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●第139話●巡年祭の終わり

ブックマーク、評価していただいた皆さま、本当にありがとうございます!!

週3~4話更新予定です。

 タカアシガニを撃破した勇たちは、一緒に湧いていたラギッドスパイダーの残党狩りを行っていた。


「おらっ! っとぉ、一匹そっち行ったぞ!!」

「はいよ、っと!」

 ガスコインとエリクセン家の傭兵騎士達が中心となって、次々と狩っていく。

 元々半数程度まで数を減らしていたこともあって、ものの五分足らずで目につく魔物は全て煙となって消えていった。


 ひょっとしたらタカアシガニは魔法巨人(ゴーレム)の一種か何かで、消えずに残るかも? と密かに期待していた勇だったが、ラギッドスパイダーと同じようにあえなく煙と化していた。

 がっかりした勇ではあったが、一つ収穫もあった。


 以前から、遺跡種の魔物が消える瞬間に黒い光が見えているような気がしていたのだが、一瞬かつ小さな光なので確証を持てずにいた。

 しかし、これまで倒した遺跡種の中でも飛びぬけて大きなタカアシガニだったためか、はっきりと黒く光った事を確認できたのだ。

 戦闘後すぐに駆け寄ってきて、煙になった瞬間を一緒に見ていたアンネマリーに聞いてみたが、彼女の目には黒い光は見えなかったそうだ。


(これでほぼ、魔法的な力が介在していることは確実だな……。アンネに見えないということは魔力の光。であの色となるとなぁ、やっぱ存在が確認されていない闇属性なんだろうなぁ……)

 タカアシガニが消え、今やただの小さな沼となった場所をぼんやり眺めながらそんな事を考えていると、横から声を掛けられた。


「どうしたイサム殿? どこか痛めたのか?」

 声のした方を向くと、ゆっくりとパルファンが歩いて来ていた。


「ああ、パルファンさん。いえ、少々疲れたのと、あんなデカい奴でも消える時は一瞬なのが不思議だなぁ、と考えていただけです」

「確かに。あれだけ苦労したのだから、何かしら残してくれても女神様はお怒りにならないと思うがな……」

 ほとんど表情を変えないパルファンが、少し笑ったような気がした。

 この男なりの冗談なのだろうかと考えていると、すぐにいつものポーカーフェイスに戻ってしまった。


「……ときに、最後の動きは見事だった。全身強化(フルエンハンス)泥化(マッドネス)と聞こえた気がするが、聞き間違いでは無いだろうか?」

「ええ、その二つであっていますよ」

「そうか。正直そんな魔法があった事すら忘れていたし、ここまで劇的な効果がある魔法ではなかったはず……。それを見事に使いこなしたのだから、本当に大したものだ」

「あはは、ありがとうございます。私は魔力が多くないですからね。人が使わないような魔法をどうにか工夫して使えば、多少はやり合えるかなぁ、なんて考えているんですよ」

 いつになく饒舌に語るパルファンに、勇は内心驚きながら答えを返す。


「そうだったか。少なくとも今回の戦いにおいて、イサム殿の魔力が少ない事など全く気が付かなかった。さぞや努力されたのだろう。お陰であのような難敵を相手にして、死者も出さずに勝利を収める事が出来た。感謝する」

 そう言って軽くパルファンが頭を下げた。


「頭を上げてください! 勝てたのは皆さんが力を合わせたからであって、私の手柄ではありませんよっ」

 突然頭を下げられた勇が、慌てて両手を振りながら答える。


「フ、謙虚なのだな。ああそれとこの魔剣をお返しする。素晴らしい魔剣だな、これは。切れ味はもちろんだが、魔石が埋まっているというのにバランスを損なっていないから非常に使いやすい。こんな剣を持たせてもらえる貴家の騎士が羨ましくなるくらいだ」

