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●第136話●合同討伐初日

合同討伐はサクッと終わらせるつもりだったのに……。多分前後編で終わると思います!!

(終わらなかったら何かの呪いと思ってご容赦ください)


ブックマーク、評価していただいた皆さま、本当にありがとうございます!!

週3~4話更新予定です。

 王国きっての武門が集ってコタツに埋もれた翌朝、勇達は王城の前庭に設けられたバルコニーにいた。

 眼下には、様々な鎧に身を包んだ騎士達が並んでいる。その数千名以上、王城の広い前庭がいっぱいだ。


 勇の隣にはクラウフェルト家当主のセルファースと、同家騎士団長のディルークがおり、その後ろに20名ほどの騎士が整列している。

 また、少し間を空けた横には、エリクセン家当主のエレオノーラと、同家傭兵騎士団長のガスコインを先頭に、40名ほどの騎士がいた。

 そして勇達の前方、バルコニー最前列では、朝日を受けて純白に輝く鎧を身に纏った男が立ち、眼下に向かって演説を行っている真っ最中だった。


「――諸君らの活躍を期待している! なお例年通り討伐部隊に直接指示を出す大隊長は、御前試合で優勝、準優勝した貴族家が務める。この討伐中だけは階級の上下は関係無い。彼らの指揮に従うように。以上だ!」

 そう言って演説を締めくくると、眼下の騎士達が一斉に敬礼をする。無駄口を叩くものも見当たらない。


 それもそのはずで、先程演説を行っていたのは御前試合の表彰式にも参加していた第一王子ヨルムラング・シュターレンだ。

 王位継承権一位であるヨルムラングは、現在王家騎士団全てを統べる騎士総長を務めているため、この合同討伐の総帥はヨルムラングである。

 とは言え、やんごとなきお方が現場に出張るような事は無く、実質のトップは総指揮官である王国第一騎士団長だ。

 そしてその総指揮官の下、実際に現場で状況判断をし指示を出すのが、クラウフェルト家とエリクセン家となる。


 合同討伐部隊の編成はやや変則的だ。

 まず、各貴族家が分隊扱いとなり、近しい家が4家ほど集まって小隊を編成する。現場ではこの小隊単位での行動が一番多くなるだろう。

 小隊が四つほど集まり中隊を構成し、さらにその中隊が四つ集まって大隊となる。

 おおよそ七百名前後の大隊なので、通常時の構成人員の二倍近い人数での運用だが、各貴族家を最小単位の分隊とする例外的なものである。

 この大隊が二つできるため、それぞれをクラウフェルト家とエリクセン家が指揮する事になる。


 ちなみに多くの貴族家では、大隊長となる優勝、準優勝家を除いて、当主が合同討伐に参加することはほとんどない。

 貴族家の当主が狭い範囲にひしめくような状況は非常に危険なためである。

 そもそも王都に全貴族当主が集結するのも危険ではあるが、ほとんどの近衛騎士と王都の守備を固める第二騎士団、そして衛兵部隊は王都に残るため、討伐に同行するよりはだいぶマシだろう。


 しかし何事にも例外は存在する。


「ほっほっほ、やはり現場の空気は良いもんじゃの」

「辛気臭く部屋に籠っとるのは勘弁やな」

「まったくだ。武器を持ち馬に乗ってこそ貴族というものだろう」

 言わずと知れたルビンダ・バルシャム辺境伯、ズヴァール・ザバダック辺境伯、そしてナザリオ・イノチェンティ辺境伯だ。

 討伐に参加しているだけでなく、何故か部隊の先頭をいくセルファースたちと馬を並べて進軍していた。


 セルファースは、危ないのでせめて列にお戻りください、と喉まで出かかった言葉を飲み込む。

 たちの悪い事に、この場にいるほとんどの騎士よりこの老兵たちの方が強いため、守ってもらえと言い辛いのだ。

 

