●第133話●決着
和楽器バンドが年内で活動休止とな!?
大好きなバンドだけにショックですが、超一流どころばかりのバンドなので色々あるのでしょうね……。
ブックマーク、評価していただいた皆さま、本当にありがとうございます!!
週3~4話更新予定です。
右翼側で戦端が開かれて程なく、中央でも両チームが激突した。
『火炎球!』
『水球!』
マルセラが、威力を抑えて数を増やした火炎球をばら撒くと、相手の後衛が同じように数を増やした水球でこれを迎撃する。
「くっそ、移動しながらその数ってどういうことだよっ!?」
どうにか迎撃したものの移動しながら同数の魔法を撃てず、足を止めざるを得なくなった相手の後衛がぼやく。
「へっへー、こちとら毎日あのオリヒメ先生と追いかけっこしてたからね!」
マルセラが自慢げに言いながらも、油断なく移動する。
「いいぞ、マルセラ! そのまま足止めしておいてくれ!!」
その様子を視界の端に捉えたフェリクスが、相手前衛へとダッシュする。
『石霰!』
自分へと迫るフェリクスに対して、相手前衛が魔法を放つ。
足を止めるのが狙いなのか、低い弾道で広範囲に拡散しながら石礫が飛んでくる。
流石はエリクセン家の選抜メンバーだけあって、前衛でも魔法の腕前は確かだ。
『突風刃!』
右翼のリディルと同じように、突風刃で石礫を防ぐフェリクス。
これまでの戦いを見ていたエリクセン家の傭兵であれば、効果の薄い炎や風系の魔法はほとんど使ってこないと読み、迎撃用の魔法は風か土に絞っていた。
「ちっ!!」
舌打ちをしながら、横へ回り込むように移動をする相手前衛。
そして再び石霰が飛んでくる。それを風魔法で迎撃するフェリクス。
そんなやり取りを五回ほど繰り返した所で、相手が足を止めた。
「追いかけっこはもう終わ……っ!? ふふふ、そういう事ですか」
足を止めた相手に攻勢をかけるため態勢を整えたフェリクスが何かに気付く。
「そういうこった。もう気付いちまったのには驚いたがな……」
疲れた顔で相手の前衛が言う。
一見、有効打を与えられない相手が逃げながら魔法を撃って隙を作っているように見えた一連の攻防だったが、明確な意図があってのものだった。
フェリクスを中心に、周りをぐるりと取り囲むように大小の石が無数に転がっている。
言うまでも無く、石霰を突風刃で防いだ後の残骸だ。それがマキビシのように辺り一面を覆っていた。
ここまで大量の石がばら撒かれていると、とてもその中を走ることはできない。
厚みのあるゴムのソールなど無く、木に革を貼り付けたような靴底では足を取られて下手をしたら大怪我をする。
運良く足を取られなかったとしても、いつものように素早く動くことはできないため、かなりの不利を強いられるだろう。
風系の魔法で吹き飛ばすことはできるが、それをやると相手の魔法をこちらの魔法で防ぐ事が出来なくなる。
炎や風系の魔法を使ってくれればマントで防げるが、これまで一度もその属性の魔法は使ってきていないため望み薄だ。
「しかし、そちらからも有効な攻撃が仕掛けられるとは思えませんが?」
フェリクスの言う事ももっともだろう。
遠距離から魔法の撃ち合いをするしかない状況だが、相手の前衛は魔法が使えるとは言っても、前衛にしては、と言う枕詞が付く。
同等以上に魔法の使えるフェリクス相手では有効打にはなる可能性は低い。
「いいんだよ、それで。そもそも俺だけで倒そうと思っちゃいねぇからな」
ところが相手の前衛は、事も無げにそう言った。
「あんたが一番腕が立つからな。少しでも足止め出来りゃあ上等よ。その間にあっちで戦ってる隊長がさっさと片付けて加勢してくれるさ」
チラリと目をやった先。左翼側では、ミゼロイとユリシーズが苦戦を強いられていた。
「ぐ、ぬぅ……」
盾を構えたミゼロイが、厳しい顔でうめく。
先程から目の前の男――確かガスコインと言ったか――の攻撃に防戦一方だ。
ミゼロイとてクラウフェルト家では三番目の実力者だ。そんな彼が、複数の魔法具をもってしてもなお防戦一方になる相手、そんな強者がガスコインだった。
(流石傭兵団の団長……。ウチの隊長より強い……)
「やりおるな! ミゼロイと言ったか? 俺の打ち込みをここまで防げるヤツはウチにもそうはおらんぞ!」
ニヤリと笑いながら次々と攻撃を繰り出すガスコイン。
ミゼロイも隙を見て雷剣を振るってはいるが、相手の的確で素早い斬撃を盾で防ぐしかなく、まともな攻撃が出来ていなかった。
