●第142話●魔弾砲
すみません、昨夜アップするのを忘れておりました……
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週3~4話更新予定です。
「なんじゃ!? いきなり成功か?」
綺麗に飛んでいったダミー玉を見て、エトが目を白黒させている。
「ひとまず飛んでくれたのはありがたいですね。設計思想はこれで間違っていないということですし」
その横では勇がホッとした表情を浮かべていた。
「さてさて、筒のほうは大丈夫かどうか……」
どの程度の負荷が砲身にかかるのか全く分からないため、ひとまず撃っては確認するのを繰り返すしかない。
このやり方で良いかどうかの確認用だったので、爆発の威力と範囲のパラメータはだいぶ低めに設定してある。小威力の魔法よりも少し弱い程度だろう。
また、飛ばすのに熱量は不要なため、熱量のパラメータは最低値だ。冷却や放熱を考えなくても良いのは非常にありがたい。
こうして撃ってすぐに素手で触って確認もできる。
「うん。一発撃っただけで壊れるような事は無さそうですね。もう少し撃ってみますか」
一通り点検したがヒビや変形は見られなかったため、そのまま耐久テストに移行する。
二発目、三発目と順調に発射を続けて四発目を発射した時だった。
ボンッという今までどおりの音に交じってボシュッという音と共に筒の底面から白煙が噴き出す。
ダミー玉も飛んではいったが、その距離はこれまでよりも随分と短い。
「おっと、やはり漏れましたか……」
勇は予想通りと言わんばかりに呟くと、慌てることなく状況確認を行う。
筒の底面付近を確認してみると、筒と底面の接合部分の一部が割れて、そこから圧力が漏れているようだった。
今回の試作品は、円筒状の金属パーツと、円筒の直径より二回りほど大きな円盤状のパーツを接合。その後接合部分をテープ状の金属で補強する形で行われている。
型を作って溶かした金属を流し込む方式なので、底面も一体成型する事は可能だ。ただ、それをしてしまうと量産時の効率が悪い。
型は基本使い捨てなので、一体成型すると一つの型で一つしか作れない。
底面と分ければ、長い筒状のパーツを作って切断する方法が使える。型を作るのには手間と時間がかかるため、型の数を減らせると効率が良くなるのだ。
「ふーむ、かなり頑丈にくっつけたつもりじゃったが、それでも三発しか持たんか」
あごを触りながらエトが呟く。
「こればかりは仕方がありませんね。メタルリーチを使って接合すれば多分大丈夫なんでしょうけどねぇ……」
「量産品においそれと使えるような素材では無いわな」
勇とエトが顔を見合わせて苦笑する。
「じゃあ他の物も試してみますか」
「うむ。厚みと素材の違いで、どこまで変わるか興味深いの」
ひとまずの検証を終えたので、残りの三パターンも同じように試し撃ちを行っていく。
二つ目は、同じく鉄製だが厚みを半分ほどにしたものだ。
こちらも筒自体が変形したりする事は無かったのだが、やはり三発目で接合部分が裂けてしまった。
三つ目と四つ目は、黒鉄と呼ばれている鉄より高級な金属製だ。
鉄より二割ほど軽い上硬いため、鉄の上位互換品として高級武具や日用品に使われている。
勇は金属に詳しいわけではないので断言出来ないが、魔銀同様地球には存在しない金属と思われた。
こちらも作り方は同じで、丈夫な分厚みが薄くなっている。
果たして結果はと言うと、やはり接合部分が裂けるという結果に終わった。
「うーーん、より丈夫な接合方法を考えるのが正解なんでしょうけど、一先ずの解決方法としては対魔法用の魔法陣を使っちゃいましょうか?」
「そうじゃなぁ。新しい接合方法が出来れば、他のモノ作りにも役に立つからの。それはそれで鍛冶屋連中に頼んでおくわい」
ボトルネックがハッキリしたことで、対策方法を協議する勇とエト。
技術発展にも繋がる、より丈夫な接合方法の考案は実施しつつ、ランチャーについては魔法陣で解決する事にした。
試験用に爆発力を抑えていても三発しか持たないことを考えると、満足いく飛距離を出すには、現状は魔法陣を使うしかない。
「普通は在りものの魔法陣の課題を、素材やら技術やらで解決するんやけどな……。妥協して魔法陣で解決するんやから恐ろしいな……」
当然のように消去法で魔法陣による解決を選択する勇達を見て、ズヴァール・ザバダック辺境伯が嘆息する。
