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●第135話●梁山泊

ブックマーク、評価していただいた皆さま、本当にありがとうございます!!

週3~4話更新予定です。

 国王がザイドと話をする少し前、表彰式を終えた勇達は、控室に戻ってきていた。


「皆さんお疲れ様でした。最後はちょっとヒヤヒヤしましたけど、結果としては不敗を誇った鬼の傭兵団長を破っての優勝ですから、文句無しですね」

「ありがとうございます。エリクセン家の方たちは、さすがに強かったですね……」

 勇の労いにフェリクスが応える。

 

「何と言うか……こう、戦い慣れているというか、戦い方が柔軟だったねぇ」

 ユリシーズがそう言いながら腕組みをしてうんうん頷いている。

「そうっす! 戦い方がイサム様に似てるんっすよ。手段を選ばないというか、何でもありというか。普段からイサム様と模擬戦やってて良かったっすよ」

 その話を聞いたティラミスが、我が意を得たりとばかりに右手を上げながら立ち上がった。


「あははは、傭兵の戦い方は騎士の戦い方とはまた違いますからね。考え方は私に近いのかもしれませんね」

 言われた勇も納得顔で頷いた。


「これで我々の実力が王国中に知れ渡ったから、おいそれと手を出してくる所はないとは思うけど……。優秀さを存分にアピールしちゃったから、逆に正面からの交渉は増えるだろうねぇ」

 セルファースは、嬉しそうにしながらも、これからの事を考えると素直に喜べない様子だ。


 コンコンコン


 帰り支度をしながらそんな話をしていると、ノックの音が部屋に飛び込んできた。

「どなたでしょうか?」

「ワシだ。ナザリオだ」

「わっちもおるよ」


「イノチェンティ閣下にエリクセン閣下まで!? ど、どうぞお入りください」

 まさかの領主様ご本人が二人連れだってのお越しに驚愕しつつセルファースがどうにか返事をする。

 イノチェンティは長男を、エレオノーラはガスコインをそれぞれ伴って部屋へと入ってきた。


「終わったばかりなのにすまんな、セルファース。エレオノーラとはたまたまそこで会ってな。目的が同じだったから一緒に寄らせてもらった。

 まずは宣言通りの優勝を祝福させてくれ。ワシのところはまだしも、そこの鬼団長に勝っての優勝だからな。大したものだ」

「わっちからもあらためて祝福を。来年は後れを取らぬよう、また鍛えなおすからの」

「お二人ともありがとうございます。イサムと共に騎士達が頑張ってくれましたからね。誇りに思いますよ」

 武闘派の大物二人に祝福されて恐縮するセルファースだったが、言葉通り表情は誇らしげだった。


「して、御用件とは??」

「うむ。王都へ着いてすぐ別邸に来てもらった時に、庇護を約束したであろう? アレを撤回しようと思ってな」

「……撤回、ですか?」

 ナザリオから出てきた思わぬ言葉に、セルファースの表情が厳しくなる。


「ああ。あの時優勝するなどと嘯いておったが、よもや本当に優勝するとは思っておらんかったからな、庇護するのも良いと思っておったが……」

「優勝したから、庇護は出来ぬ、と?」

「そうだ。あの力があれば、ワシからの庇護など必要なかろう?」

「……そうですか。確かに優勝した上で庇護をお願いすると言うのも、虫の良すぎる話でしたね。分かりました。今後も変わらぬお付き合いをしていただけるだけで十分でございます」

 険しい表情のまま、セルファースが軽く頭を下げる。


「変わらぬ付き合い、というのも難しいな……」

「……それはどういう意味でしょうか?」

 よもや付き合いをやめるとでも?と喉まで出かかった言葉をどうにか飲み込むセルファース。


「かっかっか、ナザリオのじーさまよ、その辺にしておいたほうがよくないかの?」

 にわかに室内の空気が重くなったタイミングで、エレオノーラが笑いながらナザリオを諫める。


「ん? そうか?」

「ああ。話がややこしゅうなるだけよの」

「はっはっは、まぁそれもそうだな。すまんなセルファース。ああ、だが嘘を言ったわけではないぞ? ワシが庇護するという上下関係ではなく対等な同盟関係を結ぼうと思ってな」

