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「もうすぐ国境ね」
景色を見ながらミレリヤが呟いた。
「国境ってことは断崖絶壁よね。ここからどうやって進むの?」
「カナンはお楽しみって言ってた」
「えぇぇ、そりゃ彼は飛べるだろうけど」
マルティネス様といえばご飯は少し食べ始めたものの、まだ口を開かない。日中もずっとぼーっとしている。これまでミレリヤと話しかけ続けてはみたのだが、反応はほぼなかった。
「乗ってきた馬だってどうするのかな」
「ドラクロアから連れてきた特別な馬でしょ。連れて帰るわよね」
「転移陣でも置いてあるのかな」
「転移ってめちゃくちゃ高度魔法よね。でも、竜人様なら使えそう。エーファは転移できるの?」
「できてたらとっくにしてるよ。というか魔法省のトップでも転移は転移陣をしっかり用意しとかないとできないから」
「それもそっか」
二人で考えてもよく分からない。すると、停車した馬車の扉が開いてカナンが顔をのぞかせた。
「ここからドラクロアまでちょっと揺れるけど、気にしないでね」
この人が笑顔だと怖いんだよね。
「僕たちは下道から行かないといけないからミレリヤたちの方が早く到着すると思う。あ、僕は飛べるんだけどね」
カナンの後ろでは馬から下りて荷物をまとめている他の二人が見える。
「どうやってドラクロアまで行くの?」
「ふふ。お楽しみだよ。あ、馬車の扉は絶対に開けないようにね。死ぬよ?」
ミレリヤの問いにも答えずにカナンは楽しそうに扉を閉める。最後のセリフは楽し気に言うものじゃない気がする。諜報部隊なら絶対性格も悪いだろう。女性の扱いだって他の二人よりは慣れている、というより馴れ馴れしいからやっぱりあの鳥人は外見詐欺だ。
ミレリヤと窓の外を見ていると、三人の姿が変化する。
そう、オオカミとトカゲとオシドリに。
「ねぇ……あれって……」
「オオカミのわりに大きすぎない? いやもちろんトカゲも大きすぎだけど」
言いづらそうなミレリヤの代わりにエーファは思わずツッコミを入れた。ギデオンが変身した銀色のオオカミはエーファが見たことがあるものよりも二回りほど大きい。そしてエーギルの変身した青いトカゲも同じくらいの大きさだ。
「あれってトカゲよりもイグアナじゃない?」
「イグアナはあれよりもっと小さいよ……」
「通常サイズはオシドリだけだね」
カナンが変身したであろうオシドリはトカゲの上にちょこんと止まっている。
アオーン アオーン
急にオオカミが遠吠えを始めた。
「何が始まるの?」
「仲間でも呼んでるのかな?」
「見て。馬車の馬外してある」
「さすがにこの断崖絶壁を馬で行くとは思ってないけど……」
しばらく遠吠えは続いた。何が起こるのか分からず、エーファとミレリヤは不安になる。
「もし何かあったら……二人くらいなら連れて風魔法で……」
「エーファ。何か来た」
ミレリヤが見ていた方向に視線を移すと、飛んでくる影がいくつかあった。羽ばたき方からしてすべて同じ鳥というわけではなさそうだ。ぐんぐん姿が大きくなる。
「うそでしょ……」
「あれって竜よね……」
先頭でいち早く飛んできた輝く白い竜が馬車の上で旋回する。後からついてきたのは大きな鷹だ。鷹が馬を掴んで飛び立っていく。竜も旋回をやめてどこかへ行ったと思ったら、馬車がガタンと音を立てた。
「ねぇまさか」
「そのまさか、じゃない?」
そういえば、この馬車の上の部分どうなってたっけ?
思い出す前に馬車が浮いたようで浮遊感に襲われた。