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いつもお読みいただきありがとうございます!

「マルティネス様の従者は殺されたんだって」


 馬車が走り出してから、トレース様が先ほど鳥人のカナンから聞き出した情報を教えてくれる。マルティネス様はギブスを巻いた片足を上げて座り、ぼーっと窓の外を眺めて反応しない。


「従者は彼女の目の前で殺されたって……それに、逃げられないように彼女を骨折させたって。今、多分彼女はショック状態よ」


 エーファはあまりの残酷さに頭に一瞬で血が上った。


「立つと危ないわよ、抑えて」


 立ち上がろうとするエーファをトレース様が制してくる。


「あのトカゲはマルティネス様を監視してたってことですか?」

「しっ、彼らは耳がいいから聞こえるわよ。というかそうなるわね。カナン様も私が今朝ぶたれそうになった時に急に現れたもの」


 エーファは息を呑んだ。

 もしかして私も監視されていて昨夜のスタンリーとの会話も聞かれていた? いや、防音魔法をかけていたから大丈夫だ。でも、何度もキスするのかって……やっぱり見られていたってこと?

 どうしよう……気持ち悪い……。


「番を溺愛と聞いていたけど、執着に近いわね。私もちょっと認識が甘かったわ」

「……はい……」


 エーファはぎゅっと膝の上で拳を握りしめる。

 マルティネス様が窓の外を見ながら歌を口ずさみ始めた。その目はどこも見ていないようで……でも彼女は泣いていた。


 自分の中にこんな殺意があるなんて知らなかった。

 私は絶対にあのオオカミ獣人を許さない。私からスタンリーとの未来を奪ったあの男を。


 窓の外に視線を向けると、ギデオンと目が合った。周囲を警戒するような彼の鋭い目は一瞬で熱い視線に変わったが、エーファはさっと馬車のカーテンを閉めた。


 腕を掴まれた瞬間からエーファの心の扉は閉まったのだ。いくら愛している人に向けるような熱い視線を私に向けようと、絶対にあいつを許さない。


 私は必ず、この国に戻って来てみせる。


 先ほどギデオンに触られたところをハンカチでごしごしこすった。


「赤くなるよ?」


 トレース様に止められたが、嫌なものは嫌なのだ。赤くなるほどこすって、気が済んだ。


「トレース様は……」

「ミレリヤでいいよ」

「でも……」

「聞いてない? あの方々の中で、えーと、マクミラン様が公爵家で一番爵位が高いの。カナン様は子爵家で、クロックフォード様は伯爵家。だからあなたが一番爵位が高い方の……番ってこと」


 エーファは唇をまた噛んだ。認識したくはないが、鳥人の名前がカナン・アザール、トカゲ族の名前がエーギル・クロックフォードだった。


「それに旅路も長いんだからミレリヤって呼んでくれる? 様付けで呼ばれるの慣れてないんだよね。家でも継母の息のかかった使用人に舐められてたから」

「っ分かりました。ミレリヤ」

「うん、よろしくね。エーファ」


 ミレリヤの視線を追ってエーファは目の前のマルティネス様を視界に入れる。彼女は相変わらず歌を口ずさんでいて、こちらに何の反応も示さなかった。

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