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●第134話●表彰式

今度はダウンタウンの松ちゃんが活動停止とか……。今年は年始早々いろいろありますね。


ブックマーク、評価していただいた皆さま、本当にありがとうございます!!

週3~4話更新予定です。

「おいおい、ついに優勝しちまったよ……」

「エリクセン家にまで勝つとは」

「しかも今年は隊長のガスコインもいたってのに……」

 試合が終了し、選手たちが引き上げてもなお観客のざわめきは続いていた。

 その多くが、まさかの優勝を果たしたクラウフェルト家に対してのものであった。


 退場した先では、クラウフェルト家のメンバーとエリクセン家のメンバーが談笑していた。

「まさか魔法具を投げよるとは思わんかったわ。ワシもまだまだだな」

「私も投げることになるとは思ってもいませんでしたよ」

 こちらはガスコインとミゼロイだ。

 やはり高価な魔法具を投げつけるという行動は、かなり意表を突いたようである。


「そして後衛だと思うとったそこのハーフエルフの動き。あれはなんだ? あれも魔法具か?」

「あーー、あれは魔法だねぇ。全身強化(フルエンハンス)の魔法だよ」

全身強化(フルエンハンス)……。聞き間違えてはおらんかったか。しかし全身強化(フルエンハンス)で、あそこまで強化出来るとは聞いた事もないな」

 ユリシーズの答えに目を見開くガスコイン。

 全身強化(フルエンハンス)は、使えない魔法の代表のようなものなので無理も無い。


「それを言ったら、俺が最後に食らった魔法も天地杭(グランドスパイク)って聞こえた気がしたぜ?」

「ああ、天地杭(グランドスパイク)で間違っていないな」

「ホントかよ……。天地杭(グランドスパイク)なんてこんくらいの大きさの石を作るのが精々じゃねぇのか?」

 フェリクスの天地杭(グランドスパイク)を食らった相手が、人差し指と親指で十センチほどの長さを作りながら驚く。


「それだけ、魔法顧問のイサムが優秀と言うことよな。のうセルファースよ?」

「ええ、そうなりますねぇ」

 談笑しているところへ、両家の当主が顔を出した。

 両陣営の騎士が敬礼をする。


「いやぁ、すんません大将。負けてしまいましたわ」

 ガスコインがそう言ってエレオノーラに頭を下げる。

「かっかっか。ついにガスコインの連勝記録が止まったの。まぁあれは仕方なかろうよ。魔法具を投げつけてから、後衛と思うておった者が強襲してくるとはの。まっこと大したもんよ」

