を上げながら魔法を使ってもらう。
音が聞こえた時点で入り口のドアを開けて知らせる、というこれまた原始的な方法だ。
「……中々聞こえないですね」
「さっきはすぐに聞こえるようになったんやが……」
「あ」
「む」
「聞こえましたね」
「ああ、聞こえたな」
しばらく時間が経過し、ようやく小さな破裂音が微かに聞こえた。
アンネマリーに確認してみると、聞こえた時点での魔力量は7との事だった。
保温石(壁用)施工前は、魔力量3から聞こえるようになっていたので、目に見えた効果があったと言って良いだろう。
比較対象が無いので相対的な評価は出来ないが、魔力量7の偽破裂は、運動会のスタートピストルくらいの音量はあるので、効果としては十分だろう。
「お城のように元々壁が分厚いなら不要でしょうけど、そうでないなら中々の効果ですね」
「ああ十分だ。その上断熱効果もあるんやからな。すでにさっきまでより室内が暖かくなっている気がするな」
勇の総評にズヴァールも太鼓判を押す。
「ご満足いただけて良かったです。これだけ効果があると、カラオケしたり麻雀打ったりしたくなる……。まてよ? 麻雀か……」
日本にいた頃の、防音された部屋での思い出を思い浮かべていた勇がはたと考え込む。
「エトさん」
「ん? どうした?」
「この魔法具、小さいサイズがどこまで作れるかって、試したことありましたっけ?」
「いや、ある程度大きいサイズまで作れることだけしか確かめておらんぞ」
「ですよね……。えーっと、あれはだいたいこんなもんの大きさだったはずだから……、二~三センチ無いくらいか? あー、でも手書きで模様を書く必要があるから、多少大きくてもいいのか」
なにやら急に手元のメモに長方形を描きながらブツブツ呟き始める勇。
「どうしたんじゃ??」
それを見て不思議がるエト。
「ああ、すいません。ちょっと面白い事を考えたので……。午後からは、そっちを試してみようかと。上手くいけば、ズヴァールさんに良いお土産が渡せるかもしれません」
「ほほう、土産か。何をするつもりか知らんが、イサムのすることやからな。楽しみだ」
「まだ作れると決まったわけじゃ無いので、ぬか喜びさせてしまったらごめんなさい」
今朝の朝食時に早馬が来ており、明日には街道が通れるようになるとの一報がもたらされていたのだ。
明日の天候が大丈夫そうなら、ズヴァールは明日の午前に出立する事になっている。
せっかくなら何か土産でも、と思っていた所だったのである。
昼食後、話を聞いた領主夫妻も研究所を訪ねてきていた。
「さて、まずはこのサイズの石が作れるかどうかですね……。これが駄目ならお手上げなので」
そう言って、勇が魔法陣に数値を書き込んでいく。
「よし。上手くいってくれればいいんだけど……」
そして出来上がったばかりの魔法陣を起動させる。
フォン
ピカッ
コロン
魔法具は無事に稼働し、狙い通り小さな直方体の石が一つ出来上がった。
「おおっ! 出来てる!! 多少表面がざらついてるのは仕方がないな。何かでコーティングするなりは別で考えればいいし、試作品としては十分だ」
出来上がったものを人差し指中指親指で持ち、親指の腹で直方体の表面を撫でながら、勇が独り言ちる。
「あー、あと面取りとかも必要だなぁ。硬度はこれくらいあればギリギリ大丈夫だけど、イカサマ対策にはもうちょっと硬い方が良いか……。ま、それもコーティングでやろう」
「イサムよ、こんな小さいブロックを作ってどうするんじゃ?」
ニヤニヤしながらブツブツ言っている勇に、エトが怪訝な表情で尋ねる。
「ああ、すいません。これは麻雀と言って、絵合わせをして遊ぶための道具なんですよ。一セットでこれが百五十個くらい必要なんで手作りは諦めてたんですが、この魔法具で作れるなら一気にいけますからね!」
「百五十とはまた大量じゃの……」
勇の答えにエトが驚く。
「このブロック、牌と言いますが、模様を描かないといけないので、皆さんこの後手伝ってくださいね。簡単な模様なので、皆で描けばすぐだと思います」
そう言いながら勇が生成数のパラメータ部分を描き替え、再度起動させる。
数を増やすと全て縦に積まれた状態で生成されるので、倒れても惨事にならないよう二十個にしておく。
それを七回繰り返し、百四十個の牌が出来上がった。
さらにそれをもう二回繰り返し、三セットの麻雀牌の素が出来上がる。
