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いつもお読みいただきありがとうございます!

「うまっ!」

「塩つけただけでこんなにうまいの? ほんとにブラックバード?」

「こんなうまいもの、今までハイエナやネズミたちにタダでやってたなんて……」

「あいつら、何もしてないのにこんなうまい肉を食べやがって……」


 食べ物の恨みが怖い。


「待てよ、あいつら。イザドラ隊長が撃ったのどれか聞いてきたことあるぞ」

「げ、じゃあうまいブラックバード知ってたってことか!」

「ふむ。ブラックバードを食べるのは悪食だのゲテモノ食いだの言われていたが、こんなに美味とは」


 鳥人たちがワイワイいるのはエーファが誘ったので納得なのだが、公爵はいつ下りてきたんでしょうか。

 途中で三階の窓からこちらを覗いていたのは知ってたんですが……公爵、覇気が駄々洩れだからね。公爵も鳥人たちと一緒に楽しそうにお肉を食べている。

 ギデオンと鳥人たちは仲が悪そうだったけど、公爵と鳥人たちはそうでもないみたい。普通に喋ってる。


 ブラックバードのお肉は皮をそいで、風魔法で一口大に切り刻んだ。その間に鳥人達は野営よろしく石でかまどを作り、網や塩や串、小枝をどこからか調達してきていそいそと準備。エーファが得意な火魔法で火をつけると、鳥人たちはまた無言で親指を上げていた。


 鳥人ってカナンしか知らないけど、この人達とは仲良くなれそうだ。カナンとはほんっとに無理だけど。やっぱり第一印象は大きい。ギデオンとまとめてエーギルもカナンも嫌いになった感じだ。



 ところで、隣にいる小さい子供は誰だろうか。銀髪に褐色の肌。どこからどう見てもギデオンによく似ている。まさか……。


「おねーちゃん?」

「違います」


 しまった。子供に話しかけられてうっかり即否定してしまった。この子ってギデオンの弟? それとも隠し子? 隠し子という表現はよろしくないか。愛人さんや一夫多妻制かもしれない。ん? 待って。一夫多妻制ならチャンスじゃない? 頑張って奥さんにいじめられて嫌われるようにして――。


「ギデオンの弟、シュメオンだ。晩餐の時に紹介しようと思ったが下りてきてしまったな」


 エーファの目論見は公爵によって即ぶった斬られた。あーはい、兄弟で韻を踏んだんですね。なるほど。


「よ、よろしく。エーファです」

「エーファおねーちゃん?」

「違います。おねえさんじゃないです。ただのエーファ」

「エーファ?」

「そう」

「エーファおね……エーファちゃんから竜のにおいする」

「運んでもらったからね」


 お姉ちゃんかお義姉ちゃんか知らないが、懐かれても困る。可愛いけど困る。

 ギデオンよりもくりっとした目で、何よりも大きさが小さい。子供というのは小さいだけで可愛いが勘弁してほしい。エーファは逃げることに必死なのだ。


「そういや、ギデオンのとこは弟がまだちっこいよな~」

「だって奥さん、長らく臥せってたじゃないか」

「おい、やめろ。今だって体調悪いって話だろ」


 気になる会話を鳥人たちがしているので、エーファは不自然に感じさせない程度に鳥人集団に近付く。


「あ、エーファさん! ブラックバードうまいっす!」

「一撃で仕留めるにはどうしたらいいんすか!?」

「私は頭を狙ってます」

「イザドラ隊長と同じこと言ってる~」


 鳥人たちはブラックバードだったお肉の刺さった串を片手に楽しそうだ。


「エーファさん! これを受け取ってください!」


 ある鳥人が羽根を差し出してくる。羽根? なんで羽根? ドラクロアでは感謝の意味でもあるのかな?


「ありがとうございます」

「あ! 駄目です! エーファさん! そいつフクロウなんで! フクロウが羽根渡すのは求愛行動!」

「きゅうあいこうどう」

「そう! だから受け取ったらOKになるんで、ダメっす!」

「おい誰かエジルを押さえとけ!」

「こいつ、酔ってるな」

「ギデオンに殺されるぞ!」

「ひぃ、ジェイソン元総隊長、すみません! こいつ、酔ってるんです!」


 エジルと呼ばれた鳥人はあっというまに他の鳥人たちにタックルされたり、羽交い絞めにされたりしてエーファから見えなくなった。彼?が差し出していた羽根がひらひら地面に落ちたのでエーファは屈んで拾う。


「え! エーファさん! 拾っちゃだめです!」


 女性の鳥人が驚いた様子でエーファから羽根を奪おうとするので、エーファは笑った。


「別にいいじゃないですか」

「へ?」

「私は人間ですし、この国出身ではないので。まさかこの国に来たばかりの無知な私に自国の文化を早々に押し付けることはないですよね?」

「え? あの?」


 エーファは指でつまんだ羽根をクルクル回す。カラフルな髪の鳥人たちが困惑してお互い首をかしげる光景はなんだか面白い。


 そういえば鳥人たちはギデオンのように、いきなりエーファを呼び捨てにしない。あれは本当に気持ちが悪い。なぜ番だからと、いきなりどうでもいい男に呼び捨てで呼ばれなければいけないのか。マナー違反どころか人権無視よね。


それに、エーギルやカナンのように「ギデオンの番」とギデオンの付属品のようにエーファを呼ばない。エーファ個人をちゃんと見てくれている気がする。


「私が羽根を受け取ることがダメなのか、それとも他人の番に言い寄った彼がダメなのか、ギデオンに殺されるからあなた方は彼を止めているのか、一体どれですか?」


 ピンクの髪をした女性の鳥人がおずおずと答えてくれる。


「他人の番に言い寄ることは獣人や鳥人でもよく起こります……」

「では、問題ないじゃないですか」


 あ、それはあるんだ。エーファはなんだか肩透かしをくらった気分になる。番と言いながら自由だな、この国。


「ですが……えっと、番がいる者には番の臭いがついていて……エーファさんからはまだしないんですけど!」


 エーファが自分の腕の臭いを嗅いでいるのを見て、ピンク髪の鳥人は慌てて否定してくれた。良かった。エーファには焦げた臭いしか感じなかった。


「自分より強い種族の臭いがついている方には普通言い寄りません。怖いですし、勝てないので。だから、エジルをみんなで止めたのはギデオンが怖いからです。強い者の番に言い寄ると、相手から傷つけられたり最悪殺されたりするんです」


 公爵は傍観どころか、関係ないとばかりにお酒を飲んで肉を食べているのでもうこの際完全にスルーしておこう。そもそもそんなに食べて晩餐必要? エーファはお腹いっぱいだ。


「大丈夫でしょう。私は人間なので番の概念はありません。無知な私が親愛や友情、感謝だと思って羽根を受け取っただけなのに、ギデオンがエジルさんを殺しては、ギデオンがとんでもなく器の小さい小心者だと言っているようなものですから」


 ピンク髪さんはひぃっと声を上げて慌てて口をつぐんだ。他の鳥人たちもポカンとしていたり、恐怖を顔に出していたり。


「だってそうでしょう。強者ならでーんと構えていないと。番が大切だと言いながら、今日の場合エジルさんを傷つけるならばそれは自分に自信がないのでしょう。本当に愛して愛されていて信頼があるなら、番がなびかないことを知っているなら、そんなことする必要はありません。力づくで愛している者が奪われそうなら話は別ですけれども」


 というか、自分よりも弱い相手の番になら平気で言い寄るんかい。おかしくない?

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