 優秀な傭兵であり傭兵団長でもあるガスコインは年中様々な戦場に駆り出されることになる。

 御前試合に参加できるのはせいぜい三年に一度くらいらしい。

 この強さであれば、毎年優勝していてもおかしくないエリクセン家が、度々優勝を逃しているのはこれが大きな理由だったようだ。


「まぁ、魔法も目立っておるが……その前よ。魔法具を使い捨てよった。あれがそもそもあり得んのよ。これもイサムの差し金かの?」

 エレオノーラが、目を細めてイサムの方を見やる。

「あーー、どうでしょうかね……。きっかけにはなっているかもしれませんね」

「…………。ふっ、まぁ良い。どうせ近々色々分かる事よな。明後日からの合同討伐も楽しみにしておるよ」

 適当にはぐらかす勇をジト目で見ていたエレオノーラだったが、柔らかい笑みを見せてそう言った。


「さて、そろそろ表彰式よ。国王陛下の御前に遅れていくわけにはいかんから、ボチボチ準備するかの」

「「「「「「うっす!」」」」」」

 エレオノーラの呼びかけに応えた傭兵たちが、控室へと向かう。


「おや、もうそんな時間ですか。我々も準備をしようか」

「「「「「「はっ!」」」」」」

 クラウフェルト家の面々も、セルファースの呼びかけに応じて控室へと向かった。

 身体や身に着けているものの汚れを落としていると、ドアをノックされる。


「間もなく表彰式が始まります。バルコニー前へお集まりください!」

 ドアの外から、そんな声が掛かった。どうやら集合時間となったようだ。

「さて、じゃあ行こうか」

「「「「「「はっ!」」」」」」

 再びセルファースの呼びかけに応えると、一行はセルファースを先頭にしてバルコニーの入り口へと向かう。

 程なく、準優勝のエリクセン伯爵家、決勝前に行われた三位決定戦に勝ったフェルカー侯爵家も合流し、表彰式が行われるバルコニーへと足を踏み入れた。


 ちなみに表彰式には、当主とレギュラーメンバーだけでなく、サポートメンバーまで参加する事が出来る。

 多くのチームが途中で数名は怪我人が出るため、サポートメンバーも戦う事が多いためだ。

 最終日は念のため勇をサポートメンバーとして登録していたため、表彰式には勇も参加する事が出来るのだった。



 扉からバルコニーへ出た一行は、大音響の歓声と拍手に出迎えられた。

 バルコニーは、試合を行っていた舞台より高い位置に設けられており、国王を始めとした王族が観覧する貴賓席と階段で繋がっている。

 当然通常の客席からは入れない構造になっており、周りも近衛騎士達が固めていた。


 降り注ぐ歓声に笑顔で応えながら、一同は所定の位置まで進み姿勢を正す。


「それではこれより表彰式を執り行う」

「「「「「おおぉぉーーーっ!!!!」」」」」

 司会進行役の宣言に観客が沸く。勇がセルファースに聞いたところによると、司会は王国の宰相を務める侯爵らしい。


「国王、王妃両陛下、ご入場!!」

「「「「「うおぉぉーーーっ!!!!」」」」」

 その言葉に、さらに観客から歓声が上がる。

 「陛下~!」「王妃様~!」といった掛け声まで飛び交う様に、勇はまるでハリウッド俳優が空港に姿を現した時のようだな、と思う。


 観客は敬礼などしなくて大丈夫なのかとこっそりセルファースに疑問を投げかけると、同じ舞台にいなければ、平民は失礼な態度をとらなければ大丈夫なのだそうだ。

 国王を始めとした王族は、平民からの人気も非常に大切らしく、こうした場では過度な礼儀は強制しないらしい。


 一方で貴賓席と繋がっているバルコニーにいる面々は、片膝を突き頭を下げる最敬礼で出迎える。

 そのままの姿勢でしばらく待っていると、観客からの声援がひと際大きくなった。


 勇たちは下を向いているので分からないが、おそらく国王、王妃両陛下が入場したのだろう。

 しばらく歓声が続いていたが、ふいにシンと会場が静寂に包まれる。

 何事かと思っていると、低く良く通る声が聞こえてきた。


「面を上げよ」

 その声に、バルコニー上の一同が一斉に顔を上げた。

「此度の模擬戦、大儀であった。王国騎士の精強さが今年も健在である事、非常に頼もしく思う」

 国王からねぎらいの言葉が投げかけられる。


 齢七十近いと聞いているが、やや長めでゆるくウェーブがかかった金髪に、同じ色の口髭と顎髭を蓄えたその姿は年齢を感じさせない精悍さだ。

 王妃も還暦を過ぎているとは思えない若々しさだ。後ろに並んでいる王子や王女と思われる面々も、皆一様に若々しく生命力に満ち溢れている。

 やっぱり王族というのは、貴族ともまた違うのだなと勇が考えているうちに国王の挨拶が終わり、再び司会が口を開く。


「では、これより表彰を行う。第三位、フェルカー侯爵家!」

「はっ!」

 名前を呼ばれたフェルカー家の一同が立ち上がると、客席から歓声と拍手が送られる。


「盾と勲章を第一王子殿下より授与していただく。当主、サミュエル・フェルカー殿は一歩前へ」

「はっ」

 司会の指示に応じて、サミュエルが一歩前へと進み出る。


「準決勝は残念だったが三位決定戦は見事だった。さすがはフェルカー家、今年も魔法の腕前は健在で安心した。今後もその力で王国を守る剣となり盾となってくれ」

「はっ!勿体なきお言葉、ありがたく頂戴いたします」

 第一王子がサミュエルの胸に勲章を着け、盾を授与する。

 そのままレギュラーメンバー六名とサポートメンバー二名にも、王子が一言ずつ声を掛けて勲章をその胸に着けていった。


「準優勝、エリクセン伯爵家!」

「はっ!」

 フェルカー家に続いてエリクセン家の名前が呼ばれると、先程より一段大きな歓声が聞こえてきた。

 女性伯であり王国最強と名高いエレオノーラの人気は、やはり相当高いらしい。


「盾と勲章を王妃陛下より授与していただく。当主、エレオノーラ・エリクセン殿は一歩前へ」

「はっ」


「決勝戦は見事な戦いでしたね。残念ながら一歩及ばず準優勝でしたが、傭兵伯エリクセン家の強さが健在で安心しました。今後も良く仕えてくださいね」

「はっ。過分なお言葉ありがとうございます!」

「ふふふ、エレオノーラ、あなた自分が戦いたかったのではなくて?」

「っ!! さすが王妃様よの……。隠し事はできんの」

「ぶっ」「くっ」

 王妃の突っ込みに頭を掻くエレオノーラ。それを聞いたエリクセン家の騎士が、横や下を向きながら噴き出すのをどうにか堪えている。

 随分とフランクな会話をしているところを見ると、王妃とエレオノーラは親しい知人のようだ。

 その後も王妃は、柔らかな笑みを浮かべながらエリクセン家の騎士達に勲章を授けていった。


「そして本年の優勝、クラウフェルト子爵家!!!」

「はっ!!」

 そして、最後のクラウフェルト家の名前が呼ばれる。会場からは今日一番の大歓声が響いた。


「盾と勲章を国王陛下より授与していただく。当主、セルファース・クラウフェルト殿は一歩前へ」

「はっ!」


「見事な戦いだった。鬼の団長率いるエリクセン家に勝ったのだから、文句無しの優勝と言えよう。それに加えて街での消火活動や、暴走した不届き者の魔法を止めたそうだな。その働きは王国貴族、いや王国民の鑑と言えよう。その力で、これからも王国を支えてくれ」

