●第138話●激戦
かなり長めです。分割しても良かったのですが、話の勢いを止めたくなかったので……
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週3~4話更新予定です。
「レーザーか? いや、あの色は雷属性だったから荷電粒子砲とかってヤツか……? どちらにせよヤバいのが出てきたなぁ」
抉れた地面を横目に見ながら勇が独り言ちていると、後衛のさらに後ろへと退避していたアンネマリーから、悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「イサムさん、大丈夫ですか!?」
「ええ、姫のおかげでなんとか。アンネは後ろから魔法で援護を」
チラリ、と後ろを振り返った勇が笑顔で短く答える。
「私もっ! ……いえ、分かりました。後方支援に回ります! お気を付けて!!」
私も一緒に戦います、と出かかった言葉をどうにか飲み込むアンネマリー。
これまで幾度となくあった戦闘で自分を遠ざけることの無かった勇が、開口一番下がれと言ったということは、それだけ逼迫した状況なのだろう。
織姫が勇にぴったりくっついて離れないことからもそれが読み取れる。
アンネマリーの声に、振り返ることなく片手を小さく上げて勇が答える。
「みっ」
替わりに織姫が振り返り、小さく鳴いた。ここは任せておけ、という事だろうか。
「大丈夫か!」
「ご無事で何より」
「お見事」
リーダーたちが勇に声を掛けてくる。
「ええなんとか。ただ私の技量では、そうそうアレを躱すことは難しいので、少し後方へ下がらせてもらいますね……」
苦笑しながら勇が応える。
「ああ。アンタは本来後衛だろ? 前は任せとけ」
ニヤリと笑ってガスコインが二の腕をポンポンと叩く。
「時にイサム殿、先ほど魔法が来ると言っていたが……、アレが魔法なのか?」
パルファンが尋ねる。
「ええ。先ほど言った通り私には魔法が発動する時の魔力が見えますからね。アレは魔法でした。今の所連続で撃ってくる素振りは無いですが、どうだかわかりませんね」
勇がパルファンの質問に答えつつ、自身の知っている情報を付け足す。
「それと、我々はあれと良く似た魔物と一度戦ったことがあります。まぁ、もっと小さかったですけどね……。もし同類だというのであれば、あの体表は相当硬いですよ。普通の剣では歯が立ちません」
「なに?」
勇の返答にパルファンの片眉が上がる。
「どこまで同じか分かりませんので、試してみない事には答えは出ないですけどね……。
と言うことで、ガスコインさん、パルファンさん、それとフェリクスさんで散開しながら一度切り込んでもらって良いですか?フランボワーズさんは魔法による牽制をお願いします。私も下がって牽制に回ります」
「まかせろ」
「了解した」
「はっ!」
「心得た」
「大人数でいくと、さっきの魔法で一網打尽にされかねないので、まずは少人数です。一当てした感触で次を決めましょう」
単騎で突っ込んでも自分で自分を守る事が出来る実力を持ったリーダーたちで、まずは彼我の戦力差を図る算段だ。
「他の方々はデカいの……仮称タカアシガニとしましょうか、に気を付けつつ、近づいてきたラギッドスパイダーを各個撃破してください! ただし深追いは禁物です。デカいのにどんな攻撃があるか分かりませんが、少なくとも口が光ったら射線上から離れてください。まともに食らったら無事ではすみません」
他の選抜メンバーにも指示を飛ばす。二十を超えるラギッドスパイダーが取り囲むように様子を窺っているため、タカアシガニにばかり気を取られているわけにもいかないのだ。
「おうっ!」
「了解です!」
「承知!」
成り行きで勇が指示を出しているが、騎士達からは快い返事が返ってくる。
プライドが邪魔をしてくだらない反発をする輩がいないことが、返す返すもありがたい。
彼らのためにも全力を尽くそうと、あらためて勇が決意する。
「フランボワーズさん、何属性が得意ですか?」
「特に不得意な属性は無いな。何か要望はあるか?」