「同盟関係、ですか…?」

 ナザリオの言うことがいまいち理解できず、オウム返しするセルファース。


「ああ。敢えてお主の嫌いな言葉を使うのであれば、新たな派閥を作る、というのが最も近いな」

「そうよの。わっちもクラウフェルト家とは今後懇意にさせてもらおうと言いにきたんだが、じーさまが派閥を作ると言うじゃないか。だったらそのお仲間にわっちも入れてもらえば話が早い、とそういう訳よ」

「派閥と言っても、政治的な目論見なぞ無いぞ? 方向性はセルファースから打診されたもののまま、上下関係を無くしつつ複数家に広げるというだけだ」

「なるほど……」

「ちなみに、ワシ含めた三辺境伯家、エレオノーラの嬢ちゃん、ビッセリンク伯爵、それとダフィドんとこは参加すると正式な返答をもらっておる」

「それはまた、とんでもないですね……」

 複数家という単語が出てきた時点である程度察しはついていたが、あらためて口に出されるとやはりとんでもない面子だ。

 あえて派閥として見てみると、相当力のある派閥がいきなり出来たことに他ならない。


「何れも、どこの派閥にも属していない家ばかりだ。クラウフェルト家、いやイサムにとっても悪い話では無かろう?」

「確かにこれ以上無いお仲間ですね……」

「まぁメリットという面では、ワシらのほうが大きいがな…」

 ナザリオが自嘲気味に続ける。

「イサムの力は間違いなく世界に大きな影響を与える力だ。その恩恵を少々享受させてもらう代わりに、悪用しようという輩と共に戦う。そんな関係だと思ってもらえればいい」


「早速国王自ら唾を付けてきおったからの。ほっておけば、明日以降王家含めた各派閥からの勧誘が山盛りだろうよ。

 そうなる前に、とっとと形だけの派閥もどきを作ったほうが楽よな。わっちんとこはさておき、じーさま達から貴族のあしらい方も学べるわな」

 エレオノーラがナザリオの後にそう続けた。


「…………。セルファースさん、私はこのお話受けたほうが良いと思います。そうそう取り込まれるつもりもないですが、我々だけで出来ることには限りがありますから……。

 早めに仲間は欲しかったところですし、無派閥の集まりであれば既存の派閥間のバランスを大きく崩すことはありません。

 何より、綺麗ごとだけじゃなく恩恵を享受する見返りとはっきり最初に言っていただいたのが有難いですね。お互いメリットのある関係の方が、気が楽ですよ」

 しばし考えてから、勇がセルファースに受諾の意思を告げる。


「……そうだね。この話に文句を言おうものなら女神様に叱られてしまうよ。分かりました。両閣下、是非にともよろしくお願いいたします」

 数秒瞑目した後、セルファースがそう言ってナザリオとエレオノーラに頭を下げた。


「ふ。むしろよろしく頼むのはこちらだがな」

「かっかっか、これから楽しくなりそうだの」

「お手柔らかにお願いします」

 やや緊張した面持ちでセルファースが立ち上がると、ナザリオ、エレオノーラも立ち上がり、三者で握手を交わした。


「では、また明日の午前だな」

「はい。宿にはすぐに伝えておきます」

「よろしくの」

 簡単に別れの挨拶を交わすと、ナザリオとエレオノーラは控室を後にした。


「フフ、思いもよらない形にはなったけど、これでいよいよ本格的に動けるようになるねぇ」

 来客が去った控室で、セルファースが楽しそうに笑う。

「そうですね。まだ全面的に信頼しているわけではないですが、信用できる方達ではありますからね。ご協力いただけるのはありがたいですね」

 勇もそう言って笑い返した。



 翌日の朝。本来は休息日なので、何かイベントがあるわけでは無いのだが、勇達が宿泊する宿“銀龍の鱗”は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

