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いつもお読みいただきありがとうございます!

 マクミラン公爵邸よりはこじんまりとしたクロックフォード伯爵邸。

 エーファはミレリヤとともにマルティネス様の部屋に集まっていた。竜の臭いが取れないので、クロックフォード伯爵家の使用人たちにも盛大に怯えられたことは言うまでもない。


「入隊したって……なんかもうすごいね」

「命令されただけだけどね」

「忙しいんじゃない?」

「まずは体力つけとけって言われてる」

「ずっと馬車で移動だったもんね」


 マルティネス様はまだ声が出ないので、筆談で会話に参加している。どうしても筆談ではスピードが遅いので表情を読み取るのがメインになっているが、そのおかげでドラクロアに来てから彼女は表情が豊かになった。


 マルティネス様はすでにドラクロアの歴史やマナーなどを教わり始めているそうだ。


「うわ、そういえば私もそろそろだ。ミレリヤは?」

「アザール家は子爵家だから、そこまで勉強しなくていいんだ。教師は雇わないし、子爵夫人から少し教わるくらい」

「そうなんだー。うちは公爵夫人が臥せってるらしいからそういうことはないかな。マルティネス様は?」


 マルティネス様は首を振って紙にさらさら綺麗な文字を書く。


「伯爵夫人ではなく教師が教えるの」

「マルティネス様って字がとてもきれいですよね」

「ありがとう」

「歴史やマナーってたくさん勉強しなきゃいけませんか?」

「ヴァルトルトにいた頃よりも楽よ。マナーもそれほどないから」


 マルティネス様は喋れないものの、ドラクロアに到着した当初よりは元気そうだ。あの時は今にも消えそうな雰囲気だったから心配していたのだ。


「食べ物が少し口に合わないことが辛いわ。もう少し調味料を使って欲しい」

「あ、そうなんですか? 私、実は公爵家でちゃんと食事ってあまりしていなくて」

「どういうこと? 食べてないの?」


 マルティネス様が始めた食事の話にミレリヤも乗っかってくる。


「初日に使用人に嫌がらせされたから。厨房に行って自分で作って食べるか、天空城で出してもらうか、軍でみんなと食べるよ」

「エーファ、強い……」

「すごいわね」

「マクミラン様は怒らないの?」

「もとはと言えば使用人を制御できないあの人が悪いからね。もちろん不機嫌そうだけど」

「エーファ、強すぎ」

「ベッドに毒ガエル入れる使用人のいる家で安心して食事なんてできないよ」


 マクミラン公爵家でまともに食べたのは初日の晩餐くらいだ。ブラックバードのお肉を食べた後だったからそれもほとんど食べていないが。


「マルティネス様も料理してみる? 私は少しなら教えられるよ? それとも調味料を足すようにエーギルに言う?」


 マルティネス様はちょっと悩む素振りを見せた。


「今までは調味料を足していたけど、どうも使用人の目が気になっていて……私、この家で役立たずだから……」

「そんなことないです」

「それはエーギルのせい」

「でも、食事が合わないのって辛いから、言ってみる。ところで、彼には何をさせているの?」


 クロックフォード伯爵邸にやってきたということはエーギルに魔法を教える必要があるということだ。でも、エーファは女子会をしたかったのでエーギルには魔力の流れの感知を庭でさせている。この前、手を握ってやったあれを感知できるようになったらロウソクに火をともす練習だ。初歩の練習なのでつまらないだろうが、エーファは二人と喋りたいのでエーギルには我慢してもらう。たまに窓から様子は見ている。


「獣人にしては珍しく魔法が少し使えるみたいで。もっと上達したいみたい。マルティネス様もぜひ魔法の話をしてみたらいいんじゃないでしょうか」

「私、魔法はあまり使えないのよね。魔力があまりなくて。でも知識ならあるから」

「何か酷いことされてませんか? ミレリヤも」

「私は良くしてもらってるよ。子爵家だからそこまで厳しくないし」

「エーギルはよくお世話してくれるわ」


 なるほど。二人とも相手に心を開き始めているというところか。ミレリヤはもともと国を出るつもり満々だった。

 マルティネス様の部屋には小さいけれどプレゼントされたであろう小物があちこちに置かれている。エーギルはマメな男なのか、それとも入れ知恵をする人が優秀なのか。


「エーギルが買ってきてくれるの。私が部屋から出ないから気晴らしになるかもって」

「へぇぇ」


 あの腹黒男がこんな可愛い小物を買うのか。想像したくない。


「やっぱり声が出ないのにここから出るのは不安だから」

「そうですね」


 マルティネス様は嬉しそうに小物を見て微笑んでいる。

 エーファはそんな彼女の様子を見て悲しくなった。恋人を目の前で殺されて足を折られて声まで失って。それでもこの国で生きていくにはエーギルに依存するしかない。心を開いているというよりも、マルティネス様のは依存だ。

 そんなマルティネス様を見て、番紛いの話をするのはやめた。できるかどうかも分からないし、期待させて落とすのは避けたい。エーギルにどのくらい依存しはじめているのかも分からないから、彼に情報が洩れたら面倒だ。


 続けてミレリヤに視線を移す。先ほどから彼女に抱く違和感。ミレリヤは嘘をついている。あるいは何かを私たちに隠している。

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