「はは、それは頼もしいですね。前と同じヤツだとしたら、炎と風は効き目が薄いはずです。一度軽めに炎の魔法を撃ってみて、効かなかったら岩拳でもばら撒いてください」
「承知した。魔法顧問殿はどうするのだ?」
「私は土が専門ですからね。足元を掬ってやりますよ」
「土が専門とは珍しいな……。分かった。ウチのには壁を出させたほうがいいか?」
「それはありがたいですね。確実に防ぐなら岩石壁ですが……。見えなくなるのはマズイので風壁を厚めにお願いします」
「承知した。お前ら聞こえたな? ここで活躍すれば、サミュエル様もきっとお喜びになるはずだ! あのようなカニの魔法など、我らの敵ではないと言う所を見せつけてやれ!」
「「「「はいっ!!」」」」
フランボワーズが、自家の騎士達を焚きつけたので、勇もそれに乗っかる事にした。
「ご活躍された暁には、フェルカーさんへの口添えをお約束しましょう!」
「「「「おおっ!?」」」」
勇の言葉にフェルカー家の騎士達が色めき立つ。
「フッ、上手く乗せたな」
フランボワーズが小さく呟く。
「フランボワーズさんこそ」
勇も小さく呟き返す。
一瞬顔を見合わせて互いにニヤリと笑うと、すぐに視線をタカアシガニに戻した。
「それでは、フランボワーズさんの魔法を合図に行きますよっ!」
「「「「「おおーーーっ!!」」」」」
勇の檄に鬨が上がる。
そして朗々たるフランボワーズの詠唱が、開戦を告げた。
『虚空より現れし猛火よ、矢となって敵を燃やし尽くせ!!』
呪文の詠唱が始まった途端、オレンジの光が渦巻くようにして噴き出すのを勇の目が捕らえる。
先程の爆炎弾もそうだったが、かなりの魔力量だ。これで控えめだと言うのだからとんでもない。勇であれば、三発撃てば魔力が半減するだろう。
『焔矢!』
五十センチほどの長さの炎の矢が十本、フランボワーズの頭上に浮かび上がる。
彼女が手を振り下ろすと、まず五本が飛んでいき、数秒おいて残りの五本も飛んでいった。
それを見届けると、結果を待たずにまたすぐに次の魔法の準備に入る。
放たれた炎の矢の第一陣が、横一列に並んでタカアシガニの口らしき場所をめがけて飛んでいく。
対するタカアシガニは、慌てる素振りも無く少し前足を屈め、上面の表皮で炎の矢を受け止めた。
ボボボンッと着弾した炎の矢が火柱を上げるが、勇の予想通り多少表皮に焦げ目がついた程度で、ほとんどダメージにはなっていない。
遅れて右前足に着弾した第二陣も、同じような結果に終わった。
それを見て、次の魔法を準備していたフランボワーズの眉が吊り上がる。
事前に効かないと言われていても、腹立たしい事は変わらない。フランボワーズは次の魔法に少しだけ魔力を上乗せした。
一方切り込み部隊に任命された三人も、焔矢の発動と同時に動き始めていた。
正面から最も個人技に優れるガスコイン、向かって左にフェリクス、右にパルファンが回り込む。
フランボワーズが放った焔矢が一波二波ともに効果が無かった事と、その後フランボワーズが次の魔法の準備に入ったのを横目で確認しながら、タカアシガニへと突っ込んでいく。
最初に一当てしたのは、距離的に最も近いパルファンだった。
相手の左前脚の後ろ側に回り込むと、肩の高さくらいにあるタカアシガニの関節部分に剣を突き込む。
ギギギィィィンッッ!!
電光石火で放たれたパルファンの三連突きだったが、金属どうしとはまた違う鈍い音を響かせ表面を削っただけで、ほとんどダメージを与えられていない。
「む。確かにこれは硬いな……」
小さく呟いたパルファンは、引き際にも突きを入れながらタカアシガニの左側方で足を止めた。
次に接敵したのは、正面から突っ込んだガスコインだ。
先程目にも止まらぬ速さで魔法を撃って来た口と思しき部分に細心の注意を払いつつ、果敢にも真正面から突っ込んでいく。
丁度フランボワーズの焔矢を受けるべく相手が頭を下げた直後だったため、これまた肩の高さあたりにタカアシガニの顔があった。
思い切り射線上に身体を晒すことになるが、先程聞いた前兆音がしていない事を良いことに、ガスコインは走ってきた勢いそのままに体重を乗せて、相手の赤く光る目に剣を突き込んだ。
バギイィィィン!!!