 昨日、控室からの去り際にナザリオが言っていた「明日の午前」に向けての準備である。

「……さすがに辺境伯が三名と伯爵二名が同時に来客するというのは、宿の方に申し訳ないですね」

「元々分かっていたら早めに伝えられたんだけど、昨日の今日だからねぇ……」


 クラウフェルト家を中心とした同盟的派閥を組む当主が、ここ“銀龍の鱗”に一斉に集うのだ。

 派閥の集まりと言うのは、普通その派閥の長である最上位貴族の下に集まる。今回であれば、辺境伯の誰かの館だろう。

 ところが今回は、一番序列の低いクラウフェルト家の下に全員が集結するという、異例の事態だ。


 彼らがクラウフェルト家をいかに重要視しているのかを伝えるのに、これ以上のパフォーマンスは無いだろう。


「ありがたいお話ですけど……。グレンデルさん、笑顔が引きつっていましたね」

 勇が苦笑する。グレンデルというのは、ここ“銀龍の鱗”の主人だ。

 そうそうたる面子が集まる事を告げた際、それは光栄の至りでございます、と言ってのけたのはさすが長い間貴族用の宿を営んできただけのことはある。

 しかし今回は、そんな彼をもってしても笑顔が引きつるほどの事態である。

「ああ、彼には悪い事をしたね……。これを機に、我々も王都に別邸を構えたほうが良いかもしれないね」

 セルファースもそう言いながら肩をすくめた。


 大慌てでどうにか準備を整えた銀龍の鱗に、上位貴族が乗る豪華な馬車が次々と乗り付けてきた。

 貴族街の入り口に位置しているため周りも貴族の馬車など見慣れているはずなのだが、五台もの馬車が次々とやって来るのはさすがに珍しいようで、何事かと人垣が出来ていた。


 上位貴族が五名も集まれば、大層緊張感あふれる場になるかと思いきや、いたって和気あいあいとした集まりになっていた。


(……なんだろう、この既視感。ああ、そうか…親戚のおっさん連中が集まってる正月の実家感が半端無いんだ。コイツをリビングに持ち込んだのは迂闊だったなぁ)

 宿のリビングに持ち込まれたコタツに入ってご満悦な歴戦の貴族家当主を眺めながら、勇はぼんやりそんな事を考えていた。


「このコタツという魔法具は実にええな。儂の領地は北の方やからなぁ……。アンネちゃんや、婿殿に作ってもらえるよう頼んでくれんか?」

 二つ繋げてソファ脇に置かれたデスクタイプのコタツに、ソファに埋もれる様にして入りながら体格の良い初老の当主が、アンネマリーにそんなお願いをしている。

「分かりましたわ、ズヴァールおじ様。現在、マレイン様とダフィド様にご予約いただいておりますから、恐れ入りますが順番にご用意いたしますね」

 そのお願いを、ニッコリ笑いながらアンネマリーが受け付ける。会話内容から、今の初老の男性がズヴァール・ザバダック辺境伯のようだ。


(アンネは凄いな……。出会って一時間くらいだけど、すでに可愛いお孫様ポジションを確固たるものにしちゃってる……)

 ごく自然に一緒のコタツに入りながら辺境伯をおじ様呼びして談笑するアンネマリーを見て、勇が感嘆する。

 チラリとセルファースの方を見やると、同じような表情をしていた。


「儂のほうには、オリヒメちゃんのご神体を融通してくれんか? この愛らしさは反則じゃぞ?」

「な~~う~」

「もちろんですわ、ルビンダおじ様。領地へ戻ったら早速手配いたしますね。マレイン様、後ほどご神体の生産についてお話しさせてください」

 もう一人の初老の男性が、浅くコタツに入りながら膝の上で丸くなっている織姫の後頭部を撫でながら言う。

 この男性が三人目の辺境伯、ルビンダ・バルシャム辺境伯だ。


(姫もさすがだな……。この絵面だけ見たら、単なる猫好きのじーさんが孫にデレてるだけだもんなぁ。みかんが無いのが悔やまれすぎる)