 あきらめたセルファースが、小さくため息をついてから老兵たちに話しかける。

「シュタード渓谷には、皆さん行かれたことはあるんですか?」


「うむ。前の合同討伐の対象になったのが五年ほど前か?その時に行ったのが一番最近だな」

「そうやな。合同討伐以外で行くことは無いから、それ以来やな」

「あの時は雨が降っておったの」

 どうやら三人とも、当たり前のように行ったことがあるらしい。


 合同討伐の対象エリアは、あらかじめピックアップされている王都周辺で魔物が溜まりやすい場所を事前調査した上で選ばれる。

 おおよそ六ヶ所の候補エリアがローテーションしている感じだ。


 今年の対象エリアに選ばれたシュタード渓谷は、王都の西を流れているシュタード川の上流域に広がる渓谷だ。

 渓谷というよりは段丘に近い地形で、上段にある広めの段丘面に魔物が棲みつきやすいため、定期的に間引きが必要となっている。

 古くから段丘だったようで、風化した遺跡の残骸も上段の段丘面に点在しており、それが魔物が棲みつきやすい原因にもなっていた。


「資料では確認してますけど、実際はどんな感じなんでしょうか?」

 魔法顧問として同行している勇も会話に加わる。

 なお、今の勇はフェリクスの馬に同乗していた。

 この世界(エーテルシア)に来て半年以上が経過する中、時間を見つけては乗馬の訓練を行っていたため、勇も普通に馬を走らせる程度には乗れるようになっている。


 しかし今回は、乗馬して戦闘行為を伴う可能性が高いため、自身で乗る事は避けていた。

 一応勇の愛馬も連れてきてはいるので、帰りは自分で乗って帰るつもりだ。

 ちなみに風呂馬車を輜重馬車として牽いて来ており、アンネマリーはそちらに乗っていた。

 王都の宿にいてもらっても良かったのだが、護衛の騎士が少なくなるため、かえって同行したほうが安全だろうということで同行している。


「魔物の数はそこそこ多いな。オーガレベル以上の個体は、たまに見かける程度だったか」

「そんなもんやな。あと、地形的には平らやから集団戦はやりやすいな。遮蔽物もそんな多くないから、飛び道具を使える人間が有利やな」

「たまにある横穴くらいかの、注意せんといかんのは。大型の個体が飛び出してくることがあるからのぅ」

 さすがは歴戦の猛者。生きた情報がポンポンと出てくるのは非常にありがたい。


「横陣で殲滅させていく感じでしょうか?」

 勇がイメージしたのは、いわゆるローラー作戦だ。段丘面の幅いっぱいに部隊を展開し、敵を撃破しながら戦線を押し上げて行く。

 さほど強い個体はいないという話なので、効果的な方法に思える。


「いや、ある程度持ち場を決めて中隊単位で行動するのが精々だな。なんなら小隊単位での行動も多い」

 しかしナザリオから返ってきたのは、そんな言葉だった。

「第一王子はああ言ったがな、派閥もあれば上下関係もやはりあるからの。国どうしの戦争でもないし、指揮命令が行き届く自軍だけでの作戦とは、ちょいと勝手が違うの」

「それに、王家の前で功を上げたい連中も多いからな。獲物の取り合いみたいになることもあるな」

 それを受けてさらにルビンダとズヴァールが補足する。


「あー、なるほど……。そういう事ですか」

 渋い表情で納得する勇。


「セルファースさん、私達は一歩引いたところから遊撃に回りましょうか?」

「そうだねぇ。別に功が欲しいわけでも無いし、大隊長らしく全体を見つつ手薄な所をサポートして、合同討伐を無事に終えられるように動こうか」

 勇の提案にセルファースも賛成のようだ。


「そうか。じゃあワシもその遊撃部隊に混ぜてくれ。派閥を意識させるには、一緒に動いたほうが良いだろう」

「そうやな。なら儂も一緒に動くわ」

「儂はアンネちゃんの馬車に付こうかの」

 どうやら三辺境伯も、勇達と一緒に動くようだ。

 ビッセリンク伯爵家とヤンセン子爵家の騎士団は、もう一人の派閥メンバーであるエリクセン伯爵と後方を行軍しているので、おそらくそちらと行動を共にするだろう。



 早朝に王都を出発し、途中で休憩を挟みながら行軍、昼過ぎに目的地であるシュタード渓谷へと到着した。

 事前情報の通り渓谷と段丘を足したような地形をしており、左岸側は所々上段が段丘状になっていて、右岸側は全体を通して切り立った断崖だ。それが南北に数十キロ続いている。


 勇達が到着した辺りは特に一段目と二段目の段丘面の幅が広く、魔物が棲みつきやすい。幅は一段目で二キロメートルちょっと、二段目でも一.五キロメートル近くあり、全長は二十キロメートル近い。

 その最南端に野営陣を作り、そこを拠点として明日の午前中まで討伐を行う。


「各部隊は昼食を摂りつつ、野営陣の構築を! 半鐘後に討伐へ出発する!」

 セルファースが、前方を行軍していた第一大隊へ指示を出す。

 毎年の行事で慣れているものが多いため、特にトラブルも不満も出ることなく、準備が進められていく。


 ちなみに野営に必要な資材や食料品などは全て自腹だと聞いて、まるで参勤交代だなと勇は心の中で呟いていた。


 休憩後、合流した第二大隊も合わせて、セルファースから指示が飛ぶ。

「第一から第五中隊は一段目を、第六から第八中隊は二段目の討伐にあたる。我々第一大隊長小隊は、後方からの支援、遊撃に当たる予定だ。エレオノーラ閣下の小隊はいかがしますか?」

