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4.君の名は

 残ると決めたからなのか、置かれていた台座が消えふわりと空中に浮かぶ。白い空間のままで自分の姿は相変わらず確認ができない。目の前の黒い玉には反射しないのか映ることもない。変わらず視点は動かせるが、身体が動かせているのかは解らない。

 位置や大きさの基準になるものも無いので、自分自身の大きさすら把握出来ていなかった。流石にこの空間のままで身体を創るのは失敗しかねない。

 場所の移動が可能かを聞こうと思ったが、呼び方を訊いていなかったことを思い出す。


「あの、呼び方はクロルーシュア様でよろしいのでしょうか?」


『好きに呼ぶと良い。地球でいう敬称というのも不要だ。影神と呼ぶ者もいるし、単に星と呼ぶものもいる。クロルーシュアという名も、私を創世した者が便宜上付けただけの名だ』


 敬称は地球だから通じるのであって、解らなければ勝手に名前に足されたものでしかない。伝える認識が違うと怒らせることにもなりかねないのか。難しいな異世界。


「では、クロルーシュア……クロと呼んでも?」


『構わない。私を呼んでいると解ればそれで良い』


「こちらの言葉がどういう感じで伝わってるかが解らないので……もしかしたら私の言葉遣いで不快に思っていたりしませんか?」


『他の者には解らないが、私に対しては言葉に乗せる感情を読んでいると思えば良い。そちらの星の常識は、ここでの常識ではない。悪意を乗せた発言でない限り不快に思うことも無い』


 なるほど。例えば、こちらが不快になる方向に言い方を間違えてしまった場合。普通なら慌てて訂正して謝るだろう。だが、クロには本来伝えたかった言葉としての感情だけが伝わっている、ということか。つまり嘘や誤魔化し、お世辞などは効かない相手、と。


「じゃあ、話しやすい喋り方にしますね。その方がクロにも伝わりやすいと思うし」


『ああ。緊張が無くなったな。それで構わない』


「ではこれで。星の様子を先に見るのは可能ですか?環境に合った身体の方が良いと思うので」


『そうか。ではまずは城に連れて行こう』


 その言葉とほぼ同時に、ふっ、と目の前の白い空間に上から下へと影が落ちてゆく。

 一瞬の暗闇を経由し、ゆっくりと闇が引くと目の前には石造りの灰色の空間が広がっていた。


 城の一室だろうか。丁寧に組まれた石畳が広がり、壁には床まである窓が整然と並んでいる。重厚でもあり簡素でもある。建てたまま何も手を付けていない部屋という感じだ。家具のようなものもない。

 さらに言うならドーム内くらい広いし高い。比較するものが無いので正確には解らないが広いと思う。まさか住人は巨人しか居ないのだろうか。地球の人間が小さいだけなのかもしれない。

 見上げてみるとシャンデリアやランプのような証明は見当たらない。格天井のような造りになっており、格間にあたる部分が光を発していた。

 規模の大きさに、呆然と浮かんだまま固まってしまっていた。このまま創られてるという生物に出会ってしまったら丸飲みされる未来しか見えない。


 ふと目の前の空間が歪みだす。円形に揺らぐそこから二匹の生物がゆっくりと姿を現した。

 兎に近い顔型に後ろに流れた狐のような耳。一匹は小さめの赤い一本角。もう一匹は洞角に近い青の二本角。どちらも黒い短毛で二足歩行に簡素なローブを着ている。青い子が背負っているのは剣……だろうか。

 布に覆われているので確証はないが、柄の部分が僅かに見える。頑丈にベルトのようなもので固定されているので、恐らく抜けないだろう。ただの御守りのようなものかもしれない。

 ゆっくりと二匹が近づいてくると、赤い子が両手を差し出すように上に向けた。そして、気づけば私はその手の中に収まっていた。


「え?」


 大事そうに小さな手のひらで抱えられている。敵意は……多分ない。恐る恐る赤い子を見上げてみると、視線に気づいたのかつぶらな瞳のままこてりと首を傾げられた。あ、可愛い。


『飛ぶことに慣れていないと距離感や速度を見誤りやすい。身体を創るまでの移動はその二匹を使うと良い』


「あ、はい。お世話になります。……えっと、この子たちの名前は?」


『その二匹の本来の名はもう無い。好きに呼ぶが良い』


「この子達も誰かが創った子じゃないの?」


『遙か昔に私が創った者だ。卸すための商品ではない。名が無くて不都合なら付けても構わない』


 本来の名というあたりに引っかかりを覚えたが、製作者本人がそう言うならばそこに触れない方が良いだろう。名前……名前ねぇ。


「じゃあ赤い角の子がアカで、青い角の子がアオで良い?」


 二匹に確認するように尋ねると、アカは頷いてくれた。が、アオは無反応のままジッと見つめてくる。流石に安直過ぎて気に入らなかったのかもしれない。

 眺めたままのアオに対してアカが小さく首を振る。それを受けてアオが仕方ないとばかりに頷いた。渋々だが了承してくれた……と思って良いのかな。


「アカとアオ。暫くの間だけどよろしくね」


 出来るだけ明るい声で挨拶をすると、二匹とも頷いてくれた。よし、拒否はされていない。

 そして今度はアカがジッと見つめてきて、そして再びこてりと首を傾げた。


『君の名を訊いている』


「私?私の名前?」


 そういえば人に名前を訊くだけ聞いて私は名乗っていなかったのを思い出す。この子達から言葉は聞こえなかったが、もしかしてずっと話しかけてくれていたのだろうか。


「私の名前は真白。マシロ、ね。クロも私のことはマシロでいいからね」


『解った、マシロ』


 うん、やはり君とかよりも名前で呼ばれた方が安心する。アカやアオの名前に執着していなかったのを見る限り、もしかしたら固有名に拘るのは地球の感覚なのかもしれない。

 その辺は少しずつ慣れていくしかないかな。


「よし、じゃあ次は……」


 改めて周りを見渡す。このまま城の中や生物を見て回るのは絶対に問題が生じるだろう。


「あー……えーと……ねぇ、クロ……」


『どうした?』


「自分が使う目的じゃない人型を最初に創ってもいい?」


『構わない。創る順番が替わるだけのことだ。すぐに創るのか?』


「うん。もし既に似たものが存在したら商品にしなくていいから」


『解った。では、創りたい造形を思い浮かべてくれ』


 そう言いながらクロが私の球体に軽く触れてくる。金属とも鉱石ともつかない接触音が小さく響き、触れてる部分がほんのり温かい。

 地球上の単位だが、身長や体重など細かく思い描いてみる。動きが解り易いように頭の中で躍らせたり走らせたりしてみる。これで伝わるのだろうか。


 暫くしてクロが離れた。そのままふわりと地面に降り立つと、まるで影を引き抜くかのように一気に駆け上がる。色とりどりの糸のような影が舞い、私が思い描いたものが模られていく。


 そして、キレの良いダンスを舞いながらポーズを決める等身大のモデル人形が現れた―……。

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