甲高く硬質な音が鳴り響き、ガスコインの長剣とガラスのような破片があたりに飛び散った。
『ルロォォォォォォォッッ!!』
ここで初めて、タカアシガニが声のようなものを発する。
「くっそ、目玉まで硬いのかよっ!」
ガスコインが斜め後方に飛び退きながら吐き捨てる。
狙い通り赤く光る相手の目に剣を突き立てる事に成功、硬く透明な膜に覆われたそれを砕くに至った。
しかし代償は大きく、彼の剣もまた半ばから折れてしまっていた。
そして最後にフェリクスが相手の右前足へ突っ込んでいく。
フェリス1強化型を起動させると、パルファンと同じように関節の後ろを狙って斬りつけた。
ギャリッッという耳障りな音と共に小さな火花が散る。
「やはり強化型ならば傷は付けられます! ただ、かなり装甲が分厚いですね」
間合いを取りつつ、今しがた自分が刻んだ十センチほどの深さの傷を見て、フェリクスが叫んだ。
『岩拳!』
その直後、フランボワーズの魔法第二弾が着弾する。
焔矢が効かなかったことがよほど腹に据えかねたのか、ソフトボールよりも一回り大きな岩が二十個ほど、タカアシガニの背中に降り注いだ。
ドガガガガァァッッッ!!と派手な音が響く。
それを合図に、斬り込んだ三人が戻ってきた。
「やはり魔剣じゃないと駄目ですか。ミゼロイさん、ユリシーズさんはガスコインさんとパルファンさんに強化型を貸してあげてください。
ミゼロイさんは例のハンマーでメインアタッカーを。ユリシーズさんは後衛に加わって下さい。リディルさんマルセラさんティラミスさんも強化型で前衛です!!」
「「「「「了解っ!」」」」」
矢継ぎ早に勇が指示を出す。
「こいつがイノチェンティ様んとこの鎧も斬った魔剣か……」
「ああ。我々はフェリス1強化型と呼んでいる」
ミゼロイから剣を受け取ったガスコインが軽く素振りをしてバランスを確かめる。
「……良いのか? 貴家の秘匿魔法具だろう?」
「んーー、ウチの顧問が良いって言うなら良いんじゃないかな? 魔剣抱えて死んだら意味無いし」
困惑するパルファンに、ユリシーズがあっけらかんと答えた。
「ユリシーズさんの言う通りです。誰が使うのがベストか考えた上での判断なのでお気になさらず。ああ、ちゃんと返してくださいよ? そこは信用してはいますけどね」
勇も笑いながらそう言う。
「魔剣とは言え、角度が悪いとおそらく折れる。気を付けてくれ」
フェリクスからは具体的なアドバイスが飛んだ。
「はっ、そこまで言われたら無様な姿はみせられんなぁ」
「ああ、存分な働きを約束しよう」
勇の言葉を聞いたガスコインとパルファンの表情が引き締まったところに、フランボワーズの声が響く。
「来るぞっっ!!」
岩拳の直撃を受けて少し動きを止めていたタカアシガニが再び動き出していた。
限定領域で相対した個体であれば、かなりのダメージを与えていたであろう攻撃だが、背中がベコベコと凹んでいるものの大きなダメージにはなっていなさそうだ。
キィィィィィィ……ッ
タカアシガニの口に再び魔力が集まっていく。
「散開っ!!!」
勇が指示を出すが、音が聞こえた瞬間全員がすでに動き出していた。
前衛組は目標を散らすように左右に散開、後衛組は多重展開された風壁に隠れつつ、さらに追加で風壁が張られる。
パチュインッ!
そして二度目の光線が放たれた。岩拳を脅威と見たか、狙いはフランボワーズのようだ。
昼だというのに、さらに一段周りを明るくしながら迫る光線が、傾斜をつけて張られた風壁に当たる。
一枚目の壁は光線の角度をやや上方へ屈折させるもあっけなく崩壊、二枚目でもその直進を止めることはできなかったが、一枚目より大きく上方に屈折させることに成功する。
そして先程張られた三枚目でさらに屈折した光線は、そのまま上空へと消えていった。
「三枚でも逸らすのがやっとか……。だが逆に言えば、三枚あれば逸らすことが出来るということだ。すぐに壁を再展開するぞ!」
あまりの威力に押し黙る後衛たちを、フランボワーズが鼓舞する。
『霧雨帳!』
その脇で、勇が辺り一面に薄く霧を発生させた。
「む?」
思わぬ魔法を使ったことに、フランボワーズが一瞬眉を顰める。
「あの攻撃は雷属性っぽいので、細かい水の粒である程度拡散させる事が出来るはずです。やり過ぎると見えなくなるので、この程度が限界ですけどね」
「ほぅ、霧雨帳にそんな効果が…。魔法顧問殿は面白い魔法の使い方をするのだな」
勇の説明に得心したのか、フランボワーズが目を丸くした。
