表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/165

8

いつもお読みいただきありがとうございます。

これで八章終了です。

 マキシムス伯爵家で世話になる気はさらさらない。

 このまま公爵邸で公爵を待ち続けるのも危険で、マキシムス伯爵家に行くのも危ない。なら、取るべき行動は一つしかない。

 ギデオンだってわたしの姿さえ目に入らなければタバサに夢中なのだ。なるべく穏便に済まそうと日和るんじゃなかった。


 支給された隊服に着替えてマントを羽織ってから一度玄関ホールを出る。門には行かずに回り込んで外から公爵邸の中を伺った。

 エーファが出て行ったことなど使用人たちは大して気にもとめておらず、庭のオオカミたちも近寄ってこない。好都合だ。狙いを定めて、厨房の近くに火を出現させた。

 

 木箱がしっかり燃え上がるのを確認してから風魔法で目的の部屋まで飛び上がる。誰もいないのを確認して、窓から侵入した。やはり薬品臭が鼻につく。


「あ、あ」


 エーファが部屋に下り立つとうめき声がした。公爵夫人であるサーシャは目を覚ましていた。朝早いのでシュメオンはいない。公爵は屋敷に帰っていないのかずっと見ていない。


 ベッドまで近寄って、小瓶をサーシャの顔の前にかざした。


「サーシャ様。この液体を飲めそうですか? 肯定なら瞬き連続二回で」


 ぱちぱちとすぐに瞬きが返ってきた。この人は名前を呼んだときは正気に戻っている。だって最初に会った時、エーファに「殺して」と訴えてきたのだから。


「森に生えている毒草の毒を抽出しました。苦しいですよ。いいんですか?」


 傷薬用の薬草とは別にたまたま見つけて採取しておいた。見分けがつきにくいものだからハンネス隊長たちにもバレていない。

 ぱちぱちとまた瞬き。手が伸びてきてエーファの腕をつかみ、そっと撫でた。カサカサした皮膚の刺激がある。


「口に入れましょうか?」


 瞬き二回。サーシャの口角も少し上がった気がした。


「では、サーシャ様が飲んだのを確認したら私は行きますね」


 サーシャは黙って目を閉じ口をうっすら開けた。エーファは彼女の背中に手を差し入れて上体を起こしてから口に小瓶の中身を垂らす。喉がゆっくり動いたのを確認してから体勢を戻した。


「短い間でしたが、さようなら」


 サーシャを見下ろして話しかける。サーシャは目を開けて瞬きを二回した。エーファの腕からカサカサの手が離れる。心なしか穏やかな表情になった気がする。


 振り返らずに窓からまた出て、何食わぬ顔で公爵邸の外に出た。屋敷の中は慌ただしいので消火活動でしばらくサーシャの様子には気付かれないだろう。そういえば、この屋敷は何回燃やしかけたっけ。たったの二回だったかな。


 これでいい。これでいいはず。


 だってエーファはもうここには戻ってこない。

 サーシャの姿は未来のエーファの姿だったかもしれない。だから、あのまま放って出国するなんてできなかった。ただ、それだけ。ついでにサーシャが亡くなると公爵邸は余計に混乱するはずだからちょうどいい。


 でもなぜか涙が出てきた。サーシャと会うのは二回目なのに。「殺して」と切羽詰まった様子で赤の他人であるエーファを頼ったのが哀れだったんだろうか。あの口パクの意味が分かってからさっきまで、一度も迷わなかったのに。これから出国がうまくいくかどうか不安だからだろうか。


 鼻をすすりながら十三隊の詰め所に早足で歩いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