 そう言って、柄をこちらに向けて強化型を返してくるパルファン。

「っ!……ありがとうございます。今はお譲りする事は出来ませんが、機会があれば都合をつけましょうか?」

 受け取りながら「お世辞でも嬉しいです」と言いかけた勇が、慌てて別の言葉を選ぶ。


 よく見るとパルファンの小鼻が微妙に膨らんでいるのだ。それに加えて、無口な彼の魔剣に対するこの評価コメントの長さ。

 総合的に考えるとおそらく……


「ほ、本当か!? そ、それはありがたい。いつかその話が実現すると良いのだが……。そうか。フフ、私が魔剣を手にする可能性が出てきたか。フフフ……」

 礼を言いつつそんな事を呟きながら、パルファンが自家の騎士達の下へと戻っていく。

 名門だろうがそうでなかろうが、騎士と言うのは魔剣に憧れるものなんだなぁ、とあらためて思う勇であった。



 その後ガスコインからも魔剣を返してもらい、討ち漏らしがいないか確認をしていると、崖の上から複数の馬の蹄の音が聞こえてきた。


「大丈夫か? 何があった!?」

 崖ギリギリまで馬を寄せて、覗き込むように顔を出したのはセルファースだった。間を置かず三辺境伯とエレオノーラ・エリクセン伯爵も顔を出す。


 勇達が二段目で遺跡種の出現場所を特定した時、セルファースらは一段目を巡回していた。

 調査部隊が複数派閥の騎士から構成されているため、勇達の派閥だけ当主が参加するのは避けたほうが良いとの判断からだ。

 もちろん特定したタイミングで伝令を飛ばしているが、並行して掘り出し作業からタカアシガニ戦へと事態が急展開したため、音を聞きつけて慌てて合流した形だ。


「ああ、セルファースさんに皆様も。ちょっとタカアシガニ……えーっと大型の遺跡種と戦闘になりまして、今しがた倒した所です。どうにか皆無事ですよ」

 見上げながら勇が大雑把に状況を説明する。

「なにっ!? 大型の遺跡種と? しまったの、あ奴らは倒すと消えおるからな……見逃してしまったか。まぁいい、今そっちに行くからの」

 心底残念そうな表情でエレオノーラはそう言うと踵を返す。他の当主たちも同様に崖下から見えなくなった。


 二十分程経って合流した当主たちに、順を追って起きたことを説明していく。

 タカアシガニとの戦闘については、エレオノーラだけでなく三人の辺境伯家当主も根掘り葉掘り聞きたがり、見かねたセルファースが止めるまで続いた。


 その後、当主たちと同じように騒動の音を聞いて集まって来ていた他家の騎士達も合流して、現場検証を大々的に行った。

 合同討伐のタイムリミットもあるため、本格的な調査は後日王都の騎士団が行うだろうが、報告のためにもひとまずの安全性と状況確認は必要になる。


 小威力の爆裂魔法と風魔法を駆使して土砂や岩を退かしていった結果、崖の中から壁が一面だけ出てきた。

 ちなみに、フランボワーズが参加するとまた大惨事になりかねないのでご遠慮願っている。

 

「うーん、どうやらこの壁っぽい所が、遺跡の端のようですね。壁の向こうには何も無さそうです」

「そうだね。横方向にも続いているような感じは無いから、大きな部屋が一つだけ崖に埋まったままになっていたのが、徐々に表面が削れて出てきたんだろうね」

 勇とセルファースが、出てきた壁を見て意見を交わす。


「うむ。未知の遺跡が埋まっていたわけではなく少々残念だが……、これ以上遺跡種が出てくることは無さそうなのは重畳だ」

「わっちもそのタカアシガニとやらと戦ってみたかったが、仕方がないの……」

 ナザリオ・イノチェンティ辺境伯とエレオノーラは、安心さよりも残念さの方が勝っているようだ。


 その後もしばらく調査をした結果、今回の遺跡種及びその大型種の出現はイレギュラーなものであり、今後その恐れはないと思われる、と報告することが決まった。

 こうして予定時刻より数時間遅れはしたものの、合同討伐部隊は死者を出すことなく王都への帰途についた。


 遅れを取り戻すべく少々急いだ行軍の末、予定より一時間遅れで合同討伐部隊は王都の正門を潜った。


 正門にある合同討伐部隊本部で報告を受ける第一王子ヨルムラング・シュターレンは、最初は予定時刻を過ぎたことに対して不満の表情を浮かべていた。流石に口に出すような真似はしなかったが……。