「私は魔力が並程度しかありませんからね。工夫するしかないんですよ」
「そうか。貴殿は素晴らしいな。魔力が少ない事で諦めるのではなく、工夫することでそれを打開するとは……。確かに魔力が多いのは優位だろうが、使い方が悪ければ意味がないものな」
「ははは、そんな高尚な話では無いですけどね。おっと、長話している場合じゃないですね。フランボワーズさんにはちょっとお願いがあります。ユリシーズさん!一緒に聞いてもらって良いですか?」
勇は苦笑しながら、フランボワーズとユリシーズに何事かを伝える。
一瞬驚いた表情を見せた二人だったが、すぐに大きく頷くと再びタカアシガニとの戦闘へと集中力を高めていった。
薄っすらと霧が立ち込める中、前衛組もタカアシガニとの交戦を開始した。
相手を取り囲むように布陣して的を絞らせないようにしながら、ヒットアンドアウェイを繰り返す。
「おぅ、コイツは確かによく斬れる!」
ガスコインが嬉しそうに叫びながらフェリス1強化型を振るって、タカアシガニの左前脚を削っていく。
「ああ、実に素晴らしい魔剣だ」
右前足側ではパルファンが的確に一撃ずつ攻撃を加えていた。
後ろ足側もマルセラとリディルのコンビとフェリクスが、それぞれ奮闘している。
ミゼロイは、タカアシガニに最も効果的と思われる重量可変ハンマーの一撃をお見舞いするべく、常に移動しながらその隙を窺っていた。
対するタカアシガニはと言うと、四本の脚を器用に振るって一匹で全員を相手取っている。
同時に全方位が見えているのか、ほとんど方向転換をせず攻撃を繰り出していた。
しかも接近戦に対応しながら、時折口から光線を吐いては後衛への攻撃の手も緩めない。
一撃受けるだけで壁が三枚使い物にならなくなり、常に張り直しの準備が必要なため、後衛たちは魔法による効果的な援護が出来ない状況だ。
王国内でも超一流の騎士達をまとめて相手取って互角以上に渡り合っているわけで、今更ながらその戦闘力には舌を巻く。
唯一、散発的に襲ってくるラギッドスパイダーの撃破数だけが徐々に増えていく。統率を取って襲ってこないのがせめてもの救いだ。
こうしてどちらも決め手を欠く状況が続くが、そうなってくると分が悪いのは勇達のほうだ。
単純に体力的な面で魔物に劣るのに加えて、人や魔石の魔力量には限りがある。
魔物にも魔力の限界はあるだろうが、先に底をつくのはおそらく人の方だろう。
このままではじり貧だな、と勇が考えていると、タカアシガニのほうが唐突に戦い方を変えた。
これまでこちらの後衛に吐き続けてきた光線を、突如前衛に向かって放ったのだった。
後衛に吐いて来たのと違い、ほとんど溜めることなくいきなりキュィン!と光線が飛ぶ。
狙われたのは、距離を取って側面へ回り込もうと走っていたミゼロイだ。
移動しながらも視線を切るような迂闊な真似は当然していないが、超高速で飛んでくる光線を見て避けることは出来ず、体の側面に光線が直撃する。
チャージ時間が短く威力が弱くなっていそうとは言え、元々は風壁三枚で逸らすのが精々の代物だ。直撃すればただでは済まない。
……はずだったのだが、当のミゼロイは相当驚いた表情をしながら傷一つ無かった。
「なっ?」
「は?」
「ミゼロイッ!!」
突然の出来事に、各所から驚きの声が上がる。
「大丈夫だっ! このマントで分散したようだっ!!」
なおも足を止めずミゼロイが叫ぶ。
ミゼロイの言った通り、身体の側面だったため魔法対策用のマントが機能していた。
雷属性の攻撃であったのと、勇の霧雨帳で拡散、減衰していたことが手伝って、マントで防ぎきれたのだった。
「あと一撃防げるかどうかだ! 一気に魔石が曇った!」
マントの裏側に嵌っている魔石にチラリと目をやったミゼロイが、射角から逃れるため足元へ走り込みながら報告する。
そうこうしているうちに二発目が放たれる。ターゲットはまだ射角から逃れ切れていないミゼロイだ。
パチュインとマントの表面を光が走り何とかこの攻撃も防ぐが、これで魔石の残量が無くなった。
どうにかミゼロイもガスコインのいるタカアシガニの左前脚に滑り込んだが、このままでは全員が脚にしか攻撃が出来ず非常に効率が悪い。
『天地杭!』
そこへ突然勇の声が響き、ミゼロイが合流したタカアシガニの左足下が光った。
「!!」
「っ!」
この後何が起きるか一瞬で理解したミゼロイとガスコインが、光った範囲から飛び退く。
ドゴォォッ!!
