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いつもお読みいただきありがとうございます!

祝100話!

 自分では気づかなかったが、先ほどまでは興奮していたようだ。ギデオンとの戦闘で気が高ぶっていた。気を失って目覚めてからもまだ興奮は残っていた。


 でも、今は冷水か氷でも浴びせられた気分だ。


 あの女は誰?


 騒々しい音を立てて部屋に入ってきたのは暗めの赤毛の若い女性だった。スタンリーの名前を呼びながらためらわずに抱き着く。スタンリーはためらいながらも彼女の背中にぎこちなく手を回した。


 それだけで何となく勘づいてしまう。スタンリーが彼女に触れるのは初めてではないだろう。


 エーギルの舌打ちが部屋に響いてエーファは若干落ち着いた。舌打ちをしたいのはエーファの方だったが……舌打ちの代弁である。


「スタンリー・オーバン。何をしている。早く説明しろ」


 エーギルの命令口調にギョッとして彼を見上げる。それは局長が言わなければならないはずだが、苦虫を嚙み潰したような表情のエーギルに何も言えなかった。スタンリーは口ごもったままだが、女性は気が強いらしくエーギルを睨んだ。

 この人、番相手でも足を平気で折る奴だからそんな態度はやめた方がいい。


「ちょっと。なにこれ。帰ったら家は焼けてるし。スタンリーは怪我したって聞いたし。大丈夫なの?」

「あぁ」

「ほんとに? というか何この人達、一体何なの?」


 ベッドで上体を起こしているエーファに女性はやっと気づいたらしい。あ、という口の形のまま「怪我人の前で騒いじゃった」と呟き静かになる。


 スタンリーに赤毛の姉か妹なんていない。親戚もいなかったはず。女性は魔法省の制服を着ていないから職員でもない。ついでに言えば、親戚にしては距離が近い。


「スタンリー。早く説明した方がいいぞ。俺はお前のプライベートに全く興味がないからそれが誰かは知らないが」


 存在を忘れかけていた局長はリヒトシュタインから視線をそらさず、忠告紛いのアドバイスをした。局長には数度しか会ったことがないが、相変わらずの変人ぶり。自分の関心があること以外はすべて石ころ未満の興味の持ちよう。


 「仕事の話だから」と女性を部屋の外に出し、しばらく待った後にスタンリーはやっと口を開いた。


「その、エミリーとは……結婚する約束になっている」

「へぇ。それはまた何故」


 エーファが何も言えないでいると相槌を打ったのはリヒトシュタインだった。


「パーティーで酒を飲んで気付いたら……朝、横に」

「よくある手法だ。ありふれすぎている」


 今度はエーギルが被せるように話す。

 魔法省に就職できるのはエリートだから、スタンリーは狙われたのだろうか。酒に何か入っていたなら本当によくある手法だ。そんなものに引っ掛かるなんて。


「だが妊娠したと言われて……覆す証拠がなかった。朝一緒にいる所も見られている」

「どうしてそんなにも愚かなのか」

「待て。エーギル」


 エーファはむしろ落ち着いていた。無関係のはずのエーギルは興奮し、リヒトシュタインが口出しする。


 ゴクンと唾をのむ音が自分の耳によく聞こえた。


「ごめん、エーファ……彼女は伯爵家の親戚だから、傷モノにしたんだから結婚しろと圧力をかけられていて」


 泣きそうな顔でスタンリーは話すが、あまり内容が頭に入ってこない。


「まさか、エーファが本当にドラクロアから帰ってこれるなんて……」

「私は、スタンリーのところに帰ってくるために命を懸けた」


 スタンリーをしっかり見ながらエーファは口を開いた。最初だけ少し声が喉に引っ掛かる。


「でも、スタンリーは違ったんだ」


 バカみたいだ。エーギルの言う通り、本当に愚かだ。お酒に何か入れられて朝起きたらベッドの上だなんて。自衛できていたら起きなかったはずなのに。スタンリーの想いはその程度だったのだと突き付けられる。


「命まで懸けるほどじゃなかったんだ」

「違う。本当にエーファを待ってたんだ!」

「じゃあ、どうしてそんな手法に引っ掛かるの。気を抜いたからじゃないの」


 さっき、スタンリーはあの女性をためらいながらも抱きしめていた。


「伯爵家からの圧力なんて。誰かに言えばどうにかなったでしょ。公爵家相手じゃないんだから」


 思わず拳を握りしめる。国力の違うドラクロアに連れて行かれたわけでもないんだから、という言葉は喉まで出かかったが言わなかった。


「婚約者を早く決めろとせっつかれていた」

「私が連れて行かれて一年経ってないのに? 言い訳くらいできたんじゃないの? 婚約者を連れて行かれて傷ついてますとか言えば一年くらいは待ってもらえたんじゃない?」


 一年ももたないくらいだったのか、スタンリーの想いは。いや、そんな悪あがきや努力をエーファのためにする必要もないくらい軽かったのか。それか、スタンリーはエーファが帰ってくることを信用していなかったのか。


「私が帰ってこないと信じていたの? それで彼女と結婚するつもりだった?」

「違うんだ! どうにか結婚しないで済む方法を探していた!」

「何の話をしているのか分からないが。さっきの女は妊娠していないぞ」

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