「はっ! 身に余るお言葉、光栄に存じます。今後とも微力ながら王国のため尽力して参ります!」

「此度の躍進、驚いたぞ? そちらの迷い人殿に依るところが大きいそうだな?」

「はっ! イサムは能力(スキル)によって魔法を効率よく使えるため、それを参考に色々と試行錯誤しております」

「なるほど。サミュエルはどう見る?」

 国王がサミュエルに話を振る。王国一の魔法使いとも言われている彼がすぐ近くにいるのだから、聞くのは当然だろう。


「そうですね……。直接マツモト殿の魔法を見たわけではありませんので、クラウフェルト家の騎士達が使う魔法についてではありますが……。彼らの魔法は、同じ魔力量でも威力が高いように見えました」

 急に話を振られたはずだが、サミュエルは特に慌てる風でも無くサラリとそう答える。

「ほぅ。王国一の目から見てもそうか。ふむ、これは出遅れたのが口惜しいな。セルファースの娘と婚約していなければ、ワシの孫娘の相手にしたのだがな」

 ニヤリと笑いながら国王が勇を見やる。


「誠に光栄なお話なれど、すでにアンネマリー嬢との将来を女神に誓い合った身にて……。そのお言葉だけ、有難く頂戴いたします」

 セルファースが答えないのを見て、勇がそう言いながら深々と頭を下げる。

「はっはっは、もちろんだとも。他家の婚約者を無理やり奪ったとあれば王家の沽券に係わるからな。代わりと言っては何だが、今回使っていた魔法具を幾つか融通出来ぬか? あれは秘匿魔法具であろう?」

 笑いながら言ってはいるが、半分は本気であろうことが勇にも見て取れた。


 基本的には自領だけで使う予定なので、売るつもりはないのだが、最悪メッキによる複製対策をして渡すべきか……。

 そんな事を考えながら勇がセルファースを見ると、小さく頷くのが見えた。

 しかし、セルファースが口を開こうとしたところで、思わぬ人物たちが先に口を開いた。


「お恐れながら陛下、秘匿魔法具を譲れと仰るのは些か問題なのでは……?」

「そうよの。陛下がそれを仰ると、皆が言い出しかねんの……」

 王妃と仲の良さそうだったエレオノーラはまだしも、まさかサミュエルまでもが諫めに回るとは思わなかった勇が驚いてセルファースを見ると、全く同じ顔で驚いている彼がいた。


「はっはっは、冗談に決まっておるではないか! セルファースもイサムも、エレオノーラやサミュエルと共に明後日からの合同討伐も頼んだぞ。さぁ、皆も新たな強者の誕生をあらためて祝おうではないか!」

「「「「「うおぉぉーーーっ!!!!」」」」」

 サミュエルとエレオノーラの突っ込みをサラリと流した国王が観客に向かってそう言うと、また一段会場のボルテージが上がった。


 大盛り上がりの中、国王がクラウフェルト家の面々に勲章を授与していく。

 さすがに当主以外の胸に直接着けることは無かったが、それでも国王より直接手渡される事に皆が緊張の面持ちだった。


 その後、会場の盛り上がりが最高潮に達したところで、頃合いと見た司会が締めに入る。


「これにて本年の御前試合表彰式を終了する! 上位に勝ち上がったものにも、惜しくも早くに敗れたものにも、等しく賞賛を!!」

 締めの言葉に、今日最後の歓声が会場中にこだました。



 観客と貴族全てが出払い閑散とした会場の王家控室に、二人の男の姿があった。

「少し揺さぶりをかけてみたが……、まさかサミュエルとエレオノーラが口を挟んでくるとはな……。どう見る、ザイド?」

 一人目の男は国王その人だった。先程までのにこやかな表情は影を潜めている。


「そうですね……。現時点で結託するような事は無いと思われます。件の迷い人の情報が少なすぎるので、急ぎ情報収集すべきかと」

 ザイドと呼ばれた男がそう答える。こちらは先程司会をしていた宰相、ザイド・メルクリンガーだ。


「ふむ……そうせざるを得んか。サミュエルが見限ったと聞いたゆえ大して気にしていなかったが、それが裏目に出たな。まぁ良い、今後はクラウフェルト領にも影を放っておけ」

「御意に」

 国王の指示に深くお辞儀をして、ザイドが部屋を後にする。


「さて、あの迷い人は薬かはたまた猛毒か、どっちであろうな……」

 誰もいなくなった部屋に、王の言葉が静かに響いた。

ようやくバトルパートが終わった……w


週3~4話更新予定予定。

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― 新着の感想 ―
そのまま報告したら国王の胃が保たなくなるんだよなぁ···
[一言] ラスボスの片鱗 闇の魔術で若さを吸い取るスタイルか!?
[一言] 王様も大変そう
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