 アンネマリーと同じく、辺境伯たちをあっという間に骨抜きにした織姫に戦慄を覚える勇であった。


 その後も緩い空気を醸し出しつつ、勇の能力(スキル)の本当の効果について一部を除き公表し、予想しうる事態をまじめに話し合ったり、直近の動きをどうするかを確認していく。

 話が防諜を含めたセキュリティ対策に移ったところで、勇は兼ねてより聞きたかったことを振ってみる。


「ナザリオ様、先日シャルトリューズ閣下を訪ねた際に、こんなものを仕掛けられましてね……」

 そう言って勇が小さな箱状のものを机の上に置く。

「む。これは聞耳の魔法具か……。オーギュストめ、相変わらずだな」

 それを見た途端顔を歪めるナザリオ。


「この魔法具は、バラそうとすると自壊する仕掛けになっているというのは本当でしょうか?」

「ああ、そのとおりだ。開けようとした瞬間内側が燃え尽きる。キレイさっぱり魔法陣が消え失せるぞ。水の中で分解したりと色々やったがな、効果がなかった」

「やはりそうなのですね……。先ほどお話しした私の能力(スキル)で上手く行けば複製できると思ったんですが、そう簡単にはいかないようですね。しかしそうなると、どうやって量産しているのかが謎ですね……」


「ワシも捕まえた敵国の間諜から吐かせた断片的な情報しかもっておらんが……、どうやらこの魔法具を作るための魔法具があるようだ。それが本当だとすると、実は中身がどうなっているかを知っている者はおらん、という事になる」

「なるほど、そういう事でしたか……。確かにそれはありそうな話ですね。私のいた世界でも、魔法具を自動で作る魔法具は当たり前のように使われていましたから」

 地球では、製造工程にロボットが入る事など当たり前だった。プログラム、アルゴリズム的な魔法陣が描ける魔法具でそれが出来ても、何ら不思議ではない。


「しかしそうなると、これを複製するのは難しそうですね。その魔法具を作る魔法具自体を鹵獲しないと駄目ですし……」

「そうだな。あるいは岩砂漠の遺跡から、似たようなモノを発掘するか、だろう。これまた噂だが、その魔法具も岩砂漠付近の遺跡から見つかったらしいからな」

「そうなんですね……。ありがとうございます。また近々、探索に伺うかもしれません。その時はよろしくお願いします」

「おう、いつでも来ればいい。もはやイサムもアンネもワシの孫の一人みたいなもんだ」

 そう言うと、ナザリオはガハハと豪快に笑った。


「儂の領地にも来て欲しいもんじゃの」

「そうやな。儂んとこにも早く来ておくれや」

「わっちのところにもの」

 ルビンダ・バルシャム辺境伯もズヴァール・ザバダック辺境伯も、そしてエレオノーラ・エリクセン伯爵も笑いながらそう言う。


「やれやれ。皆さん完全に孫が来るのを楽しみにしているおじいちゃんではないですか……」

 唯一、すでに自領に招いているマレイン・ビッセリンク伯爵は、余裕の表情でそんな事を言って苦笑していた。


 こうして終始和やかな空気の中、勇を中心とした新たな派閥もどきが誕生する。

 そして話し合いの現場を知らないほとんどの貴族の間には、王国有数の有力貴族達がクラウフェルト家に肩入れをしたという事実のみが、驚きと畏怖を伴って駆け巡るのであった。

週3~4話更新予定予定。

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― 新着の感想 ―
単なる武闘派の集まりってだけじゃなく、国境付近を守護する三家と各地を動き回る傭兵集団だからな 王家からしたら内心ビクビクだろうね そんな同盟において迷い人のいる家とその繋がりの二家が所属している。 今…
[一言] あ~あ、先進世界の人間として勇は、悩ましいよな! 何れ近代に成ったら、貴族は先が無い事知ってるので 本当なら王党派に成った方が家の存続は続くのを、 誰より知ってるからねえ!貴族主義国家は必ず…
[一言] 更新ありがとうございます。いつも楽しみです! >「フフ、思いもよらない形にはなったけど、これでいよいよ本格的に動けるようになるねぇ」 …次の冬には 王国全土で コタツが爆売れしそうですね…
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