「とは言え、今の実験で全部穴が開いちゃいましたからね……。エトさん、鉄の薄い方のをもう一度作るのに、どれくらい時間かかりますかね?」
「鉄の筒と底は切った残りがあるから、繋ぎ合わせるのに半日というとこじゃな。だが、対魔法用の魔法陣を使うんじゃよな?」
「ええ。魔法による爆発なので、あの魔法陣で減衰できちゃうんですよねぇ」
「だったら、もう一段薄い鉄の筒があるんじゃが、そっちを使ってみんか? 最初に作ってはみたものの、薄すぎる気がしてボツにしたのがあるんじゃ」
「おお!? それは良いですね! それでまずは試してみましょうか。そっちで大丈夫なら、その方が軽くて使いやすいですし」
「分かった。じゃあ一度戻って早速組み込んでみるか」
「そうしましょう!!」
即断即決。それはもはや研究所、いや騎士団含めたクラウフェルト家のお家芸になりつつあった。
いつもの事なので、全く動じず馬車に乗り込んで帰途につく一行。それを見てズヴァールが、逗留後何度目か分からない溜息を洩らした。
「……こ奴らが敵にはならない、というだけでも、派閥を作った意味があったなぁ」
研究所に戻った勇は、早速魔法陣の組み込みを開始する。
少々お疲れモードのズヴァールは、休憩スペースでお茶を飲みながら、膝に乗ってきた織姫をモフっていた。
このあたりのケアを忘れないのが、出来る女たる所以だろう。
「上の方まで書いちゃうと飛ばす事も出来なくなってしまうので、底面から少し上くらいまでですね」
「そうだね。一旦起動陣は別系統にするかい?」
「そうですね。最終的には一系統にまとめて同時起動が理想ですけど、時間も無いんでひとまず別系統ですね」
「じゃあ起動陣は作っておくよ」
「ありがとうございます。私は機能陣を組み込みます」
ヴィレムと手分けしながら作業をすすめる勇。
射出に必要となる爆発まで減衰しないように、筒の底面付近のみに魔法陣を描いていく。
「あー、下向きの爆発を減衰させるって事は、その分の圧力が減るから、爆発の出力は上げたほうがいいのか……。んー、どの程度必要か分からないから、ついでに魔力調整機能もつけておくかな。元々完成品には付ける予定だったし」
そんな事を呟きながら、威力を調整するための機構を書き足していく。
射角の調整で、ある程度飛距離の調整は出来るし、平地で使う場合だったら目標に近づいたり離れたりする事でも飛距離の調整はできる。
しかし籠城戦において防壁の上で使う場合、ほとんど前後には動かす事が出来ないため死角が出来てしまう。これは防衛戦においては致命傷だ。
そのため、爆発の威力を調整する機構が必要だと考えていたのだ。
「よし、こんなもんかな」
二時間ほどかけて作業を終えた勇が軽く伸びをする。
速度重視で描いたため、かなり雑な見た目になってしまったがそこはご愛敬だろう。
完成した試作機ver.2を携えて、再び演習場へと移動する一行。
先程生み出した岩壁の所で、実験を再開する。
「いきます!」
少々威力を強めた状態で起動させる勇。
ボンッという音がすると同時に、砲身の底面が一瞬光を帯びる。
先程までより、やや短い場所へダミー玉が着弾した。
「やっぱり射出する力は落ちているな。砲身のほうは、と……。うん、下も上も大丈夫そうだ」
試射後に確認をして、どこにも異常がないことを確認して勇が小さく頷く。
そこからは単調作業の繰り返しだ。
先程までと同じ飛距離になるよう出力を調整し、調整出来たら数撃ちで耐久度を測る。
今回は十発撃っても壊れるような様子は見えなかったので、今度は少しずつ出力を上げていく。
あたりが夕陽に包まれるまで実験を行ったが、ついに演習場の外までダミー玉が飛んでいっても、砲身が壊れるような事は無かった。
「うん。バッチリじゃないかな。見た目は後でキレイにするとして、性能面はこれで大丈夫そうですね」
「やっぱり魔法陣の効果は抜群だの。多分もう少し距離も延ばせるじゃろ」
「魔法防御側の魔石の減りを見る感じ、まだいけそうだよねぇ。ただこれ以上伸ばしても、クラウフェンダムからじゃあ森に撃ち込む事になるけどね」
上々の成果に喜ぶ研究所の三人。
ヴィレムの言うように、演習場の端から端までの距離と、クラウフェンダムから森の入り口までの距離はほとんど同じだ。