 しかし、セルファースから遺跡種とその大型種に関する報告を受けると態度を一変、今年の合同討伐は近年稀にみる大成果であると絶賛するのだった。


 凱旋パレードに先立つ第一王子による総括でも、御前試合で鎬を削った家同士が協力し見事強敵を討伐したとして大いに褒め称え、前線でそれを指揮したクラウフェルト家とエリクセン家に対しても賛辞を送った。

 見事なまでの手の平返しに苦笑する勇達だったが、評価された事には違いが無いので良しとした。


 先の第一王子の総括を受けて、開始が遅れたにもかかわらず凱旋パレードは大変な盛り上がりを見せていた。


「きゃ~~~っ!! エレオノーラ様~~っっ!!」

「パルファン様~、こちらを向いて~~っ!」

「フランボワーズ様っ!今日もお美しいっ!!」

 沿道からかかる声は、やはりエレオノーラが一番人気のようだ。

 続いてパルファンやフランボワーズなど、高位貴族の隊長たちも人気が高い。


「セルファース様お疲れ様ですっ!」

「フェリクス様ーーっ!こっち向いて―!」

 この数日で一気に有名になったクラウフェルト家にも、ちらほら声が掛かる。

 当主セルファースと、イケメンフェリクスが人気を二分する形だ。


「ガスコインの兄貴~っ!」

「ミゼロイの兄貴~っ!!」

 そして御前試合以降意気投合していたガスコインとミゼロイは、どうやら同じ客層にひと際人気があるようだ。


「かっかっか、お前さんらも人気が出てきて重畳よな」

 それを見て楽しそうに笑うエレオノーラに、連れだって馬を進めていた二人は渋い顔を見合わせた。


 こうして、いくつかの波乱はありつつも、十日間に渡る巡年祭は今年も大盛り上がりの中幕を閉じた。

 クラウフェルト家としても、勇の能力(スキル)公表の下準備として十分な成果を得られた、実りある十日間だったと言えるだろう。



 凱旋パレードの翌日、クラウフェルト家の一行は合同討伐の疲れを取るため休息日として、領地への土産物などを買い求めた。

 夜には再び勇派閥の面々が銀龍の鱗に集結、パーティーが開かれた。

 各家の騎士達も参加できるよう立食形式で行われたため、非常に賑やかで活気のあるものとなった。


 名目としてはクラウフェルト家の御前試合優勝祝勝会なのだが、誰が見ても各家間の親睦を現場レベルで深めるためのパーティーだろう。


 そしてここでも、織姫は大人気だった。


 先の合同討伐における活躍を目にした一部騎士からの人気は、すでにある程度高まってはいた。

 しかし、パーティー会場を気ままに歩き回っては、クラウフェルト家の騎士にすりすりゴロゴロ甘える戦闘時とのギャップに、それを見た全ての騎士がノックアウトされる。

 こうして織姫は、一晩のうちに三桁近い信者を増やす事に成功した。


 翌朝、巡年祭も終わり日常に戻った王都では。貴族たちの帰還ラッシュが始まっていた。

 本日より、遠方の貴族家から順次帰還していく事になる。

 勇達ビッセリンク伯爵家キャラバンも、準備を済ませて王都の北門へ続く車列に加わっていた。


 ビッセリンク伯爵家キャラバンは、本来であれば明後日に出発する組なのだが、今回は同じ方向のザバダック辺境伯と共に帰路につくため、辺境伯に合わせて本日出発することになったのだ。

 道中しばらく織姫と一緒にいられる事を同道できない三当主に羨ましがられて、ザバダック辺境伯は上機嫌である。



 この巡年祭期間だけで、屋台のボヤ騒ぎに始まり、御前試合で実力と魔法具の力を見せつけての圧勝劇、辺境伯、傭兵伯との派閥立ち上げ、そして合同討伐での大活躍という数々の功績を上げたクラウフェルト家。

 かくしてその名声は、同家の魔法顧問である迷い人イサム・マツモトの名と共に、王家や貴族達の間に轟き始めるのだった。

これを持って第8章完結。想定よりだいぶ長くなってしまいました……


週3~4話更新予定予定。

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