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9(ミレリヤ視点)

いつもお読みいただきありがとうございます!

ここから短編以降のお話です。

ミレリヤはそっと隣のエーファを見遣る。

怒りのせいか握りこんだ手が震えているのを見て、へぇと思う。ミレリヤはこんなに他人のためにも自分のためにも怒れない。


しばらくエーファは怒りをそうやって耐えていたが、やがて鞄からごそごそと擦り切れたノートを取り出して読み始めた。馬車で酔わないのだろうか、と考えたが「防音魔法」などと魔法についての記述があるのを見てミレリヤは声をかけるのをやめておいた。


エーファはまっすぐな黒髪に意志の強そうな濃いグレーの目の持ち主だ。見た目からして直情的で気が強そうだなとは予想していたが、その通りのようだ。


魔法省に就職予定だったから、こんなことになって怒っているのかもしれない。魔法省への就職は狭き門で、入れたらもうエリート集団だ。職員は幼いころから家庭教師をつける財力のある高位貴族が多いが、平民でも優秀で素養があれば入れる。エーファも相当頑張ったのだろう。


今度は目の前に視線を移す。セレンティア・マルティネス侯爵令嬢はしばらくこのままだろう。

美しさと淑女らしさで有名な彼女が駆け落ちまで実際にするとは驚きだ。その結果、一緒に駆け落ちしようとした従者は彼女の目の前で殺され、彼女は足の骨と心を折られたわけだが。


エーファは怒っているが、ミレリヤは従者が殺されたのは獣人の慈悲だと考えている。


仕えているご令嬢と駆け落ちをしようとしたのだ、しかもそのご令嬢は大国ドラクロアに嫁ぐ予定だった。となれば従者が生きていても、どうせ処刑されたはずだ。従者の家族にまで罰が及んだかもしれない。慰謝料なんかも請求されていたかもしれない。


下手をしたら戦争を引き起こす案件だが、ドラクロアからこの国まで攻め込むとなれば何か国も経由しなければいけない。空からやられたら終わりだが、ミレリヤはいきなり攻め込む線は薄いと考えた。あのエーギル・クロックフォードは従者を殺すことで良しとしたのだ。



ミレリヤは今朝の出来事を思い出す。

ミレリヤが荷造りして出て行こうとしたところで継母と義妹が絡んできたのだ。


「あらお姉さま。あの小さな鳥人に嫁ぐのにそんな荷物はいらないですよねぇ?」

「そうよ。あなたはこれから嫁ぐのだからトレース家の財産は一切放棄して持ち出すものなんてないはずよ」

「やっと邪魔者がいなくなってせいせいするわ」


相変わらずうるさい二人だ。

ミレリヤが持っているのは旅の途中の着替えと本くらいだ。しかも服は新品ではない、中古の下着と服である。奪ってどうするのだろうか、中古の下着は売られるの嫌なんだけど。


「早く置きなさい」

「お母さま、もしかしたらお姉さまのことだから宝石なんかを持ち出しているかもしれないわ。先に調べましょう」


 ミレリヤの手元に宝石など残っていない。すべて目の前の二人に奪われたのだから。

 ただ、鞄の底のさらに下に入れた万年筆だけは取られたくない。あれは、執事のローレンがこっそり誕生日にくれたものだから。奥底まで見られるかどうかは分からないけど……。


 ミレリヤが鞄を手放さないでいると、いつものように継母はミレリヤを叩こうとした。


「えへ。迎えに来ちゃった」


可愛い小鳥の囀りのようなやや高めの声がした。

執事のローレンが案内してきたのが、昨日会ったばかりの鳥人カナン・アザール様だった。


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