ズヴァールのお土産用、ズヴァールが寄るであろうマレイン・ビッセリンク伯爵への土産用、そして自領で使う分だ。
「さて、ここからはちょっとお絵描きタイムです。これから説明しますので、片面にその絵や文字を描いていってください」
麻雀は一から九までの数字がトランプのように異なる三種類のマークで描かれた数牌と、東南西北といった七種類の漢字が書かれた字牌を使って遊ぶ。
各種四枚ずつあるので、都合百三十六枚の牌が必要だ。
まずはこれを作っていくのだが、地球の模様や漢字をそのまま使うとイメージが湧きにくい気がするため、勇は少し手を加えることにした。
「一種類目はオーソドックスな数字が書かれている牌です、これはセルファースさんとニコレットさんにお願いします。お二方とも数字は書きなれていると思いますので」
「わかった」
「わかったわ」
地球で言うところの萬子に相当する牌だ。地球では漢数字に萬という単位を表す漢字が付いているが、こちらでは数字のみとした。
「次は、短剣の柄です。こんな感じで、一本から九本の短剣を描いてください。こちらは、フェリクスさんとリディルさんにお願いします」
「「了解しました」」
こちらは索子に相当する牌だ。地球の物は竹のような模様だが、短剣をモチーフとすることでよく似た牌になるだろう。
「続いては……、織姫の肉球柄です。細かいので大変ですが、これは何としても完成させたいので、ミゼロイさんとティラミスさんお願いできますか?」
「オリヒメ先生の肉球とあらば、もちろん喜んで」
「わかったっす!」
肉球柄は筒子だ。地球では円の中に少々模様が描かれているのだが、こちらではその模様を織姫の肉球スタンプ柄にする。異世界麻雀牌最大のこだわりポイントだ。
「最後に字牌です。これには東西南北を表す文字と、赤、緑を表す文字を書いてください。こちらはズヴァールさんとアンネにお願いしたいと思います。お二人とも、非常に字が綺麗なので」
「任された」
「分かりました」
字牌については、こちらにも同じ概念があるのでそのままそれを利用することにした。
「他の方は、お好きな所を手伝ってください。売るわけでは無いので、上手い下手は関係無いです。楽しんで描いてくださいね! 失敗してもすぐ替わりを用意するので、ご心配なく。分からないことがあれば、何でも聞いてくださいね」
勇がそう言うと、皆真剣な表情で一斉に牌に文字や模様を描き込みはじめた。
群を抜いて気合が入っていたのは肉球組だ。マルセラも加わり、ドラゴンとでも戦っているかのように真剣な表情で肉球を描いている。
その横では、モチーフとなった織姫が香箱座りで様子を見ながら尻尾をユラユラと揺らして応援していた。
領主夫妻組は数字とあって気楽に書いていた。ついて来ていた息子のユリウスも加わって和気あいあいだ。
短剣組の二人にはエトが加わっていた。やれ角度がどうこう、間隔がどうこうとお互い見せあいながら書いている。皆凝り性なのだろう。
字牌組にはヴィレムが加わり、アンネマリーやズヴァールに劣らぬ達筆ぶりを見せ二人を驚かせていた。
途中休憩も入れながら作業する事三時間、ついに全ての牌の絵付けが終わった。
「皆さんありがとうございます!! お陰様で素晴らしい牌が出来上がりました。では、早速遊び方を説明しますね」
そう言って、勇がルールを説明していく。
細かい役に付いてはひとまず置いておいて、基本となる絵の揃え方から説明を始めていく。
「……なるほどね。ひとまず同じ牌を三つか同じ柄の数字を繋ぎで三つ揃えれば一組になるんだね」
「はい。それが一番基本ですね。三枚一組の物を四組、そして必ず同じ牌を二枚一組にしたものを一つ。合わせて十四枚を一番早く揃えた人が勝ちです。ただし、揃え方によって点数が付いています。基本的に揃えるのが難しいものほど高得点ですね」
「ほぅ。点数がついてるんやな。ということは、最終的には点数が多いものが優勝、ということか?」
ズヴァールがなかなかに鋭い質問をしてくる。
「仰る通りです。一試合ごとの勝利も大切ですが、最低でも八回戦は戦ってその合計点で順位を決めます。まぁ言葉で説明するより、これは実際にやった方が分かりやすいと思いますから、早速やってみましょうか」
そして、この世界初の麻雀講座が始まるのだった。
麻雀回になる事は無いはず…
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