「わっちの部隊も後方での遊撃でええよ。……大した魔物もおらんからの」

 問われたエレオノーラが応える。後半は隣にいるセルファースにしか聞こえない程度の呟きだ。


「……という事だ。各中隊五百メルテほどの幅が持ち場になる。奥まで行ってもいいが、なるべく夜までには野営地に戻ってくれ。それでは作戦開始!」

「「「「「おおーーっ!!」」」」」

 セルファースの指示に討伐部隊が鬨を上げ、早速持ち場へと馬を走らせる。

 索敵範囲が広く、馬でいけるところは馬でいくのも、参加者が皆馬に乗れる騎士だからだろう。


 各部隊が散ってから五分ほど経ったところで、クラウフェルト家とエリクセン家の部隊も行動を開始した。

 クラウフェルト家の部隊は一段目を、エリクセン家の部隊は二段目をそれぞれ担当する。


「どうしましょう? 範囲が広いので隊を二つに分けますか?」

 勇がセルファースに行動方針を確認する。

「そうだね。山側と谷側に分かれてジグザグに行こうか」

「分かりました」

 セルファースもこれを了承。十数人ずつに分かれて、探索を開始した。


 勇の率いるチームは、勇、アンネマリー、いつもの専属護衛の六名、クラウフェルト領の騎士から五名に加えてルビンダ辺境伯が同行していた。

 どう考えてもルビンダが指揮するべきなのだが、「優勝したのはお前さんらだし、年寄りを働かせるでない」と一蹴されたため、なし崩し的に勇が指揮することとなった。


「はぁ……。馬の後ろに乗っている人が指揮するっていうのも、前代未聞じゃないですかねぇ」

 フェリクスの後ろに乗った勇が、やるせない表情でそう零す。


「ふふふ、イサムさんらしくて良いじゃないですか。ねぇ、オリヒメちゃん」

「んなぁふぅ」

「ほっほっほ、オリヒメちゃんは賢いのぅ」

 一方一人で颯爽と馬を乗りこなしているアンネマリーが、肩に乗った織姫に問いかけると、なさけないわね、とばかりに織姫がため息のような鳴き声を漏らした。

 それを見たルビンダは満面の笑みだ。


「……まぁ、いいか。姫、ちょっとフェリクスさんの所で、索敵してくれないか?」

「にゃっ!」

 諦めの境地に達した勇が織姫にお願いすると、短く鳴いた織姫がぴょんぴょんと馬を渡ってフェリクスの頭の上へ飛び乗った。


「おお!オリヒメ先生、よろしくお願いします!!」

「ず、ずるいっす!! オリヒメ先生、私のほうが乗り心地がいいっすよ!? 私に乗って下さいっす!!」

 大喜びするフェリクスに対して、あからさまに嫉妬するティラミス。しかもその物言いは、色々と言葉が足りておらず問題だらけだ。


 そんないつもの調子で、先を行く他貴族家の後を追走しながら、時折目につく取りこぼした魔物を片付けていく。


「んにゃっ」

「にゃにゃっ」

「なふっ」


 最も索敵範囲が広く足も速い織姫が先頭を走るフェリクスの頭の上にいるため、見つけた瞬間飛び出しては、あっという間に片付けてしまう。


「ほっほぅ、オリヒメちゃんは可愛いだけでなく、立派な戦士なんじゃなぁ」

「にゃっふ」

 戦う織姫を初めて見たルビンダが目を白黒させてそう言うと、ひょいっとその頭の上に乗った織姫が誇らしげに鳴いた。


「最近狩りが出来なかったっすからね。オリヒメ先生もストレスが溜まってたっすね!」

「うむ。我々も御前試合があって先生との訓練が出来なかったからな……。先生には申し訳ない事をした」

 騎士団における織姫信仰のツートップが、織姫の様子を見ながら目を細めた。


 結局合同討伐の初日は、オーガが十体ほど出た以外は危なげなく討伐を終えた。段丘の六割ほどを討伐した事になる。

 順調に討伐が進んでいるため、夜に実施した中隊長を集めたブリーフィングも和やかな雰囲気で終わった。


 そして迎えた合同討伐二日目。状況は急展開を迎えるのだった……。

週3~4話更新予定予定。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ものすごく面白い小説だとは思うんですけど、主人公は平和な地球のエンジニアって設定なのに、異世界の騎士団にまじって戦術的な意見をいうのがものすごく違和感を感じる。
[気になる点] この世界にマタタビやキャットニップ的存在はないんでしょうか。 あまりに可愛いからそういったもので酩酊させてからの拉致を企む不届きな貴族がいてもおかしくないかと。
[一言] 更新有難う御座います。 [遊撃]とは、広く俯瞰した視野と 即決即断の柔軟な思考と行動力。 そして殲滅力を必要とする難しいポジションである。
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