向かい風の場合を考慮しても、防衛戦のみに利用するならそれほど飛距離を伸ばす必要はない。
「当面の実用面を考えるとその通りですね。野戦に持ち出した時や水平発射が必要な場面を想定して、限界距離だけは確認しておきましょうか」
使わないと使えないでは全く意味が違うので、後日限界性能を見極めることにして、今日の試験はお開きとなる。
こうしてひとまずの完成をみたグレネードランチャーは、魔弾砲と名付けられ、近日中に領都防衛用兵器として量産されることとなった。
ちなみにここへ至るまで、ゆうに百発は撃っている。ダミー玉は流石にそこまでの数は無いので、飛んでいったものを拾って来て再利用していた。
野球部の下級生よろしく球拾い係が必要なのだが、地味な上何度も往復する必要があり、しんどい事この上ない。
誰もやりたくないから下級生にやらせるわけで、今回も三つ巴手遊びに負けた若手騎士が何名か駆り出されているのだが、ここでまたしても織姫がファインプレーを見せる。
すぐに単純作業に飽きた織姫が、着弾地点側で飛んでくる弾を空中でキャッチしたり弾き飛ばす遊びを始めたのだ。
これを見た騎士達が歓喜。一緒になって空中でキャッチしたり、弾き飛ばされたものをキャッチして遊びだす。
終いには、織姫とキャッキャウフフしているのを見て我慢できなくなったミゼロイやティラミスもそちらに参加、晴れてやりがいのある仕事になるのだった。
「まだやるのか!?」
その日の晩餐時、ズヴァールはまたしても驚愕する事になった。
それは、夕食を摂りながら、勇が魔防門と魔弾砲に目途がついたと報告をしたすぐ後の事だった。
「明日は、ちょっと研究所に手を加えてみようと思います。どこまで効果があるか分かりませんが、防音効果を高められないかと思いまして」
「へぇ、防音効果ねぇ」
「はい。館の敷地内にあるので大丈夫だとは思うのですが、声が外に漏れるのを防げないかな、と思いまして」
「ほぅ。壁の厚みを増やすのかい?」
「そうですね、厚みは増えると思います。もっとも、厚みを増やすのが狙いではなくて、結果として厚みが増える感じですが」
「どういう事だい?」
「保温石があるじゃないですか? 前にも説明したかもしれませんが、あれは細かい気泡が中にある石なんです。私のいた世界では、多孔質と呼ばれる性質を持った素材です」
勇が保温石の特性について説明を始めた。
「多孔質の素材にはいくつかの特徴があります。まず代表的なのが断熱効果ですね。これはすでに新型冷蔵箱で証明済みですね」
「そうだね」
セルファースが頷く。
「もう一つ代表的な効果があって、それが吸音効果です。ようは音を吸収して小さくする効果ですね。研究所の室内側の壁に保温石を張る事で、外へ音が漏れることをある程度防げるはずです。おまけで断熱効果も高まるので、今の時期は部屋が暖かくなると思いますよ」
「保温石にそんな効果があるのか……」
「実際にやってみないと、どの程度効果があるかは分かりませんが……。色々なパターンの保温石を作って、試してみようかと」
「うん、いいんじゃないかな。効果があったら、是非本館や騎士の宿舎なんかにも導入したいねぇ」
「んん? 今保温石を“作る”と聞こえたんやが……?」
サラリと出てきた勇の言葉にズヴァールが反応する。
「あーー、保温石の事はまだ閣下にお伝えしていませんでしたね……。あれはイサムの作った魔法具で製造しているんですよ」
「はぁぁ!? あれも魔法具で?」
「はい。気泡の入り方や大きさを指定して作り出す事が出来ます。複雑な形状じゃ無ければ加工が不要なので、なかなか便利なんですよ?」
「…………。やれやれ、儂もそこそこ長く生きて来たが、こんなに驚き続けた二日間は初めてやな……」
セルファースと勇の言葉に、ズヴァールが小さくかぶりを振った。
「明日調整しながら施工するので、よろしければ見学しませんか? 閣下の領地はここよりも寒いと聞いています。実際に見てイメージを掴んでいただき、まずは閣下の館へ施工してはどうかと」
「そうか、断熱の効果があると言っていたな……。分かった、ありがたく見学させてもらう」
「では、また明日の朝食後から、よろしくお願います」
こうしてズヴァールの逗留三日目にも、新たな驚きが生まれることが決まった。
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