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【連載版】エーファは反溺愛の狼煙を上げる  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売
番外編

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エーファは反溺愛の狼煙を上げる3 金色の目

いつもお読みいただきありがとうございます!

「うへぇ、くらくらする」

「鳥にへばりついて移動するよりマシですよ。彼らは急降下するので転移魔法は優しいですね」

「そうかよ。で、ここがエーファの故郷か?」

「故郷の山の上ね」

「見事な田舎だ」

「エーギル、喧嘩売ってんの?」


 ハイエナが急に人の形を取る。さらにどこから現れたのか、見覚えのある青い髪の男も出現した。


 ピリピリした魔力の気配。頬が切れたのかと錯覚するほどの鋭さだ。あの黒い髪の竜人だろうか。それとも、あの竜人の腕に抱かれた女性の魔力か?


「エーファ・シュミットォォ!」


 局長が喜色を乗せて叫ぶと四人に迷いなく駆け寄っていく。


「あ、局長! ご連絡ありがとうございます!」


 竜人の腕から下りた女性が局長に駆け寄り、お互いハグでもするのかと思えばハグはせず両手を取り合ってピョンピョン嬉しそうに跳ねている。


 あれがエーファ?

 外見はものすごくよく似ているけど……あの魔力は人ならざる者のそれだ。しかも左目に眼帯までつけている。


 二人はしばらく跳ねて落ち着いたのか、やっと状況を思い出したようにジャンプをやめた。


「エーギルくんも久しぶり」

「転送箱は大変好評です。今は転移陣を研究中だとか。とても興味がありますね」

「そっちは妻が追々。そちらの方ははじめまして」

「おう、ハンネスだ」


 どこからどう見てもゴロツキのトップのような強面の男性とも局長は握手を交わす。


「リヒトシュタイン様にもまたお会いできて光栄です。しかし、バスティアン様のことで連絡したのにお二人はなぜここに?」

「このくらいの魔物がいなかったか? イノシシみたいな面だ」


 リヒトシュタインは鷹揚に頷く。ハンネスは両腕で抱えられそうなくらいの大きさを示した。

 いた、今まで見たこともない魔物がたくさんいた。


「たくさんいましたね」

「そいつらは腹の中まで見たか?」

「見ていません……まさか?」

「あぁ、あいつら腹の中は丈夫な膜で覆われていて魔法や矢の攻撃だとダメなんだ。中に子供がいれば母体が死んでてもいずれ出てくる。腹をかっさばいて全部殺さないといけない」

「平均してどのくらい子供を生むのですか?」

「平均で五匹。多い時は十匹」

「こいつだ。ブラックボア」


 ハンネスが喋っている途中でエーギルが足元から何かを掴む。黒いイノシシの子供のような魔物がジタバタ暴れていた。


「二週間で大人並みの大きさになる。繁殖力も高い。ドラクロアでもこいつらやたら増えててな。うちだけなのかと」

「それを伝えにわざわざ?」

「いんや、俺たちは見つけたら片っ端から殺して食うから研究用の個体が足りなくてな。もらえないかと」

「いいですよ、というかもう捕まえてますね」

「もう十匹ほど欲しいんです」

「どうぞどうぞ」


 女性が指を向けると、エーギルの手の中で暴れていたブラックボアは氷に覆われた。


「じゃ、これは私がもらっとくから」

「頼む。他も捕まえたら持って来るから凍らせてくれ」

「はいはい」


 彼女は凍ったブラックボアを掴むと、空間魔法で作り出した空間に入れた。


 彼女はエーファじゃない。エーファに見えるけれど、局長もエーファと呼んでいたけれど……彼女は氷魔法や水魔法は大の苦手で、空間魔法なんて使えなかったはずだ。あれは一体誰なんだ。


「では、スタンリーたちはブラックボアの腹をさばくように。あるいはちっこい個体を見つけたら殺すように」

「スタンリー?」


 彼女が反応してこちらを見た。

 思い切り、目が合った。左目は眼帯に覆われているが、金色の右目がスタンリーを射抜く。エーファの目はグレーだったはず。決して竜人のような金色ではない。


 でも、彼女は明らかにスタンリーの名前に反応した。そして目を見開いている。しばらく見つめ合っていると、すっとエーファらしき女性の右目を手のひらが覆った。黒髪の竜人が後ろから目をふさいでいる。


 スタンリーはその時に初めて黒髪の竜人をまともに見た。エーギルもギデオンもかなり整った外見だと思っていたのに、その竜人はもはや別格だった。こちらには一瞥もくれずに面白くなさそうな表情で彼女の目を覆っているが、その表情でさえ彫刻かと思うほどに美しい。


「早く行け。被害が拡大するだろう」


 局長に急かされて慌てて背を向けた。

 胸、いや心臓のあたりが痛い。痛くて痛くて、どうしようもない。


「すごい魔力の圧だったな」

「あれが竜人か」

「あの女性もなのか?」

「絵の中から抜け出てきたみたいだよな」


 他の職員がこそこそ話しているが、スタンリーの脳裏には金色の目だけが焼き付いていた。


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