物理防御効果のある盾が、戦闘開始以来ほぼ光りっぱなしだ。
一方、ミゼロイとペアを組んだユリシーズも、相手後衛が散発的に放つ魔法の対処に手いっぱいでミゼロイの援護に入れない。
「なんとも鬱陶しいねぇ……」
そう呟きながら一歩飛び退いて急所を狙って飛んでくる岩拳を躱し、素早く呪文を唱える。
『風刃!』
魔力を練り上げる時間が足りないため、あまり強力な魔法が使えない。
それは相手も同じなのだが、相手はただ自分を足止めしていれば良いだけなので、いかにも分が悪い。
(しかたがない、少し無理をしますかね……)
心の中でそう呟いたユリシーズが、状況の打開に向けて動き出す。
『炎防壁!』
幅は短いが2メートルほどの高さのある炎の壁を、素早く相手と自身の射線上に作り出す。
「む?」
これまで使っていなかった壁系の魔法を使われた事で、相手後衛の動きが一瞬止まる。
「シッ!!」
その瞬間、ユリシーズが手に持っていた雷剣を相手に向かって投げつけた。
「うおぉっ!?」
相手は、炎の壁に視線を遮られていたことで、炎の壁を突き抜けて剣が飛んできたところでようやくそれに気付く。
まさか貴重な魔法具である雷剣を投げて来るとは思わず、驚いて大きく飛び退いた。
その隙を突いてユリシーズが一気に加速、ミゼロイの方へと向かって走り出した。
「ミゼロイさん!10秒、いや5秒時間を稼いでっっ!!!」
そして返事も聞かずミゼロイの数メートル後方で足を止め、魔力を練り上げはじめた。
「……心得た」
頼まれたミゼロイも、理由すら聞かず了承する。
しかしこれで実質二対一だ。下手をすると一気に持っていかれかねない。
「何をするつもりか知らんが、一対一でやっとだったのが二対一で持つと思っとるのか?」
一切手を緩めずガスコインがなおも猛攻を仕掛ける。
『石霰!』
そこへ、ユリシーズの牽制から解放された相手後衛から魔法が飛んでくる。
一瞬だけそちらへ目をくれたミゼロイは、頭部に直撃しそうな一つに向けて雷剣を投げつけた。
バヂィッ!!
と大きな音を立てて命中し石を砕くことには成功するが、雷剣も砕けてしまう。
そして残りの石礫が何発か、ミゼロイに被弾する。
「ぐうぅっ」
唯一金属製の鎧を身に着けているミゼロイだが、拳大の石を幾つもぶつけられて大丈夫なはずが無い。
苦悶の表情でくぐもった声を上げる。
「とどめだっ!」
そこへ、フレンドリーファイアを避けるため一歩下がっていたガスコインが突っ込んでくる。
ミゼロイは今度は左手の盾をフリスビーのようにガスコインへ投げつける。
「っ!? っとぉ!!!」
頼みの綱の盾まで投げて来るとは思わず、ガスコインが慌てて躱した。
そうしてできたわずかな時間を使って、ミゼロイが背中に背負っていたハンマーを取り出し構える。
重量可変式ハンマーであるフェリス5型だ。
「そんな重い物で躱せるとでも?」
すぐに態勢を立て直したガスコインが一気に距離を詰めて斬りかかる。
ギイィン、ギンッ、ギンッ!
「ぬぅ……」
ハンマーの柄とヘッドに近い部分を持つことで、どうにかガスコインの素早い斬撃から致命傷だけは避けてはいるが、次第に傷が増えていく。
『岩颪!』
そこへ再び相手後衛からの魔法が飛んでくる。バスケットボールよりも大きな岩がいくつも、ミゼロイの頭上から降ってきた。
巻き込まれないよう、再びガスコインが距離を空ける。
「ぬうぅぅあぁぁっ!!!」
ミゼロイが吠えた。
降ってくる岩にめがけてハンマーを振り抜きながら、重量増加機能を起動させる。
ドガァァッ
大音響を響かせながらハンマーの軌道上にあった岩が砕かれ、辺りに降り注ぐ。
振り抜いた勢いそのままに、自身を中心に回転しながらなおもハンマーを振り回すミゼロイ。
「なっ!?」
とどめを刺すため再度接近しようとしていたガスコインが、ハンマーに当たりそうになり急停止する。
驚愕しながらも、ギリギリの間合いは見切り油断なく様子を見る。
「ぐぅ……」
もう一回転したミゼロイだったが、とうとうそこで膝を突いた。
「……見事」
それを見たガスコインが小さく呟き、剣を振りかぶった。
『全身強化!!』
そこにユリシーズの叫ぶような呪文詠唱の声が轟いた。
「む?」
ミゼロイに剣を突きつけたまま、その後方に目をやるガスコイン。
「お待たせぇ~」
そこにはそう言ってニヤリと笑うユリシーズの姿があった。一瞬身体が金色に光ったように見えた。
「なに……っぐぅっっ!!!」
ギィィンッ!!