地中から直径三十センチメートルほどの石杭が何本も飛び出し、タカアシガニの左前脚を勢いよく掬い上げた。
完全に虚を突かれたタカアシガニは防ぐ事も出来ず大きくバランスを崩す。
『天地杭!』
追い打ちをかけるように今度はユリシーズのグランドスパイクが発動。
左後脚を掬い上げると、ついにタカアシガニをひっくり返した。
ドォォォォンッ!!
激しい地響きがあたりに鳴り響く。
「っ!? よっしゃ!!」
「好機!」
「今だ!」
そしてこの隙を逃すような者はここにはいない。各自が脚に、腹に攻勢をかける。
中でもミゼロイの攻撃が群を抜いていた。
「せいっ!!」
ドゴォォッ!
重量が増加する特性を最大限に活かして、ひっくり返ったタカアシガニの顎にあたる部分へハンマーを全力で振り下ろす。
命中するたび轟音と共にタカアシガニの装甲が凹んでいく。
しかしタカアシガニもやられっぱなしではない。
四本の脚を激しく横に振り回し群がる騎士達を弾き飛ばすと、今度はその足をまっすぐ上げた後、思い切り地面に叩きつけた。
バシィィィンッッ!!!
と轟音を響かせ見事半回転、体勢を立て直す。
『ルロロロロロォォッッッッ!!』
キィィィィィィ……ッ
怒っているのか、唸り声のようなモノを上げて魔力の充填に入る。
『天地杭!』
そこに再びユリシーズの魔法が発動する。
しかし……
『ルオオォォッッッ!!』
地面が光ると同時に、雄たけびを上げてタカアシガニが跳び上がった。
「なにっ!?」
「えっ!?」
「ああん?!」
『全身強化』
『岩颪』
思わず上がった驚きの声に混ざって、勇とフランボワーズの詠唱が淡々と響き渡った。
うっすら光を纏った勇が飛び出す。
「にゃっ」
同時に小さな金色の光が、勇と並走するように飛び出した。
そしてタカアシガニの直上に一抱えはありそうな大きな岩が現れ、そのまま自由落下した。
ドゴォォォォッ!!
跳んだ矢先に大きな岩のカウンターを食らったタカアシガニが真下に落下、地面に叩きつけられる。
その落下地点に素早く突っ込んだ勇が、次の魔法を唱える。
『大獣を飲み込む泥沼は、岩より転じるもの也!泥化!!』
両手が地面に触れると、タカアシガニの周りの地面がドロリと溶け、その巨体を飲み込んだ。
「にゃにゃにゃうにゃー!」
勇の頭に乗っかった織姫が何事かを叫ぶと、前足の先が薄っすら光を放つ。
「にゃーーっ!!」
勢いよく飛び上がると、もがくタカアシガニの背中目掛けて突っ込んだ。
キキィィンッ!!と甲高い音を響かせ、十字の傷がタカアシガニの背中に刻まれる。
「んにゃっ」
くるくると回転しながらミゼロイの頭の上に着地した織姫が、短く鳴く。
「っ!! お任せをっ!! おおぉおぉっっ!!!」
雄たけびを上げたミゼロイが飛び上がり、織姫の刻んだ十字傷に向けて力いっぱいハンマーを振り下ろした。
バギギッッ
傷跡を中心に、タカアシガニの背中に小さな亀裂が走る。
「うおぉぉぉぉっっっ!!!」
再度の雄叫びと共に、ミゼロイがハンマーをもう一度振り下ろした。
バギバギバギッッッッ!!
ハンマーが半ばまでめり込み、タカアシガニの背中の装甲がひび割れていく。
「ミゼロイさん、これをっ!」
勇がそう言って何かをミゼロイに投げつける。
受け取ったミゼロイの目に入ってきたのは雷剣だった。
「了解っ!」
ミゼロイはすぐさまそれを起動させる。
「とどめだっ!」
そして織姫と自身が作った大きな亀裂に、思い切り雷剣を突き立てた。
『ロロロォォッッッ!!』
ヒビや関節の隙間からパチパチと火花を飛び散らせながら、タカアシガニが絶叫する。
四肢をビクビクと痙攣させていたが、やがて体から力が抜け、どちゃりと沼状になった地面へと沈み込んだ。
怪しく赤く光っていた目からも光が消える。
「にゃっふ」
ミゼロイの頭の上に乗ったままの織姫がフンスと鼻を鳴らしてから、「よくやった」と言わんばかりにタシタシとミゼロイの頭を叩いた。
一瞬の静寂。
そして……
「「「「「うおぉぉぉぉっっっ!!!!」」」」」
「「「「「よっしゃぁぁーーーっ!!!」」」」」
戦っていた全員の感情が爆発した。
週3~4話更新予定予定。
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