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8.魔物創製:トラップ

 気持ちを切り替えようと深呼吸をし、マシロは改めて紙に書きだした魔物名称一覧を眺めた。

 改めてペンを手にとったところで再びクロが姿を消していることに気づいた。

 あとから聞いた話だが、どうやら過去に邪魔だと怒られたことがあるらしい。

 スケールくんもそれに倣ってか、壁を元通りにしたあとは姿を消している。

 元の石壁の厚さからみても防音はしっかりしているし、窓に張られた膜もガラス以上に音を通さないし風で揺れたりもしない。近くを飛空型の魔物が通り過ぎても室内は静かなままだった。音楽をかけることも出来ないので、静かすぎて逆に落ち着かない程である。


 ソファーで寝ているアカとアオが身じろぐ衣擦れの音だけが耳に届いていた。


 一覧に上から目を通していく。魔物の種類とそれぞれの特徴から、目に付いたままに適度に組み合わせて生み出していった。

 無から生み出すよりも楽な方法だが、発想は誰かと被りやすい。

 それでも現段階の思考の方向性や固定概念の確認は出来るので、初めに創る練習には丁度良いやり方だ。

 無理に真新しい新種を生み出そうと苦しんで、固執した思考回路に陥るよりはマシである。


 魔物、いわゆる生物とはどこまでを生物として扱うのか。


 例えばゾンビなどの死霊系。それは生物として含むのかと疑問に思うかもしれないが、元々の発祥は別に腐って無いし生きながら死んように生きている人である。人を操ったりする魔法などの原型とも言えるかもしれない。

 スケルトンやリーパーも元々は絵画発祥で、20世紀になってから映画で死霊系に変化した。

 ちなみに幽霊など実体が無い怪奇現象も同じような考えで生物化出来てしまう。

 神話や伝承の想像上の存在を生物として認めるならば、実体が無い程度で魔物という生物枠から外されることはないのだ。


 つまりは何でもありになる。

 生物創製は単純に発想勝負なだけともいえた。





 いくつかを書き出したところで、マシロはふと手を止めた。


 自分が書きやすい傾向として、トラップ型が多いことに気づいたからだ。

 魔物の名前は卸した先の星でどう呼ばれるかは解らないので、一応仮の名前を付けている。


【マッシュ・グー(仮)】

 茸型スライム。傘の部分がスライムや視肉系。触れたり食べたりで毒性を発揮する。


 同じ菌類で組み合わせただけのものである。

 初代TRPG以降有名になったスライムだが、大体19世紀頃に粘菌類が発見されてから生まれたので、地球における魔物としての歴史は酷く浅い。変形菌としてスライムと茸の機能も、生態系における分解と見れば共通点もあるので組み合わせやすいとも言える。

 トラップ型としては嫌がらせ程度にしかならないだろう。


【キャスロー(仮)】

 扉型。行き止まりや壁や崖に設置するタイプ。見た目は設置する場所により変化。


 扉ということで明らかに対人用である。

 よく異世界で扉が試練を与えたりして通しているが、それそのまま魔物の胃袋や監獄に直行でよくないか?というだけで生み出したやつである。

 扉というだけだと魔物としては味気ないので、女神でも彫刻してそれらしく豪奢にしても良いかもしれない。

 扉が開いた先の景色は幻影でどうとでも見せられるだろう。ダンジョン奥地に設置し、金銀財宝を映し出して中に誘い込むのも手である。生物ではあるので罠解除系には引っかかるだろう。警戒心を持って気を抜かなければ対応に問題ない魔物だ。

 ただダンジョンなどでボスを倒した先に設置してあったら、満身創痍な上に気も緩んでいると思うので大変良い絶望を生むだろう。


【キリングウィード(仮)】

 葉ネギぽい見た目で戦場に生える赤い色の植物。血で育つ。葉は鋭利で、抜くと絶叫という名のかまいたち系の風魔法で刻まれ、その場に新たな血を生む。


 人の脳や心臓を喰らい、現れるとその地で戦争が起こると言われている生物とマンドラゴラの掛け合わせだ。

 戦場や事故現場など血が降り注いだ場所に生え、養分とする。その土から血が抜けきると自ら移動し、血を求め彷徨う。理由もなく生えているのを発見したら、その場所はこれから戦争が起きたり事故が発生する予兆として不気味がられている。

 不吉に思い、無理に抜こうとしたら代わりに養分にされるかの如く切り刻まれる。


 抜き方をマンドラゴラと同じにすべきか悩んだところで、生物を創るのであって伝承をつくる訳ではないな、と思って手を止める。

 どこまでこちらで考えて良いのだろうか。でも見た目だけで言ったら赤いネギだしな……。

 よくあるマンドラゴラに近い姿での造形も考えたが、日本語で"恋なすび"という名前なのを知ってしまってから、妙に可愛いイメージが浮かんでしまうので辞めた。


 その他にも深海魚や棘皮動物を掛け合わせてみたりと、淡々と書きだしていった。

 黙々と考える作業は楽しい。マシロはただひたすらにペンを走らせていく。

 被っていたりボツになるものも多いだろう。この手の量産は一割でも採用されるなら上々である。


 そして、見返したときにトラップ型が多いことに気づいたのだ。


 つまり自ら進んで敵を害する生物を一匹も生みだしてはいなかった。


 罠としての性能や殺傷率は高いものも多い。それでも敵が罠にかかるまでは何もしない。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――……。


 兇悪に設計された生物からは、そんな無意識の保身がありありと滲み出てしまっていた。


 例え仕事といえども、殺す恐怖と責任を負いたくないのだ。


 これが夢ならばそれでいい。


 では夢ではなく今の私が本当に異世界に存在しているのだとしたら。


 そして地球に身体があり、いつでも帰れる状態が現実だとしたら。


 流石にそろそろ夢ではないと思い始めてはいるが、もし……本当にそうなのだとしたら。


 私が創製する生物が地球に送り込まれる可能性がゼロでは無いということになる――……。


 しかも生きたままの自分が居る場所に。


 この星での身体はクロに保護されてるが、地球の本体は無防備に寝てるだけなのだ。


 思考や精神にブレーキがかかるのは仕方がないのかもしれない。




 面白そうだからと興味本位で引き受けるには随分と重い現実がついてきた。

 マシロは天井を見上げ、ゆっくりと目を瞑る。


 人形の身体からも、地球の本体からも、どこからも自分の鼓動は感じ取れなかった……。

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