何をした、と言おうとしたガスコインだったが全て言い終える前に吹き飛ばされる。
いつの間にか剣を振り抜いた姿勢でミゼロイの前に立つユリシーズがいた。
状況的に、相手の横薙ぎの剣を自身の剣で防いで飛ばされた、ということなのだろうが剣で防げたのはほとんど偶然だった。
「あんまり時間がないから、すぐ決めるよ」
弓を使ったとは聞いていたが、完全な後衛だと思っていた男の動きではない。いや、それどころか自分よりも確実に強い者の動きだ。
目をむくガスコインの視界から、再びユリシーズが消えた。
「っ!!!」
キィィンッ!!
下段から鋭く斬り上げられた一撃を、気配と勘で再び防ぐガスコイン。
「バケモノかよ……」
積み上げてきた経験がなせる人外の業にユリシーズが舌を巻くが、追撃の手は緩めない。
キキィィィンッ、キッッン!!!
「なにぃぃっ!?」
そして四度目の斬撃で、ユリシーズの剣が相手の剣を断ち切った。
雷剣を投げ捨てたユリシーズだったが、フェリス1強化型が控えている。
効果時間を度外視して鋭利化を付与された剣を何度も受ければ、通常の剣は持たないだろう。
「せいっ!」
「ぐあっっ!!!」
剣を失ったガスコインに、剣によるフェイントをかけてから高速の回し蹴りを放つユリシーズ。
またもや驚異的な勘でそれを腕でブロックしたガスコインだったが、そのまま数メートル吹き飛ばされた。
小さく呻いているためまだ意識はあるようだが、片方の腕が不自然に曲がっており流石に起き上がれるような状況では無かった。
「隊長ッ!? くそっ!『岩…』がっ!」
一部始終を見ていたガスコインとコンビを組んでいた後衛が残りの魔力で魔法を唱えようとするが、一瞬早くユリシーズの蹴りが決まり派手に相手が転がっていく。
「あーー、駄目だ、限界っ……」
しかし蹴ったユリシーズも、消費魔力の激しい全身強化を使い続けたことで、ついに限界を迎えて大の字に転がった。
「マジかよ……。隊長がやられるとか」
遠巻きにフェリクスをけん制していた相手の前衛が驚愕する。
「ふふふ、大金星ですね、ユリシーズ。これは私も負けてはいられませんね」
そう言ったフェリクスが呪文を唱え始める。
「させる、うおっ!?」
当然それを阻止すべく相手も呪文を唱え始めるが、フェリクスまでもが手に持っていた雷剣と盾を次々に投げつけてきた。
慌ててそれを避けたことで出来た一瞬の隙を使って、フェリクスの魔法が完成する。
『天地杭!』
魔法の発動と共に、相手の足元が一瞬光を帯びる。
「あ? なんでそんな…」
大事な魔法具を投げ捨ててまで使った魔法が、まさかの天地杭だったことで、思わず疑問を口にする相手前衛だったが、次の瞬間自らの体でその答えを知ることになる。
ドガァァッ!!
「ぐはっっ!!!」
轟音と共に足元から何本もの石の杭が勢いよく飛び出した。殺傷能力を落とすため先を平らにしているため、杭と言うよりは円柱に近い。
その直撃を受けた相手の前衛が斜め後方へと吹き飛ばされ宙を舞う。
真の威力を取り戻した天地杭は、その威力を知らないものにとっては強烈な初見殺しとなる。目に見える魔法では躱される可能性が高いため、最善の選択肢と言えるだろう。
ドサリ、と前衛が地面に落ちる。マルセラと共に戦いの手を止めて成り行きを見守っていたもう一人の後衛が、それを見て剣を放り投げ両手を上げたところで、審判の声が轟く。
「そこまでっ!! 勝者、クラウフェルト子爵家!!!!!」
「「「「「「「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉーーーーーっっっっっ!!!!」」」」」」」」」」
審判の勝利宣言に、今日一番の歓声が会場に響き渡った。
週3~4話更新予定予定。
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